【子供の領分】お子様先生ナギ!
|
■ショートシナリオ
担当:葉月十一
対応レベル:フリーlv
難易度:やや易
成功報酬:0 G 52 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:03月22日〜03月27日
リプレイ公開日:2005年03月31日
|
●オープニング
学園都市ケンブリッジ。
多くの少年少女が希望ある未来を夢見て、何かを学ぼうと集まってくる地である。その学舎の数は数十とも数百とも言われ、集まる者達はそれこそ種族や階級も様々だ。
それ故に。
人と人が衝突するトラブルもまた絶える事がなく。
結果――生徒達の手による解決を求め、ケンブリッジギルド『クエストリガー』が設立されたのであった。
●初めての授業
教師に呼ばれて、ナギはドキドキしながら職員室の前に立った。
(「‥‥オレだけ呼ばれるなんて、なんなんだろう。まさか、この前アルと一緒にやった悪戯がバレたのかな?」)
でも、それだと自分一人だけ呼ばれるなんておかしい、と内心否定する――相変わらず二人でつるみ、イタズラ三昧の日々を送っているようだ。
それでもナギは、ちゃっかりと好成績を維持している。戦士に憧れ体力を鍛えているアルと比べても、彼のウィザードとしての力はかなり伸びているだろう。
うだうだと悩む事は性に合わない。
もう一度自身に気合いを入れると、ナギは勢いつけて扉を開いた。
「失礼しまーす!」
最初、言われた事がよく理解出来なかった。
「――え?」
「うむ。だからだな、君の成績は非常に優秀だからな、この春から『ウィザード養成クラス』への編入を検討しようと思うのだが。君の気持ちはどうだね、ナギウス・ウィンフィールド君」
「えっと、その‥‥」
それは突然の申し出だ。
幼い頃からウィザードに憧れ、父のような立派な魔法使いになるよう今日まで努力してきたナギにとって、それは願ってもない未来だ。
教師の言葉が徐々に頭の中に浸透するに従って、彼の表情は驚きから喜びのものに変わっていく。その様子を、教師が子供らしいものだと、内心苦笑しているとも気付かず。
そして。
「ほ、本当ですか、それ! オレ‥‥じゃなかった、僕、行きたいです!」
「まあまあ、落ち着きなさい。何もすぐという訳じゃない」
飛びつきかねない勢いのナギを、教師は手を伸ばして落ち着かせる。
彼の言葉に、一瞬の落胆が表情を過ぎったが、すぐにナギはいつもの顔に戻った。口元や目元には、抑えきれない喜色が浮かんではいたが。
「‥‥すいません。それで、すぐじゃないっていうのは」
「ああ、そうだな。所謂『卒業試験』みたいなものだ」
「試験?」
試験と聞いて、ナギの眉が嫌そうに歪む。
「勿論、普通の実技やペーパーではないぞ」
「それじゃあ‥‥」
「ウィザードとしての知識をより深めると言う事は、自分だけに留めるに非ず。それを広く知らしめてこそ価値がある、と私は考えている」
キョトンとした顔のナギ。
イマイチ教師の言うことが理解出来ないようだ。
「つまりだな、ウィンフィールド君。君が教師となって、どれだけその知識を他者に教える事が出来るかで判定を下す」
「――ええっ!?」
「すでにギルドには、教える生徒役を募集しておる。特に限定してないからな、集まる者は年齢・種族・職業ともバラバラだ。その者達に魔法に関する事を教え‥‥このペーパーテストを受けさせる事、それが君への編入の為の試験となる」
そう言って教師が差し出したのは、一枚の羊皮紙。
そこには8つの問題が書かれていた。
1)魔法の発動に必要なAPはいくつか
1.1AP 2.2AP 3.全てのAP
2)精霊魔法[地]グリーンワードで植物の回答方法は?
1.「はい」「いいえ」のみ 2.1つの単語 3.細かく説明してくれる
3)精霊魔法[水]アイスチャクラで作られた円盤(チャクラム)は投げた後どうなるか?
1.敵に命中して砕ける 2.敵に命中しない場合だけ戻ってくる 3.命中しても確実に使用者へ戻ってくる
4)精霊魔法[火]バーニングソードの炎は他に燃え移るか?
