【子供の領分】料理は哀だ!

■ショートシナリオ


担当:葉月十一

対応レベル:1〜4lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 0 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月25日〜01月30日

リプレイ公開日:2005年02月03日

●オープニング

 学園都市ケンブリッジ。
 多くの少年少女が希望ある未来を夢見て、何かを学ぼうと集まってくる地である。その学舎の数は数十とも数百とも言われ、集まる者達はそれこそ種族や階級も様々だ。
 それ故に。
 人と人が衝突するトラブルもまた絶える事がなく。
 結果――生徒達の手による解決を求め、ケンブリッジギルド『クエストリガー』が設立されたのであった。

●哀のエプロン、その結果‥‥
 ガタン。
 音を立てて崩れ落ちる友人の姿を、ナギはどこか茫然と眺めていた。ハッと気付いた時には、友人――アルは床の上に倒れたところだった。
「ア、アル! 大丈夫か?!」
「‥‥ッ‥‥」
 身体を丸めて踞るその姿に、慌てて駆け寄るナギ。ガバッと抱き起こしてみたものの、苦悶の表情に顔を歪めるばかりで、まるで反応がない。
「いったい、どうして‥‥ッ」
 返事のないアルに、なおいっそう顔色が蒼くなる。
 慌てて症状を確認するも、自分には判断つかない。いっそ自分の無力さを悔いるばかり。
 その時、以前聞いた噂を少年は思い出した。
「‥‥そういえば、あれは‥‥確かここに」
 机の上に散らばっている羊皮紙をあっちこっちひっくり返し、懸命に資料を漁る。そうして手にしたのは、先の授業で図書館から借りてきていた一冊の本。パラパラと捲って見つけた先にはどんな万病にも効くとされる薬草が記載されている。
「これだ。確かこのケンブリッジにも‥‥」
 ここ、ケンブリッジの外れにある森のどこかにある、という噂をナギは以前聞いたことがあった。確証のない噂だが、今はそれに縋るしかない。
「待ってろよ、今すぐ助けてやるからな!」
 一人での捜索は無理でも、『クエストリガー』に集まる人達も一緒ならなんとかなる。そう考えたナギは、文字通りあっという間に部屋を出ていった。
 後に残されたのは、床を這い蹲るアル、‥‥と他数名のルームメイトやクラスメイト達。
「‥‥バッ‥‥ナギ‥‥これ、お前の‥‥りょ、う‥‥り」
 バタリ。
 お腹を押さえた格好のまま、アルは白目を剥いた気絶した。

●今回の参加者

 ea0693 リン・ミナセ(29歳・♀・バード・人間・ノルマン王国)
 ea5420 榎本 司(31歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea6832 ルナ・ローレライ(27歳・♀・バード・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea7435 システィーナ・ヴィント(22歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea7578 ジーン・インパルス(31歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea8088 ガイエル・サンドゥーラ(31歳・♀・僧侶・エルフ・インドゥーラ国)
 ea8761 ローランド・ユーク(32歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・フランク王国)
 ea8877 エレナ・レイシス(17歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

●慌ただしい準備
「アル先輩が大変なんですか?!」
 バタバタという足音とともに、システィーナ・ヴィント(ea7435)が蒼白の様子でギルドへとやってきた。噂を聞きつけたのだろう、かなり慌てている。
 詰め寄る彼女に、ナギもまた焦る色を隠せずにこくりと頷いた。
「あ、ああ。いったいどうしてこんなことに‥‥」
 分からない、といった様子の彼。
 更に問い質すと、ナギのクラスメートも同様の状態だという話だ。
「ええっ、皆さんの手当ては? 先生呼んだんですか?」
「ちゃんと治療棟へ送ったのか?」
 ジーン・インパルス(ea7578)にも同じように聞かれ、ナギはそのままにしてきたことを思い出す。
「お、おれ‥‥」
「とりあえずギルドの人にそいつらの面倒を見て貰うように頼もう」
 救命士としての本分から、ジーンはギルドの人間に病人の様子見を頼んだ。
「‥‥危篤状態、という話ですわね。私達も力を貸しましょう」
 友を助けたいと願うナギの真摯な態度に、ルナ・ローレライ(ea6832)は心を打たれる。そのまま二手に分かれての森への探索を提案した。
「いくら学園の近くとはいえ、やはり土地勘を持っている人を中心に探した方がいいと思いますの」
「現状、一刻を争うのだな? ならば急ぎ立った方がいい」
 歩きながらでも班分けは出来る、とはガイエル・サンドゥーラ(ea8088)の弁。
 ようやく訪れたケンブリッジ――学び舎である都市に冒険者ギルドがあると聞き、多少の違和感も手伝ってここへ訪ねてきた彼は、早速の依頼者のその心意気に少なからず感銘を受け、その依頼を受ける事にしたのだ。
「ふっ、俺でよければ力になるぜ?」
 ニヤッと笑うのは、どこか飄々とした印象を持つローランド・ユーク(ea8761)だ。表面上はいかにも心配してるふうを装っているが、内心はお金の事しか頭になかった。
(「その薬草‥‥売れば儲かる! 学費と酒場の借金払ってお釣りがくるぜぇ!? さらば極貧!」)
 胸の内でガッツポーズを作りながら、優しい先輩のようにナギの頭を軽く撫でた。
「それでは急ぎましょう!」
 纏めるように上げたルナの声を合図に、冒険者達はナギと一緒に森へと向かうのだった。

