【怪盗の影】VSマッチョ ざ Ripper
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■ショートシナリオ
担当:葉月十一
対応レベル:1〜4lv
難易度:やや難
成功報酬:1 G 44 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:01月24日〜01月31日
リプレイ公開日:2005年02月01日
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●オープニング
「なにっ! そんなコトがあったのか?!」
とある街。とある酒場。
片隅のテーブルで大きく声を張り上げた男がいた。屈強な肉体を惜しげもなく晒した素肌、上半身は何も着ておらず、あるのはただ腰布一枚のみ。
周囲の奇異な視線を全く気にすることなく、男はガバッと立ち上がる。その拍子にチラリと零れた何かに、数名の客は意識を遠くした。
「怪盗ファンタスティック・マスカレード‥‥成る程、そんな手段があったのか」
「ああ。昨年の暮れに現れて以来、一躍有名になったらしいぜ」
目の前に座るのは、こちらも負けず劣らずのガタイのいい男――その巨体からジャイアントだと思われる。身に付けているものはといえば、ジャパンより伝来した褌一丁のみ。
「ヤツは、一部義賊としても名が上がってるらしいからな。どうだ、ここは一枚俺と組んで、世間をアッと言わせてみねえか?」
「いいだろう、狙うは悪徳商人どもだ!」
がっちりと極太の腕で酌み交わされる光景は、あくまでも近寄りがたい雰囲気に包まれていた‥‥。
集まった冒険者達は、げんなりと焦燥している受付の親父を見て、皆怪訝な顔になった。どこか嫌な予感に襲われながらも、今更後戻り出来ない事を彼らは男の言葉で知るのだった。
「とりあえず仕事だ‥‥お前ら、ファンタスティック・マスカレードって知ってるか?」
「去年の事件の件だろ? 今じゃあすっかりキャメロット中でその話題が持ちきりだぜ」
「ああ、そうだ。しかも、最近じゃあ模倣犯まで出る始末だ。その内の一組やられた被害者が、依頼を出してきてな。その外見っつうのが‥‥」
親父は一旦言葉を切り、はあっと大きな溜息をついた。
そうして、重々しく開いた口から語られたのは。
「被害者の目撃証言じゃ、相手は二人組の屈強の大男だという話だ。どちらも素肌をさらけ出し、片方は腰布一枚、もう一人も褌しか身につけてない。それにだな‥‥そいつらは、覆面をしているそうだ」
「覆面?」
「ああ。二人とも、その、なんだ‥‥白い褌を頭に被ってる、らしい」
語尾を本当に言いにくそうに語る親父は、明らかに苦悶の表情を浮かべている。どうやらその相手に心当たりがないでもないらしい。
「連中は怪盗ってよりも、半分追い剥ぎに近いからな。街道沿いでも張ってれば現れるだろう。ただ、一応本人達は義賊を名乗ってるそうだからな。ま、程々にしといてくれや」
そこまでを聞いてギルドを出ようとした冒険者達の背に、受付の親父は最後に付け加えた。
「それとだな、こいつはついでで構わねぇんだが、本家ファンタスティック・マスカレードの動向も調査しといてくれや。あっちも見逃すわけにはいかねえからな」
それを聞いた彼らは、本家も変態だったら‥‥なんて考えが一瞬頭を過ぎり、重い足取りが更に重くなったのを感じた。
●リプレイ本文
●噂
キャメロットのとある酒場。片隅のテーブルで顔をつきあわせている二人の男がいる。
そして、彼らの様子をじいっと眺める視線も。
「彼らで間違いないであるか?」
「ええ。あの時の二人ね。ふふっ‥‥可愛いこと」
様子を窺う視線の一つ、天宵藍(ea4099)の問いに同じように眺めていた翼天翔(ea6954)が苦笑と共に答える。先の事件を思い出し、彼女は色っぽい流し目を浮かべる。
「軽く挨拶しておこうかしら」
「いや、それはさすがに‥‥変装した方がいいであろう」
「貴方のように?」
おかしそうな視線を向けられ、宵藍もさすがに口ごもる。今の彼は、普段はきちんと纏めている髪をほどき、分け目を変えて傷を隠している。更に言うなら、ぴっしりと身体のラインが露わになる華国礼服に身を包んでいた。
その格好に、酒場のあちこちからチラチラと視線が集まってくるのは否めない。
「ふふ、よく似合ってるわよ。さすがは二丁目の女帝ね」
「は、はは‥‥」
女性である天翔に褒められても、別段嬉しくないのは何故だろう。思わず遠い目をする宵藍である。
そんなやり取りを二人がしている間、男達に近付く影があった。
「お水いかがですかぁ〜?」
酒場の給仕の格好をしたお姉さん――もとい、人遁の術で変装した遊士燠巫(ea4816)だ。そして彼は、近付いていった二人の男に今回の囮で使う悪徳商人の噂を聞かせ始めた。
