【子供の領分】只今清掃中!
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■ショートシナリオ
担当:葉月十一
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 52 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月18日〜12月23日
リプレイ公開日:2005年01月05日
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●オープニング
学園都市ケンブリッジ。
多くの少年少女が希望ある未来を夢見て、何かを学ぼうと集まってくる地である。その学舎の数は数十とも数百とも言われ、集まる者達はそれこそ種族や階級も様々だ。
それ故に。
人と人が衝突するトラブルもまた絶える事がなく。
結果――生徒達の手による解決を求め、ケンブリッジギルド『クエストリガー』が設立されたのであった。
●悪戯の罰は?
「なあ」
「ん?」
「なんで俺ら、こんなトコにいるんだ?」
「‥‥掃除する為だよ?」
今更何を、そんな顔で隣にいる友人をナギは見た。呆れたような視線にグッと言葉を詰まらせながら、それでもアルは再度質問を繰り返す。
「なんで俺らが、こんな何年も使ってなかった倉庫を掃除しなけりゃならないんだよ?」
ピシ。
聞いた途端、二人の間の空気が割れた。
次の瞬間、ナギは手にしていた雑巾を思いきり投げつける。かわす間もなく、モノの見事にアルの顔面へと命中した。
「いっでぇー、何すんだよ!」
「アル、本気で言ってるの? どうしてだって? そんなの、お前の所為に決まってるじゃん!」
「う‥‥」
怒り沸騰のナギに詰め寄られ、今度こそアルは言葉に詰まる。
「だいたい先生達に悪戯しまくったのはアルの方だろ? それなのにオレまで巻き添えくってさー」
本当なら今日は、人の場所なんかじゃない、自分の部屋を掃除しようと思っていたのに。
二人一緒に呼び出され、弁解する余裕さえ与えずに罰当番を受けてもらう形となった。それも、よりにもよってここ数年まったく使われず、殆ど倉庫と化していた教室を。
あちこちに魔法で使われたと思われる道具が散乱し、大量の埃が舞っている。
「まったく‥‥なんでオレまで」
「そう言うけどな、お前だって悪戯には乗ってきたじゃんか」
「う」
結局どっちもどっち、といった感じで。
そのまましばらくは文句を言いつつも掃除をしていたのだが。
「あーもう! やってもやっても終わんねえー」
最初に投げ出したのは年が上のアルの方で。
その後結局、ナギの方もさすがに疲れてきたのか手を休め。
「――なあ?」
「ん?」
ニヤッと笑うアル。
彼がそんな顔をする時はろくな事を言わない、と経験上知っているナギ。思わず知らんぷりを決め込もうと思った矢先。
「どうせなら手伝いが欲しいよな?」
「‥‥そりゃあまあ、さすがにこれだけ汚いと二人じゃあ」
「ならさ、手伝ってくれるヤツ集めないか?」
「はぁ?」
「ほら、ギルドに依頼って形でさ」
「――えぇ?! ちょ、ちょっとそれって」
「おーイイ考え、よっし決めた!」
「アル!」
呼び止めるのも構わず、アルはさっさと飛び出していった。
その姿を茫然と見送るナギ。
「‥‥オレら、罰当番受けてるのに‥‥先生にバレたらどうすんだよ‥‥」
盛大な溜息とともに、一人残された少年はボソリと呟いた。
●リプレイ本文
●まずは御挨拶
二人の少年達を前に、集まった冒険者達は口々に挨拶を始めた。
まず最初に口火を切ったのは、上品な雰囲気を漂わせる神聖騎士のラス・カラード(ea1434)だ。
「初めまして、ラス・カラードと申します。アル君、ナギ君、一緒に掃除を頑張りましょう」
明らかに大人であるにも関わらず、彼は二人に対して礼節ある態度で応じる。さすがの子供達も思わず身ずまいを正す程だ。勿論、これは二人にキチンと掃除をやらせるラスの作戦でもあった。
次いで挨拶をしたのは、にこやかな笑みを浮かべるアルメリア・バルディア(ea1757)。
「お二人とも元気そうでなにより」
以前のケンカ騒動で二人の仲裁をした彼女は、今の仲良しな様子を見て改めて安堵した。
