ストライク・フォーメーション!
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■ショートシナリオ
担当:橋本昂平
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 35 C
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:07月12日〜07月17日
リプレイ公開日:2006年07月21日
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●オープニング
華の都京都。
神皇陛下お膝元のこの都市は、古くから遥か遠き国へと続く月道が確認され、それを確保する為に街は事細かく計画され、造られた。その為各地から月道を利用しようとする人達が集い、現在の京都情勢も相まってちょっとした混沌の様相を醸し出している。
人の縁はどこで繋がるか判らない。ある時通りすがった誰かが、ある時いがみ合った者同士が手を取り合う事もまた縁。
人の世と縁はまさしく青天の霹靂。全く何が起こるか判ったものではない。
――遠い異国の地で、レミングの群れの進路上に町や村があろうと、遠い異国の海でバイキング達が暴れていようと、広い目で見れば案外世の中平和なものである――
都という人が特に集まる場所は、決していい面ばかりではない。
そもそも人はより良い環境を求めてさまよう旅人だ。本人は何らかの理由があって旅をしているのだろうが、何も訪れた人は決してその街にとって良き結果になるという訳ではないのだ。
例えば、表通りを見れば違う都市や外国から渡ってきたであろう商人や旅行者なんかを見かける事ができる。
しかし、一つ裏通りを見れば、それだけでその街の『膿』を見えるものだ。
人が多く集うという事は、つまり隠れる事ができるという事。各々の街から逃げ出してきた犯罪者達が姿を隠す為、借金取りから逃れる為。そして各国から訪れた、浮浪者が集う。
華の都といえど裏面はしっかりとあるものだ。
そして京都に訪れた地方の武士、竹沢直人はそんな連中の力で武装集団を打ち建てようとしていた。
かつて京都に住む陰陽師によって命を救われた彼は、いつの日か京都を守る事でその恩を返そうと思っていたのだ。
幸い彼の家はそれなりに資金力を持つ。職にあぶれた者や犯罪者じみた連中なんかに仕事を用意してやればそえだけで犯罪も減るだろうし、なによりそれが治安向上の手助けにもなる。
新撰組や既存の組織には遠く及ばないだろうが‥‥‥やるだけの価値はあるものだ。
まず手始めとして、京都近郊に棲息する小鬼の群れの掃討を行う事にした。
こちらの戦力は依頼人である竹沢直人と正規軍から脱走した足軽が十人。そして予定である冒険者達。
敵戦力は小鬼十五匹の寡兵ではあるが初陣だからこそ徹底的に叩くものだ。
こうして、竹沢義勇団の初陣が幕を開ける。
●リプレイ本文
出発前の事である。
「何見てんだアァン!?」
「俺らは京都の治安を守る天下の竹沢義勇団様だ。頭が高けえんだよオォン!?」
「チョーシこいてんじゃねえぞコラァ!」
表通り。完全武装で整えた犯罪者‥‥‥いや、足軽の集団は、それぞれ町人達から奇異の眼嫌悪の眼腫れ物を見るような眼を向けられる。
その視線は様々だが、どれも関わりたくない、そんな色を宿している。
というかそれも当たり前だ。基本的にこの連中は犯罪者とか脱走兵とかそういうので構成されている。人相も悪いし大股のヤクザ歩きで若い女の子に卑猥な言葉投げかけたり。得物を振り掲げ堂々と、どこぞの山賊か。まるで今にもどこかの村に襲撃をかけそうな勢いである。
「実は私達、犯罪の加担をしてるのではないですか?」
最後尾を「私達は他人です」、とばかりに離れて歩いていた瓜生ひむか(eb1872)は痛む頭を抑えてそう言った。遠巻きに彼ら一団を窺う町人達は既に一度、役人を呼んでいる。一人ではチキンなチンピラも、集団となれば鬼のように調子に乗る。その上今の彼らには竹沢直人という後ろ盾もいるし一触即発しそうになったものだ。
