信じぬ理由〜救出編〜

■ショートシナリオ


担当:葉月十一

対応レベル:1〜4lv

難易度:やや難

成功報酬:5

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月23日〜10月28日

リプレイ公開日:2004年11月05日

●オープニング

 少年は、一人で戦うことを由としてきた。
 徒党を組むことを嫌い、常に一人前線へと赴く‥‥依頼を受ける際も、必ずといっていいほど一人きりで。どれだけ危険を秘めた内容であっても、その主張を頑として譲ろうとはしなかった。
 しかし、そんな少年の心にも徐々にだが変化が訪れていた。
 依頼に際しては、少しずつだが周囲の意見を聞き入れるようになり、他人と協力するという事も覚えてきたようだった。
 そうは言っても、普段は相変わらずのぶっきらぼうな態度であるのだが‥‥。

「――何? まだ帰ってきてない?!」
 ギルドの受付に座る元冒険者という壮年の男は、今日の分の報告書を纏めていた際に聞かされた同僚の連絡に、思わず声を上げた。
 何人かの冒険者が声の大きさに振り返ったが、そんな周囲の視線に構わず、男は報告をしてきた相手に詰め寄った。
「どういうことなんだ?」
「最初は簡単なゴブリン退治だったらしいんだが、現地に行ってみると結構な数だったようだ。まあ、それでもなんとか途中までは統率を取りながら戦ったらしいが、そのうちにそのフェイって冒険者が、勝手にゴブリンを追って森の奥まで追い掛けて行ったんだと」
 軽い溜息を挟んでから、相手は更に続ける。
「で、そのまま帰ってこなかった、と。それでも散々探し回ったようだが、結局見つからずじまいさ。手持ちの食料も尽きかけたんで、他の連中は一旦引き上げたってトコだな」
「一人で追い掛けたのか?」
 男の問いに、相手は苦虫を噛み潰したような顔をして答えた。
「らしいな。一人でも平気だ、とか言ってな」
 その言葉を聞いて、またかと軽く溜息をつく。
 先日の依頼で少しは協力する事を覚えてくれたと思っていたが、まだまだ道のりは険しかったようだ。男自身、フェイの過去に何があったかを知っている。それ故、彼の行動もある程度は仕方ないと考えなくもないのだが、こと依頼に関しては問題だった。
 現に。
「それで、結局その依頼の方はどうなったんだ?」
「ああ、結局当初予定していた数の半分も退治できなかったようだ。その子を探すの手間取ってな」
 依頼を早期解決出来ないとあっては、ギルドにとっては少々厄介な事になる。ましてや、受けた依頼を失敗すれば、今後の運営に関わってくるのだ。
 男はすぐさま手渡された依頼書を見返した。
 幸いにもまだ期日にはなっていないようだ。
「とりあえずその子に関してはこっちに任せろ。そっちは至急メンバーを集め直して、もう一回退治に向かわせてくれ」
「了解した」

「――と言うわけだ。お前さん方には、行方不明になっちまった冒険者‥‥フェイって少年を捜し出してもらいたい」
 少ないながらも集められた冒険者を前に、壮年の男はその大柄の身体で深々と頭を下げた。
「あいつもれっきとした冒険者だ。ゴブリン相手にそうそう遅れを取る筈がねえ。だとすると‥‥」
 一旦切った言葉を、冒険者の一人が続ける。
「ゴブリン以上のモンスターが‥‥?」
「ああ、その可能性は否定出来ねえ。くれぐれも用心して欲しい。それと‥‥今回の依頼は、正式なモンじゃねえ。俺からの個人的なモノだから、報酬の方は‥‥」
 思わず言葉を濁す男に、冒険者達は苦笑を洩らす。
 彼らの思いは皆一緒だ。
「仲間を助けるのに、理由はいりませんよ」
 そう告げた後、彼らは一斉にギルドを飛び出した。

●今回の参加者

 ea0424 カシム・ヴォルフィード(30歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea1925 シアン・フューレ(31歳・♂・ジプシー・人間・神聖ローマ帝国)
 ea3075 クリムゾン・コスタクルス(27歳・♀・ファイター・人間・イスパニア王国)
 ea4200 栗花落 永萌(30歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea5695 セレスティ・アークライト(28歳・♀・クレリック・人間・イギリス王国)
 ea7415 ティール・ウッド(29歳・♂・レンジャー・パラ・イギリス王国)

