【ケンブリッジ奪還】子供達は未来の希望

■ショートシナリオ


担当:葉月十一

対応レベル:1〜4lv

難易度:難しい

成功報酬:1 G 20 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月20日〜09月25日

リプレイ公開日:2004年09月27日

●オープニング

「なに? モンスターがケンブリッジに!?」
 円卓を囲むアーサー王は、騎士からの報告に瞳を研ぎ澄ませた。突然の事態に言葉を呑み込んだままの王に、円卓の騎士は、それぞれに口を開く。
「ケンブリッジといえば、学問を広げている町ですな」
「しかし、魔法も騎士道も学んでいる筈だ。何ゆえモンスターの侵入を許したのか?」
「まだ実戦を経験していない者達だ。怖気づいたのだろう」
「しかも、多くの若者がモンスターの襲来に統率が取れるとは思えんな」
「何という事だ! 今月の下旬には学園祭が開催される予定だというのにッ!!」
「ではモンスター討伐に行きますかな? アーサー王」
「それはどうかのぅ?」
 円卓の騎士が一斉に腰を上げようとした時。室内に飛び込んで来たのは、老人のような口調であるが、鈴を転がしたような少女の声だ。聞き覚えのある声に、アーサーと円卓の騎士は視線を流す。視界に映ったのは、白の装束を身に纏った、金髪の少女であった。細い華奢な手には、杖が携われている。どこか神秘的な雰囲気を若さの中に漂わしていた。
「何か考えがあるのか?」
「騎士団が動くのは好ましくないじゃろう? キャメロットの民に不安を抱かせるし‥‥もし、これが陽動だったとしたらどうじゃ?」
「では、どうしろと?」
 彼女はアーサーの父、ウーゼル・ペンドラゴン時代から相談役として度々助言と共に導いて来たのである。若き王も例外ではない。彼は少女に縋るような視線を向けた。
「冒険者に依頼を出すのじゃ。ギルドに一斉に依頼を出し、彼等に任せるのじゃよ♪ さすれば、騎士団は不意の事態に対処できよう」
 こうして冒険者ギルドに依頼が公開された――――

「子供達の救出?!」
  いつものようにギルドへやってきた冒険者達は、普段とは違うギルド内の慌ただしさに言い知れぬ予感があった。それは、受付に座る親父に差し出された一枚の依頼書で明らかになった。
 そこに書き込まれている内容を読み進むにつれ、ギルド内が騒然としている理由が理解出来た。さらに付け加えるならば、複数の大人達による連名の署名が記されたもう一枚の依頼書だ。
 否が応でも緊張が高まる冒険者達に、男は厳かに内容を説明しだした。
「そこに書かれてある通りだ。ケンブリッジってのは知ってるな。どうやらそこがモンスター達に襲われたらしい。連中の目的がなんなのかわからねえが‥‥今分かってるのは、そこにいる子供達が危険に晒されてるって事だけだ」
 グッと拳を強く握る。冷静を保とうとしてるものの、どこか焦りが隠せないのは明白だ。
「以前、夜遊びする子供らがいただろ? あの子らも今、このケンブリッジにある魔法学校の一つにこの九月から入学してるんだ。そこの親達からも救出の依頼が来てる」
 言われて、冒険者の中に「ああ」と思い当たる者もいたようだ。
「そこで、だ。お前さん方には子供らの救出を頼みたい。モンスター討伐に関しては、他の連中もかり出されてる筈だ。だからなにはなくとも、子供達を助け出してくれ!」
 男の手から渡されたのは、依頼書と子供達が入学した魔法学校の見取り図だった。ケンブリッジに数多くある学校の中の一つで、規模としてはそれほど大きくはないようだ。
「普段なら四日かかるところだが、今は馬車が貸し出されているから二日で行けるそうだ。頼む、出来るだけ早く行ってくれ」
 祈るように頭を下げる親父。
 黙ってその依頼書を受け取ると、冒険者達は急ぎ、ギルドを飛び出していった。

