女の敵を張り倒せ!
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■ショートシナリオ
担当:橋本昂平
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 78 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:07月16日〜07月21日
リプレイ公開日:2006年07月27日
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●オープニング
江戸の街は広く大きい。
源徳公が治めるこの地には、ちょうどジャパンの中心辺りにあるせいか、各都市に向かうそれぞれの旅人達がそれぞれの理由で立ち寄り、それぞれの事情を持ってまた旅立ち、また、定住する。
人の縁はどこで繋がるか判らない。ある時通りすがった誰かが、ある時いがみ合った者同士が手を取り合う事もまた縁。
人の世と縁はまさしく青天の霹靂。全く何が起こるか判ったものではない。
――遠い異国の地で、レミングの群れの進路上に町や村があろうと、遠い異国の海でバイキング達が暴れていようと、広い目で見れば案外世の中平和なものである――
「だ・か・ら! 女はやっぱひんぬーなんだよ! つるぺたまな板は勿論、膨らみかけがいいんだって!」
太陽が真上に上る真昼間、ジャイアントの青年が周り気にせず言い切った。
「黙れ愚弟! あんな柔らかくも揉みごたえもないまっ平ら等胸ではない!」
向いに座っているもう一人のジャイアントの青年は、こちらも大声で反論する。
「あのたわわに実った二つの果実。熟れに熟れた人類の至宝。手に吸い付きそれでいて反発するように肉たわむの壁! このアンバランス差が最高なんじゃないか! 女はやはりきょぬー。何故判らん!」
こちらも言い切った。声を大に言い切った。
「あんなの肉のカタマリだろ! 肉なら俺たちにもある!」
「筋肉と一緒にするな! 人類の至宝をそれ以上侮辱するなら、例え弟でも殺るぞ!」
「上等だ! 殺ってみろ!」
ついにお互いの胸倉をつかみ合うジャイアント兄弟。背丈顔立ちがほぼ同じな事から双子と窺える。七三分けの方が兄らしい。
ジャイアント特有の、大柄でにらみ合う姿は端から見て怖い。一触即発の空気の中、場違いな声が割り込んだ。この甘味処、季節亭の店員さんだ。
「まあまあお二人さん。他のお客さんが怖がってるからそれくらいで‥‥‥」
『黙れ半端女!』
電光石火で双子の声がハモッた。
「は、半端ぁ?」
「当然だ! その小さくもないし大きくもない、面白みもない胸しやがって。そんな中途半端な大きさが一番むかつくんだよ!」
「な、別に男の為に女の胸はあるんじゃありませんよ!」
店員さん――お夏は客相手に無礼にも噛み付いた。店員として以前に女の沽券に引っかかる。
「あるんだよボケが! 男はな、『見たい・揉みたい・舐め回したい』の三大原則を我慢して生きてるんだ。それくらい判れ!」
「判ってたまるかこの変態!」
「女のクセに判れよ能無し!」
ひどい言い草だ。女性差別にも程があるというかセクハラにも程がある。
「いいか。大きいという事は、顔を埋めたり揉み解したりナニを挟んだり出きるんだ! サイコウじゃないか!」
「『ナニ』って何よ!」
「ナニに決まってるだろ!」
「知るか! 最低!」
「兄貴‥‥‥。やっぱりあんたはまだまだだ」
弟――七三分けが逆向きの方――は鼻で笑った。
「どういう事だ弟よ」
「揉み解したり挟んだりが大きいだけの利点だと? 甘いんだよ」
弟は、もったいぶるようにタメを置く。
「小さくてもな‥‥‥同じ事が出きるんだよ!」
「な、なにィィィィィッ!」
瞬間、落雷が落ちた‥‥‥ような気がした。
「ど、どういう事だ。その神技は大きくないと出来ない筈だぞ‥‥‥」
吐血してたたらを踏む兄貴。神技と来たか。
