閑話休題――騎士の肖像
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■ショートシナリオ
担当:葉月十一
対応レベル:フリーlv
難易度:易しい
成功報酬:4
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月09日〜11月13日
リプレイ公開日:2007年11月18日
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●オープニング
●キャメロット、某所
テーブルの上、幾つも並べられた書簡。
それらをじっと睨むように眺めている少年が一人。普段の彼を知る者なら、滅多にお目にかかれないぐらい難しい表情を浮かべ、ただ口をへの字に曲げている。
「う〜ん‥‥」
唸る声。彼の手にあるペンは、さっきから一文字も動かず、その書類の前で止まっている。その間にも、彼の顔はますます気難しく歪んでいく。
「だ、ダメだ、全然わかんねぇ!」
とうとう匙を投げたのは、ガラハッド・ペレス。
騎士学校を飛び出して、およそ一年。本来ならまだ卒業に至ってない身だが、その間にあちこちを見て回った修練の結果をレポートに纏めて報告することで、なんとか授業を免除されていた。
別に在籍しているからといって、ずっと学校にいなくてはならないという決まりはない。
だが、彼の場合は家柄の関係か、外へ出る事をなかなか許してくれなかったのだ。
結局、定期的に送られてくるレポートを提出する事を条件に、家へ報告する事なく学校を出る事が出来たという経緯がある。
ガラハッド自身、最初は別に学校を辞めても構わないと考えていた。
だが、やはり一度始めた事は最後までやり遂げるべきだ、と考えを改め、最近は結構真面目に提出を行っていたのだが――今、彼の目の前にあるレポートのテーマは、今まで以上の難問だった。
『円卓の騎士のうち一人を選択し、その者についての印象を纏めよ――』
円卓の騎士。
イギリスに住んでる者なら誰でも知っているこの国最高の騎士達だ。無論ガラハッド自身、将来的には円卓に座ることを夢見て、日々修練に勤しんでいる。
だが、ここにきて彼は一つの難題にぶち当たる。
「俺‥‥殆ど知らねえじゃん」
ここ一年、色々と歩き回ったとはいえ、殆ど彼らとは面識がないガラハッド。
彼に思い当たるとすれば、この国最高の騎士の誉れ高きラーンス・ロットのみ。その他は、先の戦場で見かけたぐらいだ。
いくら印象を書けとはいえ、その程度ではさすがに難しい。
だからといって、
「――アイツの事なんか書きたくねぇ」
多少わだかまりが解けたとはいえ、やはり未だ引っかかりがあるのは事実だ。まだ子供のガラハッドにとって、『彼』が取った行動はいまだ許せるものではないらしい。
そうなると、残る手は一つ。
「やっぱ、ここは冒険者のみんなの手を借りるっきゃねえよな」
ここで一人でぐだぐだ考えててもラチ明かないもんな。
よし、そうと決まれば善は急げだ。
テーブルの上の書類を急いで片付けると、ガラハッドは素早くギルドへと向かう事にした。
そして。
ギルドに貼り出された一枚の依頼書。
『円卓の騎士についてなら誰でもいいので、色々と教えてくれる人募集!』
さて、どうなることやら――――。
●リプレイ本文
●序文
彼は、一人そわそわしていた。
あんな依頼を出してみたはいいが、果たして手伝ってくれる冒険者がいるのだろうか。そんな不安と期待が入り混じった気持ちでガラハッド・ペレス(ez0105)は、迫る約束の刻限を待っていた。
とある宿屋の一室。
机の上には広げられたレポートの山。そのうちの一枚は未だ白紙のまま。
そもそもは、自分の我が侭を許諾してもらうために与えられた課題だ。
「一応、ギルドからは受けてくれた冒険者がいるって連絡が来たよな〜」
嘆息にも似た溜息混じりに、少年は呟く。
自分の宿題が出来ないからといって、はたして冒険者の皆に頼ってもいいものか。やはりここは一人で解決するべきではないだろうか。
そんな考えがグルグルと頭を巡る。
と、その時。
コンコン。
「は、ははははい!」
ドアをノックする音。
慌てた彼は返事をすると同時に立ち上がろうとして、思わず足を絡ませてすっ転んでしまった。打った鼻の頭を擦りながら、急いでドアを開ける。
すると、そこには五人の冒険者達が立っていた。
「こんにちは〜初めまして」
「あの時以来か、久し振りである」
「聞いたよ、レポート大変なんだって?」
「ひとまず元気そうで安心した。レポート、微力ながら手伝うぞ」
「そなたがガラハッド殿じゃな。今回はよろしく頼む」
五者五様。
口々に挨拶する彼らを前に。
「み、みんなサンキュー。助かるぜ」
ガラハッドもまた、笑顔でもって彼らを迎え入れた。
●リュミエール・ヴィラ(ea3115)の証言
うーんとね、何から話せばのかな。実際私も、円卓の騎士の人達ってあまり会ったことないんだよね。
え? 誰でもいいって?
