ホラーなお仕事
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■ショートシナリオ
担当:葉月十一
対応レベル:1〜4lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 20 C
参加人数:10人
サポート参加人数:-人
冒険期間:09月24日〜09月29日
リプレイ公開日:2004年10月05日
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●オープニング
お化け屋敷。
古びた廃屋をそう呼ぶ事は珍しくない。あちこちの壁は剥がれ、窓は吹きっさらしの状態。中にある調度品はどれもがボロボロで、床なんかは今にも腐りかけている。
一種、その館が纏う雰囲気が、人の第六感を刺激するのだ。
恐怖――目に見えぬ物に対して、それを補おうとするイマジネーションがある意味居もしない存在を造り上げるのだ。
すなわち、幽霊だと。
此処キャメロットでも、その手の廃屋は何件かあった。
北に広がる森の麓に立てられた石造りの屋敷。元々は貴族が避暑に訪れる場所として建てられたらしいが、今ではその貴族も没落してしまい、手放されて久しい。
そうして長年放置された結果、いつの間にかお化け屋敷と呼ばれるようになったのだ。
「――で? そのお化け屋敷がどうしたんだ?」
受付の親父から渡された依頼書を片手に尋ねると、
「最近になってさるお方がその屋敷を購入したらしんだがな。なんでも魔法を研究する場所にしたいんだとか」
「へえ、豪勢だな」
廃屋になったとはいえ、由来が由来だからそれなりに値が張っただろう。それをたかが魔法の研究の為だけに購入するとは。
半ば呆れ、感心する冒険者達に、男もやれやれと肩を竦めてみせる。
「それでだな、廃屋の中の駆除を依頼してきたんだ」
「駆除?」
「ああ。本当なら自分でやりたいらしいが、少し手が離せないらしくてな。屋敷の中に変な虫や動物が紛れてないか、調べて欲しいんだとさ」
ま、せいぜいいるとすれば鼠が蜘蛛程度だろう。
「まあ、気軽に受けてみればいいさ。力試し程度にな」
●リプレイ本文
●仄暗い屋敷の前で
その屋敷は、鬱蒼と茂る森を背景に、静かに佇んでいた。
昼間だというのにどこか薄暗く、目が慣れるまでに多少の時間がかかる。時折吹く風は、何故か生温い。
今にも何かが出てきそうな演出は、古びた屋敷と相まってなかなかに雰囲気を作っていた。
「なかなか迫力満点、ですね‥‥」
少し硬くなった声でアリッサ・クーパー(ea5810)が呟く。お化け屋敷と呼ばれる廃屋が少しでも払拭できるように、と今回の依頼に参加した者だ。
その隣では、栗花落永萌(ea4200)が無言で屋敷を眺めていた。口には出さないものの、内心お化け屋敷みたいだな、と思いながら。
もっともそれは、集まった冒険者全員が感じていた事だったが。
「それにしても‥‥研究に使う為とはいえ、わざわざ屋敷一つ買い取るなんて、豪勢な方がいたものですね」
半ば感心したようなアルメリア・バルディア(ea1757)の言葉に、朱華玉(ea4756)も悪戯めいた笑みを浮かべながら呟いた。
「あらあら。蜘蛛と鼠の駆除だけするには、勿体ないお屋敷ね」
「世の中にはお金余ってる人もいるんですねえ」
シャーリー・ウィンディバンク(ea6972)の声にどこか羨望の色が混じっていたのは、気のせいではないだろう。他の冒険者にしたって同じ気持ちなのだから。
「そもそもこの屋敷を含めて周辺一帯は、かつて貴族の所有地であったらしいですね。もっとも今は既に没落しているそうですが」
事前に調べていた事をディアッカ・ディアボロス(ea5597)が説明する。せめて屋敷の見取り図があれば、と考えていたのだが、没落している事もあってその辺の書類は紛失したようだ。
建築関係の方面から調べていたエリンティア・フューゲル(ea3868)の方も、既に建てた人達が亡くなっている事もあって見取り図は手に入らなかった。その変わりに、と屋敷の外見から大体の間取りを想像してはいるのだが‥‥。
「うーん‥‥難しいですね」
やはり知識に乏しいせいか、なかなか上手には描けないようだ。
「と、とにかくみんなで一緒に中に入りましょう。中の様子が分からない以上、一つ一つ片付けていくしかないですよ」
