ケンブリッジ観光案内
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■ショートシナリオ
担当:葉月十一
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:4
参加人数:2人
サポート参加人数:-人
冒険期間:04月12日〜04月17日
リプレイ公開日:2008年04月21日
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●オープニング
学園都市ケンブリッジ。
多くの少年少女が希望ある未来を夢見て、何かを学ぼうと集まってくる地である。
その学舎の数は数十とも数百とも言われ、集まる者達はそれこそ種族や階級も様々だ。どんな者にも門戸を開くことを謳っており、それが様々な人種が集まる所以でもあった。
そして――今日もまた、遠方より一人の少年がこの街を訪れたのだった。
●ここは一体どこですかね?
ふぅ、と小さく息をつく。
イギリスでは珍しい異国風の民族衣装を身に纏った少年だ。先程から進んでは立ち止まり、その都度辺りを確認しながらまた進む、といった行動を繰り返している。
「‥‥まだまだ覚えられませんね」
俯きがちに呟く彼の名は、ラムセス・ミンス(ec4491)。
最近ケンブリッジに来たばかりの彼にとって、この街はまだまだ馴染みが薄い。それならばと、フリーウェル冒険者養成学校へ所属して色々見聞を拡げようと思ったまではよかったが、今度は学校そのものも広くてまだまだ知らない所の方が多過ぎるのだった。
おかげで、時々こうして迷子にもなったりするのだが、好奇心旺盛なラムセスにとっての問題はそんなところではなく。
「折角訪れたのに、このままだとなかなか見て回れないよね」
そう考えた彼は、ケンブリッジで学ぶ生徒達にとっての駆け込み所――もとい、よろず相談揉め事解決所である『クエストリガー』を、一路目指していた。
何度も道を間違えそうになりながらも‥‥。
そして、数日後のとある朝。
『クエストリガー』の掲示板に一枚の羊皮紙が張り出された。拙いイギリス語であったが、書いた本人の熱意が伝わるような文字で、そこにはこう記されていた。
『初めまして。
この前、ケンブリッジに来たラムセスです。
学校は広くて、まだまだ知らない所が沢山、
近くにどんな所があるかもまだよく知りません。
貴方は、どんな素敵な所を知っていますか?
ここで、どんな思い出を育みましたか?
もしよければ、僕と一緒に新たな風景を見に行ってもいいですね。
僕と一緒にお出かけしませんか?』
――ケンブリッジのとある通り道。
陽光を浴びながら、ラムセスは思いっきり伸びをする。
「色々見て回れたら、楽しいだろうな〜」
思いを馳せるように、彼はそっと呟いた。
●リプレイ本文
●待ち合わせ
フォレストオブローズ騎士訓練校前にある有名な戦乙女像の前。
約束の時間より早く訪れた茉莉花緋雨(eb3226)は、周囲にそれらしい人影がいないことを改めて確認した。
「少し早く来すぎたでしょうか」
思わず苦笑する。
いまだ騎士訓練校に在籍しているとはいえ、普段は冒険者として活動する彼女。当然、このケンブリッジに帰ってくるのも久しぶりということもあって、自分で思っている以上に今回の依頼を楽しみにしていたようだ。
「私も久しぶりに羽根を伸ばしたいものですね」
小さく呟く、と同時に聞こえてきたのは大きな足音。
見れば、こちらに向かってくる小さな――いや、遠目からでもじゅうぶん大きな影だ。そういえば、と緋雨は『クエストリガー』で顔合わせした時のことを思い出した。
「‥‥す、すいませんデス。準備に手間取ってしまって、遅くなってしまいました」
はぁはぁ、と息を荒げる今回の依頼人であるラムセス・ミンス(ec4491)。
自分も女性からすれば身長は高い方だが、目の前の彼は更に見上げる程に高い。ジャイアントらしく見た目もがっしりとした体つきをしていて気付きにくいが、聞けばまだ十一歳の子供だという。
確かに、今のラムセスの様子は、慌てる子供そのものだ。
「大丈夫ですよ。まだ全然時間より前ですから」
零れる苦笑に、ラムセスは思わず顔を赤らめる。
「あ、え、えっと‥‥そうなんですか。すいません、僕、今日のことすっごく楽しみにしていたものデスから」
「ふふ、それは私も同じよ。それじゃあ改めてご挨拶ね」
言って、そこで一旦言葉を切る緋雨。
改めて佇まいを正し、ゆっくりとお辞儀する。
「御機嫌よう新入生さん、私はフォレストオブローズ騎士訓練校の緋雨です。それでは、暫しの間宜しくお願いしますね」
彼女の挨拶に、ラムセスの方も慌てて身を正す。