1.はい 2.使用者の意志でコントロール 3.いいえ
5)精霊魔法[風]ヘブンリィライトニングに必要な雲の種類は?
1.雨雲 2.雪雲 3.雲は必要ない
6)精霊魔法[陽]インビジブルで透明になるのはどこまで?
1.自身の肉体だけ 2.装備品全て 3.周囲1mを含む
7)精霊魔法[月]ムーンアローにおいて失敗するのはどれ?
1.対象が見えない 2.対象が岩陰に隠れている 3.指定した存在が複数ある
8)神聖魔法を詠唱の際にしない動作は?
1.ホーリーシンボルを掲げる 2.合掌する 3.服を脱ぎ捨てる
どれも、魔法に関しては初歩的な事だ。ある程度精通している者なら、簡単なものだろう。
「‥‥これを教えて、満点を取らせるんですか?」
「いやそうではない。別に満点でなくても、教えられた者達が満足すればそれでいい。つまり、彼らが君の試験を判定するんだ」
(「‥‥マジかよ‥‥」)
思わずぼやきかけて、慌てて口を塞ぐナギ。
とは言っても、これをクリアしなければ『ウィザード養成クラス』への編入は出来ないのだ。
「‥‥やるしか、ねぇなぁ」
受け取った羊皮紙を改めて見返して、彼は大きく溜息を吐いた。
●リプレイ本文
●一日目
特別教室に集まったのは六名。
年齢も種族もバラバラで、その誰もが冒険者として実践を積んできた者達ばかりだ。
そんな彼らを前にして、ナギは幾分緊張に固くなった表情で、教壇の上に立った。その様子を見て、ソフィア・ファーリーフ(ea3972)は思わずクスリと笑みをこぼした。
「ナギ君、そんなに緊張しなくても大丈夫よ。‥‥と、ナギ先生って呼ぶべきね」
「あ、そ、その‥‥ゴメンなさい」
顔を赤くして謝る姿が、いっそう初々しい。普段のヤンチャな時と違って、言葉遣いもどこか丁寧だ。
「ええっと、それじゃあ最初に配ったテストの方を返します」
集まった者達の知識を知る為、ナギはまず最初にテスト用紙を配っていた。それによって、苦手な部分や解らない所を把握するためだ。
「ソフィアさん」
「はい」
返事をしたソフィアは、そのまま教壇の元へ向かう。
「ええっと‥‥三点です」
「ええっ、本当なの?」
先輩が後輩を導くのは当然。
そう考えていた彼女は、ワザとミスした事で戸惑いの演技を見せる。
(「‥‥ちょっとわざとらしかったかな?」)
そう思わないでもなかったが、ナギの様子を見れば気付いてないようだ。
「[地]と[風]は得意なんですよね? だったら、2番と5番を間違えたら駄目だよ」
「うーん、そうか〜」
「じゃあ、これから一緒に覚えていきましょうね」
「はい」
元気良く返事をし、彼女は席へと戻っていった。
その後も、次々と名前を呼ばれナギの元へ向かう。そして点数を告げられ、一言二言の注意点を教えられるのであった。
●二日目
先日返ってきた答案を眺め、デュクス・ディエクエス(ea4823)は小さく溜息を吐く。
そもそも彼自身、特に魔法の授業を受けた訳ではない。神聖騎士としての戦いは、兄上達から教わった事もあってそれなりに出来たが、精霊魔法に関しては依頼で一緒だった兄さまや姉さまが使うのを見ていただけだ。
そんな興味も相まって、デュクスはこの授業を受ける事にしたのだ。
しかもちゃっかりと一番前の席を陣取って。
「‥‥なあ、ナギ――じゃない、ええっとナギせんせー、これはどういうことなんだ?」
ぶっきらぼうな態度とは裏腹に、彼が醸し出すオーラは好奇心の塊だ。かなり真剣な眼差しでテスト問題と向き合っている。
そもそも、依頼でよく聞く魔法ならともかく、今回のテストに出てる魔法はなかなかイメージしづらいものが多い。
「ん、どうしたの? えっと‥‥わかんない?」
ナギの言葉に、デュクスはコクリと頷く。
難しい顔の彼に、ナギは丁寧に教えていった。
「‥‥どう?」