そうね、それじゃあ会った事のあるアーサーさんからいくね。
え、誰って‥‥あはは、やだなぁ、王様のことだよ。
スゴイって言われても、まあ戦場だったって事もあるけどね。だんだかんだでとっても気前のいいおっちゃんだったよ。きっとあれが王様の太っ腹なところかもね。
あと、ラーンス卿だけど、実はガウェイン卿とは昔恋敵だったんだけど、いがみ合ってる内に他の騎士にその意中の女の子を取られたんだって。ガラちゃんもそうならないように気をつけてね?
う‥‥やだなぁ、デメちゃんたら。そんなに聞き返さなくっても。ほら、まあ、だから‥‥噂よ、噂(汗)。もうレンちゃんもそんな突っ込まないの。
あら、リデちゃんが用意してくれたこのお菓子、美味しい〜。
ええっとほら噂って言えば、アーサーさんとガウェイン卿とラーンス卿がドラゴン討伐数を競って全滅させたって話もあったよね。
私ね、それ聞いた時、やっぱりスゴイなぁって思ったのよ。ガラちゃんもそう思うでしょ?
あとは、そうね‥‥見間違いかもしれないんだけど――円卓の騎士の中に女性がいるって話もあるの。どう、ビックリした?
●リデト・ユリースト(ea5913)の証言
宿題、大変そうであるな。
覚えておらんか? 以前ラーンス殿の説得の時、一緒に同行していたのである。ん、まだラーンス殿の話題は嫌か。
まあ、いい。まずはトリスタンの話をしよう。
彼と私は友人である。ん、そうか? 別にそんな立派なものでもないと思うが。
とりわけ彼は美人でな、歌と竪琴が上手いであるよ。実のところ、仕事よりも音楽の方が好きそうである。まあ、円卓の騎士になる程だから、剣の腕前も確かではある。
おかげで非常によくモテる。円卓の騎士は皆、そうであるな。
ガウェイン卿などは、友人曰く「女性が大好き」なようであるが、トリスはどちらかというと女性に追いかけられるのを戸惑うほうであるな。
何しろ彼を追いかける女性は、相当思い込みの激しいご婦人ばかりでな、さて様々な飲み物が差し出されて‥‥あ、ああいかんいかん。少し意識が遠退きかけたである。
あ、いや、大丈夫であるよ。
騎士は女性の好意を無碍に出来ぬゆえ、美形で地位も腕もあると色々大変であるな。ガラハッドも将来、そういった地位を目指すのであれば覚悟がいるであるよ。
ん? 今はそんなことにかまけていられない?
ああ、そうであるな。まだまだ修行の身、これからますます精進せねば。
‥‥ラーンス卿も美形であるから、もっと色々大変なんだろうと思うである。ああ、この話は苦手か。いや、すまん。そう剥れるでない。
お菓子、もっと食べるである。
後は、そうであるな‥‥ボールス卿は動物が大好きである。こちらも女性にモテるのであるが、些か天然で気付かないようであるな。
まあ総じて言えば、彼ら円卓の騎士は普段のんびり遊ぶのが好きであるが、やる時はやる人物であるということだ。
参考になったである?
●デメトリオス・パライオロゴス(eb3450)の証言
このお茶美味しいね。
あ、次はおいらの番? ええっと、おいらが知ってるのはガニス卿のことだけど‥‥え、ガニス卿って誰だって?
あ、そっか。
みんなはボールスって名前の方が馴染みがあるかな。
うん、そうだよ。名前で呼んでいいってすごく気さくな人なんだよね。普段はあんなに強くて、それでいて優しさも兼ね備えた理想の騎士さんなんだ。
うーん、でもね‥‥欠点、てわけじゃないんだけど、優しすぎてどこかつけ込まれやすいところもあってね。
以前、デビルが黒猫に化けた時、一瞬攻撃を躊躇って逃げる隙を与えちゃったりとか、部下を信じすぎて瀕死の重傷を負う羽目になったとか‥‥ああ、心配しなくてももうその怪我は治ってるよ。
その他にも、折角彼を庇おうとした人を拒否して、逆に余計な怪我を負った、なんて失敗もあったみたいだね。
後は、ボールスさんの家に猫がたくさん飼ってるってことかな。おいらも何度か猫さんたちに遊んでもらえて楽しかったな。
そうだ、今度一緒に行かない?
