【子供の領分】ケンカ両成敗

■ショートシナリオ


担当:葉月十一

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 62 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月18日〜11月25日

リプレイ公開日:2004年11月23日

●オープニング

 学園都市ケンブリッジ。
 多くの少年少女が希望ある未来を夢見て、何かを学ぼうと集まってくる地である。その学舎の数は数十とも数百とも言われ、集まる者達はそれこそ種族や階級も様々だ。
 それ故に。
 人と人が衝突するトラブルもまた絶える事がなく。
 結果――生徒達の手による解決を求め、ケンブリッジギルド『クエストリガー』が設立されたのであった。

●小さな依頼人
「ふわぁぁ〜」
 大きな欠伸が一つ。
 ケンブリッジギルドの受付に座る青年は、うつらうつらと半分船を漕いでいた。
 まあ、無理もない。たまたま今日は受付に座るのが彼だけであり、訪れる者も殆どいない状況では眠気に誘われるというものだ。
 普段なら整って見える顔立ちも、今は寝惚け眼で台無しだ。もっともそこが可愛い、と言う女生徒もいないではないが。
 ‥‥それにつけても暇だった。
「はあぁ。外は久々にいい天気だというのに‥‥どうして俺はここにいるのかねえ」
 ぼんやり呟いた声は、誰に聞こえるともなく宙に消える――筈だった。
 ふと、入り口付近に小さな影を見つける。ギルドの青年が顔を向けると、どこか怯えた表情の子供が、建物に入ろうかどうしようか迷っているところだ。
 見たところ、今年入学して来たばかりの生徒のようだ。着られている感の強いだぼっとした服に包まれている。
 慌てて青年は身なりを整え、相手に好感を抱いてもらえるような笑顔を浮かべた。
「やあ、よく来たな。当ギルドにどんな用だ? 君らの悩みを諸先輩方が尽力して解決してやるぜ」
 にっこりと張り付けた笑みは、しばしその状態で固まった。
(「‥‥えぇっと‥‥」)
 何故なら、その子供はいっこうに入ってこようとせず、更にじっと床を見たまま沈黙していたからだ。
 そうして待つこと十分。
 さすがに顔の筋肉が引きつれそうになったところで、ようやく子供は重い口を開いた。その内容は、いかにも子供らしいものだったが。
「あ、あのね。ナギ兄ちゃんとアル兄ちゃんを仲直りさせてほしいの!」
「え?」
「ナギ兄ちゃんとアル兄ちゃん、もう一週間以上もケンカしっぱなしで全然口きいてくれないんだよ」
 話し始めた内容を、青年は根気よく聞き取った。何度も相づちを打ちながら、試行錯誤で言葉をどんどんと進めていく。
 それによると、この子供の幼馴染みにあたる13歳の少年と12歳の少年――それぞれアル兄ちゃんとナギ兄ちゃんだそうだ――が、とある事からケンカをしてしまい、もう一週間もお互い口を聞いていないのだそうな。
 きっかけは些細なことだったようだが、アル少年がナギ少年の今は亡き父親――昔はかなり名を馳せたウィザードだったようだ――をバカにしたのが原因らしい。
 先日のモンスター襲撃事件で、本来魔法学科だったアル少年は、助けられた冒険者の剣技に魅了されて身体を鍛え始めたそうな。その辺が、彼がウィザードをバカにしてしまった要因だろう。
 ともかく、売り言葉に買い言葉。
 ケンカは益々ヒートアップしてしまい、周囲を巻き込む騒動にまでなったという。結局、その場は教師が来てなんとか収まったそうなのだが。
「‥‥あれから兄ちゃん達、全然口きかないんだ。目も合わしたりしないんだよ。僕、もうどうしたらいいか分からなくて‥‥」
「それでギルドにまで足を運んだのか?」
 コクリ、と小さく頷く。
「僕、一生懸命貯めたお小遣い、全部使ってもいいから。どうか二人を仲直りさせてください!」
 ギュッと握った手には、おそらくその子にとっては貴重なお小遣いなのだろう。
 慕っている幼馴染みの為にそこまでする子供に、青年は思わぬ笑みがこぼれた。きっとこの後輩は、将来素晴らしい素質を持って成長するに違いない。
 すっと伸ばした掌で頭を優しく撫でた。
「よーし、折角来てくれた可愛い後輩の頼みだ。ここはいっちょ引き受けてやろうじゃないか!」
「ホントに?!」
「ああ、なあに先輩方は優しい人達でいっぱいさ。こんぐらいの報酬でも喜んで引き受けてくれるだろうぜ」
 ――最後の科白は少々不穏当な気がしないでもないが。
 とにかく。
 その日のうちに、ギルドの壁に新たな依頼書が張り出された。