「出来る出来ないが問題じゃない‥‥‥」
弟は、一拍を置いた。
「しようと頑張って、出来なくてもそれも懸命にやろうとする姿に萌えるんじゃないかぁぁぁぁぁぁッ!」
「そ、そうキタかぁぁぁぁぁぁぁッ!」
再び落ちた気がした落雷。
「その通りだ兄貴。試行錯誤に動かして、出来なくてこそばゆい感触の、このもどかしさ! こすれちゃってモウ、辛抱たまらんじゃないか特に『何とかしようとして頑張ってる』って所がさぁ!」
‥‥‥誰か役人を呼んでくれ。
眼から鱗が滂沱。兄貴は感涙もいい所だ。
「弟よ‥‥‥。俺が間違ってた! ひんぬーも、ひんぬーもイイ!」
「判ってくれたんだな!」
「応! 弟よ!」
「兄貴!」
抱き合うジャイアントブラザーズ。これを見るだけなら仲の良い兄弟に見えない事はない。
「‥‥‥‥‥‥」
「ん? あんたまだいたのか。半端女はさっさとどこか行ってくれ」
「ああ、きょぬーのお春さんみたいに美人でも大きくもないしひんぬーのお秋ちゃんのように可愛くないからな。ほれ、さっさと行った行った」
あんまりな言い様である。
他のお客さんに迷惑だから注意しただけなのに‥‥‥あまりに理不尽だ。
「聞こえなかったのかよ。あんたみたいな中途半端なぬーの奴には用はないって」
「そうだそうだ。それとも俺らが育ててやろうか?」
蠢く二十本の指。その全てがイヤラシイ動きで踊る。
「‥‥‥‥ね」
「ん〜? 聞こえんなぁ〜?」
どこかで聞いたような言い回しだ。
調子にのって身を乗り出して‥‥‥
「死ねぇぇぇぇぇッ!」
唸る包丁。筋肉の壁に突き刺さり血が踊る。
「うおぉぉぉ〜〜〜ッ!血、血がぁぁぁぁッ!」
「あ、兄貴ぃ〜。お前普通刺すかよ!」
「刺すわよ普通!」
お夏はジャイアント(包丁が刺さっている方)を蹴り上げる。派手に血が吹いているものの、さすがジャイアント。鍛え上げられた筋肉の壁。見た目に反して傷は浅い。
「兄貴!」
「うるさいうるさいうるさぁ〜い! もう決めた今日決めた! あんたみたいな女の敵は悪即斬で冥土行きよ! 冒険者に頼んで出入り禁止にしてやるんだから!」
「いや、どちらかというと被害者は俺たちで‥‥‥」
「んなもん知るか! 先にあたしを襲おうとしたのはあんた達だし悪いのはあんたらよ! 身を守っただけ!」
まあ、間違ってはいない。
「いくらあんた達がそれなりに売れている春画職人だからって、もう我慢なんてしてあげないもんね! 絶対今後出入り禁止にしてやるんだからぁぁぁぁぁぁぁッ!」
言っている事はそれなりにお夏の方が正しいのに、捨て台詞じみた事を吐いて冒険者ギルドへ走っていった。女のプライドはもうずたずたである。
「大きくもなく小さくもない方が一番いいんだよーーー!!!」
言い訳っぽくてまた泣けてきた。
●リプレイ本文
「うぅ〜。羅々亜がよぉ〜」
ある晴れた日の事。現実以上に辛い事は降り注がないと、飲んだくれる事も当たり前とばかりに、お夏は飲んだくれていた。近づけばほんのりと甘い匂いが香る。甘酒で飲んだくれてそれで酔っ払っているなんて器用な女だ。
「お夏さん。そんなに嘆かないで下さい‥‥‥」
そう言って共に飲んだくれているのはルナ・フィリース(ea2139)。
「お夏さんはまだいいです。私なんかもう成長する見込みすらないですよ?‥‥‥もういい歳ですし‥‥‥」
当年きって二十三歳のナイト。鎧の下の膨らみは、膨らみと言うのが失礼ぐらいに小さくて、何か申し訳なさを感じてしまう。初めて会った時、互いの胸を貫いた衝撃は、「嗚呼、私と同じなんだな‥‥‥」なんて数多の歴戦を潜り抜けた戦友のように分かり合った始末だ。
「まあまあ。女の価値は胸じゃないんだからさ、そう悲観しなさんな」
フォローとばかりに相席のシルフィリア・ユピオーク(eb3525)が合いの手を入れるが、速攻マッハで二人のひんぬーから鬼のような形相で睨まれた。
「何ですかシルフィリアさん! あなたは自分がステキに恵まれているからって‥‥‥。そういう台詞は自分がきょぬーだから言えるんですよ!」
