【子供の領分】ひとりあそび
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■ショートシナリオ
担当:葉月十一
対応レベル:1〜5lv
難易度:やや難
成功報酬:5
参加人数:8人
サポート参加人数:1人
冒険期間:05月01日〜05月06日
リプレイ公開日:2005年05月11日
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●オープニング
■【子供の領分】ひとりあそび■
学園都市ケンブリッジ。
多くの少年少女が希望ある未来を夢見て、何かを学ぼうと集まってくる地である。その学舎の数は数十とも数百とも言われ、集まる者達はそれこそ種族や階級も様々だ。
それ故に。
人と人が衝突するトラブルもまた絶える事がなく。
結果――生徒達の手による解決を求め、ケンブリッジギルド『クエストリガー』が設立されたのであった。
●家出?
バタバタバタ。
ガタガタガタ。
寮の廊下を慌しく走る二つの足音。勢いのいいその音は、寮中に響いていた。
そして。
「なあ、そっちいたか?」
「いや、いなかった。そっちは?」
「駄目だ。全然見かけやしねえ」
「ったく、どこいったんだよ、ライトのやつ」
そうぼやくアルの横で、ナギが軽くため息をついた。
「アルが邪険にしたからだろ。だから、ライトったら拗ねて出ていっちゃったんじゃないか」
その言葉に、今度はアルも負けじと反論する。
「お前だって、勉強するとか言ってあいつと遊んでやらなかったじゃないか」
「う‥‥そりゃそうだけどさ‥‥」
「まあオレも鍛錬中だったし、な」
落ち込むナギに、さすがに言い過ぎたか、とアルも口篭もりながら弁明する。
新年度になり、少々忙しくなったアルとナギ。ナギは更に魔法の勉強に力を入れ、アルの方も何か思うところがあるのか、密かに鍛錬をしていた。
そこへ、一緒にここケンブリッジに入学した彼らの年下の幼馴染みであるライトが、久々の休みだから遊ぼうと誘って来たのを、二人ともが無下に断ってしまったのだ。
さすがに怒るような事はなかったが、ちょっとだけ悲しそうな顔を見せ、そのまま寮を出ていったらしい。出て行くところを他の寮生が見ていたというのだ。
「なあ、もうすぐ暗くなるぜ。やっぱ外に探しに行った方がいいんじゃねえか?」
「でも、夜になるといくらケンブリッジ周辺でも危ないよ」
互いに顔を見合わせる二人。
そして。
「‥‥頼むっきゃないか」
「そうだね、人手は多い方がいいから‥‥」
アルとナギは、数少ない小遣いを片手に『クエストリガー』へと向かった。
「‥‥ここ、どこ?」
気付いたら、見知らぬ森の中。
不安に歪む表情。怯えつつ、なんとか気持ちを奮い立たせようとグッと堪える姿は、どこか痛々しい。
少年は、いつも一人で遊んでる場所に向かってる筈だったのだが、そこはいつもとは違う場所。
「‥‥暗くなっちゃったから、帰らないと‥‥」
でもどっちに帰ればいいんだろう?