●リプレイ本文

●捜索
「一人でも平気だ、か‥‥」
 なんとはなしに呟いてみて、シアン・フューレ(ea1925)は軽く溜息をついた。
 出発直前、ギルドの親父に再度念押しに頼まれたフェイ少年の事を考える。一人に拘る少年の説得も、どうやら今回の依頼内に含まれているのか。
「まあ少年のカウンセリングは契約外です、なんて言ってる場合でもないしねえ」
 浮かべるのは、困ったような顔を示す笑顔。苦笑とも言うべきそれに、だが実際の所笑い話ではない。
 なにしろ消息を断ってから、既に何日も経過しているのだ。
 怪我で動けない身であれば、きっとかなり危険な筈。
「保存食、だいたい十食分ほど用意しましたけど‥‥これで足りるかしら?」
 バックパックに準備したそれを担ぎ、セレスティ・アークライト(ea5695)はややよろけながら歩く。
「早く見つけてあげないと、怪我してるかも‥‥頑張りましょうね」
「そうだな。素直ないい子だといーなー」
 シアンの言葉に、カシム・ヴォルフィード(ea0424)が一度会った事があるのを話した。
「フェイさんとは一度会ったことがあるけど、覚えているのかな」
「へーそうなんだー」
「ま、まあ、覚えられてなくても良いけど、また女に間違われるとさすがにちょっと‥‥」
 以前会った時、女扱いされた事を思い出して、カシムはちょっとばかり落ち込む。
 が、他の仲間から見ても、彼はパッと見で女性に見えてしまうので、それはしょうがないのでは‥‥と思いはしたが、それを口に出すのは止めておいた。
「さて、と。だいたいこの辺がフェイ君がいなくなった場所なのですが‥‥」
 そう言って、ティール・ウッド(ea7415)が周囲を見渡す。
 以前フェイと組んでいた冒険者達から聞いた情報通り、まだ昼間だというのに薄暗い景色が広がっている。更にこの奥には切り立った崖があるという話らしいが。
「カシム、どうですか?」
「‥‥駄目だね。この近辺にはいないみたい。もうちょっと先に行かないと」
 ティールの問いに、ブレスセンサーを使ったカシムは力無く首を振る。
 或いは、別の結末すら予想しがちだったが、今はそれを考えないことにしよう。
「どちらにせよ、そろそろ日が暮れそうですよ」
「そうだな。この森の中、暗くなってから歩き回るのは危険だぜ」
 後方で護衛として警戒していた栗花落永萌(ea4200)とクリムゾン・コスタクルス(ea3075)が告げた言葉に、冒険者達は仕方ないと頷く。
 交代で見張りをすることにして、彼らは簡易テントや寝袋で床に就いたのだった。

●遭遇
 捜索を始めて二日目。
 森の更に奥まで足を進めた冒険者達。
 もうじき崖に辿り着こうとした時、先頭を歩いていたカシムの足が止まった。
「‥‥いるよ」
「フェイ君ですか?」
 隣に立つティールが尋ねると、コクリと頷く。
 が、駆け出そうとする仲間をサッと腕を伸ばして引き止める。彼がブレスセンサーで感知したのは、フェイだけではなかった。
「僕の知ってるフェイさんのような体格は、崖下から感じられます。ですが、彼より、随分大きな体格の存在が――一体」
 その言葉に、誰もがハッと身構える。
 伝え聞くフェイのレベルでは、そうそうゴブリン如きに遅れを取る事はない。彼が崖下にいるということは、落ちた、或いは落とされたと考える方が妥当だ。
 そして。
「どうやら予想外の敵、ということですね」
 後方に下がった永萌が詠唱を始める。放たれる青い光が手の上に集中し、やがて氷のチャクラが出来上がった。
 と、同時にクリムゾンが一気に前線へと飛びだした。
「敵、だな!」
 僅かに森を抜け、切り立った崖を目の前にした場所。
 そこで彼らが見たのは、聳え立つ巨体――一体のオークだった。相手はこちらに気付くと同時に、腕を思いきり振り上げた。その手には、身体の大きさに見合った金棒が握られている。
 が、それより早く永萌がアイスチャクラを放った。それが僅かな牽制となり、クリムゾンとティールの二人が先陣を切った。
 レイピアの細い刃がオーガの腕を切る。
 同時に、ティールの投げたダーツがその傷を抉るように突き刺さる。
 が。
「がぁぁぁ!」
 敵は怯むことなく、そのまま金棒を振り下ろした。
 間一髪――多少の掠り傷を負いつつも、なんとか二人はそれをかわす。
「‥‥厄介だな」
「そうですね」
 そんな会話の合間に、カシムが放ったウインドスラッシュが大気を切り裂く。見えない真空の刃。術力を鍛えた彼の魔法の威力は格段に強く、先程痛めた腕を一気に切り刻んだ。
「フェイさんが心配です。ここは一気に――」
「ああ」
 極力モンスターとの戦闘を避けたかったシアンだが、ここに来てそんな悠長なことは言ってられない。なにしろ目と鼻の先には、救出すべきフェイがいる筈なのだから。
 そんな一切の躊躇なく、彼は手にしたロングクラブを振り回す。勢い込んで突っ込む彼を、永萌がアイスチャクラで援護する。
 その隙を見計らって、怪我をした仲間の手当てをセレスティが施していった。
「手当てだけは得意なんです‥‥」
「しかし」
「やらせてください‥‥駄目ですか?」
 強い彼女の意志に、クリムゾンはやれやれと溜息をつく。仕方なく、そのまま戦闘を男性陣に任せる事にして、彼女はとりあえずフェイの姿を探す。
 カシムの言葉を思い出し、ちらりと崖の下方を覗き込む。
「――いたじゃん」
 クリムゾンが指差した先。
 そこには、気を失ったフェイの姿があった。遠目ではハッキリ分からないが、どうやら足を骨折しているように見える。
「なんとか助けに行かないと」
「‥‥その前にこっちだね」
 二人の視線が、オーガの方へと向く。
 何度目かの攻撃が、相手の身体に傷を負わせる。だが、それすらも気にしない素振りで無造作に敵の攻撃が冒険者達を襲った。
「他の連中の手当て、頼むぜ」
「はい」
「さーて、そこをどきな!!」
 オーガの強襲で傷を負った仲間の合間を縫って、クリムゾンが一気に駆けた。
 その直前、カシムが放ったウインドスラッシュでバランスを崩していたオーガに向かい、手にしたレイピアを一気に振り下ろす。
「うがー!!」
 振り払おうとした腕を、ティールの投げたダーツが寸前で食い止める。
「今です」
 背後から飛んできた声。
 それに後押しされるように、彼女の振り下ろした刃がオーガの身体を一閃した。グラリと傾く巨体。そのままトドメとばかりに冒険者達の攻撃が一点集中に撃つ。
 そして。
 ズシン、と音を立ててオーガが地面に倒れたのだった。

