【子供の領分】いざ、白の地平の戦場へ
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■ショートシナリオ
担当:葉月十一
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 31 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:02月24日〜02月27日
リプレイ公開日:2005年03月04日
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●オープニング
学園都市ケンブリッジ。
多くの少年少女が希望ある未来を夢見て、何かを学ぼうと集まってくる地である。その学舎の数は数十とも数百とも言われ、集まる者達はそれこそ種族や階級も様々だ。
それ故に。
人と人が衝突するトラブルもまた絶える事がなく。
結果――生徒達の手による解決を求め、ケンブリッジギルド『クエストリガー』が設立されたのであった。
●白銀は招くよ
今年一番の寒さに見舞われたケンブリッジ。
明けて翌朝には、一面の銀世界が広がっていた。
「おおー、すっげぇーな〜」
防寒着に身を包んだ少年アルは、見渡す限りの白い景色に感嘆の声を上げた。未だ踏み跡さえない校庭は、そこに一番乗りする事にこそ意義がある。
そんな思いに駆られてやってきたのは自分だけではないらしく、他にもチラホラと人影がまばらに見える。
「ちょっ、アル待ってよ!」
「ナギ、おっせぇぞ。他の連中がもう来ちまってるじゃんか。ほら、行くぜ」
そう言って、アルはナギの手を引っ張って真っ先に校庭のど真ん中にダイビングした。
「ちょっ、うわっ!?」
「いっちば〜ん!」
ドサッという音が静寂の校庭に響く。雪まみれになった顔を上げて文句を言うナギに、アルはヘヘッと苦笑を返すばかり。
さすがにその顔に腹が立ったのか、思わず手に掴んだ雪をひとかたまり、思いっきり投げつけてみた。咄嗟のことに避ける事も出来ず、顔面で雪を受け止めたアル。
「て、てめぇーナギ!」
「アルが鈍感過ぎるんが悪いんだよ」
「ええい、こうなったらこっちもだ」
逃げるナギを追い掛ける形で雪を投げるアル。対するナギもただ逃げているだけじゃなく、時々雪を掴んでは反撃を試みている。
真っ白な世界の中、二人はしばらくの間、互いに雪を投げ合って楽しんでいたのだが、ふとナギが気付いて立ち止まる。
「――ナギ? どうした?」
「そういえば他の人影ってなんであんな遠巻きに‥‥ぇ?」
思わずナギの目が点になる。つられて視線を移したアルもまた、その人影を見た瞬間表情が固まってしまった。
「‥‥なあアル」
「なんだ」
「あれって‥‥やっぱどう見ても‥‥」
「雪だるま」
「「だよな〜」」
互いに顔を見合わせて、同時に言葉を発する二人。そう、まばらにあった人影は、その形からしてどう見ても雪だるまにしか見えない。しかも、ジリジリと近付きつつ、離れつつ、と動きがあるのだ。
その様子はまるで‥‥。
「なあ。アイツら、ひょっとしてオレらと遊びたいんじゃねえのか?」
「そう、なのかな?」
声をかけれず、戸惑っているように見える。そこで思い切ってアルが叫んでみた。
「おーい! お前らも一緒に雪合戦、やるかぁ?」
その声に反応するかのように、雪だるまの身体がぶるぶると震える。どうやら「うん」と言っているようだ。
「ちょっ、待てよアル。俺ら二人であの雪だるま達とか?」
「人数なんて募集すりゃあいいだろ」
「募集ってドコでだよ?」
「んなもん、クエストリガーに決まってるじゃんか」