そうは言っても今回の仕事は、二人の罰当番の手伝いだ。あまり気乗りしないのも事実だが。
(「‥‥アル君もナギ君も放っておいてもサボりそうですしね」)
「二人の罰当番なのに、手伝っても良いのかなぁ?」
どこか心配そうに呟いたのは、少年達より年下の少女システィーナ・ヴィント(ea7435)。先輩二人が困っているから、とギルドの依頼を受けたものの、罰当番と聞いて少々後込みしているようだ。
「そんなの、別に依頼するなって言われた訳じゃないしな」
などと堂々と言い張るアルに、ナギが背後ではあぁと溜息をつく。
「あ、でも、その‥‥」
「バレなければいいのよ。ほら、こっそり行けばいいんだって」
なおも躊躇うシスティーナを、フォリー・マクライアン(ea1509)がにっこり笑って後押しする。
どこか瞳がキラキラ輝いているように見えるのは、きっと気のせいに違いない。決して、埃だらけの開かずの倉庫という宝でも埋まってるんじゃないか、というシチュエーションにワクワクしているからではない‥‥多分。
結局。
フォリーに流されるままにシスティーナは掃除を手伝う事となる。
「ありゃ、罰当番でげスか。クニじゃ経験した事がないので、新鮮でげスなぁ」
少し訛りのある喋りをするミハイル・プーチン(ea9557)。
にこにこと愛想のいい顔を浮かべる彼だが、その実ロシア出身のハーフエルフである。冒険者仲間には自らの素性をこっそり話しているが、少年達には内緒にしていた。特徴的な耳も、毛皮がもこもことした帽子の耳当て部分で隠している。
(「忌避の目は仕方ないでげスが、無闇に晒すもんでもないでげスから‥‥」)
少し小太りなお腹をさすりつつ、彼はそう考えていた。
「さて、それではそろそろ始めましょうか」
締め括ったラスの言葉を合図に、彼らはぞろぞろと件の教室へと移動を始めた。
●抜き足、差し足‥‥
「――忍び足、っと」
フォリーを先頭に、誰もが足音を立てずにこっそりと教室に入っていく。そこに広がる光景を目の当たりにした時、冒険者の誰もが目を見開いた。
「‥‥これは」
「想像以上ですね」
「うわーうわーすっごーい」
「大変だな、さすがに」
口々に零れる呟き。
無理もない。数年来の塵や埃は一歩踏み出すたびに宙に舞い、床にくっきりとした足跡を付ける。ところどころに張った蜘蛛の巣が破れているのは、おそらくアルとナギが掃除をしようとした名残だろう。無造作に置かれた荷物の山は、はたして貴重な物もおそらくある筈だ。
「これ‥‥なんだ?」
思わず手にした小物を見ながら、デュクス・ディエクエス(ea4823)がぼそりと呟く。表情は無愛想だったが、滲み出るオーラは興味津々だ。
問われたアルも、またうーんと考え込む。元々頭を働かせるより体を動かす方が得意な彼だ。こう喉まで出かかってるのだが、肝心の答えが出てこない。
「それは魔法用スクロールの切れ端だよ。そいつに特殊な文字列を書けば、魔法と同じ効果が得られるんだ」
思わず助け船を出したナギ。
そうか、と一言呟いて、デュクスはすぐに頭を掃除へと切り換えた。いつもの装備と違い、両手にははたきと箒を、兜の代わりにほっかむりをする。
「え、えらく気合い入ってんな‥‥」
「当然だ」
依頼とあらば何でもこなす。どこか不器用でありながら、彼は黙々と掃除を始めていった。
同じく、教室の片隅で黙々と――というよりは、こそこそと掃除をしている人影がある。神聖騎士のハーフエルフであるミーシャ・クロイツェフ(ea9542)だ。
「‥‥くっ」
何故か打ちひしがれたような背中。
彼の中では『密かに手伝う』=『こそこそと身を潜める』=『影でこそこそする』という三段論法になっていたようだ。いや、別段隠れる必要もない、とは言えないが、依頼人である少年二人――主にアルの方――が気にしてない以上、そこまでこっそりする必要もあるまい。
(「‥‥依頼人から依頼を受けたからには、要望に応えねばならぬ。これも、ハーフエルフの地位向上のためだ。今は、耐えるのだ」)
グッと小さく拳を握りしめる。
‥‥その手に埃まみれで汚れた雑巾を持っていた事も忘れて。慌てて雑巾と手を洗う為にバケツに走ったのは言うまでもない。
●その頃の教師は
「先生さ〜ん、私、この学園とても気に入りましたァ♪」
