C.O.D 〜ねこみみかいぬみみか〜

■ショートシナリオ


担当:橋本昂平

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:05月03日〜05月08日

リプレイ公開日:2008年05月24日

●オープニング

――まあ、よく見れば物騒な事もあるもので?




 メイド喫茶柳亭。かつて閑古鳥が大合唱していたこの店は、冒険者達の手によって大きく姿を変えた。
 和風の内装や洋風に。和菓子を中心としていた甘味処は洋菓子も出すようになった喫茶店に。かつての甘味処の姿はもう見る影もない。
 当初は常連の客は嘆いていたものの、それらは新たに増えた常連客によって黙殺される事になる。
 店長のお牧により選びぬかれた美女と美少女達――
 頭にちょこんと乗ったホワイトプリム。夢と希望(野郎共の)がたっぷりつまったお胸さまが押し上げる、黒いワンピースにそれを更に強調するかのように身に付けるエプロンドレス。考えてみよう? とっても美人だったり美少女なメイドさんが、「そんなに見ないで下さい‥‥‥」なんて照れる姿は秒殺ものじゃないですか? 秒殺ですよネ?
 つまり柳亭は男の夢と希望、情熱と浪漫が形となった現界する理想郷。日々の仕事に追われ燃え尽き、朽ち果てようとする妄想戦士がその魂を癒す安息の場――それがメイド喫茶。
 色町のお姉さんと同レベル――それ以上かもしれないハイレベルな容姿とスタイルを持つ女性達が「ご主人様」とかしづき、世話をしてくれる店は至高という以外何と言えばいいのだろうか。
 かつての常連と一見さんは激しく行きづらくなったのだけど。
 そんなメイド喫茶の柳亭。問題は今度行う事になっているイベントで、意見を聞こうと尋ねた三人の侍が発端だった。
「俺はダンコねこみみを希望する!」
「寝言は寝て言え! けものみみと言えばやっぱりいぬみみだろうが!」
 伊達家の侍、鈴山美晴の部下である二人は周りの迷惑顧みず怒鳴りあっていた。
 ねこみみ派といぬみみ派。それは、けものみみ萌えを論ずる上では避けては通れない問題なのだ。多分。
「このアホちんが! ねこみみが一番だって言ってるだろう!」
「黙れバカ! 判らんのか! わんこは人間最古と言われるパートナー。つまり、わん娘はすべからく俺の嫁なんだよ!」
「違う! にゃんこは可愛がろうとしたら逃げるけど、放っておいたら逆に自分から寄って来る。擦り寄って来るんだよ! それは寂しいからかまって欲しい訳で、つまりツンデレ! にゃん娘はツンデレなのだぁ! ヒャッホォゥ!」
 鍛えぬいたオーラの技。侍の彼らは滾る邪気‥‥‥情熱をどかんと大放出。
 というかどの辺りがつまりなのだろう? まあ思春期なんて概ねこういうものだけど。
「違う! 俺の(脳内の)嫁がツンデレなんだ。にゃん娘がツンデレなんて王道すぎるだろっ!」
 頭を抱える三人目、山野満信は他人のフリをしたかった。
「柴犬のしーちゃん(脳内嫁の名前)は俺に甘えたいのにプライドが高くて素直に甘えられないのさ。撫でようとしたら嬉しいのに恥かしくて怒る。だけど相手にしなかったら泣いてしまう。涙目で上目遣いに見つめて構ってオーラを出す姿に俺はもうストライクで、撫で撫でしたら言葉と裏腹に尻尾をぱたぱたしてくすぐったそうにっ! もうそれだけでご飯三杯いけるさぁぁぁぁ!!!」
