●リプレイ本文
●のんびり行こうか、と思いきや
訪れた村は、どこにでもあるようなのんびりした村だった。
「へえー、結構のどかな村だね」
マリエナ・エレクトリアム(ea0413)は、キョロキョロと辺りを見渡しながらそんな感想を述べた。とても騒ぎが起きてる様には見えなかったのだが。
そんなコトを考えているうちに、どこかの家の中からガシャーンと何かが割れる音がした。
「キャーッ!」
「ちょっとこら、待ちなさい!」
「‥‥もう、素早いったらありゃしない」
思わず聞こえてきた声に、冒険者達は互いに見合う。
「やっぱりやるしかないのよね」
はぁ、と苦笑混じりの溜息をこぼしたのはディーネ・ノート(ea1542)。筋金入りの方向音痴である彼女は、ここに来る道中でも散々仲間に迷惑をかけてきたばかりだ。
そうは言っても、依頼を受けたからには誰もが全力で対処する。
それが冒険者達の暗黙の了解だ。
「それじゃ、俺はとりあえず村の人に聞き込みしてくるな。ついでに罠に仕掛ける肉でも買っとくな」
一人離れたレディアルト・トゥールス(ea0830)が、それだけを言い残して村の中心の方へ歩いていく。普段着のままの彼の姿は、そのまま村人の中に溶け込んだ。
その場に残ったメンバーも、事前に決めていた罠を仕掛ける為、個々に散っていった。
●青い空、白い雲
そしてポカポカとした陽気の下、風になびく真っ白いシーツ。
「うーん、いい天気〜♪ これなら罠にバッチリですね」
パン、とシーツをはたくユージ・シギスマンド(ea0765)。麗蒼月(ea1137)と一緒に村人に借りてきたシーツを、広い場所にテキパキと干していく。さすがに一枚だけでは物足りず、何人かに借りたおかげである意味壮観な洗濯風景だ。
「よーし。これでいいですね!」
「洗って‥‥返せば‥‥いいの、よね?」
「‥‥まあ、そうだがな。さっきみたいないい加減な洗い方じゃ、全然汚れが落ちないからな」
燃えるユージを、隣にいたスタール・シギスマンド(ea0778)が冷ややかな眼差しを向ける。
(「まったく、妙な事に首突っ込みやがって‥‥」)
元来、何事にも面倒臭そうな態度の彼は、迸る情熱で依頼を受けたユージに、仕方なく付いてきたに過ぎない。
が、二人の洗濯のあまりのお粗末なやり方に、思わずスタールは口を挟まずにはいられなかった。口以上に手を出した結果、彼の方が洗濯が上手だったのはお約束かもしれない。
「さて、と。それじゃあ、そろそろ身を隠すぜ」
スタールの言葉にユージと蒼月もそれぞれの物陰に隠れた。蒼月の方は死角の位置で椅子に座っての見張りだったのだが‥‥。
「――zzz、ッ‥‥あ、あれ‥‥?」
寝たふりをしたつもりが、ポカポカとした陽気に晒されて、思わず本気で眠りそうになってしまった。訪れる眠気と必死で戦う姿を、彼女とちょうど反対側に身を隠したディン・オーファ(ea0862)が、ハラハラしながら見守っていた。
(「‥‥なんか、一人にするのが不安なんだよなぁ‥‥」)
イギリスまで連れてきた彼女を不安で見守る。
そんな彼の様子は、どことなく母親のそれと似ているような感じを受けるのは、気のせいだろうか。
●ひそひそと内緒話
うつらうつら、と船を漕ぐ蒼月の耳に届いた数人の子供の声。
『‥‥ぉい、ほら行けよ』
『だって、なんか人がいるぜ?』
『別にいいじゃん。大人じゃないんだしさ』
『ほら、笑ってんぜ。きっとオレらがする事に興味あるんだよ』
‥‥子供達が向ける視線に気付き、にっこりと笑う男の子――のフリをしたフィーナ・ロビン(ea0918)。彼女の思惑通り、足音を殺して近付いてくる子供達は、どうやらフィーナの事を仲間のように感じているようだ。
(「なんとかうまくいきましたわ」)
が、ここで気を抜けば元も子もない。なんとか仲間が捕まえられる位置に、子供達が来るまで気を付けなくては。
やがてシーツのすぐ傍まで彼らは近付いてきた。
周囲に大人の影が見えない事に安心したのか、或いは子供になりきったフィーナの姿に仲間だと考えたのか。それまでのコソコソした態度から一転して、堂々と歩いてきた。
それぞれの手には、泥団子がしっかりと握られている。
「へへ、こうしてやる!」
リーダー格の男の子が指示すると、彼らは一斉にシーツに向かって投げつけた。
ほぼ、同時に。
「うわぁっ、なんだよこれ!?」