「うーん、イメージが湧かない‥‥」
「あはは‥‥まあ、じっくり根気よく理解していけばいいよ」
苦笑混じりの言葉だったが、その気遣いを感じてなんとなく楽しくなってきたデュクスだった。
「‥‥ふむ‥‥」
一人、静かに座ったまま教壇を見据えるエルンスト・ヴェディゲン(ea8785)。
その醸し出すオーラに圧倒されるのか、ナギはどこか強張った笑みを浮かべ、あまり近付いてこない。本人はこれでその雰囲気を内心楽しんでいた。
(「まあ、こうやって色々な種族や年齢に慣れてくれ」)
依頼を受けたのも、いじめっこ気質からくる意地悪というから、相当な者だ。
テスト自体はさほど難しいものではなかったが、エルンストは最初ある程度間違っておいた。それに対してナギがどう出るかを見たかったのだが‥‥。
(「この調子では難しそうだな」)
背伸びせず、見栄を張らず、後悔がないよう頑張ればいい――そう彼は考えていた。
●三日目
テスト用紙を見ながら、エリス・フェールディン(ea9520)は小さく溜息をつく。
「ウィザードなどになるより、錬金術師になった方がより有意義ですのに‥‥」
彼女のそんな落胆の言葉に、ナギが静かに言葉を返す。
「フェールディン先生、錬金術と魔法は違うよ」
「それはそうですが」
錬金術の教師として、やはり少しでも多くの人にその素晴らしさを伝えたい。そんな思いがいつもエリスの中にあった。
とはいえ、今は依頼中。
それも生徒の進路がかかった大事な時だ。
出された答案は、さすがに教師らしく特に間違いは見当たらない。ナギを呼んだのは、どちらかといえばやはり錬金術への勧誘が主だった。
「ナギ先生」
先生に先生と呼ばれる事がこそばゆいのか、ほんのりとナギの頬が赤くなる。
「これらの回答が出来る事で、私達は魔法というものが使えるようになるのですか?」
「えっと、それは‥‥で、でもですね。知識として知っておけば、色んな場面で対応出来るんじゃないかと」
「それはそうですけど、私は自分で使えない魔法を学ぶより、錬金術を学んだ方が有効的に思えますが」
「フィールディンせんせぇ‥‥」
度重なる勧誘攻撃。
さすがのナギも少し辟易してしまいそうだった。またそんな彼の様子を、エリスはどこか楽しそうに眺めている。
「はぁ‥‥1と8だけは自信あったんだけどなぁ」
答案片手に溜息つくのは、ハーフエルフの神聖騎士のマクシミリアン・リーマス(eb0311)だ。
黒の神聖魔法を使う自分だからこそ、間違えてはならない問題だったというのに、まさか間違ってしまうとは。
「だって、ミミクリーで変身する時は、服を脱ぐ必要があるんですよ。脱がないと、服が変な風に破れてしまいますから」
「うーん、そうなんだけどさ。だけどほら、神聖魔法ってのは神様の力を借りるようなものだろう? だったら、こっちの合掌するってのも祈りを捧げてるものだから、この方法もアリだよね」
ナギの説明に、だが頑として言い張るマクシミリアン。
「でも、一つでも該当するものがあれば使う、って言いますよね」
妙に自信ありげな態度。
が、そんな態度にもナギは怒る様子もなく、更に付け加えた。
「でもさ‥‥そのミミクリー、別に服脱がなくても大丈夫だよね?」
「‥‥ぁ」
「ほら、だったら服を脱ぐ必要がないって事で正解は三番だよ」
やった、とばかりに笑みを浮かべるナギに、マクシミリアンも成る程、と頷くしかない。
頭ごなしに解答だけを教えるようでは失格にしてやろうと思っていたが、さすがにそこは未来の魔法使い、きっちりと細かく砕いて教える事は出来たようだ。
●四日目
授業を初めて四日目。
いよいよ明日は、最終試験の日だ。ラストスパートとばかりにナギの教える姿勢も熱を増していった。
「雪の舞い散る中を落ちる一筋の稲妻‥‥格好いいですよね」
5番の問題にそう言うソフィアを、