「黙れ! キモイんだよ!」
 普通に正論だ。彼はおっしゃった。
「王道こそ基本っ! ツンデレはにゃん娘の為にある言葉だ!」
 萌えという名の冥府魔道。ちょっと興味があるなって覗いて見たら、気が付くとどっぷりはまってしまってた底なし沼。
 萌えとは冥府。萌えとは魔道。一度踏み込めば帰る道もない、ドス黒く染まった(一般人から見れば)一本道。その入り口に立ったばかりの満信にとっては二人の妄想っぷりはかなり引いている。いずれ自分もそっち側になるなんて知る由もないのだけど。
「にゃん娘はな、いつもツンツンしてるけど本当に大好きな俺には心を許してるんだ。布団に潜り込んで来たりな! 首輪だってそういう意味だし!」
「首輪ならしーちゃんだって! それだけで吼えるな!」
「‥‥‥首輪って、人としてそれはどうかと思うんだけど‥‥‥」
 二人の脳内では犬も猫も擬人化されてるんだろうけど、それで首輪付けているのを想像してみると‥‥‥何というか、倒錯的にドキドキとか、男として、ねぇ?
 満信の発言に、
「けもの娘に首輪は常識だろうが!」
 彼らは同時に突っ込んだ。というかその常識は常識じゃないと思う。
「このままじゃ埒があかないな」
「ああ。こうなったら――店長!」
「ん、なに?」
 店長のお牧がやって来た。
「俺達、今度任務で潜伏している源徳の偵察部隊の様子を探りに行くんです」
「まあ部隊と言っても十人程度なんですが」
「ふぅん。それは大変だね。ていうか一般人にそういう事しゃべっていいの?」
「場所柄小鬼とか犬鬼とか出るかもしれませんが、まあその時はその時で上手く対処します」
「あの鬼のような隊長の、鬼そのものなシゴキに耐えてますから、出てきても即殺してみますよ」
「それは頼もしいね。ていうかさっきの質問はスルー?」
 まあそもそも人の話を聞くような二人ではない。
「で、この際襲撃して、源徳兵を多く討ち取った方の意見を採用して欲しいんですが、それでいいかな?」
「そうだね。私は別にどっちでもいいから、好きなようにしたら――ああ、そうだ」
 お牧はふと思い出したように、
「折角だから冒険者を連れて行ったら?」
「冒険者? どうして?」
 二人は首を傾げた。
「君たちの実力を疑ってる訳じゃないんだけど、魔物とかも出るんでしょう? もしお得意さんに何かあったら嫌だし、今店の手伝いで冒険者雇ってるからちょうどいいかなって。戦いのプロだし」
「そういう事なら好意に甘えさせてもらいますよ」
「うん。冒険者達にはそのまま、メイド服や執事服で同行してもうよ。お店の宣伝にもなるし」
「――ていう事は、メイドさんとキャッキャウフフ!?」
 雷に打たれたというのはこんな顔をするのだろう。二人は真顔で固まった。
「険しく辛い道行をメイドさんと共に歩く‥‥‥」
「強敵との戦いっ! 強まる絆っ! そして、夜は二人で秘密のプレイ! メイドさんにかっこいい姿をみせてやるぜぇぇぇぇ!!!!」
「‥‥‥‥‥‥」
 もうダメだ。色々な意味で。
 満信は暗黒闘気を放つ友人を他所に、今度はお清にどんなメイド服を着てもらおうかなぁと現実逃避を始めていた。
 やっぱりコイツも同類か。