悲鳴を上げる子供達の上から、マリエナが網状にしたロープが投げ落とされた。慌てて逃げ出そうとした彼らを、それまで身を潜めていた冒険者達が一斉に取り囲む。
「おっと! 悪戯はここまでだな、悪ガキども」
スタールが手を伸ばして、逃げようとした子供の一人を捕まえる。
その隙に、と脇から飛び出そうとした子の足下へ、ディンのダーツが投げ込まれた。思わぬ足止めに、ビクリと震え、おそるおそる見上げる。
「ゲームオーバーだな」
ひょいっと肩に抱える事でそれ以上の逃亡を阻止する。
「だ、騙したなぁ!」
「嘘じゃないですわ。本当にあなた達がする事に興味があったんですもの」
怒る子供に、フィーナはけろっとした口調で切り返す。
一人、運良く包囲から抜け出した子供もいたが、数歩もいかないうちにディーネのお縄となった。
「‥‥悪戯‥‥する子には、おしおきね‥‥」
「うわっ、ちょっと待て蒼月。あんたがやったら死んじまうって」
蒼月が振り上げた拳を、スタールが慌てて食い止める。
終わってみればあっけない捕り物に、ホッと胸を撫で下ろすユージ。安心すれば、子供達に向かって説教が甦ってくるのは当然で。
「まったくもう、お洗濯って大変なんですよ〜! だいたい大きすぎる悪戯は、悪いことなんですよ。そもそもこの前だって‥‥ぁれ?」
ふと。
彼女の視界に過ぎった物体。思わず言葉が止まり、その影の方へ顔を向ける。他の冒険者達もそれにつられるよう、視線を影に向けた。
そこには――あどけない瞳で見上げ、パタパタと尻尾を振る姿がいた。小首を傾げ、大きな目がそっくり冒険者の顔を映す。時折、「キュゥ〜」と啼く声がまたたまらない。
まさに母性本能を刺激する物体。
「いやぁん、可愛い〜〜!」
「ど、どうしようかしら‥‥」
女性陣から上がった一斉の賞賛。その張り上げた声にビックリしたドラゴンパピィは、一転して一目散にその場から逃げ出した。
「あ、こら待ちやがれ!」
待てと言われて待つバカはいない。
ましてや相手はドラゴンだ。人の言葉なんか理解できる訳もなく。
時間無制限、ドラゴンパピィ追いかけっこ争奪戦が意味もなく始まった。
●かくして、追いかけっこの顛末は
「よし、と。肉の仕掛けはこんなもんだな」
村人に聞いた幼竜の出現場所に中りを付け、レディアルトは罠を仕掛けてみた。もっとも引っ掛かってくれるという自信はあまりなかったが。
それでもやらないよりはマシだ、とばかりにご丁寧に注意書きの張り紙まで付けてみた。
「さて、後はこの辺に身を隠して‥‥」
「――ちょっと待て、このぉ!」
「きゃーそっちに行ったわよ」
「えーいちょこまかと」
「‥‥なんだぁ?」
近付いてくる喧騒。
いかぶしげに振り返れば、仲間の姿が村のあちこちで息を切らしている。さらによくよく見れば、彼らは何か小さな物体を必死で追い回しているようだ。
「おーい、そっちにいたか?」
「くっそぉ見失っちまったぜ」
「あ、あそこ!」
誰かが指を差す。
つられてレディアルトも、その方向を見ようとして――ドカッ!
‥‥視界がいきなり暗闇になり、そして。
「‥‥キュ〜ゥ?」
鳴き声が、耳のすぐ傍で聞こえたりする。顔面にしがみつかれたその生き物は、なにやら鼻をフンフンさせている。
と、同時に。
盛大な音を立てて誰かのお腹が鳴り響いた。
「‥‥腹へってないか? 肉やるぞ」
仕掛けた肉を指差せば、小さな生き物――ドラゴンパピィは嬉しそうに鳴いて勢いよくむしゃぶりつくのだった。
●お仕置きしましょう♪
「ほら、ちゃんと汚した洗濯物をぜーんぶ洗うまで駄目だからね」
「あとは、散らかしたお家のお片づけだよ」
ユージとマリエナの監督の下、子供達はぶーぶー文句を言いながら洗濯をさせられていた。勿論、逃げだそうとする子供もいたが、思わぬ鞭がフィーナの手から飛んでくるので、逃げ出すことも出来ないようだ。
「‥‥もぅ、いっぱい、喋ったわ‥‥疲れた‥‥」
溜息をついて黙り込む蒼月の傍で、ディンがただ苦笑を浮かべながら見守っている。
捕まえた幼竜は、というと。
「お前‥‥こんなところにいないで親の場所へ帰れよ、な?」
「も〜やんなよ?」
レディアルトとスタールに撫でられてゴロゴロと喉を鳴らす。
「ほら、行けよ」
そこは、村の外れの森。
二人に連れてこられた幼竜は、名残惜しげに見送られながら、親のところへと帰されたのであった。