●森の中へ
 森へ入るなり、二手に分かれた一行。その片方のグループの中で、ナギが持っていた本を借りて例の薬草のあるページを榎本司(ea5420)は熱心に読み込んでいた。
「そういえばこの薬草、実際に見たこと人いるのか?」
 その問いに答える者は誰もいない。実際に、依頼人であるナギも見たことがないそうだ。
 ただ、授業で習った事と、その際に聞いた「ひょっとしたら森にあるかもれない」との噂だけが今回の調査の頼りなのだ。そうなると、無駄足を踏むことだって有り得るだろう。
 そこまで考えて、司は倒れたというアル達の容態を心配した。
「具合の状態はどうだったんだろう?」
 かなりバタバタと出発したが、とりあえずギルドの人間に看病してもらおうよう取りなした。なんとか落ち着かせたナギの言からはかなり切羽詰まっていると思われているが、毒でも飲まない限りそうそう危険な目にあうとは考えにくい。
 どちらにしろ、薬草が見つかる見つからないに関わらず、早めにケリを付けた方がいいだろう。
「そっちはどうだ、リン?」
「うーん、こっちにはそれらしいのはないですね〜」
 呼び掛けられ、リン・ミナセ(ea0693)は首を横に振る。情報を教えられたまま、その植物を探してみたがなかなか見つからない。植物知識があるとはいえ、細かい形状まで調べきるのはまだまだ経験不足だ。
 とにかく彼女は、見つからない場所に何度も印を付けておいた。
「ナギさん凄く必死でしたね」
「そりゃあ友達が倒れたんだ。心配もするだろう」
「絶対頑張って探しましょうね、司さん!」
 そんな二人から少し離れたところでは、ガイエルが熱心に草を掻き分けていた。先日の雪がまだ残っているところもあり、その雪かきもしているのでかなり指先が冷たい。
「ふむ‥‥おおよその形状は分かったが‥‥さすがにこの中から探すのは」
 一言に森と言ってもかなり広い。
「せめてどの辺りに生えているか分かればよかったのだが」
 そもそもここにある、という事自体が噂でしかない。
 そうなると‥‥。
「それでもギリギリまで尽力してみるか」
 周囲を警戒しつつ、彼は黙々と進んでいく。

●看病?
「ええっと、アル先輩の寮って確かここですよね!」
 システィーナが真っ先に向かったのは、アルが倒れてるという寮の中。本当はナギも一緒に引っ張ってくるつもりが、自分自身かなり慌てていたせいで、突発的に飛び出してしまっていた。
「ど、どうしよう、ナギ先輩がこの冬の真っ最中に森で遭難したら!」
 いや、仲間もいるから遭難しないだろう。
「そんなの、死んだアル先輩だって望んでないと思うわ!」
 だからアルも死んでないから‥‥単に気絶してるだけで。
「ああ、ギルドの人達早くー! 私のリカバーで治せるかもしれないのに!」
 ‥‥その、もうちょっと落ち着きなさい。
「アル先輩! 大丈夫ですか!」
 目的の部屋を見つけて勢いよくシスティーナが突入する。そこへ。
「ぐぇっ!?」
「‥‥え?」
 ハタと気付いて足下を見ると、思いっきり踏まれたお腹を抱えて悶え苦しんでいるアルの姿が。
「いやぁーアル先輩、死んじゃだめー!」
 ――落ち着こうね(にっこり)。