ナギの問いにキッパリと答えるアル。
いや、ギルドはそういう風に使うもんじゃないと思うんだが‥‥そう思ったナギだったが、とりあえず胸の内に仕舞う事にした。
●リプレイ本文
●作戦会議
アルが出した依頼――という名の誘いに集まってくれた生徒は八人。フリーウィルから四名と、FORと魔法学校からそれぞれ二名だ。
「アル君、ナギ君、お久し振りです。お二人とも相変わらずお元気ですね」
「お、ラスの兄ちゃん。ひっさしぶりじゃん」
「ナギ先輩、アル先輩、雪合戦に誘ってくれてありがとう! 雪ダルマと遊ぶなんてワクワクしちゃう!」
「システィーナも久し振りだね」
ラス・カラード(ea1434)とシスティーナ・ヴィント(ea7435)の再会の挨拶に、アルとナギも笑顔で答える。
お互いにしっかりと防寒服を着込んだ格好で、特にシスティーナの着ている『まるごとメリーさん』は、雪の中においてすっかり保護色と化し、どうやら彼女はその色を利用しようと考えているようだ。
「これなら雪ダルマ達も誤魔化せるよね」
ちなみに同じ事を考えていた者は他にもいて、
「ふっ、これならバッチリだな」
そう言ってビシッとカッコつけているロンド・ファイルヒェン(eb0961)。
が、その格好は上から下までを覆い尽くす『まるごとハトさん』では、とてもじゃないけどどこか間抜けっぽいだろう。それに気付いてないのは、きっと本人だけ。
「しかし、雪だるまと雪合戦する事になるとは思いもしませんでした‥‥雪だるまさん達、よろしくお願いします」
ラスのその言葉に、近くまで来ていた雪だるまの群れがフルフルと震え始めた。どうやら彼ら流の挨拶のようだ。
それを間近で見ていたシャルディ・ラズネルグ(eb0299)が、感極まった雄叫びを上げる。
「おお‥‥おおおっ! これが動くユキダルマというやつですね〜♪」
謎を追い求めるシャルディにすれば、目の前の存在は興味の尽きない対象だ。
何故動くのか? ひょっとして精霊と同義の生物なのか? 独自の言語はないのか? 種族として集落を形成しているのか? 冬を過ぎて春を迎えたら解けてしまうのか?
「ああ、こんなに興味は尽きぬのに、なぜあなた方はブルブルと身震いしかしてくれないのでしょう!」
思わず天に向かって叫ぶ彼を後目に、黄安成(ea2253)が今回の雪合戦の遊び方について提案する。
「とりあえず旗取りって形でいいか? 雪玉に当たった場合は、自陣に戻って十秒間行動が出来なくなるという感じじゃ」
彼の提案に他の皆に異議はない。他にもトドメ刺しを禁止する、や雪玉に石を混ぜるな、等危険には十分注意する事となった。
その辺の説明を、ソフィア・ファーリーフ(ea3972)は雪だるま達に向かって実演で説明していた。
「ええっとですね、雪玉がこう当たったら、自分たちの旗のとこへ戻って‥‥」
そそくさと雪の上を走り旗のある場所へ戻るソフィア。そして。
「1、2、3、‥‥9、10、ふっかぁーつ♪」
じっと踞っていた視線からガバッと起き上がり、再び戦場へ帰っていくまでの動作を細かく実演する。顔の表情や身振り手振り、言葉の壁をなんとか越えようと一生懸命な彼女には、人とモンスターとの垣根をよりよい方向に変えていきたい、という大きな目標があった。
「どう、分かったかな?」
笑顔の彼女に、雪だるま達はじぃっと見つめている。どこか愛嬌のあるその顔に、またしても後ろで見ていたシャルディが悶え捲って吠え哮る。
その声を聞いていたリリン・リラ(eb0964)が、つい合いの手を入れてみた。
「シャルディさん、雪だるまの目が今動いたよー」
「な、なんですとっ」