●今回の参加者

 ea0266 リューグ・ランサー(31歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea0780 アーウィン・ラグレス(30歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea0800 レオン・スボウラス(16歳・♂・レンジャー・シフール・ビザンチン帝国)
 ea1390 リース・マナトゥース(28歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea2165 ジョセフ・ギールケ(31歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea2207 レイヴァント・シロウ(23歳・♂・ナイト・エルフ・イギリス王国)
 ea3441 リト・フェリーユ(20歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea3542 サリュ・エーシア(23歳・♀・クレリック・人間・神聖ローマ帝国)
 ea3947 双海 一刃(30歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea6609 獅臥 柳明(47歳・♂・志士・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●聳え立つ大樹
 周辺の荒れた街並みと違い、辿り着いた学校はさほど壊れた箇所は見当たらなかった。とりわけ中央に聳え立つ大樹は、モンスターの強襲の中であっても悠然とそこに佇んでいた。
 馬車のまま乗り付けた冒険者達は、必要最低限の装備で飛び出す。
 彼らはまず、大樹の下へと集まった。幸いにも、大樹の周囲にモンスターはいない。おそらく子供達を追って校舎へと踏み込んだのだろう。
「取り残された子供達の救出‥‥か。とにかく急がないとならんな」
 信じて待っている子供達の為にも。
 そう呟いたリューグ・ランサー(ea0266)に、隣で聞いていたジョセフ・ギールケ(ea2165)が小さく頷いた。
 彼自身、リューグの言葉が分かった訳ではない。ただ、仲間達の纏う雰囲気からなんとなく感じ取っただけだ。
「子供が困っているとあらば、助けぬわけにもいくまい。まずはこの辺りでいいですか、双海さん」
 左側の建物に向かうジョセフにゲルマン語で語りかけられるも、あらゆる現代語を把握する双海一刃(ea3947)は辛うじて答えた。
「ああ、頼む」
 言い終えると同時に、ジョセフの身体が淡い緑色の光を帯びていく。閉じた目蓋は精神を集中するためか。
 その姿を横目に見ながら、リト・フェリーユ(ea3441)もまた精神を集中させていく。同じように淡い光が身体を包み込み、ゆっくりと意識を傾ける。その場所はジョセフとは反対側の右側の建物。
 ブレスセンサーと呼ばれる魔法は、生物の息吹を感知する。今回の敵が死せる者達――ズゥンビやスカルウォーリアーである以上、子供達を探すのにこれほど適したものはない。
 一つ、二つ‥‥二人は正確に子供達の居場所を察知していく。
「どう?」
 顔を覗き込むように聞いてきたレオン・スボウラス(ea0800)に、リトは小さな呟きを返した。
「右側の建物には‥‥二階の端の部屋に五つ。どの子供達も身を寄せ合って固まっているようですわ」
「モンスターは?」
「さすがにそこまでは‥‥」
 弱々しく首を振る彼女。
「仕方ないですね。とにかく急ぎましょう!」
 レオンは意気揚々と飛び上がり、一気に先行する。その後を二人の冒険者が急ぎ追い掛けた。
 次いで、ジョセフもまた指を校舎に向けて差し、一刃に告げる。
「こっちは、ちょっと厄介だな」
「どういうことだ?」
「三階に三人、これはぴったり固まって身動きしないからいいんだが、二階にいる二人はあちこち動き回ってるんだ。ひょっとしたらモンスターに追われ‥‥」
 彼の言葉を待たずに一刃は駆けた。
「救助は一刻を争う。速攻で行く」
 最初に馬車の中で誓った言葉通り、彼は素早く建物の中へと突入した。