●今回の参加者

 eb9449 アニェス・ジュイエ(30歳・♀・ジプシー・人間・ノルマン王国)
 ec3527 日下部 明穂(32歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 ec4417 新田 芳人(21歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ec4808 来迎寺 咲耶(29歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ec4855 十七夜月 風(35歳・♀・忍者・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

 旅人や並ぶ店の店員の声に健康的な活気に溢れる某街道。そこに暗黒闘気と悶気を溢れさせ、やってきましたよ伊達侍。
 さえずる鳥は羽ばたき逃げ、子供達は泣き叫ぶ。清浄な空気が汚れ雑鬼・悪霊が暗黒闘気を中心に見えそうだ。
 その暗黒闘気の中心源、二人の伊達侍はサーバント衆と共に現地の茶屋で休息を取っていた。
 お侍とその家来衆が休息を取る自体は別に珍しくもないだろう。ただ、何というかまあ、TPOは守るべきである。
「飼い犬にはそれを示すべく首輪をつけなければならない。そしてしつけに世話をもろもろ。考えてみろ! 女の子(わん娘)に首輪を付けて、そして縄を引いてお散歩だ! 鼻血全開じゃないか!」
「黙れ変態! キサマ正気か?」
「フハハハハハ! ペットでパートナーで(脳内)嫁には当然なのです!」
「幼女を嫁と言ってるやつが吼えるな! キサマそんなに幼女が好きか!」
「当然だ! (わん娘は)外見年齢十二歳以上ダンコ認めん!」
 言い切った。
 ちなみに近くの一般人思いっきり引いている。
 茶屋の店主の恨みまがしい視線をその背に受けて、山野満信が二人へ割り込んだ。
「二人とも、メイドさんが好きなのはよく判るから少しは矛を収めよう? ねこみみとかいぬみみとかどっちでもいいじゃない」
「どっちでもいいだと!?」
 ハモる二人の同僚。萌えという名の冥府魔道。我が萌え道つっぱしる二人にとってそれは禁句のようだった。
「よもや満信、けものみみメイドだからとてねこみみもいぬみみも同じだと思っているまいな」
「ねこにしろいぬにしろ、その種類でコスチュームの属性効果が変わってくるんだぞ‥‥‥?」
 もしかして墓穴を掘った? 満信は直感した。
「そもそもコスチュームだけでも追加効果が違う。チャイナはもちろん芸子さん。革のボンテージとか醸し出す大人の魅力! つまりねこみみにジャストフィット。そしてその全てはメイドさんに融合できる! 考えてみろそのお姿を! お前は許嫁の清姫さまとメイドプレイを楽しんでいるらしいが、そういうシチュエーションもあるんだぞ!」
「人を変態みたいに‥‥‥ていうか、メイドと芸子さんの融合ってなにさ」
 だが考えてみる。
 基本的に満信はメイドさんが大好きだ。そりゃあもう使用済みメイド服を着て楽しむし許嫁に来てもらって色々楽しむぐらいだ。
 声を大にして言おう。メイドさんが大好きだと。
 だからいつものオードソックスなメイドさんだけじゃなくて、たまには違う趣向を凝らしているのも悪くはないかもしれない。
 ねこといえば風の吹くまま気の向くまま、我が道進むフリーダム。掴もうとしても手の間をするりと抜ける。どこかで飼いならせない野生のけものだ。そんなけものっ娘にチャイナ服っていうのは似合うかもしれない。チャイナといえばカンフー。ねこぱんちでねこきっくでねこねこだ。活発でとっても似合うだろう。芸子さん辺りは判らないけれど、ボンテージってのはちょっと過激だなぁ。一応吹くだけど肌を隠すというより露出面を強調しているような感じ。むしろ服の意味をなしてない。
 いかにも女王様といった趣で、ハイヒールや鞭のオプションは完備。ツリ眼で見下ろされて罵倒されて、ちょっとぐらいは踏まれたりしばかれてもいいかなぁ? それなら首輪はすっごく似合うと思うよ。
 女王さまメイドさんってのも辛抱タマリマセン。
 ねこみみにボンテージに首輪‥‥‥。付けて湧き上がるのは得もしれぬ高揚感と罪悪感。
『フフフ‥‥‥。今日はどんな風にいじめてほしい?』とか何とか言ってきちゃったりして、ぼかぁモォォォォウ!!!
「待て満信! それはそれでどんと来いだが、ねこの魅力に取り付かれるな!」
 いぬ派の彼はおっしゃいました。
「いぬといえば人類最古の共であり忠義の人。つまりわん娘は戦士であり伴侶なんだ。この意味が判るな‥‥‥?」
「つまり‥‥‥」
 基本的に満信はメイドさんが大好きだ。そりゃあもう使用済みメイド服を着て楽しむし許嫁に着てもらって色々楽しむぐらいだ。
 声を大にして言おう。メイドさんが大好きだと。
 だからいつものオードソックスなメイドさんだけじゃなくて、たまには違う趣向を凝らしているのも悪くはないかもしれない。
 勇ましき戦士の彼女はたとえどんな強敵・大群だろうと決して逃げることはない。共に手を取り合い戦い続け、その心には忠義以上のものが宿るんだ。だけど主と従者。忠義か、想いか。心の狭間で揺れるのは間違いないと思う。
 気高きはまさに侍。騎士もアリだ。
 忠義の心はメイドに通じ、秘めた想いもメイドに通ず。
 メイド侍とかいいんじゃない?
 いぬみみに戦士に首輪‥‥‥付けて湧き上がるのは得もしれぬ高揚感と罪悪感。
『今日もしつけて下さいご主人さま‥‥‥』とか何とか言ってきちゃったりして、ぼかぁモォォォォウ!!!
「――ハッ!」
 突き刺さる冷たい視線。満信は振り向いた。
「これだから男って‥‥‥」
「女に首輪ってどうかしてるわよね」
「しかも許嫁にそういうプレイをしているとか?」
「わざわざ大声で口にするぐらいだし、キモイよね‥‥‥」
「こんなのに治安を任せてるって不安だわ」
 野次馬の女性の皆さん、汚いものを見るような眼で伺っている。
 気付かずに満信、口に出していたようだ。
 これは人として激しくいかん。日下部明穂(ec3527)へ助け舟を求めた。
「なあに? まあ男の子だからそういう事口走るのも恥かしい事ではないわ。まあ確かに犬や猫にも気質というのはあるから、そこから想像が広がるというのは分からないでもないけれど」
 だけどそこは大人のおねえさんでお胸さまもとってもおねえさんな明穂。あまりありがたくないフォローを下さいました。
「ねこみみと違って、いぬみみなら普通のいぬみみの従順・素直な型の他に、狐なら人を化かしたり悪戯好き、狼なら誇り高い毅然系、とか色々派生して面白いかもしれないわね」
 いやに詳しい胸のひとだ。そのちちには夢とロマンの他の知識まで詰まってるのか。
「私に似合うとしたら、何かしら?」
 答えても答えなくてもダメな気がする。