あ、そっか。今はまだそんな余裕ないもんね。
それと‥‥これはガラハッド君にとってちょっと嫌かもしれないけど、ボールスさんってラーンスさんの従兄弟だから、目立たない事も多いけどやっぱり色々魅力がある人だよ。
うん、いつか一緒に行けたらいいね。
ガラハッド君の勉強の為って思って来てみたけど、他のみんなの話もすっごく興味深いよね。やっぱり不思議なことする騎士さんとかいたら、おいらも実際に会ってみたいや。
●シュトレンク・ベゼールト(eb5339)の証言
そうだな。
私の場合は、誰か一人というわけではなく‥‥円卓の騎士としての彼らを語ろうと思う。あまり彼らと会う機会も少なかったからな。
――私にとっての円卓の騎士とは、やはり雲の上の存在だった。
とても遠く、完璧な人達なのだと、勝手に思っていたよ。ガラハッド‥‥君と同じように、ただ理想だけを求めていただけだ。
でも、ある人を見て、そうではないのかもしれないと思うようになった。彼らも私達と同じように迷い、悩み、そして間違うこともあるのだと‥‥どこかホッとしたんだ。
無論彼らは、この国の最高の騎士達だ。
だからこそ完璧が求められ、それに応えようとする姿勢があるのかもしれないが、やはりそういった面を見たことで少しだけ身近に感じられるようになったのも事実だ。
そして、彼らは沢山の人を護り支えているが、彼らもまたたくさんの仲間に支えられているのだと、知ったよ。いつか自分も、彼らを支える人達のように、支えられる人になりたいと強く思った。
ん? どうした、そんなに難しい顔をして。
別に誰の事を言ってるワケではないが‥‥ガラハッドがそう感じたのなら、きっとあなたにとっての円卓の騎士とはその思い浮かんだ人物ということだろう。
デメトリオス、そうおだてないでくれ。
自分でも少し、話がずれてしまったと思うのだ。
やはり言葉にするのは難しいな。すまない、上手く話せなくて。
どうも私が話すと堅苦しくなりがちだ。
そうそう、先日美味しいパン屋を手伝ったんだが、そこのパンがかなり美味しくてな。よかったらレポートを纏める時にでも、夜食として食べてもらえたら嬉しい。
遠慮するな。
●朱鈴麗(eb5463)の証言
きちんと勉学に励もうとは、なかなかよい心掛けじゃ。折角の機会だし、喜んで協力しようではないか。
他の者の話もなかなか楽しいものであったな。
何? さっきからお菓子ばかり食べていたと? 当たり前じゃ、折角用意されたお菓子じゃぞ。美味しいうちに食べねばバチが当たるわ。
さて、わらわはウィル殿の話をしよう。
あれは今年の初め、わらわ達はとある村を山賊から救うために出かけたのじゃ。同行者のウィル殿は、その時生憎と風邪を引いておってな。
にも拘らず、戦おうとした――そなたはこれをどう思う?
責任感のある立派な騎士だと感じるか?
確かに立派ではある、が‥‥無理をして害を広げてしまっては元も子もないのじゃぞ。
風邪をうつすかもしれない。調子が悪く足手纏いになるかもしれない。
折りしも、一時国が揺れておった時期じゃ。下手をしてウィル殿の身に何か起きれば、果たして円卓はどうなっておったか。
どうやら意図が分かってきたようじゃの。
わらわが言いたいことはの、責任感を持つ事も大切じゃが、誰かに頼る事も時には必要であろうということじゃ。その為、本当に何が大切かをしっかり忘れないようにせんとな。
ガラハッド殿の目を見れば、そなたならやれると信じておるぞ。
そうそう、これはわらわの手製の夜食じゃ。勉強もほどほどに、睡眠と食事はしっかりとな。
●総評
「円卓の、騎士かぁ‥‥」
冒険者達の話を聞いた後、ほんの息抜きとばかりに始まったお茶会は、一部でお酒も入った事でかなりどたばたした席だった。
ようやく宴も終わり、皆が帰った後でガラハッドは改めてレポートと向き合う。
「あの人達だって、全然完璧じゃないって事なのか」
目指した目標。
憧れた騎士。
けれど、彼らは確かに自分達と変わらぬ、生きている人間だという。
「‥‥オレは――――」
様々に心の中で渦巻く思いを抱えたまま。
彼は、目の前の羊皮紙に向けてペンを走らせていく。
『円卓の騎士について』
そこに記された騎士の名は――――。