パパパパパピィなお仕事
|
■ショートシナリオ
担当:葉月十一
対応レベル:1〜4lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 20 C
参加人数:8人
サポート参加人数:1人
冒険期間:02月23日〜03月02日
リプレイ公開日:2005年03月04日
|
●オープニング
「邪魔するぜぇ〜」
唐突にギルドの扉が開かれ、入ってきたのはパラの少年エルリック・ルーン。郊外に購入した屋敷で、毎日なにやら魔法の研究を続けているちょっと変わった少年だ。
受付に座る親父も慣れたもので、そんな彼を一瞥しただけで依頼書の無言で用意した。
「今日は何の用だ?」
「ん、まあ‥‥ちょっとな、迷子の送り届けってのをしてもらいたいんだが‥‥」
普段の少年と違い、どこか歯切れが悪い。
「迷子? まあ、そりゃあ出すもんさえ出せば、出来るだけの事はするけどな」
「じゃあ! アイツをさっさと送り届けてくれよ!!」
「――アイツ?」
ダン、と受付机を叩いたエルに、男は怪訝な顔で見上げる。
が、そんなコトに構わずなおも言い募ろうとした、その時。
「ああ、あの性悪」
「クェェ――ッッ!」
「どわぁっ」
ギルド中に響いた鳴き声。
と同時に、入り口から飛んできた物体がエルの頭に直撃した。その勢いのまま、床に転がるエル。慌てて立ち上がった受付の親父がそこに見たのは、床に倒れた頭の上にしっかりと乗っかったドラゴンパピィの姿だった。
グルグル、と喉を鳴らしながらエルの頭が余程気に入ったらしく、そこから離れようとしない。
「こいつはまた‥‥」
「だぁ、こいつ降りろ!」
必死で剥がそうとするが、六本の足がしっかりと掴んで離そうとしない。その肌は岩のような緑褐色で、小さいながらも棘に被われた尾を嬉しそうに振っていた。
そんな様子を親父は苦笑を交えつつ眺める。
「‥‥フォレストドラゴンの子供か。どうしたんだ、そいつ?」
「この前、北の方にちょっとした調べ物に行ったんだよ。その時、こいつが森ん中でうろうろしててな。俺が帰ろうとしたらちゃっかり頭に乗っかってきて」
「で、懐かれた訳だ」
ようやく起き上がったエルだが、頭の上にはずっしりとドラゴンパピィが乗っている。どうやらすっかり定位置になっているようだ。
「まあ、懐いてくる分には別段いいんだけどさぁ。‥‥こいつがとんだ悪戯好きで、資料やらなにやらで部屋中メッチャクチャにしやがるんだよ! おかげで研究が全然出来やしない!」
そこまでを一気に喋ったエルだったが、頭の上のドラゴンパピィは自分のことを言われているとはつゆ知らず、呑気にキョロキョロとギルドの中を見回していた。
その姿に落胆する少年に、親父は苦笑するしかない。
「それでこいつを親元に帰して欲しい、と?」
「ああ」
そう言って、一度溜息をつく少年。
そんな彼の様子に気付くことなく、頭の上の生物は呑気に「きゅぅ〜」と鳴き声を上げた。
●リプレイ本文
●出立は一声かけて
「ドラゴンパピィさんとお出かけだー!」
元気良く声を張り上げ、イシュメイル・レクベル(eb0990)が颯爽と先頭を歩く。
初めての依頼で緊張しつつも、どこかワクワクした気持ちを抑えきれない。心配そうに見送った叔母の気持ちなどどこ吹く風だ。
そんな陽気な雰囲気につられたのか、すぐ隣をドラゴンパピィが同じ歩調で歩いている。さながらちっちゃな兄弟のように見える。
「ああっ、やっぱり可愛いなぁ」
その様子を後ろから眺めていたノリコ・レッドヒート(ea1435)は、溜息混じりにうっとりとする。
「おおきくなったら、きっとかっこよくなるんだろうなぁ」
そんなコトを呟きつつ、思わず背中を撫でようと手を伸ばしかけ‥‥直前でグッと我慢。あまり執着してしまえば、別れが辛くなってしまう。
そんな彼女の葛藤を余所に、ふと立ち止まったドラゴンパピィが振り向いて小首を傾げる。
「きゅぅ〜?」
「ああ、やっぱり駄目ぇー!」
その仕種に我慢が抑えきれず、ノリコはギュッと抱きついた。
「私も抱っこしたい!」
エレナ・シュガー(eb1033)が横から手を伸ばし、その背中や頭を優しく撫でる。その感触が気持ちいいのか、パピィも目を細めて受け入れていた。