 満信少年がある意味英断を下そうとするとかしないとかの傍ら、サーバント衆の皆さんは、隣の珍事を軽く他人のフリをして各々身体を休めていた。
 隣はアレだが柳亭のメイド制服を着ている彼女達は男女問わず注目を集めていた。
 メイド服そのものの珍しさもあるだろうが、女性達と少年一人、頭に美が付くほど整った顔立ちをしているのだ。
「それにしても、ダテやらゲントクやらきな臭いね‥‥‥」
 黄色肌に黒曜石の瞳。ダンサー仕様に細部が調整され、オプションが追加されたカスタムタイプのメイド服のアニェス・ジュイエ(eb9449)。エキゾチックなオーラを漂わせ主に野郎共の視線を集めている。
「あたしはどっち側でもないけどさ、雇われた以上きっちり働くけど‥‥‥あんた妙にそわそわしているけど、どうかしたのかい?」
 いぶかしげにアニェスは尋ねた。ヒラヒラが気になって仕方ない来迎寺咲耶(ec4808)、どうしたものかと考える。
「流れとはいえ伊達側に組することになっちゃったりとか、そもそもこのメイド服に羽織だの刀だの似合わないんじゃとか色々いいたい事はあるけど」
 暗黒闘気の二人へ視線を向けて、
「侍ともあろうものがこういう欲望・妄想全開迸らせてていいのかな」
 真っ当なことをおっしゃった。というか人選はちゃんと選ぶべきである。
「そうだな。耳を語るのはいいが、大切なことを忘れているな」
 艶やかなお色気ボディにシリアスボイス。真面目な口調で言いました。
「その人に似合っている耳ならたとえ何の耳でも問題はない。ケモノ耳とは(中略)ちなみに私は兎が好きだ、可愛いから」
「‥‥‥‥‥‥」
 咲耶は全力で頭を抱えて突っ伏した。何というか、メイド喫茶にまともそうなのは少ない気がするが気のせいだろうか。
 普通、女性となればこの手の話題に嫌悪感を抱いたりするだろうが、そこは忍者。死ぬほど、というかいっそ殺してくれぐらいの鍛錬を積んでいると評判の職業らしいし、十七夜月風(ec4855)もその類に漏れずちょっとアレかもしれない。鍛錬を積むのも節度を考えるものである。
 注目を集めるのだけど、近づき難いというか近づきたくないオーラでバリアな茶屋にとある二人連れの青年が足を踏み入れてくる。
 彼らは意識してないが、統率の取れた兵士の足取りで。
 旅人らしい青年達はにこにこと茶をしばいていた新田芳人(ec4417)に尋ねた。
 にこにこ笑顔の可愛らしい芳人少年、その瞬間。計画通りとほくそ笑む。
 ここに至るまで色々仕込みに奔走していたのだ。
「坊や、そこのお姉さん達と一緒に珍しい恰好をしているね。見世物小屋の人かい?」
「いいえー。柳亭っていうメイド喫茶の制服です」
「メイド喫茶‥‥‥? どんなお店なのかな」
「女の子がお茶やお菓子を運んできてくれたりお話ししたりするお店です」
 この説明だとアレだが間違ってはいるまい。そして芳人はここだけの話ですが、と囁いた。
「伊達のお侍さんが通い詰めてまして、店員達にはついうっかり色々話してしまうんですよ」
 刹那、青年達の瞳の色が変わる。食いついたと芳人。
「気になるな。詳しく教えてくれないかい?」
「お客さんの秘密は軽々しく話せません」
「そんな事言わずに。お小遣いあげるから」
 何だかアレな台詞である。。押してダメなら引いてみろで、アニェスに聞いてみる。絶壁気味な二房を見てため息を付いているのは気のせいだろうか?
 軽く沸いた殺気を笑顔で黙殺。メイドさんは笑顔が全てだってどこかの偉い人が言いましたもん。
「伊達のお侍さんと? ‥‥‥そうね、『ご主人様』方とは、色ぉんなお話をするよ?」
「どんなお話しなのかな?」
「駄目駄目。ご主人様の秘密は、守ります。それがメイドってもんでしょ」
 ぷいっと明後日の方を向く。だから人の胸を見てため息をつくな。
 そこへ満信をある意味再起不能にしたお胸さま、明穂たんがやって来ましたよ。
「そう言えば、小鬼の退治をする為、今から現場に向かうって言ってましたね。まあ、私たちも諸事情あり同伴するわけですが」
 鬼のような速攻の速さで明穂たん、というか揺れる超級お胸さまを凝視する青年二人。そんなにお胸さまが大好きか。大好きです。
 芳人少年もお年頃、にこにこ笑顔で興味があるのかないのか判断つかないけど言いました。
「お兄さん達が小鬼を退治して、活躍したらお話ししてくれるかもしれないね♪」
 ざっと算段を整える、二人の源徳侍。だけど超級お胸さまから眼を離さない。
 何を考えているのやら。