思わず前のめりになった彼だったが、うっかりつまずいて雪の中に頭から突っ込んでしまった。
「さー、思いっきりあそぶぞー♪」
そう言って、彼女はシャルディをすっかり見放す方向で(マテ)。
「雪だるまと一緒に雪合戦なんて、そう滅多に出来る事じゃないよ〜! うーんワクワクするっ♪」
少し遅れてやってきたフォリー・マクライアン(ea1509)は、白銀の世界に溶け込むような白っぽい服に着替えていた。寒い中で遊ぶという事もあり、食堂でホットミルクが頼めないかどうか聞いていたのだ。
全員が揃ったところで、ラスが音頭をとる。
「さて、それじゃあ始めましょうか。やるからには負けませんよ!」
かくして、雪だるま相手の雪合戦が始まった。
●戦闘開始
「おーっし、行っくぜぇ!」
「ちょっ、ちょっと待てよアル!」
開始と同時に飛び出したアルに、ナギが慌てて追う。それを見て、攻撃を担当していた者達も慌てて後を追った。よく考えてみれば、アルとナギがどうするのかの相談をすっかり失念していたのだ。
「やれやれ、しょうがないのう」
ボソリと安成が呟く。
「もうアル先輩ったら〜」
呟いたシスティーナの声に、残った他のメンバーが苦笑を洩らす。
「さて。雪玉はこんなものでいいですかね」
せっせと雪玉を作りつつ、雪だるまから目を離さないシャルディ。
が、熱心なのはその視線だけで、やはりどこか心あらずといった感じだ。動く雪だるま――保護色で見えにくいが、どうも雪上を滑ってるように見える――を興味津々で追い掛ける。
「シャルディさん、次の雪玉お願い。‥‥シャルディさん?」
両手に抱えた雪玉を全部投げ尽くしたフォリーが声をかけるが、上の空だ。まあ、やるべきことをやってくれれば文句はない。
置いてある雪玉を手に持ち、雪だるまの動きを目で追う。
「ふっふっふ、旗には近寄らせないぞ♪」
すっと身構えるフォリー。そうして仲間とのタイミングを見計らい――。
「いっけぇー!」
投げつけた雪玉が雪だるまの進行を食い止めた。
「駄目です、これ以上近付けさせません!」
ソフィアは次から次へと雪玉を投げつける。精度なんか関係なく、殆ど数での勝負だ。
滑る雪だるま。その妨害に投げる雪玉。
同じように後方支援に回ったラスも旗を背にして雪玉を投げた。
「こちらの旗は取らせはしませんよ!」
が、意外にもその動きは早い(そりゃあ滑ってるからねぇ)。
「は、速いっ!? きっと雪だるまさん達はプロに違いないです!」
叫ぶソフィア。
そりゃまあ全身雪ですから、等という誰とはなしのツッコミは無視するソフィア。彼女は何を思ったのか、迫る雪だるまに対してクルリと背を向けた。
そして。
「――雪だるまさん、止〜まれ♪」
バッと振り向く、と同時に発した科白。思わずピタッと急停止する雪だるま。その一瞬の隙を突いて、システィーナの持つ大量の雪玉が投げつけられた。
かくして。
近付いてきた雪だるまは、見事雪山に埋まる形になったのだった。
「ああぁ、素晴らしい! 芸術ですね!!」
感涙するのはシャルディ。
「しかし彼らはどうやって雪玉を投げ‥‥もがっ!?」
大きく開いた口に雪玉が命中し、彼はそのまま後ろに倒れた。その表情はどこか喜びに満ちていたという。
●攻防決着
ようやく追いついたロンドにひょいっと抱え上げられ、アルは思わず手足をばたつかせた。
「ちょっ、放せ!」
「落ち着け、連中が狙ってるんだぜ」
ハトの着ぐるみ‥‥もとい、ふさふさ羽毛の格好であまり格好つけられても、と隣にいたナギは思ったが、懸命にも口にすることはなかった。
結局、三人での陽動をすることとなったのだが。
「手品で軽く注目させるか。ほーら、ハトを出すぜ」