『仲のいい後輩二人がとんでもないケンカをした。
 どんな手を使ってもいい、この二人の仲を取り持ってくれ。
 おっと、流血沙汰だけは勘弁してくれ。なにしろ相手はまだまだ子供なんだしな。
 そうそう、もう一つ。
 今回の依頼は別に学生じゃなくても、誰でも受けられるから是非とも頼むぜ』

●今回の参加者

 ea1757 アルメリア・バルディア(27歳・♀・ウィザード・エルフ・イスパニア王国)
 ea4180 ギャブレット・シャローン(40歳・♂・ナイト・パラ・ビザンチン帝国)
 ea5699 カルノ・ラッセル(27歳・♂・ウィザード・シフール・ノルマン王国)
 ea7214 サイザル・レーン(70歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea7435 システィーナ・ヴィント(22歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)

●リプレイ本文

●壮年の魔法使いから少年へ
 ケンブリッジ周辺には、幾つもの森が点在している。
 通常の授業は学校内で行われるが、様々な特殊な部屋もあるため、使用するためには申請をしなければならない。勿論数に限りがあるわけで、全ての生徒が使える訳ではない。
 そこで生徒達は、自主的なトレーニングを人気のない森などで行うのだった。
 魔法学科の生徒である少年・アルもまた、一人で黙々と鍛錬していた。
 その様子を遠くから見つめる視線が一つ。
 ふと、気になった彼が動きを止めて振り向くと、そこにはやや細身の男性がじっとこちらを見ている。思わず怪訝な顔をしたアルにお構いなく、男――サイザル・レーン(ea7214)は小難しい顔をして近付いた。
「そこの少年」
「な、なにっ?」
 13歳の彼からすれば、還暦に近いサイザルは随分と大人に見えるだろう。そのせいか、少年はビクリと身を竦ませる。
「‥‥そんなに固くならなくてもいいだろう」
「お、おっさん誰だよ?」
「おっさん?!」
 年齢より若いつもりでいるサイザルだが、さすがにその言葉は胸に突き刺さった。
 ゴホン、と咳払いを一つ。気を改めてもう一度声をかけた。
「あー少々意見を聞きたいのだが」
「‥‥なんだよ?」
「少年は、剣と魔法どちらが強いと思う?」
「どっちって‥‥そりゃあ剣の方だろ! 魔法じゃあ詠唱してる間に敵にやられちまう」
 意気揚々と答えるアル。
 予想通りの回答に、サイザルは一呼吸置いてから言葉を続けた。
「剣か。確かに剣は強いが、剣の通用しないモンスターも存在する。その時はどうするのだ?」
 再度問われ、今度は口を噤んでしまった。
「剣の通用しないモンスターは、得てして魔法が弱点である事が多い。そう考えると剣と魔法に優劣はないのかもしれんが‥‥どう思う?」
「そ、それは‥‥」
 サイザルの言葉にすっかり考え込んでしまった少年は、それっきり俯いたまま。
 おそらく彼も心の中では分かっているのだろう。今はただ目の前に現れた救世主のような存在に、目を奪われているだけに過ぎない。
(「周りが仲を取り持つよりも、自分で考えて答えを出せばいい。その切っ掛けになってくれればいいのですが‥‥」)
 さすがにこれ以上、子供同士のケンカに介入するわけにもいかない。
 そう考えたサイザルは、
「邪魔をしたな」
 それだけを言い残して、考え込む少年の傍から立ち去った。木陰に隠れていた仲間に後のことを任せて。