「初めましてデス、ラムセスデス。今日は僕のお願いを聞いてくれてありがとうデス。どんな事を教えてもらえるのか、今からどきどきしてます。一緒に楽しみましょう〜」
にこにこと笑顔を返す少年――というには、大柄すぎる体格ではあるが――に、緋雨もにっこりと微笑みを向けた。
「それでは、色々と見て回りながら説明の方をしますね」
「はい!」
●学園都市
「ここケンブリッジは、学園都市と呼ばれています。その理由は、やはり数多くの学校や私塾が集まっているからなのです」
「そうなんですか」
二人が先ず向かったのは、緋雨も所属するフォレストオブローズだ。
「確か、ミンスさんはフリーウェルの生徒さんですよね?」
「はい。最初、どこに入ればいいのか分からなくて、ひとまずここなら安心だと聞いたのデス」
「そうですね。フリーウェルは冒険者の養成学校になりますから、門戸を叩くには一番安心かもしれないですね。まず、三大学園としてここフォレストオブローズ、フリーウェル、そして魔法学校のマジカルシードが大きな学園として有名です」
彼女の説明を、まだカタコトの言葉でしか聞けないラムセスは、何度も聞き返した。その度に恐縮する彼だったが、緋雨は特に気にしたふうもなく説明を続ける。
「私の知っている範囲ですけど、各学校には色々な学部があります。ここフォレストオブローズにあるのは、戦学部と儀礼学部‥‥だったかしら?」
「へぇー」
「ごめんなさい。私も久しぶりだからちょっとど忘れしてますね」
「あははっ」
苦笑する緋雨に、ラムセスも軽く笑い返す。
校舎を案内する女性の後を、少年とはいえ大柄な男が周囲をキョロキョロしながらついていく。その様子は、傍から見れば少し奇異な感じに映るのだが、彼は特に気にならなかった。彼女も別段気にすることなく、勝手知ったる教室を開けて案内を続けた。
「マジカルシードにも幾つか学部があって、フリーウェルの方も‥‥て、これはミンスさんの方が詳しいですね」
「うーん、なんか秘境学部っていうのは聞いた事ありますデス。でも、どんな事をしてるところなのかまださっぱりで‥‥」
「まあ、その辺は追々学園生活に慣れてくれば分かりますよ」
くすり、と意味深に笑う彼女に、ラムセスは思わずぶるっと身震いが走った。
――続いて、彼らが向かったのはマジカルシード魔法学校。
「‥‥それで、卒業試験に合格すると、各学部の学位が得られて晴れて卒業というわけです」
「卒業すると、どうなるのデスか?」
ラムセスの素朴な質問に、緋雨はうーんと首を傾げる。
「そうですね〜。特に何が変わるという訳ではないのですが‥‥資格を得る、ということで少し自身の力を証明出来る、といった形でしょうか。勿論、それだけではありませんけどね」
さすがに自分に当て嵌めて考える事の出来ない質問には、彼女も些か答えに窮した。
とはいえ、彼もそこまで真剣な問いをした訳でなく、すぐ次の質問を発した。
「それじゃあ、学校にはどんな先生がいるのデスか?」
キラキラとした瞳で見下ろす少年。
こういうところはまだ子供なのだ、と改めて感じる緋雨だった。
「では、有名な先生方を紹介しますね。まず私が所属するフォレストオブローズには、熊‥‥もといガストン先生がいらっしゃいます」
「‥‥熊?」
「ええ。見た目的な意味ですけど、さて誰が名付けたのかは私にもさっぱり‥‥」
「へー!」
「フリーウェルには、パープル先生と小次郎――またの名を女装――先生がいらっしゃいました。生憎とお二人とも現在は異国の地で教鞭を振るってらっしゃるとのことです」
口にして、懐かしさに思わず遠い目をする緋雨。
(「小次郎先生‥‥今でも貴方の女装姿は目に焼きついていますわ‥‥」)
誰かがクシャミをしそうなことを彼女は考えつつ、ラムセスに視線に気付いて慌てて話を戻す。
「マジカルシードには、アラン先生がいらっしゃいました。残念ながらこの方も、異国へと行かれてしまったようです」
「そうなんですかー、残念デス。そんな名物先生なら、是非ともお会いしてみたかったデスよ」
肩を落とす彼に、クスリと緋雨は笑みを浮かべる。
「肖像画でもよかったら、一緒に見に行きますか?」
「え?」
「アラン先生は教え子の方と結婚されたようなので、治療院に肖像が残ってる筈ですよ」
「え、そんな事があったデスか!」
教え子との結婚、という事実に、ラムセスは思わず興奮して声が上擦っていた。
「なら、見に行きます?」
「はい! 是非とも僕、行ってみたいデス!」
それじゃあ、と緋雨が案内する後を、ラムセスはとことことついて歩く。
その道中にも学園で起こった色々な事件の話を聞かされ、彼は「すごいデス!」と一つ一つに感嘆の声を上げ続けた。その様子を見て、緋雨はまるで小さな弟が出来たような感慨だった。
●学食一番乗り!