「ふふふ‥‥‥。わたくし、本気でブタ箱行きになるかと思いましたよ‥‥‥」
と、憔悴しきっているのはラーズ・イスパル(eb3848)。天下のお役人様と犯罪者に元犯罪者に犯罪者予備軍に挟まれ、生きた心地がしなかったものだ。一生分頭を下げたような気がする。
立場的にも見た目的にも+アルファで前科持ち集団の我らが竹沢義勇団。どう見ても役人衆の方が分があるものである。それにしてもよくブタ箱なんて隠語をしってるものである。
「竹沢殿、志は立派と思うが、もう少し現実を見た方がいいと思うのじゃが。いくらなんでもこの編成は如何なものか?」
今は都の外。ケルピーに騎乗している西天聖(eb3402)は今更ながらこの依頼を受けた事に後悔している。依頼主の竹沢直人に至っては「これくらい勇ましくなくては」なんてのたまう始末だ。頭がこれだと下が苦労する。いや、下もダメダメだから依頼を受けた彼ら冒険者が苦労するものだ。
「都に戻ったら、団の経理や幹部の人とかにしっかり管理・教育するようお願いしませんか? 似た者な人しかいなさそうですけど、さすがにそういう職の人はまだ常識弁えてそうですし」
常時ドス腰溜めに構えてブッ込み特攻な組より、頭使ってあれこれシノギを削る組の方が生き残るものである。そんなのと一緒にしていいのか疑問だが。東天旋風(eb5581)は忍者だしカタギの人間よりそういうのに詳しいのだろう。
「アヒャヒャヒャヒャ!」
見た目山賊一同、一斉に高笑い。先頭に小山の大将な依頼人。
自分たちがしっかりしなくては‥‥‥! そう同時に冒険者達は思った。
「まあ色々突っ込みたい所はあるのじゃが、着眼点はいいと思うのじゃよ」
天幕を張って作戦会議。大部隊でもあるまいし無駄に豪勢な天幕は場違い甚だしいが、そこら辺は金持ちの趣味だろう。素で高価な物を選ぶ辺り何かむかつくが、そこはいい所のお坊ちゃんだからしょうがない。
「? 作戦の事ですか?」
話しを振られ直人はふんふんと鼻息が噴出さんばかりにハイなまま顔を向けた。何にしろ、彼にとっては初陣である。
「勿論それもじゃが、兵隊であの連中を使う事じゃ。戦いは勢いで決まると言っても過言ではない。初手さえしくじらなければ容易に勝てますぞ」
断言する聖。侍として兵法を修めている身。まだ達人に及ばずとも、ある程度は結果を見据えられるのだろう。
「ヤクザみたいな人達ですからね‥‥‥」
「それほど力と理想に溢れているという事でしょう。そんな彼らが我が団に入り京の都の為に尽くすのです。きっと更正し、正しい道を再び歩む事になるでしょう」
どこから突っ込めばいいのだろう。理想と現実を見ていない依頼人にラーズは口をつぐんだ。
「この戦いで足軽達に自身が付けば、今後再び犯罪に手を染めるような事も考えにくいじゃろう。総大将、初戦こそ肝心じゃぞ」
どんな事も初手の成否で以後の行動の気の持ちようが変わってくるものである。
「ですが竹沢様。私が言うのはなんなのですが、高圧的な態度は避けてくださいね。一度は外れた方達なのですから」
元気よく返事する依頼人。絶対に判ってないような気がする。
作戦開始前、ラーズと旋風が偵察に行っている間、聖とひむかは足軽に聞いてみた。
『勿論金の為だ!』
速攻マッハで全員言い切った。世の中何をするにも金が必要だが、ここまではっきり即答するといっそ気持ちいものだ。
「いやいや、俺らも大概いい歳しているし、定職につかないといけなくてな。嫁が煩くて‥‥‥」
もの凄く説得力のある理由である。普通にありそうで逆に疑えない。
まあ、彼らとて普通に生活がかかっているのだろう。何にしろ、やる気がある事はいい事だ。
「私は、剣士でも女じゃ。頼りにしてるのじゃ危ない時は助けて欲しいの。頼れる男は好きなのじゃ」
映えるナンパ達人技。化粧もステキに決まって炸裂するチラリズム。艶美で辛抱タマリマセン。
『任せろよ!』
再びハモる足軽達。
つくづく男は悲しい生き物だ。
