マッチョ ざ Ripper/リターンズ

■ショートシナリオ


担当:葉月十一

対応レベル:1〜4lv

難易度:難しい

成功報酬:1 G 10 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月03日〜10月09日

リプレイ公開日:2004年10月14日

●オープニング

 暗い夜道。
 人通りのないその場所で、二つの影が静かに対峙していた。
 影は、どちらもが屈強の肉体を持ち、見事なまでに張りのある素肌を存分に晒け出していた。あるいは、その影達が放つ気に圧倒されて、誰も近付かないのかもしれなかったが。
 両者に羞恥の心はない。
 あるのは、鍛え上げた己が身体を誇示するが故の昂揚だけ。その昂りが二人の間に漂う緊張感を、否が応にでも高めていく。
 二人の違いはただ一点。下半身を覆う存在だけ。
 片や、ピチッと纏う腰布。
 そしてもう片方は――。

「うぉぉぉ!」
「はぁっ!」

 烈火の気迫とともに両者が動く。
 それぞれの手に持つ獲物が僅かな月明かりに反射して、夜の闇を一閃した。

 ――交錯は一瞬。

 ‥‥互いに駆け抜けた二つの影。
 暫しの沈黙。
 やがて――ハラリ、と。
 男の纏う腰布が音もなく剥がれると同時に、ガクリと膝を付いて崩れ落ちる男の姿があった。
「‥‥くっ!?」
「ふっはっはっは! 思い知ったか! 所詮貴様は、時代遅れだったのさ!」
 高笑いする仁王立ちした男。
 悔しげに睨み上げる敗者に蔑みの眼差しを向け、勝者の笑みを浮かべる。
「腰布などもはや古い! 今の時代、ジャパンから渡ってきたこの褌こそが、偉大なる男のシンボルなのだ!!」
 パンと腰を叩き、堂々と突き出したそこには、純白の六尺褌が威風堂々と男の下半身を覆っていた。闇夜の中、男の笑い声はいつまでも続く――。

 ‥‥そりゃあ、誰も近寄りたくはないわな‥‥。


「――頼む、どうかお前達の力を貸してくれ!」
 冒険者ギルドの中、受付で土下座するのはかつてのマッチョ隊のリーダー。
 あの事件以来、男は己を鍛え上げるべく、武者修行の旅に出たらしいのだが、その旅の途中で出会った褌の男に得も言われぬ屈辱を味あわされたという。
 現に、今の男は腰布すらなく、仕方なく葉っぱを付けているだけというから、その辱めが如何ほどかは押して知るべしだろう。
「ヤツは褌こそが最強と言い、それを身に纏わぬ男達を片っ端から辱めているのだ。かくいう俺も‥‥くっ。だからこそ、お前達の力を貸して欲しいのだ。かつて、この俺の生き方を改めさせてくれたお前達冒険者ならば、きっとヤツも!」
 本人、えらく真面目に語ってはいるが、ある意味その中身はちょっと‥‥どころか、かなり怪しい。
 とはいえ、必死で頭を下げる男の姿に、否と言えるかどうかは。
「さて、どうする?」
 受付に座る親父の言葉に、冒険者達は僅かに顔を歪ませた。

●今回の参加者

 ea0579 銀 零雨(32歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea1168 ライカ・カザミ(34歳・♀・バード・人間・イギリス王国)
 ea5386 来生 十四郎(39歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea6647 劉 蒼龍(32歳・♂・武道家・シフール・華仙教大国)
 ea6954 翼 天翔(33歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea6955 蒼嵐 瑠伽(24歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea7296 ゲーニッツ・マークレイム(37歳・♂・ウィザード・人間・ロシア王国)
 ea7317 竜造寺 みゃお(23歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)

●リプレイ本文

●事前調査
「さて、まずは問題の男達がどこにいるのか突き止めないとね」
 ダン、とテーブルを挟んだ向こうにいるマッチョ男に対して、ライカ・カザミ(ea1168)が少々キツイ眼差しを向ける。チラリと脳裏を掠める弟のコトで心中は穏やかではなかったが、そこは冒険者としてのたしなみで表面上は何もない風を装っていた。
 その横で、ゲーニッツ・マークレイム(ea7296)が二三の質問を投げかける。
「で、どの辺りでお前は襲われたんだ?」
「‥‥あ、ああ‥‥」
 さすがに口にするのが恥ずかしいのか、幾分口ごもった。その大きな体躯を小さくしようとモジモジする。
 大の男のそんな姿は、見てるこっちとしては少々‥‥どころかかなり暑苦しく。
「あーもう。シャキッとしなさいよ。それでも元マッチョ隊のリーダーなの?」
 端々がキツくなってしまうのはしょうがない。
(「‥‥なにしろ、あたしの弟は目の前の男に」)
 そんなライカの様子に肩を竦めつつ、ゲーニッツは聞くべき情報を聞き出していた。