そう思った時、少年はビクリと立ち止まった。そのまま動かなくなった少年の前に、なにやら白いもやのようなものが現れていく。
最初は怯えていたそれを、だが時間が経つにつれてなんだか怖くなくなってきた。
やがて――もやは、何かを形作る。
それは、少年のよく知る形に似ていて‥‥だから、思わず声をかけた。
「――君、だあれ?」
●リプレイ本文
●集合
「アル先輩、ナギ先輩、ライトくんいなくなったって本当!?」
切羽詰って二人に迫るシスティーナ・ヴィント(ea7435)に、困惑まじりにナギが頷く。アルにいたっては、どこか憮然とした顔のまま、やはり心配を隠せずにいた。
そんな二人の様子にシスティーナは元気付けるように宣言した。
「探すの手伝うよ! ユーシスも手伝ってくれるんだって!」
「ユーシス?」
「うん、幼馴染みのユーシスだよ。ほら、こっち」
彼女が腕を引っ張ると、なんとなく仏頂面したユーシス・オルセット(ea9937)がぺこりと頭を下げる。
「よろしくな」
明るいシスティーナに少々困った顔を見せるユーシスだったが、特に嫌というふうでもなく大人しくなすがままにさせている。
そんな彼等の元へ、ルナ・ローレライ(ea6832)が後ろから声をかけた。
「アルさん、ナギさんお久しぶりです」
「‥‥あ、ルナさん。お久しぶり!」
「ナギさんはあれから料理の方、上達しましたか?」
「う‥‥」
赤くなるナギに、くすくすと微笑みを浮かべるルナ。
そんな彼女の言葉に同じ依頼に参加していたジーン・インパルス(ea7578)も、またからかいついでに口を挟む。
「ま、なんにしろ今度は死人を出さないようにな」
トドメを刺され、さすがにナギも落ち込んでしまった。
それはともかくとして。
「ライトも今ごろ一人で淋しがってるだろうし、早く見つけてあげないとね。皆頑張ろう」
フィアッセ・クリステラ(ea7174)の言葉に促され、集まった冒険者達は森の方へと向かった。
●指針
森の入り口を前にルナが静かにたたずむ。少し伏せた目で前を向くと、やがて囁くような歌声で高らかに詠唱を口にする。
「刻を見守る月よ。見守りし、刻の流れを今我に示せ‥‥パースト!」
彼女の身を銀色の淡い光が包む。やがてその視界には、『今』でない森の風景がぼんやりと映る。
が、肝心の見る時期を指定していなかったため、ライトの姿を確認するのに時間がかかってしまった。
「どうだった?」
アルが確認すると、ルナは少し疲れた顔で答える。
「ライトさんかどうかはわかりませんが、小さなお子さんがここを通ったのは確認出来ましたわ」
「じゃあ、最初のとおりに二手に分かれて捜索だな」
オレンジのローブに身を包んだジーンは、ここぞとばかりに張り切っている。
「やっとこさレスキューらしい依頼だしな」
「遊びじゃないんだよ」
シャンピニオン・エウレカ(ea7984)が少し嗜めるように言うと、わかってる、とジーンが返す。
そうしてそれぞれの班に分かれていく中、荷物を馬に乗せて運んでいたユーシスがシスティーナに尋ねる。
「荷物はここでいいんだね?」
「うん、ここを拠点にするからね。やっぱりあまり遅くなると危険だから」
「そうなのか?」
初めての依頼ということもあって、ユーシスはいささか緊張気味のようだ。
同じく、初めて依頼に参加するアクアレード・ヴォロディヤ(eb0689)も、違った意味で緊張していた。
それは。
「‥‥自分が迷ってしまうこと、ないよな?」
とりあえず前もって準備していた布をしっかりと握り締める。なんとかこれで行程を確保しよう、そう固く心に決めて。
「それでは、そろそろ行きましょうか?」
システィーナ達の組に混じったリアナ・レジーネス(eb1421)の言で、それぞれに森の中へと入っていった。
●捜索――森の獣
森に入って数刻。
システィーナとユーシス、リアナ、そしてルナは少し薄暗くなった獣道を歩く。
「さて、どこにいるのでしょうか?」
「子供の足ですからそれほど奥へは行っていないと思うのですが」
ルナの呟きにリアナがそう受け応える。