ゆっくりと手にしたカップに口を付けた後、コーダ・タンホイザー(ea8444)は陽気に語りかけた。軽くウインクなんかして、チャームの魔法をかけようと懸命に努力するが‥‥。
「――そうか」
どっしりとした低重音が、朗らかな雰囲気を一気に下降させる。チラリと視線を向けた先にいるのは、厳めしい顔をしたいかにも強面するような男性教員だ。
思わず引きかけるが、こちらとて仕事だ。なんとか彼をこの場に食い止めないと‥‥それだけをコーダは心に強く念じる。エルフであるこの身、伊達に100年以上生きてはいない。
「そ、それでですねェ、先生さん、私、この学園のこと詩にしたいと思いまァす。ですから私、先生さんに、この学園での出来事、色々たくさん聞きたいでェす!」
あくまでも陽気に。
己のスタンスを崩すことなく彼は喋る。例え相手の反応が猛吹雪荒れ狂うブリザードであったとしても、だ。
「‥‥俺、からか? それなら他にも適任者が‥‥」
「いえ、先生からが、いいのでェす!」
なるべく時間を延ばすべく、その後の彼の奮闘が始まる‥‥。
●かくして
「さあ、掃除を頑張れる魔法のおまじないをかけました。さっさと終わらせてしまいましょう」
ラスが与えたのがグットラックの魔法。全ての行動がテキパキとこなせるように、と仕掛けたものだったが、効果はそれなりにあったようだ。
サボりがちだったアルにハッパをかける役目は、フォリーの役目だ。
「こら! 当事者が掃除しなきゃ、罰当番の意味無いんだってば〜」
「うっへぇ〜」
「‥‥ええっと、これらの物は全部纏めておいたほうがいいですね」
床の掃き掃除や机を拭きながら、アルメリアが置かれている様々な道具に付箋を付けていく。さすがにうっかり触って壊してしまった日には目も当てられない。
それらを興味深げに眺めていたデュクスも、慌てて首を振って掃除に意識を戻す。やはりその辺は知りたいお年頃なのだろう。そして我関せず、で黙々と掃除をしていたのだが‥‥。
「うわっ」
バタン。
もわぁぁ。
‥‥折角綺麗になった場所が、あっという間に埃まみれ。
「――ッ!!」
鋭い眼光で睨まれ、アルは思わずヒッと怯えて後退った。そんな様子を横目で見ながら、ナギがやれやれと呆れ気味に溜息をついた事は言うまでもない。
「もう、アル先輩。ちゃんと掃除やらないと!」
バッと箒を差し出したシスティーナ。さすがに年下の女の子に指摘され、ばつの悪くなったアルは渋々箒を受け取る。
「ほら、そこ掃いて」
「へ〜い」
生返事ながらもせっせと箒を動かすアル。
「おっまえ、女の子には素直だよな」
茶化すナギに顔を真っ赤にしたアル。その様子を見ていた周りの冒険者達は、思わず笑い出していた。
「やれやれ、しょうがないヤツだな」
同じように思わず笑みを零したミーシャ。掃除途中とはいえ、思わず手を止める。
と。
「――あ、危ないでげス!」
隣にいたミハイルが咄嗟に手を伸ばす。うっかり肘に当たった小物が、その拍子に落下しそうになったのを慌てて受け止めた。
「‥‥と、悪い」
「いやいや、いいんでげスよ」
互いにこそっと言い合う二人。ハーフエルフの身である故、こういう時にうっかり魔法の品物でも暴走させてしまえば、またあらぬ中傷の的になりかねない。
地位向上を担うミハイルにとっては、まさに危機一髪だった。
やがて。
全員の努力の甲斐もあって、物置と化していた教室は見違える程の綺麗さを取り戻した。あちこちにあるがらくた‥‥もとい、授業で使う魔法の品々に関しては、極力触らないようにして一カ所に集めておいた。
「これは後で先生にお願いした方がいいよね」
そう言ったのはフォリーだ。
「これに懲りたら、もう悪戯はしないことです。今度は手を貸しませんからね」
アルメリアが軽く説教してみるが、神妙にしているのは今だけだろう。きっとまた悪戯を繰り返して、教師に怒られるに違いない。まあそれも若さというものか(ぇ)。
「それじゃあ軽くお茶にしましょうか?」
綺麗になった教室で、ほんの暫しの休憩を。
その時の彼らは知らなかった。この後に起こる大いなる災い――近付く大きな黒い影に、気付くことなく。
「ちょ、ちょっと先生さァ〜ん! 話を聞かせて、いや聞いてくださァい!」
どれだけ羽交い締めしようとも前進を止めない塊を前に、コーダの叫びが虚しく響く‥‥。