【メルドン慰問】オクスフォードからの使者
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■ショートシナリオ
担当:葉月十一
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 97 C
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月02日〜10月12日
リプレイ公開日:2008年10月24日
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●オープニング
●悲報
その一報がオクスフォード領主である劉飛龍(通称:フェイ)の元へ届いたのは、現地の混乱が収まってから数日後のこと。
「――それは本当か?!」
「はい。大津波による災害は、かなり酷いものでした。まるでかつての‥‥」
言いかけて、伝令の騎士は思わず言葉を濁し、僅かに顔を伏せる。
その態度に彼が何を言いたいのか、フェイはすぐに理解する。
自分が領主の座についた時、ここオクスフォードも混乱の極みにあった。天災と人災という原因の違いはあれど、街が荒れ果てれば真っ先に困窮するのはそこに住む人々だ。
「それなら俺が――」
そう言いかけ、彼はすぐに思い直す。
仮にも他領の町に、領主である自分がおいそれと訪問するわけにはいかない。聞けば、国からの慰問団の派遣もあるという。それならば自身が表立って動くには、それなりの手続きが必要だ。
この時ばかりは、領主という自分の立場が歯痒いフェイ。
しかし、逸る気持ちを抑えるには、まだ若い彼には無理だ。今、お目付け役とも言えるレオニード騎士団長は傍にいない。
「わかった。なんとかこちらから支援出来るよう準備をしておく」
そう言って、フェイは一旦騎士を下がらせた。
それから数日後。
とある団体がオクスフォードの街を出発した。
彼らは一人の修道女の呼びかけによって集まった者達だ。メルドンの災害を聞いて他人事は思えなかったのだろう、少しでも励ませればと考え、彼女の呼びかけに応じた有志達だ。
そのため、道中の危険を回避するためにギルドへ護衛を依頼するため、一旦キャメロットを目指していた。
「本当に‥‥このことがレオニード様にばれたらどんなに」
「心配するな。あんたに迷惑がかかるようにはしないさ」
「いえ、そうではなく‥‥」
少年の科白に困惑を隠せない彼女。
彼女の心配は、目の前の少年が無茶をしないかということ。領主としての自覚が出てきたとはいえ、まだまだ自らが動こうとする性格は変わっていない。
「ああ、それと俺のことは、他の皆には内緒にしといてくれ。遠慮されるのもどうかと思うからな」
「‥‥わかっています」
やはりギルドには少年の護衛も内密に頼むべきだ、と内心で決心する彼女。その時は、くれぐれも彼の正体がばれないようにしなければ。
そこまで考えて、件の騎士団長はいつもこのようなことに頭を痛めていたのかと思うと、知らず知らず溜息を零していた。
そして――――。
●メルドンへの誘い
冒険者ギルドを訪れた者は掲示板を前に足を止めた。
――メルドンへ慰問団を派遣する依頼。
小さな港町メルドンの大津波による災害は、誰もが知る大事件である。
――自分もメルドンの民を励ます力になりたい!