ひとしきり女性陣が撫で親しんだ後、それまでずっと我慢していたセレス・ハイゼンベルク(ea5884)がボソリと声をかけた。
「お、俺もいいかな?」
成人した男性の――それもナイトという職にある身で、とは思いながらもこの滾る思いは隠せない。「どうぞ」との言葉に彼は思いっきりそのちっちゃな身体をだっこした。
「ふみゅ、ドラゴンパピィだ〜! 初めて見るけど、可愛いな‥‥」
「みんな可愛がりたくてしょうがないみたいだな」
そんな苦笑を洩らすゼザ・ウィンシード(ea6640)。
とは言いつつも、内心では自分も撫でたり抱っこしてみたかったりするので、結局は同じ穴の狢だ。だが、セレスと違って照れもあり、それを言葉に出来ず皆の楽しそうな様子を少し羨ましげな眼差しで見ていた。
その視線にいち早く気付いたのはセレスだ。
「ほら、ゼザ! 可愛いな〜♪」
そう言って手渡してきたので、びっくりしつつもしょうがないな、といったポーズで戸惑いつつパピィの背中やお腹を撫でてみた。そんな彼の口元が徐々に笑みの形を浮かべていったのを、セレスは満足げに見つめていた。
●餌付けの道中
吟遊詩人を生業に持つエレナとソラム・ビッテンフェルト(ea2545)。
二人は長閑な道中をゆっくりと歌を紡ぎながら歩いていく。テーマは『ドラゴンパピィと戯れる冒険者達』。殺伐とした世の中で、その光景はどこか心和むものだったから。
「いい歌ですね」
「ソラムさんこそ」
お互いパピィと遊んで和んだ気持ちを素直に言葉へ乗せる。
ソラム自身は、誰も見てないところでちゃっかりとパピィを頭の上に乗せていた。その時、水辺に映った自分の姿につい苦笑を洩らしてしまったが。
そして今、パピィが何をしているかと言えば‥‥。
「うわぁ、ちょっと待ってよ〜!」
「あ、そっちに行きましたわ」
小川のせせらぎに反応したのか、この冬の寒さの中でも平気で川へ入ろうとするパピィ。慌てて追い掛けるイシュメイルとノリコの声が道中に響く。
見るもの聞くものが珍しいらしく、ここに来るまでにもこの小さなドラゴンはあっちこっちに興味を移す。その度に冒険者達はこの子供から目を離さず、時には餌で釣ることも厭わずに。
「叔母さんの情報だと、何でも食べるって話だし」
「じゃあ、この保存食も食べてくれるかなぁ‥‥」
そう言ってセレスが差し出した食べ物を、パピィは興味深げに嗅いだ後、何の躊躇もなくペロリと平らげた。どうやら食料に関しては興味の最優先事項らしい。
それ以降、パピィを連れ戻すには食料だと判じた。
中にはこっそり与えている者も‥‥いた。
「‥‥きゅ〜?」
「しー」
鳴き声に慌てて指を立てるセオフィラス・ディラック(ea7528)。
誰が抱っこするかの争奪戦が起きたときは静かに傍観していた彼だったが、さすがに向こうから来る分には歓迎していた。元々女子供や小動物系に弱いのだ。
「そら、食べてみろ」
そっと差し出した餌を食べるパピィ。その様子を満足そうに眺めるセオフィラス。
「やれやれあちこちふらつきおって‥‥鈴でも付けてみるか?」
どこか幸せそうな笑みを浮かべ、ふとその背中を撫でたくなって手を伸ばそうとした矢先。
「パピィちゃん、見つけ!」
「あ、セオフィラスが餌付けしてる!」
パピィの姿を探しにきたノリコとセレスの突然の出現に、セオフィラスは思わずアタフタする。おかげで言わなくてもイイ言い訳を口にしてしまった。
「い、いや、好物が分かれば、いざというとき餌で釣れるだろう?」
●森の探索
その森は、意外にもそれほど暗くはなかった。
斥候として探索をかってでた冒険者達は、周囲に注意を払いながら森の中を進む。
「母竜はものすごく心配していると思うでゲすよ」
道中、微笑ましい光景を眺めていたミハイル・プーチン(ea9557)は、時々パピィとテレパシーで会話しようと試みていた。
とは言っても、相手はなんといってもまだ子供。殆ど断片的にしか情報は得られていない。それでもパピィがいつも見ていた光景はなんとなくだが伝わっていた。
「依頼人さんの話では、それほど奥ではないということでしたね」
ソラムがそう言うと、ノリコがそれに付け加える。
「フォレストドラゴンは洞窟に棲むって話だから、それっぽい洞窟を見つければいいのよね」
「ま、そういうことだな」
相づちを打つセオフィラス。