 街道が近いからかそれなりに開けた森の中。暖かな陽光が降り注ぎ、小鳥のさえずりや獣達が駆ける姿の変わりに冒険者達と小鬼の戦いの音が響いていた。
 空気を切り裂く斧の刃。
 陽光を受け霊剣閃く。
 冷ややかな冷気を放つ霊剣を一閃。芳人少年は魔力の両刃刀を手に小鬼と斬り結ぶ。
 小鬼がたたらを踏むその刹那、一息で踏み込み薙いで払う。
 返り血浴びてもにこにこ笑い。そんな芳人少年に内心肝が冷えて――満信は怒鳴った。
「ちょ、そこ! 優雅にお茶してないで援護して下さい!」
 どこから調達したかしらないが、イスにテーブルに紅茶諸々と、ティータイムを楽しむメイドさん。咲耶たんはメイド服と服的にかさ張る刀を差して言いました。
「こんな恰好ではまともに戦えないさ。触らぬ神に祟りなしだ」
「うむ。正直小鬼程度ならあの侍たちと芳人がいれば十分な気がする」
 こっちはそもそも、小鬼相手に戦う気のないメイド忍者の風たん。そして暗黒闘気を垂れ流すアニェスは、
「小鬼? 知るかそんなの。どーせ大したお胸さまもないしね」
 茶屋でのことを引きずっているようだ。
 絶壁の反対語はグレートチチンガー。ぷるんぷるん、というよりぶるんっ! ぶるんっ! とタイヘンにスゴい事になっている明穂たん。ヒットマンスタイルで小鬼を殴り倒す。
 ミドルレンジからフリッカージャブフリカージャブ。その度にお胸さまはデンジャラスですよ。
「すごいな‥‥‥」
「‥‥‥ああ。小鬼と変わってほしいぜ」
 お胸さまを凝視する二人の侍。満信は驚倒した。
「あ、あれは‥‥‥羽須徒百殺拳!」
「知っているのか満信!」