慰問団は10人前後。護衛を兼ねた冒険者はキャメロットに戻る必要がある。
訪問期間を調整すれば、慰問の人手は多いに越した事はないだろう。
そう思った者達は、すぐさま受付へと向かった。
●リプレイ本文
●出発
慰問団との最初の顔合わせの場で、アデリーナ・ホワイト(ea5635)はすぐによく見知った顔を見つけた。向こうもそうと気付いたらしく、ばつの悪そうな笑みを浮かべいる。
対するアデリーナもまた笑みを浮かべていたが、きっと見る者が見れば背筋を冷やす凄みが見え隠れしていた。上品そうな雰囲気を持つ彼女だから、なおのこと。
(「‥‥レオニード様のご苦労が偲ばれますわね」)
本当は、すぐにでも問い質して説教をしてしまいたい。
だが、事前に依頼主の彼女からの説明もあり、ここは一人の一般人として接する事は重々承知の上。溜息を内心に隠し、アデリーナは改めて笑顔で挨拶をする。
「初めまして皆様。このたびメルドン慰問の護衛を務めさせていただきますアデリーナと申します」
「俺は来生十四郎(ea5386)だ。護衛もそうだが、少しでも足しになりゃあと思って色々持ってきたんだ。よかったらこれもメルドンの人達に配ってくれねえか」
そう言って十四郎が指差した先には、小麦粉他の食料や冬の衣料品などが積み込まれた馬だ。
「まあ、本当にありがとうございます」
テレサと名乗った修道女が深々と頭を下げる。
あくまでも自主的に集まった慰問団の為、用意できる物資には限りがある。ましてオクスフォードもまだ復興して日が浅い。十四郎の支援はまさに渡りに舟だった。
そして、三人目のアックス・ウィッシュホード(ec5657)も挨拶をする。
「よろしく」
簡潔な言葉で締めた彼に、アデリーナや十四郎も少し眉根を寄せる。
が、挨拶されたテレサ本人は感謝の意を深く示していた。依頼料も僅かな今回の申し出に集まってきてくれただけで、彼女にとっては嬉しいことなのだから。
「面倒くせぇが、さすがに災害とあっちゃ動かねぇとな」
そんなことを言ってこの依頼を受けた彼。
だが、彼を知る者の話では面倒ごとを引き付ける体質のようで、おそらく今回の件でもしっかり働いてくれる事になる‥‥ことを、今のアックスは知る由もない。
「よし。そろそろ時間も時間だから、出発するぜ」
思わず先導しかけた劉飛龍(ez1124)――フェイに、テレサが慌てて駆け寄る。
「そ、そうですね。それでは皆様、出発しましょうか」
「ああ、そうだな!」
「ええ。日が高いうちになるべく移動しましょう」
十四郎が声を上げ、アデリーナがそれに続く。キッと睨むような視線をフェイに向けると、肩を竦ませた彼がそのまま集団の中に入っていった。
慌てるテレサと集団に溶け込んだフェイの後ろ姿を見ながら、アデリーナは小さく溜息をついた。
「本当にご心労をお掛けして‥‥」
「まあ、俺らが気をつければいいことだ」
「そうでしょうけど‥‥」
呑気に応える十四郎の言葉に、アデリーナはもう一度深く溜息を吐いた。
●メルドン
メルドンへの移動は途中で何度か野盗やモンスターと遭遇したものの、冒険者達の尽力で無事に辿り着くことが出来た。
特に、アックスが日頃の鬱憤を晴らすかのように暴れ回り、彼を補うような十四郎の警戒振りのおかげで、襲ってくる連中もそれほど数が多くなかったからかもしれない。
「復興の方は順調に進んでいるようですね」
町を様子をうかがっていたアデリーナが、ほっと安堵の呟きを零す。行き交う人々の顔も、暗いながらもなんとか踏みとどまって生きようとする強さを感じさせる。
かつてのオクスフォードを思い出し、彼女はフェイの方を見た。
僅かに目を細め、じっと食い入るように町を見ている。その周囲には慰問団の面々も、同じような表情をしている。
彼らもまた、かつての惨事を乗り越えてきたのだ。
暫く沈黙する一行。
だが、すぐにテレサが声をかける。
「さあ皆様、私達に出来る事を始めましょう」
かつて自分達が受けた恩を少しでも他の人達に。
「おう!」
そんな思いを心に秘めて、彼らはそれぞれ自分達が出来る援助の為に足を伸ばした。
「こいつは酷いな‥‥」
一面に広がるのは、自然の容赦ない爪痕。その光景に十四郎が思わず呟いた。