何故か涙目で訴える天草乱馬(ea6082)の一言で、彼らは一斉に屋敷の中へと入っていった。
●ラット・ハザード
――駆除を始めて二日目。
なるべく日の高いうちに、と冒険者達は昨日と同じように屋敷へ入る。
「ふう、さすがに野営はキツイな」
後衛でライトを唱えながら、サイ・ロート(ea6413)の口からついぼやきが零れた。その言葉を聞き咎めたのは、同じく後衛に位置していたリーベ・フェァリーレン(ea3524)だ。
「油断は禁物だよ」
「女子はテントだからいいだろ。こっちは固い地面の上でホント寝不足‥‥」
ふわぁ、と思いきり欠伸をしかけたトコロへ、
「そっちに行きました!」
前衛にいた乱馬の咄嗟の声。
ハッと気付いた時には目の前に迫るジャイアントラット。ゲッと思って身構えようとしたサイより早く、それは一瞬にして氷の中に閉じ込められた。リーベが唱えたアイスコフィンだ。
「ほら、油断は禁物だったでしょ?」
ニッコリ笑う彼女に、
「‥‥悪ぃな」
そう感謝するサイだった。
パタン、と窓を開いた途端に舞い上がる埃に、思わず口元を手で覆う。布をしているとはいえ、さすがに長年積もった量は半端ではなかった。
なんとか風通しを良くしようと、アルメリアは目に付く扉は片っ端から開け放していた。
「ふう。これで少しは空気もよくなりますね」
そう告げた彼女の目の前で、華玉の放ったダーツが最後の一匹にトドメを刺した。
「この部屋はこれで全部かしら?」
「ええ。もうここには何もいないようです」
ブレスセンサーを使っていたエリンティアがそう答える。本人は真剣な口調のつもりだが、他の者からすれば間延びした緊張感の欠片もない口調は、なんとなく肩の力を抜けさせる。
にこにことした糸目に見つめられ、二人は苦笑混じりで互いに顔を見合わせた。
「うわっ!」
踏み込んだ足下から飛び掛かってきたジャイアントラットを、永萌は手にしたダガーで一閃する。
が、次から次へと現れる群れに思わず二の足を踏んでいると、横に控えていたディアッカがシャドウバインディングと一気に唱えた。みるみるうちに影が捉えられ、鼠の群れは動きを止めた。
いったいどこにこれだけ潜んでいたのか。
床一面を埋め尽くさんばかりの数は、さすがに冒険者の背筋を震えさせる。
「さあ、後はお任せします」
「まかせて」
後衛にいたシャーリーが勢いよくアイスチャクラを投げ放つ。対象が小さいとはいえ、さすがに動きの止まった相手を外すわけがなく、次々と蹴散らしていく。
思わず調子に乗った彼女の、一瞬だけ手元の狂ったチャクラがあらぬ方向に飛び‥‥前衛で日本刀を振るっていた永萌の後頭部に直撃した。
「あっ」
「――ぃた!」
「‥‥ええ、と‥‥」
思わず明後日の方向に目をやるシャーリー。
「大丈夫、ですか?」
踞る彼にアリッサは同情の眼差しを向けた。すぐさまリカバーの光を当てて傷を癒していく。
そんなすったもんだがあったのだが、なんとかその部屋の鼠の駆除を終えたのだった。
●閑話休題
依頼も終盤を迎え、屋敷内は殆ど駆除を終えたその夜。
それまで自宅へ帰っていた冒険者も、今夜だけはと野営をする事になった。
折角掃除もして綺麗になった一室に泊まりたい、というサイの意見もあったが、さすがに依頼主に断りもなく寝泊まりするのはマズイだろうという周りの意見で、彼も断念することにした。
「やはり、こういう時は怪談話で盛り上げるのが王道ですよね」
にっこりと笑みを浮かべるシャーリー。
途端、ひゅぅっと生温かい風が冒険者達に吹く。
「まあ、なんだか雰囲気満点ね」
どこかオーバーリアクションの華玉に気をよくしたシャーリーは、聞き覚えのある全身をカラフルな布でピッタリと覆った危険な生き物の話を始めた。建物に張り付いて飛び回るその様子を、まるで見てきたように説明した後、
「ヒーローだったりするらしいんですけど、どう見ても‥‥」
ここイギリスで跋扈する変態と大して変わりないと思うのですよ。
そう彼女は締め括った。
「‥‥なんだか怖いというかなんというか‥‥あれ? エリンティアさん?」
どう反応すればいいのか分からないリーベは、ふと横にいたエリンティアを見て首を傾げる。ピクリともしない彼に、思わず心配になった彼女はそっと揺すろうとして――パタリと倒れる。
「え、ええ! ちょっとエリンティアさん!?」
「どうしたんですか?」
倒れてもなお目覚めない彼に慌てる周囲。
一体彼に何が?!