『羽須徒百殺拳

 大陸の部族が用いたとされる幻の拳法。
 豊かな胸囲を持つ女性が行使し、あるときはその胸部を武器とし盾とし、多くの敵を屠り続けた。
 また、その拳法を習得するには天性の才能(お胸さま)と血の滲む努力が必須であり、学ぶ事すらも許されず涙を呑む者も多かったという。

 その部族にちなみ、女性の胸部をバストと呼ぶようになったのはあまりにも有名である。


 寺捏書房 女体〜神秘を求めて〜より抜粋』



「あれが伝説の羽須徒百殺拳か‥‥‥確かにあれに勝てる気がしないな」
「いえ、どこのトンデモ本ですか?」
 芳人少年は真っ当に突っ込んだ。
 剣と斧の音が小さくなるにつれ小鬼の数も減っていき、二人の伊達侍の姿が見えなくなったのに気付いたのはいつからだろうか。
 草をかきわけ、侍の集団が飛び出す。満信は侍の装備を見て叫んだ。
「源徳侍か! さあ、二人とも‥‥‥っていない!?」
 そして聞こえる高笑い。
「ふはははは! わん娘の園を築く為、いぬみみ仮面参上!」
「ねこみみこそ萌えの境地! いじめてくださいお願いします! ねこみみ頭巾見参!」
 それぞれいぬとねこのきぐるみの頭をかぶり、しかもメイド服着用の変態が現れた。見るからに男でキモイが、きぐるみ頭もリアルにいぬとねこすぎてもっとキモイ。中の人は言うまでもなく、
「何やってるの二人とも‥‥‥」
 満信は源徳侍が眼の前なのにおもいっきりうなだれた。だけど仮面の人達、胸を張っていいました。
「人違いだ。俺はいぬみみ仮面。わん娘好きの好青年に頼まれてやってきたのだ!」
「わん娘好きなど変態だ! 俺がにゃん娘の良さを知らしめてやる!」
「おのれにゃん娘好きめ! いぬみみをバカにするやつなど斬り捨ててやる!」
「上等だ!」
 ザ・仲間割れ。無駄にハイレベルな技の応酬の二人はもうダメだと、またメイドさん達に助け舟下さいなの満信。
 メイド忍者が跳躍。忍者刀をすらりと抜き放つ。
「私は名もなき可愛いメイド‥‥‥何処かで見た気がするとか気にするな。事情により貴様たちを倒させてもらう」
 お前もか。
 相変わらず芳人少年はにこにこで源徳侍を斬りまくる。


 ――ちなみに、芳人少年以外はある意味ダメだと泣いた満信は、鬼のような勢いで源徳の偵察部隊と戦った。
 二人の活躍により柳亭のイベントは、『兎メイドを狩っちゃうの? 猟犬ご主人さま?』と決まりこれはこれで面倒になるのだが、それはまた、別のお話し。