軽くハトでも出そうとするロンド。
ハトがハトを出す、そのディテールが受けたのか、はたまた単に動く者に反応したのか、旗を守るように円陣を組んでいた雪だるま達が徐々に彼らの方に注目し出す。
「ふっ、俺のカッコ良さが彼らにも解ってきたのかな。いいか、男と言うのは如何なる時でも格好良くだな」
そう言ってアルとナギにかっこいいポーズを教えようとしたロンドだったが。
「バッ、バカ、危ねぇっ!?」
「あ? ‥‥げっ!?」
勢いよく飛んできた雪玉。寸前のところでそれをなんとかかわす。自分としてもあまりにも綺麗に避けたものだから、つい調子に乗って決めポーズまでつけてしまう。
「ふっ‥‥決まったぜ‥‥」
が。
「危ない!」
ナギの声にふと振り向いたロンドめがけて、それこそ連打のように雪玉が飛んできた。その容赦ない集中攻撃に、結局避け切れずに雪玉に埋まっていくロンド。
ナギとアルの姿はといえば‥‥すでにその場にはなく、さっさと逃げ出していたようだ。
それだけでもホッとしたのか、ロンドは雪に埋もれながらこう呟いた。
「みんな、後は頼んだ‥‥」
どこまでカッコよさを追求する男、ロンド。
が、その姿は端から見ればちょっとだけ‥‥情けない。
雪だるまがぞろぞろと移動していく。その姿を影から見ていたリリンは、左側から一気に攻め込んだ。
「ロンドさんの犠牲は無駄にしないよ!」
「うむ。安らかに成仏せぇ」
続く言葉は安成のもの。いえ、別に死んだわけじゃあ‥‥。
防寒具のない彼の動きは確かに速い。だが、いくら修練で寒さに慣れているからとはいえ、やはりどこか手足が縮こまるように固かった。そこを狙い打とうと、居残った雪だるまが向かってくる。
どうやら玉砕覚悟のようだ。
「む‥‥その覚悟、天晴れじゃ。だが、まだまだ!」
ひらりと身をかわす安成。黄色い袈裟が白い雪原の上を舞う。
そしてそのまま滑ってきた雪だるまは、一直線にリリンに向かってくる。
「え、ええっ?!」
彼女の方も勢いつけて走っていたため、そう簡単に方向転換出来ない。結局、二人はそのままドカンと大きな音を立ててぶつかった。その衝撃で二人(?)はそのまま後ろへと倒れる。
「う、う〜ん‥‥お、おいしぃ‥‥」
気を失う直前リリンが呟いた一言。口元には白い雪の欠片。そして雪だるまの方には‥‥顔の真ん中に見事な歯形が残されていた。
そんな様子を遠目で眺めていた安成は、やれやれと溜息をつきながら隣に立つ旗を抜いた。
●来冬再会
かくして戦いは終わり(その後もチーム編成を変えて雪だるま達との混合で何度か雪合戦をした)、雪だるま達は山へと帰っていくことになった。
どこか悔しそうに見送るアルとナギに、ラスは静かに声をかける。
「アル君、ナギ君、そんなに残念そうな顔をしないで。きっとまた会えますよ」
「お、オレは別にっ!?」
照れるアルに苦笑しながら、システィーナは大きく手を振って見送った。
「また来年も遊ぼうねー」
「また寒くなって雪が降ったら、一緒に遊びましょうね♪」
ソフィアもまた、次の約束を口にする。
その後ろ姿を見ながら、シャルディはただぶつぶつと呟いていた。
「‥‥なるほど‥‥全身が氷、ですか‥‥」
「うん、冷たくて美味しかったよ〜」
とは、彼らの身体の一部を口にしたリリンの言葉。
そして。
「じゃあ身体も冷えてきたし、そろそろ食堂行こうよ。ホットミルクが準備してある筈だし」
「賛成〜!」
フォリーの言葉にシスティーナが続き、そのままアルとナギも連れ立って競争するように食堂まで走り出した。他の者達も苦笑しつつ、その後を追う。
その光景を、最後に残った雪だるまが振り返って見守っていた事を――彼らは気付かずにいた。