マッチョ ざ Ripperの帰還

■ショートシナリオ


担当:葉月十一

対応レベル:1〜4lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 20 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月15日〜03月22日

リプレイ公開日:2005年03月23日

●オープニング

 暗い街道を、彼女は歩いていた。時々後ろを振り返りつつ、なるべく早足で。
 誰もいない夜道に女性が一人でいれば、夜盗などの格好の餌食だ。
 そして、案の定――彼女は数人の男達に囲まれてしまう。
「いやーっ!!」
「おっと姉ちゃん、大人しくしてもらおうか」
「へへっ、こんなところで一人で歩いてたのが運の尽きだぜ」
 外卑た口調で、いっそうの恐怖を引き出す男達。
 あわや、といったまさにその時。
「――それ以上の無頼を働くなら、この俺が容赦せんぞ!」
「だ、誰だ?!」
 突如響いた低い声。
 男達が振り向いた先にいたのは――暗い闇夜にあって、星さえも覆い尽くすような大男。そして、その太い手に握られている銀色のナイフ。
「て、てめぇ、何も――ぐわぁっ!?」
「貴様っ‥‥ぐぉぉぉ」
 男達が反撃する間もなく、その大きな影は次々と彼らを打ち倒していく。見事なまでの体術と、鮮やかなナイフ捌き。相手を傷つける事なく昏倒させる――その術。
 何故か裂けた衣服が飛び散るのかは、茫然とした彼女には分からなかったが。
 やがて――辺りは静けさを取り戻すと、夜盗の連中は全員地面に倒れていた。
「ふん、口ほどにもない奴らが。っと、大丈夫か?」
「‥‥あ、あの‥‥ありがとう、ございま――」
 手を差し出され、彼女はお礼を言いかける。
 が、次の瞬間。
 さぁっと射し込んだ月明かりに影の姿が照らされて、彼女は思わず息を飲む。
 引き締まった筋肉。無造作に晒け出された胸や背中、逞しい太股。その褐色の肉体を被うのは、股間に引き締められた褌が一丁。
「‥‥いやああああぁぁぁぁぁぁ――――っっっ!!」
 布を切り裂くような甲高い悲鳴。
 そのまま、彼女は意識を失った。
「む? どうした?」
 抱き起こそうとした男に――己の格好の自覚は、ない。

「――あやつが、帰ってくる!」
 バン、と受付の机を叩く老人。キャメロットにほど近い街の、いわゆる代表という者らしいが、年の割には結構‥‥いやかなり興奮している様子だ。
「で、依頼というのは?」
「あの男が街に帰ってくるという情報があったんじゃ」
「あの男ってのは‥‥まさか」
 受付に座る男も、老人の言葉に思わず冷や汗が流れる。旅に出ていた間もちょくちょく事件を引き起こして(?)いたあの男が、ようやく帰郷するというのか。
 どうやら、街の総意としては‥‥なるべくもう少し街の外を旅してもらいたい、という事だろうか。
「あやつの事は別段、嫌いではない‥‥いや、むしろその正義感は確かに好ましい。が、なにぶん‥‥あやつの趣味だけは‥‥」
 半年前。
 街を恐怖の‥‥というより変態のドツボに叩き落とした元凶の男。
 いまや平穏を取り戻した街に、再びあのような悲劇(笑)を繰り返す訳にはいかないというのが、依頼人たちの言い分のようだ。
「まだまだ上には上が居ることを‥‥修行がまだまだ必要だ、と思わせて欲しいんじゃが」
 ――かくして、冒険者ギルドに一枚の依頼書が増えたのだった。

●今回の参加者

 ea0210 アリエス・アリア(27歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea1168 ライカ・カザミ(34歳・♀・バード・人間・イギリス王国)
 ea2475 ティイ・ミタンニ(27歳・♀・ファイター・人間・エジプト)
 ea5555 ハギオ・ヤン(30歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea5683 葉霧 幻蔵(40歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea6966 アンノウン・フーディス(30歳・♂・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 ea9519 ロート・クロニクル(29歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 eb1033 エレナ・シュガー(30歳・♀・バード・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文

