惨劇の夜
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■ショートシナリオ
担当:葉月十一
対応レベル:1〜3lv
難易度:やや難
成功報酬:0 G 78 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:06月22日〜06月29日
リプレイ公開日:2004年07月02日
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●オープニング
冒険者ギルドには、多種多様の依頼が日々舞い込んでくる。
宮廷権謀に関わる一大事から、日常の些細なお手伝い程度といったものまで、冒険者達は自らの力量に合わせてそれらを選び取っていくのだ。
その日。
ギルドを訪れた冒険者の一人が、一枚の依頼書を前にふと立ち止まった。
「‥‥惨殺か」
文面には、とある町で起きた事件が書かれていた。町の外れに住んでいた一家が無惨に食い殺されていたというのだ。それは夜を重ねる毎に徐々に被害が拡大しつつあるという。
町の人間は恐怖におののき、今や半数以上の人間が逃げ出していた。残った者達は、逃げたくともどこにもアテがない者ばかり。
そんな彼らが、必死に集めた資金でギルドへ依頼をかけたのだ。その必死の思いを汲み取れなくて、なにが冒険者か。
「行ってみるか?」
ふと、後ろからかけられた声に振り向くと、知り合ったばかりの冒険者が今見ていた依頼書をスッと指差した。お互いの表情には、助けを請う者達をなんとかしたいという思いがありありと見て取れる。
「ああ。助けを求められているんだ。なんとかしてやらないとな」
「そうだな」
‥‥依頼書には、最後に町の者の証言が載せてあった。
『――見たんです、夜の郊外で動く三つの人の形をしたものを。でも、そんなのはあり得ないんです。だって‥‥チラッと見たその顔は、もう一年前に死んでる人なんですよ‥‥』
●リプレイ本文
●陽は傾いて
下見と情報収集を兼ねて町へ先行した冒険者は二名。
リフィール・ラグナイト(ea1036)は、辿り着くなりポツリと呟いた。
「‥‥閑散としているな」
町並みからいけば、もう少し栄えていてもよさそうだが、町の通りには人はまばらにしかいない。しかも誰もが足早に動いている。
当然と言えば当然だ。
「町の連中は殆ど残っていないんだ。それに残ってる人達もな‥‥」
迫る恐怖に、きっと生きた心地はしないのだろう。隣に立つエヴィン・アグリッド(ea3647)がそう答えるのを、リフィールはただ黙って聞く。
互いの顔に浮かぶ苦渋の表情。
一刻も早く、町の人達を安心させたい。その思いを胸に、二人は残っている住民から事件の詳しい話を聞きに町中へと散った。
目撃された死者達。
その親戚筋だという住民からなんとか話を聞くことが出来た。
「それで、やはりその顔は」
「はい‥‥一年前に事故で亡くなった叔父一家の三人でした」
「間違いありませんね?」
リフィールが念を押すと、小さく震えながらこくりと頷いた。
死んだ筈の者が動き回る。常識では考えられない状況に、住民達はただ怯えるしかない。そんな彼らを、冒険者である自分達が守るのだ。
「‥‥今夜、俺達冒険者がなんとかするから、あんたらは安全な場所に避難しておいてくれ」
真剣な顔で告げるエヴァン。町に残ってる他の住民にもこの事を伝えてくれるよう頼むと、彼は慌てて他の住民の元へ急いだ。
●訪れる黄昏
そこは、最初に犠牲者が出た郊外の家。
「聞いた話だと、一年前に亡くなった三人もかつてここに住んでいたらしい。墓も近くにあったんだそうな」
住民の話をリフィールが説明する。
「そして最初の犠牲者がこの家の者、か‥‥死んだ人間の顔といい、嫌な予感がするな」
アレス・メルリード(ea0454)の呟きに、リフィールが答える。
「ああ。ひょっとしたらゾンビかも知れないな」
一瞬、場が沈黙する。魔法の類でしか傷つける事が出来ないと言われる化け物だ。厄介な相手である事は間違いない。
そんな重苦しい空気を一掃するように、ジェイス・レイクフィールド(ea3783)が軽く口を挟んだ。
「正確には、『ズゥンビ』って言うんだぜ」
モンスターの万能知識を持つ彼ならではの揚げ足取りだ。
僅かに和んだ雰囲気の中、ウェフィレナ・リサヴィア(ea3816)が事前に決めた作戦を改めて確認する。
「どちらにせよ、通常の攻撃は通用しない可能性があるのだろう。従って魔法が使えない者が周囲を固め、隊列の中心に魔法を使える者を配置する形だな」
仲間をすっと見渡すその視線に、誰もが了解したとばかりに頷く。
「まあ、とりあえず魔法の使えない俺はズゥンビを牽制するしかないな」
少し肩を竦め、トール・ウッド(ea1919)が言葉を添える。彼自身、本来なら昼間の内に片を付けたかったらしいが、集めた情報からズゥンビ自体が夜に活動する為、それは叶わなかった。
果たして夜の闇の中、どこまで動き回れるかどうか。
一抹の不安を覚える彼に、アレスがバックパックからランタンを取り出した。
「一応、灯りはあるぜ。ま、気休め程度だけどな」