「なに、そんなに悪徳なのか?」
「ええ、もう‥‥それこそ酷い取り立てもしてるって事ですよ。誰かなんとかしてくれないかな〜」
少し前のめりになり、チラリと肌を見せながら彼らの行動を奮い立たせようとする。
内心、
(「勘弁してくれ〜」)
などと叫んだかどうかは、燠巫のみぞ知るところ。
「な〜に心配すんな。そんな連中はすぐにでもいなくなるだろうぜ!」
「ああ、そうだな」
そう言った男達は、その大きな体を自慢げに見せながら、大声で笑いながら酒場を出ていった。その後ろ姿を見送りながら、給仕姿の燠巫と、こっそりと隠れていた宵藍と天翔は、互いに顔を見合わせて笑みを交わした。
●囮
カッポカッポと蹄の音を立てながら、街道沿いを荷馬車が行く。その荷台の上、筵を被った隠れているのは冒険者達。
「へへ、本物の変態に会えるなんて嬉しいぜ。なにしろ今までは報告書の中か、冒険者の中に潜む変態しか目にしてないからな。あーわくわくするぜっ」
逸る気持ちを抑えきれないのは、フランク王国出身のロート・クロニクル(ea9519)だ。
本来、イギリスの民俗学の調査に来たはずだが、ここ最近はもっぱら変態の調査に明け暮れている。むしろ、徐々に朱に染まりつつある気がするが、おそらく本人は気付いてないだろう。
「変態か‥‥」
ボソリと呟いたのはアルヴィン・アトウッド(ea5541)。
酒場やギルドに頼み、ついつい本物の怪盗も変態らしい‥‥いや、更に上をいく変態、むしろ褌仮面を手下として使ってるんじゃないか、という噂を流してみた彼だった。本物が聞けば腹を立てそうな噂だったが、あまり有効な手段でもなかったようだ。
情報が得られなかった事に、彼は筵の中で小さく溜息を吐いた。
「それにしても‥‥その変態の更正って出来るのか?」
思わず零れた燠巫の言葉に、ロートがグッと拳を握る。
「へっ、学習しないバカ野郎にかける情けはねぇよ」
「そうだな」
血気逸る若者の言に、最年長のエルフがただ静かに同意する。
「‥‥と、そろそろだな」
気配を察知した燠巫は、他の仲間に合図して沈黙した。
荷馬車を引くのは、マントで身を包みフードを深く被った商人の従者――を装う天翔。その後ろでは、顔の傷に手を加えてブラックローブと鞭を身に付けた宵藍が座っている。言わずと知れた悪徳商人のつもりだ。
「クックック、今日も大繁盛でしたね、御主人。正直者がバカを見る、実に良い世の中なのですよ‥‥」
隣では用心棒のつもりのイドラ・エス・ツェペリ(ea8807)が、さも悪どい事でもしてる風な事を大声で言っている。
「‥‥(小声で)少しやりすぎではないのか?」
「(同じく小声で)何言ってるのですか。これぐらいの方が、連中のやたら強い正義感を刺激するんですよ」
(「‥‥そんなものであろうか」)
少々気恥ずかしいものがありつつも、イドラの演技に合わせようとする宵藍。
「ほら、なにをしておる。さっさと飲み物を持たぬか」
「は、はいぃ」
返事をしたのは、小柄で幼い容貌のイリヤ・ツィスカリーゼ(eb0603)。いや、容貌だけでなく、年齢も本当に幼く、今回の囮では悪い商人にこき使われている哀れな少年を装っていた。
ちょこまかと動くその姿は、幼いが故にいっそうの哀れさを誘う。が。
(「えへへ。イギリスに来たばっかなのに、キャメロットで有名な変態さんに会えるなんて、僕って運がいいよね♪」)
などと、少々的の外れた期待を胸に抱いているとは、誰も夢にも思わないだろう。
(「あ、でも‥‥褌って何だろう? 後で皆さんに聞いてみようかな」)
彼がそんなことを考えていたら、途端に大きな声が響く。
「ほら、何をしてるの! さっさとしなさい!」
「あ、ごめんなさい!」
イドラに怒鳴られて、イリヤは思わず身体を竦めた。
――その時。
●褌
「そこまでだっ!」
突如、街道に響く声。
「幼い子供を虐げ、悪徳の限りを尽くす輩よ! 我ら、褌仮面が成敗致すぞ!」
そして姿を見せたのは――依頼人の商人から聞いたとおり、頭にはしっかり褌を被り、他に身に付けているのは片や腰布、片や同じ褌一枚のみ。腰布の男は、人間でありながらかなりの屈強の肉体に、手にはナイフを携えている。もう一人の男はおそらくジャイアントだろう、かなりの巨漢だ。
そのあまりの変態ぶりに思わず頭を抱えててしまう宵藍とイドラ。
「は、破廉恥な! 恥を知りなさい、恥を!!」
取り敢えず真っ赤になって常識的な反応示すイドラ。それとは対照的に、イリヤなどは目を輝かせているから少々先行きが不安だ
「さあ、神妙にするんだな!」
じりじりと近寄ってくる二人の裸の男。
それに対して、フードを被った従者――天翔が小さく溜息をつく。