「ち、違うよ! ほら、雷が降ってくるんだよっ」
ナギがそう訂正する。
と。
「な、なあ。これはどうなるんだ?」
「えっとこれはねぇ‥‥」
横から質問するデュクスに対し、親身になって教えていくナギの姿。
その様子をエルンストは後ろから眺めている。その視線は、今まで意地悪してきたものに比べれば、どこか暖かく見守るようなものが含まれていた。
一方、落胆気味なのはエリスだ。
授業の方は普通に過ごしたのだが、事あるごとの錬金術への勧誘に、ナギはやんわりとだが断ってきたのだ。
「はぁ‥‥錬金術が発展すれば色々と出来る事があるでしょうに」
エリスが落ち込んでいると、さすがにナギも悪いと思ったのか、慰めるような言葉をかける。
「あ、あのフェールディン先生‥‥」
「――大丈夫よ、こんな個人的なことで判断はしないから」
そうした仲間達の様子を、エレナ・レイシス(ea8877)はただ一人離れた場所で眺めていた。
彼女の出した解答は、最初から全問正解だった。だから、ただ授業を受けてナギの様子を見ていたのだが‥‥。
(「やはり、まだ少し早いのではないでしょうか」)
胸中で小さく呟く。
確かに基本は確実に身に付けている。この年にしては驚くほどの知識だ。
だが。
「‥‥そんなに焦らなくてもいいのに」
教えるということ、それをもう少し学んで欲しい気がする。
冒険者達に囲まれたナギを見ながら、エレナはそう結論づけた。
●最終日
――そして、翌日。
全てを決める運命の日。
壇上へ上がったナギは、もう一度受けてもらったテスト用紙をそれぞれに返した。
「ええと、解答だけど、次の通りですね。『1−2、2−2、3−3、4−3、5−1、6−2、7−3、8−3』」
なんとか全員を満点取らせる事に成功したナギ。
が、問題は彼らの判定だ。
「僕は結局、自分の魔法以外はよくわかってないんです。だから、自分の魔法の設問でしかナギくんの技量を測ることが出来なかったんですが‥‥きっと彼なら大丈夫ですね。お互いに頑張りましょう」
マクシミリアンの言葉に続き、ソフィア、デュクスも賛成する。
それに教師はこくんと頷き、他の三人に視線を移す。
「ま、知らない事はこれから知ればいい。おいおい慣れていけばいいんだ。後は後悔しないこと、それだけだな」
エルンストはぶっきらぼうに言葉を発して、くるりと背を向けた。
柄にもなく照れているようだ。
「ふむ。では他の二人はどうだ?」
そう振られた先は、エリスがやんわりと答える。
「私的なことを云えば‥‥志半ばで何かをしようとすることは反対です」
どんなことをしたいのか、その意志を見せない限り彼女は納得しないようだ。
そして、エレナもまた反対の意を示す。
「あまり焦る必要はないと、私は考えます」
「そうか。二名の反対ということか。私が見た限りでは、その教え方はそれほど劣ってるとは思わないが。ナギウス‥‥君はどう感じたかな?」
教師の静かな言葉に、全員の視線がナギへと集中する。
幾分の緊張を浮かべた顔は、それでもどことなくすっきりしたような表情だ。
「――あの、オレ‥‥じゃない、僕は‥‥今回は、諦めます。やっぱり一人でも反対されるって事は、僕もまだまだだって思うし。それに――」
一旦言葉を切り、そして冒険者達を見回す。
「――オレ、まだまだ学ぶ事があるんだって‥‥そう実感したんだ」
そう言ったナギに、デュクスがぼそりと声をかけた。
「また‥‥魔法の事教えてくれ‥‥」
「うん」
晴れ晴れとした笑顔で答えるナギ。
それを見た教師が、一つの提案を示す。
「‥‥ではこうしよう。今後、定期的に授業を開き、その教え方に全員が満足出来たのなら――ナギウス、君を『ウィザード養成クラス』への編入を認めよう」
「え、ホント?!」
「ああ」
そう告げた時、授業終了を告げる鐘の音が高らかに響き渡った。