「そうよ! それにまるで自分のカラダを自慢しているみたいに肌を晒して、男を誘ってるみたいに。淫売ですかアナタは!」
「いや、淫売って」
女の嫉妬? は恐ろしい。ビーストモードの如く唸る二人。殺気じみた気にあてられて何かヤバイと感じたのか、お夏の背後に素早く回り込んで触れたというか鷲掴む。
「ちょ、シルフィリアさん!」
「思ったとおりだよ、形も良いし掌にしっくりくるし、着物を着こなすにも丁度良い大きさじゃないさ。これの何処に不満があるって言うんだろうねぇ〜。赤ちゃんに授乳するにも丁度良いのにさ」
「あ、赤ちゃんって、そんな相手‥‥‥!」
じたばた暴れるもそこはシルフィリア。数々の修羅場を潜り抜けてきた冒険者らしくお夏の自由を奪い取る。
「うぅ〜。特徴がないのが特徴だろうと、中途半端だろうと無いよりはましですよ‥‥‥」
ひたすらに酒を飲むルナ。もう泣けてきて飲まないとやってられない。
ちなみにしばらく後、お夏は真っ白に燃え尽きてシルフィリアはご馳走様でした、とばかりに肌がつやつやしていた。
「そんなことより聞いてくれ! そう、あれはまさしく俺と中途半端なぬーの依頼人との己の尊厳を賭けた一対一の戦いだった!」
どれくれくらい時間が立っただろう。季節亭の一角で今日も今日とて語り合う双子を見つけ、扉が在れば吹と飛しそうな勢いでやってきた加賀美祐基(eb5402)がひたすらに喋っていた。
「放たれる包丁! 吹き出る俺の血潮! 強いぜお夏ちゃん! 中途半端なぬーの時代を懸けた戦い! その最終戦争に勝つ為に俺はこの言葉に全てを懸けてあんた達にこの言葉を捧げてやるぜ!」
発動するフレイムベリエイション。燃え上がる努力と根性で、一応手当てした傷口からまた噴水のように血が吹き出た。
どこぞの赤い隊長さんのようにポーズを決める。
「お夏ちゃんを敵に回そうなんて、ちょっとした冒険だな!」
どこの業々戦隊だ。凄い勢いというか、努力と根性で血圧の上がった祐基は額から鬼のように血を噴出してぶっ倒れた。突然現れて突然捲し立てて突然倒れて、勢いが服を着たような男だ。
「‥‥‥あの人、何をしに来たんでしょうね‥‥‥」
飲みすぎで痛む頭を押さえつつ、ルナが呟いた。色々な意味で再起不能になっているお夏の姿に人遁の術で変装している城戸烽火(ea5601)の運んできたお茶は、ただ熱いだけしか感じずに味がよく判らない。
「わしにもお茶を貰えるかの」
そんな祐基の一発芸? を眺めながらランディス・ボルテック(eb4607)はお茶を啜った。聞く所どうもランディスはこの店の常連らしく、よく四姉妹を眺めに来るらしい。子持ちでいい歳のくせにいい趣味をしている。
「まあ、お仕置き方法はおぬし等を見ているとわしが手を出す必要もなさそうじゃし、常連のわしとしてもあまり行き過ぎた発言はのう」
つまり、ランディスも双子の猥談を楽しみに来ているという事か。
「それでも行き過ぎた発言じゃ。反省してもらうことにしてもらうかの」
「‥‥‥何か、もの凄く嘘くさいですけど」
「ほっほっほ。失礼じゃのう」
ランディスは我が意を得たとばかりに本音を語った。
「スケベにも流儀があるのじゃ。ターゲットをじっくりたっぷりねっとり舐めるように視姦するのじゃ。脳の中ではパラダイスじゃよ」
「‥‥‥‥‥‥」
本気で言っているのかこの男。
ルナはどこから突っ込んでいいのか判らず、とりあえず机の上に突っ伏した。
まあ一応相手の主張も聞くのも道理であって、血溜りを作って倒れている祐基を捨て置いたまま、真幌葉京士郎(ea3190)とヨシュア・ウリュウ(eb0272)と天堂蒼紫(eb5401)は、とりあえず双子の春画を見てみる事にした。相手を理解するには相手の手の内を知るべきである。祐基をそのままにしていいのか。
「特に潔癖でもないですし如何こうは言いませんが‥‥‥。こういう事は秘める国だと母上に聞いていましたのに商売として成立っているとは思いませんでした。母上はやはりお嬢様育ちだったんですね」