「まったく‥‥貴方達ときたら」
「お、お前は!?」
正体を見せた彼女に、相手はお約束のような反応を返す。思わず後ずさりしたそのタイミングを見計らい、荷台に隠れていた者も一斉に姿を現した。
「変態ども! 覚悟しな!」
飛び出したロートがとっさに高速でストームを詠唱する。巻き起こる暴風――だが、男達はその太い足でしっかりと耐え凌いでいた。
軽く舌打ちするロート。
直後、アルヴィンが詠唱したのはウインドスラッシュだった。
「――風の牙!」
「むぅ!」
多少のダメージを与えてはいるが、その頑強な肉体はビクともしない。その抵抗を見たイドラが、彼らの股間を狙うべく武器を構える。
「ふははっ、どうした! どうやら我らを待ち構えていた悪徳商人のようだが、この程度か!」
‥‥あくまでも自分達が正義であると主張したいらしい。
が、ちょうどそこへ響き渡る声があった。
「お――――っほっほっほっほっほっっ!!」
「だ、誰だ!?」
高笑いは‥‥どうやら街道沿いにある木の上からだ。ハッと見上げたその先には、豪華なマントに身を包み、その手には長いホイップを持った女性――アミィ・アラミス(ea8955)の姿があった。
「天知る地知る、知る人ぞ知る! 正義と平和と個人的な何かを守るため、真打・怪傑ブラッククイーン只今参上! 正義を騙り蛮行に走る褌仮面、わたくしの都合により成敗致しますわ!」
とう、とジャンプしたと同時に振り下ろされた鞭が褌仮面――腰布男の急所を直撃する。
「ぐぉぉぉぉ!!」
「‥‥ありゃあ痛いわ」
悲鳴を上げる男に、冒険者の男性陣は誰もが思わず股間に手をやる。ハラリと腰布が無残に散り、その男は悶絶して倒れた。
慌てたのはジャイアントの男だ。思わぬ相手の出現により、相棒が倒されたのだ。このまま反撃するのかと思いきや‥‥。
「お、覚えてろよ!」
敗者の捨て台詞を言い放ち、一目散に逃げようとした。
が、それより早く、背後に忍び寄っていた燠巫に首根っこあたりを思いきり殴打される。そうしてトドメとばかりに、イデアのダブルアタックが男の急所を直撃した。
「今後、そんなふざけた悪行が出来ないように‥‥あなたの『男』を砕きますッ!!」
変態さん撲滅。かくして依頼は無事に終結した。
●説得(無駄な足掻きと思いつつ‥‥)
「全く、義賊と名乗りつつ真っ当な商人を襲うとはなんたる痴れ者! これでは褌と腰布を見誤った過去から成長しておらん。心の目でしかと見よ! そうして真実を見定めた時こそ」
男達を前に、宵藍が自らのブラックローブを脱ぎ捨てる。
そこに現れたのは‥‥伝説の女帝。「おおっ!」と男達に感嘆の声が上がる。
「‥‥主らは真の男となろう」
――その姿では説得力どうよ、そう思うのだが、本人えらく大真面目だし。男達も感銘を受けているようだ。
「義賊を名乗る‥‥いや、怪盗ファンタスティック・マスカレードみたいになりたいのなら、コレぐらいの変装は出来るようになってからやれやっ!」
人遁の術による燠巫の七変化‥‥給仕のお姉さんやでっぷりした商人など、様々に変化する彼に、男達もまた驚きの声を出す。
そして、もう一度お姉さんの姿に変わった時、ぐいっと顔を近付けて‥‥。
「いくらかっこよくても犯罪である事には変わりないんだから、その辺をよーく理解するようにねっ!」
姿に合わぬドスの効いた声で、彼は男達を黙らせた。
「おまえらが有名になろうが、義賊になろうが、知ったこっちゃない。変態も大いに結構。俺の調査の役立つんだからな、適当にやってろ。けどな、同じ間違いを繰り返して人に迷惑をかけるって、おまえらわかってんのか?」
一気に言い放つロートの横で、イリヤが無邪気な顔でこう言った。
「お兄さんたち、ファンタスティック・マスカレードの偽者って知ってる? 最近、街の人達みんなが困ってるんだ。悪いことしてないのに突然襲ってくる二人組がいるって」
その純真な笑みは、さすがに男達の胸に響いたのかぐうの音も出ないようだ。
「ま、これからは真っ当に生きてくんだな。迷惑かけねえようによう」
「やれやれ。お前ら、所詮他人の真似などしても、めだつことなぞ出来んぞ? かえって本物を引き立てただけだな」
冷たく言い放つアルヴィンにすっかり項垂れる男達。
「それで? お前さんらは本物を知ってるのか? まさか、本当に手下って訳ではないよな?」
そう聞く彼に、二人はブンブンと首を横に振るのだった。
●報告書・追記
褌仮面達からは情報を仕入れる事は出来なかった。そもそも彼らは何も知らなかったのだから。
が、唯一宵藍が、今回の依頼者から怪盗に関しての情報を得る事が出来た。それによると長い黒髪に真紅のマスカレードをした人物とのことだ。もっともそれすらも真実の姿かどうかは謎らしい。
以上、今回の報告として付け加えておく。