「どちらにせよ、その化けモンは夜にならないと、動かないんだろ? なら、それで頑張るしかないさ」
周囲に注意しながらアッシュ・クライン(ea3102)が言葉を返す。まだ宵闇のうちだったが、背後からの強襲を考え、常に気を配る彼の感覚に何かが近付いてくる存在が引っ掛かった。
ハッと振り返れば、薄い闇の向こうに人影が一つ。
慌てて身構えようとした冒険者達だったが、次第に近くなるその姿に彼らはゆっくりと構えを解いた。
やってきたのは、町の住民を避難させていたエヴァンだった。
「住民の避難は終わったぜ。これで今、ここにいるのは俺達だけだ。これで心おきなく戦えるぜ。とはいえ、出来るだけ町を破壊しないようにしないとな」
当然と言えば当然だが、彼はくれぐれもな、と念を押す。
そうして集まった八人の冒険者達。各々気配を探りながら、夜が更けるのを待つことにした。
やがて――。
●夜半を過ぎた頃
――静寂。
息遣いさえも噛み殺し、その緊張が限界にまで達しようとする、丁度その時。
闇が、蠢く。
アレスの用意したランタンの僅かな灯りに照らされる、影が三つ。ゆっくりと蠢くその姿に、冒険者の誰もが息を呑む。
腐った肉体を引きずり、時折地面に落としながら歩く甦った死者――ズゥンビ。その落ちかけた眼球が、こちらを見るや否や獲物を見定めた。
「来るぞ!」
年長であるトールの声を合図に、ファイターの二人がまず打って出た。勿論、攻撃が効くとは考えていない。あくまでも時間稼ぎの牽制だ。
振り下ろす勢いを剣に乗せ、ズゥンビの動きを僅かだが食い止める。
その隙にアレスが静かに集中する。高める念に併せてその身が淡いピンクの光に包まれていく。同じように集中を始めたエヴァンの身は、黒く淡い光に包まれていく。夜の闇にあってなお、その色は確かに認識出来た。
「こっちからもだ!」
リフィールが構えた先、背後から襲いかかろうとしたズゥンビをなんとか薙ぎ払い、アレス達に近付けないようにした。
「向こうの挟み撃ちってトコだな」
敵の武器である爪のある腕を切り払いながらアッシュが呟く。横を見れば、ウェフィレナが剣をズゥンビの口に突き立てている。うら若い少女とは思えない思いきりの良さに、思わずヒューと口を鳴らした。
「なかなかやるな」
「‥‥町の脅威を取り除くことが先だ」
淡々と答える彼女は、腐りかけた胴体を無遠慮に蹴って一定の距離を保つ。
そして。
「どきな!」
エヴァンの声が、凛と響く。
ほぼ同時に、掲げた掌から黒い光が放たれた。死人の肉体が見るも無残に飛び散り、その動きが緩慢になる。邪悪な者を撃ち払う光とはいえ、さすがに一撃では仕留められなかった。
「くっ、ならばもう一回」
あくまでも今回の戦闘は、魔法による攻撃。
精神を集中させる為、再び仲間に牽制をしてもらう。
一方で、オーラパワーの力を宿した剣を振るうアレスは、トドメの一撃を迫り来るズゥンビの頭に打ち込んでいた。
「どんな理由があって死人になったのか分からないが‥‥お前達はここにいるべきじゃない」
まずは一体目。
死者を黄泉路へ送った、その返す刀で残りの敵に身構える。既にそこには、二体目を牽制するトールとジェイスの姿があった。
今や月明かりは雲に遮られ、頼る視界はランタンの灯火のみ。なんとか油の切れる前に討ち取らなければ。
「迷い出し者達よ、安らかなる眠りを俺達が与えてやろう」
リフィールの宣言と、振り下ろす剣は、ほぼ同時。
が、打ち付けられても、手足をもがれても、なおその身体は前へ進むことを止めようとしない。本能に根付いた喰らい尽くしたいという欲求に従うだけ。
その時、背後の気配を察した彼は、素早く横に動く。同じように牽制の為剣を振るっていたウェフィレナやアッシュも左右に別れる。
直後。
黒い光が宙を裂き、腐った肉体はその最後の力を失った。
残りの一体も、ほぼ同時期にアレスの剣で命を断たれていた。奇しくもジェイスがソードボンバーを使った事で、再びオーラパワーを覆った直後のアレスの元へズゥンビが吹き飛ばされたからだ。
それはランタンの灯りが消える、直前の事だった。
●そして夜が明けて
町では、盛大な火葬が行われる事となった。
今まで殺された者達の分と、そしてズゥンビとなって甦ってしまったかつて亡くなった者達の分を。
「手伝うさ」
ウェフィレナの一言で、冒険者達もその埋葬を手伝う事となった。
どちらにしろ、今町に残っている人達は本当に少ない。これからまた、徐々に帰ってくる人もいるだろうが、今はまだ猫の手も借りたい筈だ。
聞けば、一年前に亡くなったとされる一家は、実際はそれより以前に亡くなっていたようなのだ。不慮の事故だったらしいのだが、結局死体が見つかったのが一年前という事で、結果として長い時間死体を晒していたのだという。
再びズゥンビが現れぬよう、一刻でも早く弔いたいと町の人達が思うのも無理はない。その事を聞いて、冒険者達も同じように感じていた。
とはいえ。
「なんにしろ、みんな大した怪我がなくてよかったじゃん」
火葬の準備を手伝いながら呟いたジェイスの言葉は、冒険者誰もの感想であったに違いない。
そうして。
櫓にかけられた炎は、天を焦がす勢いで燃え上がる。亡くなった人達の魂を空へ舞い上がらせるように。