●身を潜める者
「やれやれ、あたしも弟に甘いわよね」
 物陰に身を潜めながら、ライカ・カザミ(ea1168)は溜息混じりにそう呟いた。
 弟に頼まれたとはいえ、またしても変態を相手にすることになろうとは‥‥そんなコトを考えつつ、彼女の視線は街へと続く道に注意を払う。
「弟思いだよね」
 そんな彼女に向かい、同じく身を潜めていたアリエス・アリア(ea0210)が苦笑を零す。携帯しているナイフを確認しながら、異性に見間違われるほどに長い髪を掻き上げた。
 当然、ライカは少し嫌な顔を見せる。
「別にそんなんじゃないけどね。まあ、あたしの苦労と弟の涙を無駄にしない為にも、ガツンとやらせてもらいましょ」
 どこか空恐ろしい笑みを浮かべるライカ。
 それを見て、アリエスは少々冷や汗を流す。
 そして。

「キャ――――ッッ!!」

 突然、街道に響き渡る悲鳴。
 緊迫の一瞬に、身を潜める二人。
 やがて‥‥彼らの元へ姿を見せたのは、その叫び声を上げた当の本人であるティイ・ミタンニ(ea2475)。
「どうでしたか?」
「バッチリよ。後は例の男が引っ掛かってくれるのを待つだけね」
「‥‥では、私は向こうへ」
 一言断って、アリエスはその場を移動していった。
 そうして彼らの見守る中、囮の芝居が始まった。

●襲われる娘達
「あーれー」
「助けて!」
 それまで陽気に街道を歩いていた娘二人。
 一人は吟遊詩人でもあるエレナ・シュガー(eb1033)。悲鳴を上げるまでは陽気に歌などを歌っていた。
 そしてもう一人は、といえば‥‥。
「た、助けてでござる〜!」
 人遁の術で女性の姿に化けた葉霧幻蔵(ea5683)、その人である。声色により少女のような声を出しつつも、時折ひっくり返る口調はやはり男声のモノ。
 まあ、誘き出すことに関しては十分だろう。
 囮として、襲われる娘達を演じる二人の前に姿を見せたのは、悪役に扮したアンノウン・フーディス(ea6966)とロート・クロニクル(ea9519)の二人。
「ククク‥‥さあ、大人しく金目の物を出すがいい‥‥」
(「‥‥アンノウンさんたら、すっごく板に付いてる気がするんだよね」)
 怯える演技をしながら、エレナは至極冷静に相手の様子を分析する。本人が聞けば、きっと涙を流して否定することだろう。
 対するロートにしても、
「なぁ‥‥おまえ金持ってんだろ? 俺達さぁ、今ちょーっと懐が寂しいんだよね。ちぃとばかし分けてくんねぇかな、あんたの金。遠慮せずに全部置いてってくれて構わないぜ?」
 元々口の悪いところへ、用心のためにローブのフードを被っていたため、その外見はまさにチンピラそのものだ。
(「さ、さすがでござるな」)
 これに妙な対抗心を燃やした幻蔵。
「いやぁー、誰か助けてるでござるぅ〜〜!」
 外見女性であるから、その所作も別段おかしくはないのだが、中身を知ってる連中からすれば思わず冷や汗タラリだ。
(「‥‥と、とっととすませちまおう」)
 そんなことをロートは内心思っていた。
「なんなのよ、キミ達は!」
 怯えた表情を見せるエレナ。
 その様子に興が乗ったのか、更に悪党面に拍車がかかる二人。
「フッ、何と聞かれてもだな‥‥」
「こちとら、おめえらの金が目当てなんだよぉ!」
 そう言って詰め寄ろうとした、その時。