●怯える子供
 ゆっくりと天井近くを飛びながら、レオンは周囲を逐一警戒する。その際も、後を付いてくる二人の仲間には常に気を配っていた。
「‥‥と、さすがに壁をぶち破るのはマズイか」
 脱出路を確保しようとしたアーウィン・ラグレス(ea0780)の言葉に、隣に控えるレイヴァント・シロウ(ea2207)が当たり前だ、と呆れたように呟く。些か憮然としているのは、行動開始前に掛け声を掛けるのを忘れていたからだ。
 さすがに戦場のど真ん中で声を張り上げるつもりはないが。
「むう‥‥どこか気合いが入らんな」
 ゆっくりと階段を二階へ移動しつつ、二人は物音や足音などに聞き耳を立てる。研ぎ澄ませた感覚を信じ、一歩一歩前へと進む。
 その時、先行していたレオンがいきなり戻ってきた。
「――子供達、見つけたよ」
「なに?」
「どこだ?」
 レオンが指差したのはひとつの教室。
 が、問題はそこから少し離れた場所にズゥンビが徘徊している事だった。このままならば、向こうが子供達に気付くのも時間の問題だ。
「あいつらは俺らが引き受ける」
「レオン君はまず子供達の誘導を」
 アーウィンとレイヴァントの二人は、言うと同時に素早くズゥンビ達の前に姿を見せた。
「行くぞ」
「おう!」
 こちらに気付いたズゥンビが顔を上げるより先に、レイヴァントのオーラショットが足を撃つ。不意を突かれた相手は、いとも容易くバランスを崩した。
「ちと荒っぽいやり方だが、仕方ねェな。‥‥でぃぃぃぃやっ!!」
 倒れたズゥンビの身体を、アーウィンは右手に構えた大斧で問答無用に叩き斬った。ドシュッ、と肉の潰れる音がして、思わず腐臭が辺りを漂う。
 思わず顔を顰める二人。
「‥‥やりすぎだ。自分らは、連中の目を引き付けておけばいいのである」
「わ、悪ぃな」
 教室の方にまだ子供達がいたことが不幸中の幸いか。
「みんな、助けにきたよ!」
 小さなシフールが声を掛ければ、教室の隅で小さくなっていた子供達がおそるおそる姿を現した。怯えきって強張った顔が、レオンを見たことによって気が緩んだのか次々と泣きじゃくり始めた。
「ふ、ふぇ〜〜ん!」
「怖かったよぉー」
 外見的には殆ど同年代の子供達を相手に、レオンはよしよしと頭を撫でてやった。
「もう大丈夫ですよ。僕はレオンと言います。あなた達のお名前は?」
 にっこりと微笑むことで、多少は落ち着きを取り戻したようだ。次々と名乗ってくる子供達に、彼は静かに言い聞かせた。
「さあ、はやくここから脱出しますよ。僕の後に付いてきてくださいね」

●逃げ惑う子供
 視界に飛び込んできたのは、懸命にもモンスターに立ち向かおうとしている少年。その背に庇っているのは、おそらく年少の子供だろう。
 自分より幼い子を懸命に護ろうとする姿に、リューグは内心感銘を受けた。
(「大した少年じゃないか。ならば、これを機にその戦いを教えてやらなきゃならんな」)
 スカルウォーリアーの振り上げた剣が、青ざめた少年に振り下ろされる。
 それを寸前のトコロで受け止めたのは、飛び出したリューグのロングソードだった。カキン、と金属音が周囲に響く。
「‥‥よく頑張ったな、少年。だが、もう安心しろ。おまえ達は俺が守る。それが俺の仕事だからな!」
 剣を勢いよく押し上げれば、相手の剣も一緒に持ち上がる。バランスを崩したスカルウォーリアーに対して、横から薙ぎ払うようにスピアの切っ先を繰り出した。
「ここは俺に任せて、おまえ達は中庭へ急げ」
「う、うん」
 ほらしっかり、と互いに支え合う声を背中で聞きながら、改めて意識を目の前の敵に向けるリューグ。
「残念だが、ここから先には行かせんぞ」
 如何なる場合だろうと、強い敵と戦う事に楽しみを見出す性分は押さえ切れそうにない。
 ニヤリと笑みを浮かべたまま、彼はそのまま相手との対峙を続けた。