その時、別方向を探っていたエレナが戻ってきた。
彼女に向かってミハイルが問う。
「どうでゲした?」
「うーんこっちは駄目でしたね。そっちはどう?」
「そうなると‥‥後は向こう側だな」
「ですね」
セオフィラスの指差した方向に、ソラムは軽く頷く。
そして、彼らはそのままゆっくりと進んでいった。
じいっと待つのは、何となく性に合わない。そんなイシュメイルも、今はただパピィと一緒に森の外で待機していた。
「お母さんドラゴン、きみを探し回っているのかな‥‥家にいるのかなぁ‥‥」
「きゅうううう」
じっと互いに見合うお子様一人と一匹。
その隣では、ゼザの髪の毛をひとしきり弄るセレスの姿が。
「出来た♪」
見事に完成した三つ編みに扱く満足なセレス。これをそのままパピィ相手にじゃらしてみようかと何度か左右に振ってみるが、どうやら遊び疲れたらしく大きな欠伸をする。
む、と膨れる大人気ない大人が一人。
「ゼザのせいだぞっ」
「う‥‥」
思わず八つ当たりすると、シュンとなるゼザ。
どうやら思った以上に落ち込んでしまったらしい。そんな項垂れた様子に、さすがに慌てたセレス。別に本気で言った訳ではないので、急いで弁明する。
「す、すまない、嘘だ」
と、ゼザの頭を撫でる。
自分の弱い部分を見せるのが嫌いなゼザにとって、さすがにバツが悪い。思わずプイッと拗ねるように顔を背け、ぼそりと小さく呟く。
「‥‥子供扱い、するな‥‥」
その様子がどことなく可愛く見えて、笑みを浮かべたセレスはそのまま彼につよく抱きついた。
そんなじゃれ合いがしばらく続き、お子様達がうつら夢の世界へ旅立とうとしていた時、ようやく探索班が戻ってきた。
「ふえ? あーお帰り〜、どうだった? お母さん見つかった?」
口の端から少しだけ涎を垂らしたイシュメイルが尋ねると、ミハイルが代表して答える。
「ええ。生憎母竜の姿は見えなかったでゲすが、それらしい洞窟は見つけたでゲす」
「目印を残してきましたから、後はそこへ行くだけですね」
ソラムの言に、全員がいっせいにパピィの方を見た。
当の本人(本竜?)はただ単純に注目を浴びている事に首を傾げるが、なんとなく冒険者達に漂う雰囲気は少しだけ湿っぽい。
「‥‥しょうがない、よね」
ポツリと呟いたエレナの言葉が、妙に大きく聞こえた。
●さよならは別れの言葉じゃなく
周囲に気配はない。安堵する冒険者達だが、いつ親の竜が帰ってくるか分からない。
緊張が全員に走る。なにしろ今の自分達のレベルでドラゴンと遭遇して、無事ですむ筈がない。それは誰もの胸に過ぎる確信だ。
目隠しとしてソラムが張ったミストフィールドの霧が周囲を被っているが、それも体長が大きなフォレストドラゴン相手には微々たるものだ。
ようやく見えてきた岩肌が剥き出しになった洞窟。そこへイシュメイルが抱えていたパピィを静かに置く。
「‥‥元気でな」
グスッと鼻を啜る音。
「もう、誰彼構わず付いていっちゃあ駄目だよ」
涙目になっているエレナ。
ノリコは頭を静かに撫でながら、言い聞かせるように囁く。
「野生の動物は野生に居るのが一番だもんね」
「うう、元気でな。お前もお母さんと一緒のほうがいいに決まってるものな」
泣かないぞ、と我慢するセレスは最後に一度だけ、とぎゅーっと抱き締める。
「元気でなっ」
「やはり、子供は親と一緒が一番だな‥‥」
そっぽを向くゼザ。どうやらしんみりした様子をあまり見せたくないようだ。
誰もが泣きそうになる中、セオフィラスだけがあくまでも笑って別れようと試みていた。
「もう迷い出るんじゃないぞ。いつか立派な大人になって恩返しに来い」
「そうでゲすな。しっかりするでゲすよ」
ミハイルの言葉――と同時のテレパシー――をどことなく理解したようで、見上げるパピィの顔もどことなく淋しげだ。
その時。
――グルルルルゥ‥‥。
遠くであるが、唸るような声が響く。大気を震わせるようなそれに気付き、冒険者達はハッと顔を上げる。
互いに顔を見合わせて、全員がこくりと頷く、
と、同時に彼らはいっせいに走り出した。
「キュゥゥゥゥ」
哀しそうな鳴き声に後ろ髪ひかれつつも、その思いを振り切って彼らはその場を後にする。
‥‥やがて霧が晴れる頃。
親子が邂逅を果たしたかどうかは、また別の物語。