そう眉間にシワを寄せているのはヨシュア。如何こう言わないと言ったものの、やはり女性特有の潔癖症が出ているのだろう。あまりいい気がしない。
蒼紫が鼻で笑った。
「胸の大小で女性の価値を決めるか、愚かだな。外見に惑わされ、内から滲み出す真の美しさに気付かぬ」
人間どう言い繕おうとも、第一印象は所詮外見だ。そして外面菩薩内面夜叉な女にアタマ悪い男は騙されまくるのだ。
「そも巨乳だの貧乳だのと、特定の記号を用いなければ美を表現できない時点で、お前達の未熟さを露呈している。そんな事では例え上達しようとも客を引き付けられず、ただの消耗品として扱われ、飽きたらすぐに捨てられる‥‥‥そんな惨めな末路が待っていることだろう」
そもそも春画の使用目的はそれであっているような気がするが。
「確かにその通りだな」
相槌を打つ京士郎。
「こう今ひとつ美しさが足りんな、邪念がストレートに伝わりすぎる。‥‥‥ああ。そこのとそこのとそれをくれ」
結局買うのか。今夜はお祭りに違いない。
「だがな。大きいだの、小さいだのお前達は女性の真の美しさがわかってはいない。どんなレディ達にも、それぞれキラ星のごとき魅力がある。それを見つける事こそ男と生まれた者の勤めだ。それに、そのように品のない会話を繰り返したとあってはせっかくの女性の魅力も曇るというものだ女性の美を語る資格はない」
人の事言えないくせに、京士郎は偉そうに真顔で言い切った。懐に突っ込んだ春画は何だ。
「やかましい! 男なら! 所構わず本能で語り合うのが筋ってもんだ!」
「その通りだ弟よ! つーかお前が人の事言えるかよ!」
どいつもこいつも似た者同士だ。
「別に彼方方の趣向を論じ合うのは構いません。ですが此処はお店で甘味処。甘い物好きの女性にとっては憩いの場で、巨乳だ貧乳だと大きな声で騒がれては女性にとっては入りにくい店になってしまいます。もう少し場所を選んではいかがでしょうか」
「その前に役人に捕まるか、お夏に殺されるかで人生が終わるかもしれんがな」
やっている事は普通にセクハラだ。
「ええ。ですからこれからあたしの述べる条件を――」
「そんな事より聞いてくれ!」
三途の川から返品された祐基が再び語りまくる。逃げても反論されてもひたすら有無を言わせぬ勢いで説得――脱線しまくって、蒼紫が気絶させるまで続いた。
風呂釜が壊れて説教散々されて、今日は厄日である。留めとばかりにお夏(に化けた烽火)が言った。
「ジャイアントにしてはお粗末な物してるらしいね。だからお前等偏った観方するんだよ。それで女性の胸をもんでやろうとか良く言えるよ」
いつもならおかしいと思うが、散々説教されたせいでそこまで考えが回らなかった。なのでとりあえずキレていおいた。
『脚須都男不!』
何故か弾け飛ぶ着物。褌一丁で身軽になったのか、残像を残し烽火を挟み込んだ。迫り来る肉の壁。
「ちょ、おま、汗臭ッ!」
「半端女のクセによく言いやがるなオオーン!?」
「我ら兄弟の肉の壁ェェェェ! 特と味わんかいィィィィ!」
二方向から締め付けられる肉の壁。染み出してきたのか汗が吹き出てべっとり乙女? の柔肌に纏わり付く。あまりの男臭で失神した。
そこへソードボンバーと石突のスマッシュが打ち込まれる。ちなみに烽火も諸共吹っ飛んだ。
「大事になる寸前だったな」
烽火を見なかった事にした京士郎が呟いた。
「少し眼を離した隙にこれですからね」
と、ヨシュア。
「口で言っても判らないやつは、やっぱり身をもって知ってもらわないとねぇ〜」
アイスコフィンのスクロールを取り出すシルフィリア。
とりあえず縄で縛り始めた。
それから、季節亭には女客が戻り始めた。流れた評判は筋肉に溢れる双子の絡み合い。客層もいわゆる腐女子ばかりである。
「チクショウ! いつかまた、舞い戻ってやるからな!」
それからしばらく、双子は季節亭に近寄らなかった。