住む場所を奪われ、命すら危うい状況で、だがそれでもこの土地の人々は懸命に生きようとしている。その事に彼はひとまず安堵する。生きる気力さえあれば、後はほんの僅か手伝いをするだけだ。
「まずは力仕事だな。アックス、そっちの瓦礫をどかしてくれ」
腕捲りをしながら十四郎が指示する。
が、いっこうに返事が来ない。
怪訝に思って振り向いた先に、子供達に纏わり付かれたアックスの姿があった。
「ねぇねぇ、お兄ちゃんどっから来たの?」
「ねえ、遊ぼう!」
「お、おいお前ら、しがみつくんだじゃねえ! 俺は仕事をだな」
強く怒鳴る彼だが、子供らはいっこうに離れようとしない。何故か子供達は、彼の周りをうろちょろしている。
アックス本人としては本気で怒鳴っているつもりのようだが、子供相手にはまるで通じていなかった。
「‥‥ああ、まあいいや。それじゃあ、そのまま子供らの相手をしててくれ。こっちはこっちでやるから」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ! 俺も手伝って」
「わーい、一緒に遊ぼう!」
強引に引っ張る手を無碍に振り払うわけにもいかず、彼はそのままずるずると子供達のお守り――むしろオモチャにされている?――をする羽目になった。
その姿に苦笑を洩らす十四郎。
その時、慰問団の一人が彼を呼んだ。
「ちょっとあんた、こっち手伝ってくれないか」
「ああ、わかった」
まずは目の前のことからだ、そう意気込んで十四郎は瓦礫の山に手をかけた。
「――‥‥そして、お姫様は幸せになりました」
輪になった子供達の中心で、アデリーナはゆっくりと物語を聞かせていた。
持参した書物はイギリスとジャパンのものだが、さすがに町の住人達――特に子供達に字が読めるわけもなく。アデリーナ自身、力仕事が手伝えるほどの腕力もなかった為、彼女が語って聞かせる形になったのだ。
「どうでしたか? 次は何を読みましょうか?」
そう尋ねた彼女の目に少し俯く少女が映る。
「どうしました?」
「‥‥うん‥‥」
問いかけても、少女は口篭って目を伏せるばかり。
何度か根気よく聞き続け、ようやく開いた少女の口から零れた科白は。
「‥‥私達、どうなっちゃうんだろう‥‥」
呟いたのは、不安。
すると連鎖するように周りの子供達の顔色も暗くなる。中には泣きそうになる子もいた。
そんな彼らの心が少しでも安らげるよう、アデリーナは静かに、それでいて強く言葉を続けた。
「大丈夫、大丈夫ですよ」
そう言って彼女は、一緒に来た慰問団の面々を指差した。
「彼らも一度は、皆様と同じように大変な被害を被りました。その時の町の様子は、今のメルドンと同じでした」
そして言葉を区切り、視線をフェイへと移す。あれほど目立たぬようにと言っていたにも拘らず、強いリーダーシップで慰問団の人々を指揮していた。
「ほら、あの方も色々と大変な目に遭ったのですが、今はもう立ち直ってこうして皆様の手助けに来てくれているのですよ。皆様が希望を失わない限り、何度だって立ち上がれるのです」
彼女の言葉が子供達の胸に届いたのか、その目の輝きが徐々に戻っていく。
周りに聞いていた町の人達の表情にも、少しだが明るさが見えてきたような気がした。
「‥‥どれだけの絶望に襲われても、人は立ち直れるものだとわたくしは信じていますわ」
そうして、彼女はゆっくりと微笑を浮かべた。
●希望
それから瞬く間に時間は流れ、滞在の日程も間もなく終わろうとしていた。
「皆様、このたびは本当にありがとうございました」
冒険者達に向かって、テレサが深々とお礼を述べる。
「あ、ああ。まあ大した事出来なかったけどな」
「そうだな。数日しか手伝えなかった事は、少々心残りだが‥‥」
力仕事を手伝ったアックスと十四郎だが、まだまだ片付けるべき場所は残っていた。それを置いて引き上げるというのもどうかと彼らは考えたのだが。
そんな二人の考えを、フェイが静かに否定する。
「後はこの町に住む人達が頑張ればいい。過剰な手助けは、どっちも駄目にするんだ」
「‥‥そう、ですわね」
かつてのオクスフォードを知ってるが故、アデリーナもその意見には同意する。
とはいえ、やはりこのまま離れるのは名残惜しい。暫く町の方を眺めていた彼らだったが、意を決して町を後にする。
――刹那、一陣の風が吹いた。これからの未来を暗示するかのように。