●救出
「オーライ、オーライ」
 ロープでバランスを取りつつ、フェイをなんとか崖の上へと引き上げていく。
 すぐさまセレスティの手により応急手当をし、ゆっくりとリカバーで癒していく。さすがに飲まず食わずであった為、体力の回復までには時間がかかるだろう。
 ようやく気が付いたところへ、ティールがポコッと叩いた。
「キミが何をしたのか、わかっているのですか?」
 そのまま彼が語ったのは、『冒険者心得の条』と呼ばれるもの。冒険は一人でするものではなく、またギルドや仲間の協力があって初めて成り立つもの。
 依頼達成の為に全力を賭け、決して命を粗末にしてはならない。
「強いにこした事はないけど、状況をわきまえて行動をとらないと危ないですよ」
 そう言ったのはカシム。
「そうだぜ。一人で戦うなんて、するもんじゃないぜ」
 続くクリムゾンの言葉にグッと唇を噛み締めて俯くフェイ。どうやら今回自分が取った行動に関しては、多少なりとも反省している様子だ。
「一人でいるより、みんなといたほうが行動の幅が広がるってもんだ。そしたら、もっとたくさんの新しい発見が出来るから、冒険が楽しくなるぜ」
「そうです。もし私が道に迷って、貴方を頼ったら‥‥貴方は嫌な気分になりますか?」
 手当てをしながら、セレスティの優しく尋ねる。
 俯いた顔は、いまだ上げる気配はない。
 それでも辛抱強く彼女は言葉を続けた。
「私は‥‥本当に困ったことがあるなら、信じて頼る方がいいと思います。一人で無理してるのをみるよりも、その方が周りが救われますから」
 暗に、フェイにも心配する人達がいることを伝えてみる。
 どうやらその言葉に思い当たったのか、ハッと顔を上げた。
「‥‥まさか、あのオッサンから頼まれたのか?」
「そう、だね。それもあるけれど、やっぱりキミが心配だったからかなー」
 笑みを浮かべるシアン。彼を知る者ならば、明らかに嘘臭い雰囲気と声色だと分かるのだが、初対面の彼にはそこまで見抜けなかったようだ。
「己の行動が、周囲にどのような影響を与えたかご想像下さい」
 最後に一言。
 永萌の告げた言葉。
 残された者の気持ち。状況の変化。それによりもたらされた結果。
 全ての事情を思うことが出来れば、フェイにも何をするべきか理解できるものだと考え、彼はただそれだけを口にするに留めた。
「さあ、それじゃあそろそろ帰りましょうか」
 セレスティが切り出し、そのままフェイを伴って彼らはキャメロットへの帰路へ着いた。

「‥‥あん時も、お前らのような仲間がいれば、な‥‥」
 道中、ポツリと呟いたフェイの一言。
 その意味を知るには、まだまだだいぶ先の事となる。