●小さな身の者達から少年へ
 擦れ違いざま目配せをされ、ギャブレット・シャローン(ea4180)はゆっくりと近付いた。
「やあ。キミ‥‥トレーニングをしてるの?」
 突然かけられた声に頭を上げる少年。
 途端、アルはぶっきらぼうに返事をした。
「別に、いいだろ。俺が何してたって」
「まあそうなんだけどさあ。あんまり効果ない鍛え方してたから、つい見るにみかねて声かけたんだよね」
「どういう事だよ?」
「キミさ、誰かから教わったりした?」
「い、いや‥‥俺は」
 口ごもる少年に、ギャブレットはその腕をしっかり掴んだ。
「いいかい、腕はこうして‥‥で、足はこう」
 手取り足取り、まずはアドバイスを。
(「ちょっと強引だったかな?」)
 そう思ってチラッとアルの様子を見たが、そう満更でもなさそうだ。言われるままに手足を動かし、倣うように自分の真似をする。
「‥‥そうそういい感じ。んじゃ、次を見ててみな」
 ――一緒になって汗をかき、すっかりうち解けた後。
「なあ、結構凄いと思ってくれた?」
「ああ。すげえな」
「でもね、まだおいらもキミと同じ修行中‥‥いや、結局のところ冒険者って皆、いつも修行中なんだよね」
「ぼ、冒険者なのか?」
 驚くアルに、ギャブレットは人懐っこい笑顔を向ける。
「うん。冒険者はね、いつだって限界を知ってより高みを目指すんだ。ずっとずっと努力して」
 冒険者そのものへの憧れのあったアルゆえに、彼の話は引き込まれるに十分だった。
「だけど、やっぱり誰にでも得手不得手はある。それをカバーする為に冒険者は仲間を組むんだ。おいらにとっては‥‥そうだな、魔法使いとか」
 魔法使い。
 その言葉にピクリとアルの肩が動く。それを見逃すギャブレットではなく、この時とばかりに心の中へ訴えた。
「キミがここで学ぶ修行は体だけじゃなく、きっと心の修行もあるよ。体の修行で筋力と器用さを磨き、心の修行で勇気と知恵を磨くんだ」
 おいらもまだまだ修行中だけどさ、そう苦笑しながらそう呟くギャブレットに、何かを悟ったような顔を向ける少年。
 言いたかった意図は、きちんと伝わったんだろうか?
 そのままじっと互いに見つめ合う時が流れる。
 どれぐらいそうしていただろうか。
「‥‥お、俺‥‥」
 少年が、口を開きかけた時。
「――おおい」
 どこからともなく飛んできたのは――シフールの青年、カルノ・ラッセル(ea5699)。そのまま真っ直ぐに飛行して、ポトンとアルの頭の上に乗った。
「ふう‥‥やっと見つけましたよ」
 ぜえぜえ息を吐くカルノ。
「こんにちは〜〜」
「な、なんだよあんた?」
「私ですか? 私はカルノ・ラッセルと申します。あなたはアル君ですよね?」
 あくまでもにこやかに。
 笑顔を向けるカルノに対し、いきなり頭の上に乗っかられたアルは少々不機嫌そうだったが。
「ナギ君が探してましたよ。そろそろ仲直りしてみたらどうですか?」
 いきなりの直球に思わず狼狽える。
「な、なんでそんなこと」
「剣士に憧れるのも分かりますが、ウィザードとどちらが偉いなんていう事はないのはお判りでしょう?」
 ケンカした時だったら、すぐに違うと答えただろう。
 だが、先程から二人の人間にかけられた言葉が、頭の片隅でチクチクと心を揺さぶる。
「お互いの能力に優劣などないし、大切なのはその力をどう使うかです。たいていの場合、お互いにないものを協力して補うものですから」
 そして。
「――悪かったと、思ってるんですよね?」
 頭の上から逆さまになったカルノにそう尋ねられ。
 はたと見たのは、笑みを浮かべるギャブレット。
(「‥‥心の修行だよ」)
「きちんと謝れるのも才能のうちですよ」
 更に念押しをされ、少年はようやく自分の非を認めるのだった。