「往生せえやぁぁぁぁ!」
ラーズと旋風が戦線を切り開く。突然の奇襲により体勢を整えられない小鬼達は、旋風の竜巻の術で吹き飛ばされインジビブルで姿を消したラーズによる不意打ちで彼ら足軽達の突撃を許したのだ。まるでどこぞのヤクザか。
「小鬼風情が人間様の邪魔してんじゃねぇぞコラァ!」
「一人ではチキンだが集団だと急に強気になる俺らをナメんなコラァ!」
「逝き去らせェッ!」
それぞれ気合い入っているのはいい事だが、色んな意味で大丈夫かこの連中。
「私達は竹沢隊、鬼退治にまいった覚悟するのじゃ」
と、聖は名乗りを上げたものの実際の戦闘はそんな優雅なものじゃない。所詮、どんな手段使おうとも生き残る事が出来なければ意味がないからだ。
とはいえ聖の指揮は見事なものだ。
例え敵が一匹でも必ず複数で包囲殲滅するよう前もって徹底させていたせいか、小鬼に反撃の暇をあまり与えていない。奇襲と旋風の竜巻の術で吹き飛んだり、の相乗効果もあるのだがそこを上手く付く聖の陣頭指揮はさすが侍といった所か。むしろ大将の依頼人が、
「圧倒的じゃないか我が団は!」
なんてどこぞの総帥と似たような事をのたまっている時点で、自分達が余計に頑張らないといけないのだが。
二刀を手に敵陣へ躍り出る。
乱戦に長けた二天一流の技。また一匹また一匹と小鬼を討つ。
「こいつは私の得物です、手を出さないでもらえますか?」
もう一匹の小鬼に斬りかかろうとしたのを旋風が割って入る。
「私は倍返しとは言わない。ですがやりかえさない訳無いでしょう」
どうやら術の邪魔をされたらしい。忍者刀で報復を決め込んだ。
体勢を立て直した小鬼達は、その数を減らしたものの反攻に移る。
襲撃者に対する怒り、仲間を討たれた怒り。各々得物を振り回す。
一人の足軽が小鬼の攻撃を受けた。
「こ、こいつら急に勢い付きやがって‥‥‥!」
「逃げるか? 命あってのもんだろ」
「こんな所で死にたくなんか‥‥‥と、ひむか譲ちゃん?」
一目散に逃げようとして後ろにいたひむかに気付いた。
「逃げないで下さい、私も此処にいますから護ってくださいね」
手を大きく広げふるふると、瞳は一杯に揺らいでいます。有無を言わせない無言の圧力。まるでどこぞのチワワか。
「ああっ。貧血が」
必死に訴えていたら気が遠くなった。あまりの緊張で身体がくらり。
しかし足軽達にとっては、絶壁の如くひむかが立ちふさがっている。
「‥‥‥チッキショー! これで逃げたら男が廃る! 逝くぞオメーら!」
死ぬ気で頑張るという事か。
前門の小鬼後門のひむか。
どちらも脅威に違いないのだが、足軽達は戦う事を選んだ。逃げる方が生存率高くなるものの、男の沽券やプライドの方が勝ったらしい。というか貧血まで起こして逃げようとしない女の子を置いて逃げていったら、いくらなんでも良心が鬼の様に痛む。
――まあ、そんなこんなでいつも以上の力を発揮できたのか、足軽達は誰一人欠ける事無く無事生き残れたのだが。
「いやもう、俺らって凄くね? ラクショーだったぜ!」
「全くよ。小鬼なんざいくらやってきても敵じゃないな。これで正々堂々とカタギ名乗れるな」
さすがにそれはどうだろう。
「世の為人の為、命張ったからな。出入り禁止の店にもまた入れるようになるかな」
どんな事をしたんだこの足軽。
「足軽の方々も武勲を立てたようですし、これを機に更正して頂ければいいですね」
京の都への凱旋の中、ラーズは直人へ言った。
「ええ。世の中完全に悪い人はいませんし、活動を広げいつかは京の都一の組織へと築き上げたいです」
京都一の無法者集団。一瞬そう連想してしまった。
とはいえ、今日の彼らの活動は本当に功を得たものである。
位置的に近くを通る人々は小鬼の襲撃を受けていたし、その脅威がなくなれば通行の安全は保障される。
本当に、彼ら竹沢義勇団は世の為人の為、力を尽くしたのだ。
足軽達の立ち振る舞いに激しい問題はあるものの、それはこれから直していけばいい。いつか人々に認められるその日まで、彼らは彼らなりに頑張る事にした。