そうやってケンブリッジ内を色々と案内していき、気付けばもうお昼だ。
「お腹空きましたね。あ、あそこのお店に入ってみましょ〜」
「ちょっと待ってミンスさん」
目に付いた店に駆け出そうとしたラムセスを、緋雨は慌てて食い止める。怪訝な顔をする彼に、彼女は企みのある笑みを浮かべてすっと右手を差し出した。
そこにあるのは、二枚のチケット。
「せっかくだから学食にしましょう。その方が学園の事も色々と知るでしょう」
「え、でも‥‥今から行っても人が多いのでは?」
「ふふふ、そういう時のためのこのチケットよ!」
彼女が差し出したチケットには、『一番乗り』という文字が燦然と輝いていた。今まで使う機会がなかったが、折角の観光案内なのだから、と彼女は用意していたのだ。
「えっと、僕も一緒でいいのデスか?」
「大丈夫ですよ。その為に今日用意したのですから。さ、行きましょう」
「はい」
到着した食堂には、既に多くの生徒が並んでいる。
ラムセスの同級生の姿もチラホラ見えるが、そんな彼らの視線を受けながら、彼は緋雨の後をついて先頭へと向かった。
別に献立が無くなるといった事はないのだが、やはり最初に注文をするというのはどこか格別な感じだ。
「あ、お昼ごはんは僕がご馳走するデス」
「いいのよ、それぐらい」
「いえ。やっぱり今回は僕が案内を頼んだのデスから。それにチケットの件もありますから、これでおあいこデス」
「そう? それなら遠慮なくご馳走になりますね」
「はい!」
元気のいい返事が、食堂のホールの喧騒の中に響いた。
●とびっきりの場所
その後、学園を出て二人はケンブリッジの街中を散策していった。
道すがら話す内容に、ラムセスは何度も感嘆の声を上げる。妖精王国の危機を学生達と協力して救った話は、まだ幼い彼にとって一つの冒険譚に聞こえたのだろう。目をキラキラさせて聞き入る姿を見て、話す緋雨も当時を懐かしく思い返したりしていた。
「本当はもう少し遠出をして、その妖精の森に行ってみてもよかったのですけど。さすがに今回は時間が少々足りませんね」
残念そうな彼女に、大丈夫デス、とラムセスの言葉。
「今日の案内のお礼に、僕からもとびっきりの場所を紹介するデス」
「え?」
そう言って彼は先を歩き始める。今までと違って今度は緋雨が後をついていく。
そうして案内された場所は、ちょうど太陽が沈む景色の一番綺麗に見える小高い丘。
「今回、依頼する前に探しておいた場所なんデス。気に入っていただけるととても嬉しいデス」
笑顔を向けるラムセス。
それを受けて、緋雨も同じように微笑んだ。
「ええ、本当に素敵な場所です。まだまだ私自身も知らないところがこの街にありましたね」
感心するような呟きに、ラムセスは愛想を崩した笑顔を浮かべた。
「今日は本当にありがとうデス。とても素敵な時間でした」
「こちらこそ、改めて楽しい時間が過ごせて嬉しかったですよ。次回があれば、今度は妖精さんとのお茶会を楽しみましょうね」
「はい! 僕、楽しみにしてるデス!」
ゆっくりと沈む夕陽を背景に、こうしてケンブリッジ観光案内は静かに幕を閉じた。