●森を越えて
 伏せていた瞳を軽く上げ、視線の先に野犬の姿をルナが捉える。
「今は貴方達にかまっている場合ではないのです‥‥静まりなさい、レクイエム」
 完全なる闇が野犬の動きを食い止める。
「ひゅー、やるねえ」
 遠目にみるローランドが軽く口笛を吹く。軽口を叩くのが彼のクセのようだが、どこか浮ついた印象は否めない。
 実際、先程もナギに対してとんでもない要求をしてきて、あわや手込め(?)にされるところをジーンが助けたばかりだ。
「まったく‥‥何を考えてるのか」
「えーそりゃあ美女とお近づきになりたいって考えてるけどな」
「お、俺は女の子じゃない!」
「いやいや、やっぱここはナギ君がここにあるマジカルシードの女子制服を着てくれると、ボクとしてはやる気でるかもしんないから」
「ふざけるな」
 丁寧な口調にジーンの鋭い突っ込みが入る。その様子をエレナ・レイシス(ea8877)が軽く溜息をつきながら見守っている。
「この薬草は違いますか?」
 そうナギに問うてみたが、ふるふると首を振る。どうやら微妙に違うらしい。
「‥‥ったく、見た目違うの色々集めてんだけどなぁ。なあ、これ一房なんぼになる?」
「エチゴヤでも買い取ってくれないかと‥‥」
 ローランドが掴んだ草を見たエレナが、答え難そうに言葉を紡ぐ。
「そ、そうなのか」
 がっくりと肩を落とす彼を、ルナが軽く慰めた。
「情報が少ないですから。もう少し探してみないとダメですね、きっと」
「なあ、そもそもアル達はなんで倒れたんだ?」
 薬草を探しながら、ジーンが隣に立つナギに問い掛ける。
 え、と顔を上げた彼に、
「いや、さ。そもそも倒れた理由だよ」
「別に、特別な事はしてないぞ。ちょうど飯時だったからさ、普通に飯食ってたんだ。そしたらアルのヤツが急に苦しみだして‥‥」
「その飯ってのは?」
「ん? 俺が作ったんだけど?」
 そのナギの言葉に、その場にいた誰もがピンと来た。
 まさか、まさかと思うが‥‥そう思って、ローランドがおそるおそる尋ねる。
「なあ、まさか‥‥その飯、ナギは食ったのか?」
「いや? 俺はずうっとみんなに配ってたから」
 しーんと沈黙がおとずれる。
 全員の背中に冷や汗が流れる。つまりは、ナギの作った御飯を食べた後、アル達は倒れた事になる。
「つーことはだ‥‥」
「だろうな」
「ですね」
「そうでしょう」
 思わず茫然となる四つの声が重なる。そんな彼らをぼんやりと眺めるナギ。どうやら彼には、全く事の真相が分かってないようだ。
「俺達、完璧骨折り損?」
 がっくりと項垂れるジーンに、ローランドが軽く肩を叩いた。
「そうとわかりゃあ、とっとと帰るぞ!」
「え、え、でも薬草」
「んなのなくても治るんだよ、食中毒は!?」
 叫んだ絶叫は、思いの外森中に響き渡った。

●愛さえあれば
「だいだいてめえで味見ぐらいしやがれ!!」
 治療棟の一角、仲良く寝台に寝かされたアルが見舞いに来たナギに向かって開口一番怒鳴り捲った。
「まあまあ、お友達の心配でそれどころではなかったようですし」
「そうだ、大事なくてよかったじゃないか」
 リンと司が苦笑しながらアルを宥める。
 が、さすがに腹の虫が収まらないのか、更に何か言おうとしたところへ、
「はい、特製のスープを作ってきました。これぐらいなら大丈夫ですね」
 ルナが差し出したのは、彼女お手製のすり下ろした野菜入りのスープ。スッと目の前に出された皿に出鼻を挫かれ、彼はグッと言葉を飲み込んだ。
「‥‥ゴメン、アル」
「ああ、もういいよ」
「よかったぁ、アル先輩もナギ先輩も無事でよかったやっぱりお二人は強い人だもの」
 システィーナの瞳が潤んできたのを、アルがギロッと睨んで止める。腹を踏まれた事をまだ根に持ってるようで、さすがに彼女も後ろめたく乾いた笑いを浮かべるだけだ。
 そんな二人を眺めながら、ガイエルは苦笑とともにぽつりと呟いた。
「親友とはいいものだな」
「ま、今度何かあっても、俺がちゃんと助けてやるぜ。骨折しても添え木は任せとけ!」
 何故骨折?
 というか、怪我が前提なあたり、微妙にジーンの思考は熱血志向にあるようだ。
 そんな喧騒をよそに、一人いじけている人影があった。
「‥‥くっそぉ、伝説の万能薬さえ手に入れば、酒場の借金も軽く返せたのによ‥‥山吹色が遠のくぜ」
「ローランドさん? どうかしました?」
「ん、あ、い、いや‥‥なんでもねえよ」
 突然エレナに声をかけられ、ローランドは慌てて誤魔化す。心の中ではトホホの涙を流しながら、まあ今回はこれでいいか、と楽天的に考えるのも彼の長所‥‥かもしれない。