「‥‥で、この辺がその現場というコトですね」
 周囲を見渡しながら、銀零雨(ea0579)が仲間から得た情報を確認する。大柄な外見から一見粗野な性格に見えがちだが、口調は至って丁寧なものだ。
 その通りは、あまり人通りも多くなく、三叉路の詰まりになっているコトから、周囲からもあまり気付かれないらしい。
 もっとも、零雨が聞き込んだ話によれば、辻褌(?)が多発しているせいもあって、あまり近寄らないとのコトだ。
「まあ、もっととも言えばそうですけど」
 そこへ他に聞き込みへ行っていた仲間が帰ってきた。
「向こうの方にちょうどいい袋小路を見つけたぜ。あそこに追い込めば、連中も逃げられやしないな」
 ゲーニッツがそう言えば、
「時間も夕刻からってパターンが多いようね。ま、ありがちだけどね」
 ライカもそう報告する。
 都合のいいことに、もうじき太陽も沈もうとしていた。
 ――そして舞台の幕が上がる。

●褌VS腰布
 太陽が、遠い山の向こうへ沈みかける頃。
 とある酒場で、威勢のいい声で言い合う男達がいた。
「なんでも最強を名乗ってる奴がいるって言うじゃないか?」
「だが、そいつは褌が流行だからとすぐに便乗するような者だ。真の男ではないな」
「まあ強いヤツとは戦ってみたいもんだよな」
「どちらにせよ、腰布こそ最強だな」
 ‥‥幾分、かなり変わったやり取りだったが、本人達はいたって大真面目である。
 着流しに帯刀といった格好の浪人の来生十四郎(ea5386)と、シフール故の小さな体ながら武道家とおぼしき鍛えた肉体を晒す青年・劉蒼龍(ea6647)の二人だ。
 そんな会話をどれだけ続けていただろうか。
 不意に一人の男が酒場から出ていったのを蒼龍が気付く。
 軽い目配せに、十四郎も黙って頷いてから、二人揃って酒場を出ていった。彼らが出ていった後で、ヒソヒソとした会話が広まっていたが、二人にとっては与り知らぬコトだった。
 こうして街に、新たな噂が立つことになる――。


 二人が三叉路へ差し掛かろうとした時。
 薄闇の中で怪しい叫びが響いた。
「ふははは! 腰布に身を浸りきった者達よ! そんなモノで最強の漢となれるものか!」
 そして、現れたのは純白の六尺褌に身を包んだマッチョ男。そんな彼に付き従うように、赤と黒の同じような褌の男達も姿を見せる。
「ふ、現れたな」
 呟く十四郎。
 次の瞬間、着流しを脱ぎ捨てて腰布――実は自身の褌をそう見せている――一枚の姿なった。
「む?」
「所詮はにわか褌の連中だ。そんな奴らがどの程度のものかかかってこい」
「そうじゃん! 漢の魂は何かに宿るものじゃないぜっ! あえて言うなら、漢の魂は健全な漢の身体に宿るもの‥‥そう!! 全裸こそ最強だぜ!!」
 バッと脱ぎ捨てた蒼龍。
 そこには、何も身に付けていないシフールの姿があった。
 ‥‥が、男達の興味は等身大でもある十四郎の方に向かったようだ。蒼龍には見向きもせずに、十四郎へ突っかかっていく褌男達。結果的に一対三の構図になってしまった。
「ちょっ、ちょっと!!」
「ここは俺に任せて、おまえはみんなのところへ!」
 慌てる蒼龍を説き伏せて逃がす。
 その間も相手は休むことなく、十四郎の腰布を狙う。さすがに三人が相手では時間稼ぎもあったもんじゃない。あっさりと捕まえられ、遠慮なく剥がされた、その時。
「ダメみゃ〜!」
 いきなり突っ込んできたのは、囮班を追跡していた竜造寺みゃお(ea7317)。
 狙いは男達の股間。本来なら頭突きを加えたダブルアタックEXをお見舞いしたかったのだが、さすがに装備が重くてそこまでは動けず、代わりに両腕を突き出したダブルアタックを繰り出していた。
 強烈な股間への一撃。
 十四郎だけに気を取られていた男達の内、黒褌の男がその犠牲となった。身を屈めて悶絶を繰り返す。その痛みは、男にしか分からないものだ。
「弱点発見みゃ〜!」
 男の弱点を突いた攻撃に、得意満面の笑みを浮かべるみゃお。この調子で他の連中も‥‥と向き直れば、十四郎自身はすっかり辱められていた後だった。
 涙にくれる彼に、彼女はただただ満面の笑みで慰める。まあ、あまり慰めにはなっていないけど。
 そこへようやく、他の冒険者が到着した。