●先輩、そして後輩の女性達から少年へ
 ポツンと川べりに座る少年。
 その後ろ姿はどことなく淋しげだ。
 アルメリア・バルディア(ea1757)は隣で手を引く依頼人の子供をその場に待機させる。
「少し待っててね。もうすぐお姉ちゃん達が仲直りさせてあげるから」
「うん」
 そのまま彼女は、ナギ少年の元へ歩いていった。
「こんにちは」
 優しく声をかけると、少年はハッと頭を上げる。
 明らかに自分の先輩であることを感じて慌てて襟を正そうとするのを、アルメリアはそのままでいいから、とそのまま横に座る。
「仲の良いお友達とケンカをしたんですって?」
「え? あ、あの‥‥どうして?」
「小さな子が随分心配していたわ」
 すうっと視線を促す。
 つられて少年が見た先には、幼馴染みの子供が今にも泣きそうな顔でそこにいた。
「何があったのか、少し話してみてくれないかしら。仲直りの手伝いも出来るかもしれないし」
「仲直りなんて‥‥アイツ、父さんの事バカにしたんだ!」
「――魔法より剣の方が優れているから?」
 自身の予想を口にしたら、ナギはこくりと頷いた。
 そうなると、やはり剣と魔法のどちらにも優越はなく対等で、しかも必要不可欠である事を説明する必要がある。
(「アル君の方には他の仲間が向かったとの事ですし、私はナギ君の方を教えるべきですね」)
 話を聞く限りでは、ナギ自身どちらにも優越がない事は判っているのだろう。
 だけど、尊敬する父親をバカにされ、思わず頭に血が上ってカッとなってしまったに違いない。
「‥‥そうね。それならあなたは剣と魔法、どちらが優れていると思います?」
 問われて、言葉を濁すナギ。
 その無言の意図を、アルメリアは柔らかく汲んでみる。
「勿論、どちらが良い悪いではなく、あくまでも両者は対等なものなのよ」
 あなたはきっと解ってるのよね、そう言葉をかければ、ナギは唇をギュッと噛み締めながらコクンと頷いた。
「それなら話は簡単ね。剣と魔法、どちらも助け合い協力することで大きな力となる。だからお互いを否定してはいけません。お二人は元々仲良しなのだから、どうせなら背中を護り合う位にならないと」
 直後。
「そうだよ、仲の良い先輩達がケンカしてるのは、やっぱり悲しいよ!」
 いきなり間に入ってきたのは、依頼人の子供の手を引っ張ってやって来たシスティーナ・ヴィント(ea7435)だ。
「ほら、この子だって!」
「‥‥ナギ兄ちゃん、アル兄ちゃんと仲直りしてよ」
 促され、その子は半泣きになりながらもしっかりと自分の気持ちを訴えた。
「私が行った冒険もね、ウィザードの人も剣を使える人も一緒に行動して、その連携でモンスターを退治してたよ? 剣も魔法もお互いを補う事で依頼を解決するんだって」
 元気な彼女に圧倒され、ナギはついつい押され気味だ。
 それを横目で見ながら苦笑するアルメリア。
「だから、二人には仲直りしてほしいな」
 依頼人の手を持ち、ナギの手と重ね合わせる。
 その小さな温もりに、少年はようやく決意した。
「‥‥わかった。仲直りしてみるよ」
「ホント?」
「うん」
「実はもう、仲直りする為の簡単なパーティも用意したんだし、絶対だよ?」
 気の早いシスティーナの言葉にナギは一瞬目を丸くしたものの、
「‥‥アルは大事な友達だしね」
 そう言って彼は小さく苦笑を零した。

●仲直り
 その後。
 アルとナギの二人がどうなったかというと――。

「あーそれ、俺が先に目付けといたお菓子だぞ!」
「へっへーん早いモン勝ちだぜ」
 ささやかなパーティの場に相応しくない喧騒。
「お菓子はいっぱい貰ったからまだあるよー」
 システィーナがそう言ってお菓子を場に出す。
「皆さん、新しいお茶が入りましたよ」
 アルメリアが淹れたお茶をサイザルが静かに口に運ぶ。
「‥‥ふむ、美味い」
「あーそれ、おいらのお菓子―!」
 手元に取っていたお菓子が、何時の間にかアルとナギの手に合った。二人は互いに顔を見合わせて、
「「早いモン勝ちだよーっ!」」
 見事にハモった声。
「‥‥やれやれ。結局二人は仲良しだったって事ですね。よかったですね」
「うん」
 肩にちょこんと乗ったカルノの言葉に、依頼人の子は満面の笑みを浮かべた。