●正義の味方、登場!
「まてぃ!」
 響き渡る野太い声。
 ――来た。
 と、誰もが思い、視線がいっせいに注目する。そこにいたのは、ムキムキの肉体を晒した男――ではなく、引き締まった肉体を持った男、ハギオ・ヤン(ea5555)がそこにいた。
「な、何奴!?」
 驚きの声を上げるアンノウン。これは打ち合わせ通り。
「なんだてめぇ!」
 同じく叫ぶロート。これも打ち合わせのまま。
「‥‥フッ、この肉体美の貴公子、赤毛のヤンが護るこの街で、悪を働こうなんざいい度胸じゃねぇか!」
 そのまま打ち合わせ通りに、ハギオが高い場所(どこか、は聞いてはいけない)から「とぉっ」と掛け声とともに地上へと舞い降りた。
 その時。
『抜け‥‥赤毛のヤン様‥‥ヤン様――!』
 どこからともなく聞こえた歓声に、その場にいた者達は思わず脱力した。さすがにこれは打ち合わせにはなかったこと。
「や、ヤン様って‥‥」
「なんだよそりゃ」
 が、そんな外野の声は一切無視し、ハギオは悪漢どもに向かっていく。
「問答無用!」
「ちょっ、ちょっとマテ! くっ」
 芝居とはいえ、ウィザード相手にかなり本気で剣を振るうハギオ。なんとか避けてはいるものの、お互いにお決まりの科白を言う暇がなかった。
「お、おい。ちょっと」
「はははっ、悪党よ観念しろ!」
 どうやら熱中するあまり、少々段取りを忘れてしまったようだ。
「‥‥なんだか楽しそう〜♪」
 すっかり蚊帳の外で、エレナはそんな感想を洩らす。
 同じように幻蔵も肩を竦めた、ちょうどその時。
「ふはははは――――っっ!」
 天より轟く雄叫び。
「悪の限りを尽くす輩よ、この俺が成敗してやる!」
「な、何奴ッ!?」
 驚くアンノウン。
 ハッと振り向いた先にいたのは、逞しい肉体を惜しげもなく晒した男が一人。慌てて身構えようとするその僅かな隙に、みるみる男の影が近付いてきた。
「‥‥え? ちょ、ちょ、待て! そのナイフと目はなんだ!」
 急いで魔法を発動させようにも、それよりも早くマッチョ男の方が早かった。
 それはまさに電光石火。見事なナイフ捌きで、アンノウンが着ていたローブを木っ端微塵に切り刻んだ。
「うわぁぁあぁ‥‥」
 ローブの下は越中褌一丁ということで、彼がガクリと膝を付く。最後にハラリと白い布が落ちた直後、彼の身体もバタリと倒れた。
「アンノウン!?」
 ロートの叫びが虚しく響く。
「‥‥誰か、後は、頼ん‥‥だ‥‥」
 バタリ。
 アンノウンの意識はそのまま闇の向こうへ旅立っていった。

「――マズイわ!」
 マッチョ男に襲われる様子を逐一観察していたライカは、弟の悲劇の二の舞はゴメンだとばかりに隠れていた身を乗り出してムーンアローを放った。
 が、当たりはしたものの、その強靱な肉体の前にはあまりダメージにもならなかったようだ。
 彼は、そのまま次の獲物――男的には悪党だが――に向けて視線を移した。