●強さを求めて
 続々と現れる冒険者達に向き直ろうとした赤褌の男。
 その顎にすっと伸ばされた手があった。
「な、なな?」
「ねえ。腰布だか褌だか知らないけど、男の威厳ってそんな所なのかしらねぇ‥‥」
 妖艶な笑みを浮かべた翼天翔(ea6954)が、武道着のスリットをゆっくりと上げていく。純情そうな顔の男の視線は、露わになった生足に思わず釘付けになった。
「あなたの男の威厳を私に見せてよ。もちろんこんな所じゃなくて‥‥判るでしょ?」
 ゴクリ、と赤褌の男の喉が鳴る。
 そうして。
 二人はフライングブルームに乗って何処へと姿を消した。
 他の冒険者と対峙していた白褌の男は、そのあっという間の展開に思わず呆然と見送るしか出来なかった。


「‥‥さて、残るはあなただけですね」
 スッと一歩前に出る零雨。
 手にした剣の切っ先を相手に向けた状態で構えてはいるが、特に傷つけるつもりはない。向こうが戦意を喪失してくれれば充分だと考えている。
「褌をつけて強くなった自分を見せたい。それだけの理由で他人を傷つけることは許されません。これ以上やるというのなら、私がお相手します。かかってきなさい!」
 両者の間で高まる緊張感。
 後方に控えて、魔法を唱えようとしたゲーニッツやライカもその動向を見守っている。いざとなればすぐにでも魔法を放てるように準備済みだ。
 彼らの間を縫って飛行してきた蒼龍は、ちょこんと零雨の肩に乗っかった。格好は――相変わらず何も身に付けておらず。
「力不足かもしんねえけど、俺だってやるぜ!」
「褌しか認めないなんて心が狭いにゃ〜。褌は他のファッションもおおらかに包んで許すものみゃ」
 ビッと指差してみゃおが叫ぶ。

 その声を皮切りに。
 白褌の男が動き、ほぼ同時に零雨もまた動く。
 他の冒険者が見守る中、暗がりに二つの影が交錯する。その一瞬で、刃が相手の身に付けていた褌を一閃した。
 そして、気が付けばパラリと地面に落ちる褌。
 露わになった辱めに、男はがっくりと膝を付いた。
「‥‥くっ」
 悔しがる男の元へゆっくりと近付く影。見上げれば、こちらも何も身に付けないままの十四郎が、先程剥がされた腰布を手で広げてみせる。それは、男が身に付けていた六尺褌と同じものだった。
「どうだ。褌も腰布も元は同じただの布、今のおまえは単に外見や流行に流されてるだけで、中身なんか全然なっちゃいないぜ」
 懇々と説得を続ける十四郎。
 それを涙しながら聞き入る男。
 実はどちらも丸裸なのだが、そんなこたあ誰も気にしちゃいない。むしろいい話だ、と納得する仲間の冒険者もいるぐらいだ。
 後ろの方でその様子を眺めていたライカは、そんな光景に深々と溜息をついた。
「‥‥少々見苦しいわねえ」
 果たして、手にした枯葉を渡すべきかどうか。そんなところで悩む彼女も、立派に仲間であることに気付いていない。

●事後処理
 床の上でダウンした男を見下ろしつつ、天翔はふふっと笑みを零した。
「腰布だとか褌だとか、男の逞しさはそこじゃないわ。あなた、もう少し腰を鍛えないとね」
 汗で上気した身体を見やる。
 相手はすっかり体力を消耗しているのに対し、彼女はまるで平気な様子だ。
「筋肉だけじゃ、女は喜ばないわよ」
 学習なさい、とそれだけを言い置いてから、彼女は男を帰した。


 薄暗い路地裏。
 静かに待つライカの元へ、マッチョリーダーが訪れる。
「あなたに聞きたいことがあるのよ」
「‥‥なんだ?」
「前にあなたの部下に御婿に行けない身体にされた男をご存知かしら? 彼、あたしの大切な弟なの」
 そこまで言った途端、男の目が驚愕に見開かれる。
「あなたの依頼は無事にこなしたわ。後は‥‥わかるわよね?」
 仇のいう名の報復。
 はたしてどんな手で相手に精神的なダメージを与えてやろうか。にんまりと笑みを浮かべながら、ライカはリュートをしっかりと構えた。


「褌を広めたいなら、作ってみてはいかがですか?」
 裁断した布を広げて見せる零雨。
 見よう見まねで作ったその白い布は、さすがにエチゴヤに並ぶような出来映え程はなかったが、普通に下着として身に付けるには十分な代物だった。
 受け取った元・白褌の男は、幾分感動しながら彼に向かって頭を下げた。
「頼む、教えてくれ!」
 そうして。
 短期間だったが、零雨先生の手芸教室が開かれることとなった。
 ちなみに、生徒は皆、ごっつい筋肉バリバリの漢達だったとかなかったとか‥‥。