「私達冒険者なの、助けに来たわ」
 事前に聞いておいた名前を繰り返し、サリュ・エーシア(ea3542)は宿舎の中を進んでいく。
 すると、声に気付いた子供達がおそるおそる姿を見せた。現れた影は三人。
「この階では、これで全部だな」
 一刃が念のため、と子供達に確認すると、怯えた眼差しでコクリと頷いた。
「双海さん、そんな怖い顔しないのよ」
「え、と‥‥すまない」
 苦笑するサリュに、ハタと気付いて一刃は困惑する。戦闘の気配に殺気立つあまり、少し余裕がなさすぎたか、と僅かな反省。
「と、とにかく長居は無用だな」
「ええ。とりあずホーリーライトでアンデット達を遠ざけてみるわ。うまく効いてくれるといいんだけど‥‥」
 モンスター達の目的が不明である以上、必ずしも効果があるとは思えない。
 だが、やれるべき事はこの際何でもやっておくべきだ。子供達の安全の為にも。
 ふわり、と。
 手を差し出した空間に光の球が浮かび上がる。淡い光を放つそれをゆっくりと前に掲げ、二人は子供達を囲い込む。
「行くぞ。後ろや周りを見るな、走れ!」
 一刃の声に、彼らは速やかに宿舎からの脱出を始めた。

●未来のために
「‥‥あ」
 目の前のズゥンビの姿に、リース・マナトゥース(ea1390)の身体は無意識に震え始めた。背中には庇うべき子供達。
 だけど、過去の記憶が交錯し、手を動かす事が出来ない。
 他の冒険者達もまた、集まってくるモンスター相手に戦闘を繰り広げている。
「何をしているのです!」
 途端、響いたのは獅臥柳明(ea6609)の声。
 次の瞬間、ライトニングアーマーを纏ったその身で、ズゥンビの首を一刀の下に薙ぎ払った。素早く布をその遺骸に覆い被せた事で子供らの目に触れる事はなかった。
 ふう、と息をつく柳明が振り返れば、蒼白した顔のリースがある。年の功ゆえか、彼女に何があるのかをなんとなく察したようだ。
「何があるのかは知りませんが、ここは戦場ですよ」
「‥‥はい、分かってます」
(「怖がってなんかいられない‥‥今は、子供達を守らなきゃ‥‥」)
 必死で震えを押さえ込もうとするリース。
 その姿にそれ以上何も聞かず、再び二人は周囲の警戒に当たった。

 そうして。
 一刃とサリュが連れ帰った子供達を最後に、残った子供達全員の救出は成功したのだった。

「後は連中を一掃するだけだな」
 何人かの冒険者は、未だ徘徊しているだろうモンスターを殲滅に再び建物の中へと入っていく。それを見送りながら、レオンはぽつりと呟きを零した。
「いったい何が始まったんでしょう‥‥」
「さあ。私の知るところではありませんね」
 柳明が応えるように後を続ける。
 その全ては、未だ闇の中である――。

 大樹の下では、リトが怪我をした子供達相手に応急処置を施していた。
 泣きじゃくる者。
 必死で涙を堪える者。
 自分達だって何か手伝えると言い出す者。
 三者三様の子供達の態度に対して、彼女は静かに言い聞かせた。
「うん、怖かったね。でももう大丈夫。何時か、あなた達もこんな風に力を使うときが来るかもしれないけど、今は無事に外へ出られた事が一番の勇気だからね」


 彼ら冒険者の活躍を、助け出された子供達は一生忘れないだろう。
 いつか彼らのように、何者にも立ち向かう勇気を持てるようになるために。