 ロートは一目散に走っていた。
 何が何でも変態の餌食にはなりたくない。ただその一心で。
 が、そこはウィザードとの体力の差か。或いは回避術の熟練の差か。
「逃がさんっ!」
「げっ」
 身を包むローブは、男が振るうナイフによってあっさりとひん剥かれてしまった。
「ああっ、ロートさんのローブが無残にも破れちゃった〜♪」
 頬を赤らめながらも、どこか楽しそうに実況を解説するエレナ。
 その隣では、変化を解いた幻蔵が、どこか血走った眼差しで彼らの一挙手一動作を見守る。彼の格好はいつの間にか褌一丁だ。
「ロート殿が破れたら、次は拙者でござるな。ミスター・ジャパンの称号をかけて、褌ファイトの勝負を申し入れるでござる」
「へー幻蔵さんってすごーい」
 そんな二人の会話の合間にも、騒動は次々と大きくなっていく。
 切り裂かれた服に茫然となったロートが、ブッツリ切れて思いっきりストームを放ったからだ。
「ちょっとまてー!」
 こだまする叫びはハギオが放ったもの。
 折角、マッチョ男との挑戦を受けていたというのに、バサッと服を脱ぎ捨てたと思ったら、相手ごと巻き込まれてしまった。お互い辛うじて堪えたものの、バランスを崩したままで。
「もらったぁー!」
「なんのっ!」
 かかってきた男の脇をすり抜ける形で剣を振るう‥‥が。
「フッ‥‥またつまらぬものを切ってしまった‥‥」
 と呟いたかと思えば、彼の身を纏う最後の一枚がハラリと落ちた。

●説得
 悪を倒し、優越に浸るマッチョ男。
 だが、その余裕も長く続かなかった。
「はっはっは、これに懲りたらこれ以上の悪さは‥‥むぅ?」
 ピタリと首筋に当たる冷たい鉄の感触。忍び歩きにより近付いてきたアリエスの気配に、男はまるで気付いていなかった。
「あなたのナイフ、捨ててください」
 顔に似合わず、その声はひどく冷たく感じる。
「き、貴様‥‥」
「私の気配に気付けないんだったら‥‥危ないですよ‥‥?」
「子供、だと?」
「私みたいな子供に叶わないようなら‥‥あなたの修行も、まだまだですね」
 アリエスの言葉にプライドが傷付いたのか、初めて男の顔が悔しげに歪む。
 そこへトドメを刺すように現れたのは、大きな竪琴を構えたライカだった。ポロン、と優雅に弦を鳴らすと、それまで騒然だった場が急に静まる。
「お、お前は‥‥」
「あたしの事を憶えていらっしゃるかしら? いいえ、忘れているならそれはそれでよくてよ? あたしもいい大人だもの、もう貴方の事を恨んだりはしないけど」
 そこで一旦言葉を切り、首元に刃物を当てられた状態の男を一瞥する。
「‥‥まだまだね。もう一度出直してきた方がいいわね、あたし達のような者に勝てないようじゃ、街なんて守れないわ」
「‥‥くぅ」
 ガクリ、と膝を付く男。
 ほぼ同時に、言葉を乗せた調べとともに彼女はメロディーを流す。他の冒険者が見守る中、男の気持ちが徐々に落ち込んでいくのが目に見えて分かった。
「お、俺は‥‥」
「‥‥まあ、なんだな。この街は俺が護る。お前の出る番はないって事だ」
 ポン、と肩を叩いたのは逞しい裸身を晒したハギオだ。いつの間にか褌だけはしっかり身に付けていたが。
「だがな、きっとお前を必要としている場所があるはずだ。だからその時の為に腕をもっと磨けって」
 がっしりと肩を抱き合い、励ますハギオ。
 その言葉に触発されたのか、マッチョ男もひしっと相手を抱きつき返した。
「ぐぉ!」
「そ、そうか。すまん!」
 その、どこか暑苦しい光景を端で見ながらエレナは思った。
「これ、歌とか作ったら面白い、かつ奇妙なモノが出来上がりそう〜♪」
 楽しそうに呟いた言葉は、本気か冗談か。

 結局。
 犠牲者数名(‥‥全て男)を出しながらも、彼らはなんとかマッチョ男の気持ちを変えることに成功した。
「‥‥やれやれ。どうやら終わったようですね」
 隠れて全ての様子を窺っていたティイが呟く。
 その尊い犠牲に思わず涙しつつも――別になにがどうしたって訳でもなかったが――街から遠離る男の後ろ姿を、ただただ静かに見守っていた。

 そうして、彼らは認識を新たにする。
 イギリスはやっぱり『変態王国』なのだと(マテ)。