誰もがパニックになりかけた、その時。
「‥‥うーん、お化け屋敷に幽霊さんがいますぅ‥‥ムニャムニャ‥‥」
「は?」
尚も揺すろうとした乱馬の耳に届いたのは。
小さな寝息と、そして‥‥。
「寝惚けるんじゃねえ!」
思わず突っ込んでしまったサイの姿があった。
●片付けを終えて
「蜘蛛は益虫らしいけど‥‥アンタは例外ね!」
穴から飛び出した蜘蛛の身体を、華玉が思いきり足払いをかける。
ギリギリで牙を避けるその攻撃に、蜘蛛は穴に戻る事なくひっくり返る。そこへトドメとばかりに永萌が放ったアイスチャクラが突っ込んだ。
「これで‥‥ここは最後ですね」
すっかり片付いた部屋の中を、サイはゆっくりと見回すように歩く。
ふと、落ちている書簡に目が入った。表面に書かれたインクは既に掠れ、紙の方もすでにボロボロだ。
彼が手に取った途端、バラバラと音を立てて崩れていった。
「さすがに古すぎる、か‥‥」
「こっちも、ですね。そうそう大したモノは見つかりそうもありませんね」
苦笑気味に呟くディアッカ。
掃除がきちんと完了しているかどうかの確認も兼ねて、二人で部屋を回っていたのだが、あまり面白そうな物は見当たらなかった。
この屋敷を買ったという依頼人自身、何か目的があってここを買い取ったと思ったのだが、どうやら違っていたようだ。
じっと見つめる乱馬の目の前には、古びた食器棚がある。
幾つか部屋を見て回った彼の目には、ここが一番怪しく見えた。何が、と言えば。
「開け、ゴマ」
ぼそり。
小さく口にする。
‥‥当然、何も起きない。
「‥‥違いましたか」
さすがに隠し部屋はなかったようだ。
「こんな感じでいいですかね」
せっせと埃を吹き払い、ふぅとアルメリアは一息つく。
「このお屋敷、本当に大きいのですね」
そして、かなり立派な建物だ。
空気を入れ換え、埃を払い、姿を見せたのはさすがにかつての貴族の持ち物だっただけのことはある。その壮観に彼女はもう一度感嘆の溜息をついた。
「本当に‥‥どのようなお方がこの屋敷を買ったのかしら? 一度、お会いしてみたい気もします」
「――へえ、随分綺麗になったな」
唐突に。
背後から掛けられた声にハッと振り向くアルメリア。そこに立っていたのは、十代前半とおぼしき小柄な体格の少年。
子供ということで思わず驚く彼女に、だが相手はニッコリと笑みを浮かべ、
「これなら十分に実験が出来そうだ。ありがとな」
お礼を述べる少年の、耳が僅かに尖っているのが彼女の目に入った。
「‥‥パラ?」
思わず口にしてしまった呟き。
慌てて手で押さえた彼女に、別段気を悪くすることもなく、彼は頷いた。
「ああ、そうだ。俺が今回、この屋敷の駆除を依頼したエルリック・ルーンだ。エルって呼んでくれ」
そう告げた目の前の小さな依頼人は、ニッと笑みを浮かべてから静かに右手を差し出した。
それが、冒険者達と依頼人との、最初の遭遇だった。