先頭に立つ二人が土地感を持っていたことで迷うことはなかったが、さすがに人一人を探すのは骨が折れた。
「そういえば‥‥ライトってのはどういう子なんだ?」
ふとユーシスが問うと、連れ添っていたナギが答える。
「うーん、おっとりした大人しい子だけどね。ま、いい子だな」
「うん、ライトくんはいい子だよー、きっとユーシスともみんなとも友達になれるよ!」
後を追うかたちでシスティーナが付け加える。
「だから、早く見つけてあげないと――」
「シッ」
ふと立ち止まったリアナが、人差し指を口元に当てる。
その仕種に全員が押し黙る。と、同時に彼女はブレスセンサーを発動させた。
「‥‥西の方角、10m先に三個の呼吸を感知できます‥‥これは、野犬?」
リアナが告げると、システィーナの前に立つようにユーシスが一歩出る。互いに目配せをしながら、相手の出方を見守る。
と、木陰から現れる野犬の姿。
素早くルナが手をかざし、目を見開く。
「我、求むるは虚無なる深闇。汝、為す術もなく‥‥」
暗い闇――一切の光を通さない空間が、敵陣営を覆い尽くす。動きの鈍った相手に、彼女は目配せで合図した。
後方に控えたアルの魔法、そして二人飛び出したシスティーナとユーシスの剣技が、数匹の野犬をあっさりと撃退した。
「‥‥ふう。今日は一旦、戻ろうかな。ウォルさんも待ってることだし」
野営する場所を確保してる友人を思い出し、システィーナの提案に誰も反対する者はいなかった。
●探索――森の精
「シャンピニオン。どう、何か見える?」
「うーん、見当たらないなぁ〜?」
一晩、一緒に寝たことですっかり仲良くなったフィアッセとシャンピニオン。
シャンピニオン自身、森の土地感はそれなりにあったから、何度も周囲を巡回しながら帰ってきてはフィアッセの肩で休憩をするという姿をよく見た。
そして、もう一人。
「うーん、こっちもダメかぁ。おーい、そっちはどうだ‥‥って、ちょっとあんた、どこ行くんだよ!」
「え? ‥‥あ、ああ、悪い悪い」
振り向いたジーンが見たのは、どんどんと別方向へ進もうとしていたアクアレードの姿だった。
あのまま声をかけなければ、きっと迷子がもう一人増えていたことだろう。
「ったく、余計な手間かけさせんなよ」
「あはは、スマン」
笑って誤魔化すしかないアクアレードだった。
「とりあえずもう少し進んでみようか」
「そうだね。僕ももうちょっと先に飛んでみるよ」
「気をつけてね」
フィアッセがそう見送ると、シャンピニオンは颯爽と飛んでいった。なるべくモンスターに見つからずに気をつけるつもりだが、そうなった時の警戒は忘れないように。
「そういえばアル、ライトってどんな子? 私たち、本人知らないから」
「ライトか? そりゃあ‥‥ちとぼんやりしたヤツだけどさ、まあ素直だぜ」
聞かれたアルがそう答えると、アクアレードが無造作にその頭を撫でてきた。
「ちょっ‥‥」
「ま、無事でいりゃ、それでいいけどよ」
どうやらかなり落ち込んだ顔をしていたらしい。少し不器用な慰めに、アルは照れながらそっぽを向いた。
と、その時。
「おーい、こっちこっち! 見つけたよー!!」
慌てて戻ってきたシャンピニオンの声に、その場にいた全員がハッとその方向を見た。
「‥‥それでね、アル兄ちゃんもナギ兄ちゃんもひどいんだー。僕のこと、最近全然相手してくれなくなって‥‥冷たいんだ」
愚痴る言葉は最初は大きかったものの、だんだんと小さくなっていき、その度に顔が俯きがちになる。少しだけ目が潤んでいるのは、その時の気持ちを思い出して泣きたくなったからだ。
そんな幼子の様子に見兼ねたのか、黙って見守っていた同じように小さな子供は、まるで慰めるように手を伸ばして頭を撫でてやる。
――大丈夫。
「え?」
――もうすぐ来るよ、君のことを心配してる人達が。
「‥‥なにを?」
不思議そうな顔を、その子供に向ける少年。
その時。
「――おーい、大丈夫か!」
「え?」
本当に声が聞こえた。
駆け寄ってくる人達の姿の中に、幼馴染みと慕った二人の姿がある。
「アル兄ちゃん‥‥ナギ兄ちゃん‥‥?」
「ライト、無事か!?」
「ライト君、大丈夫?!」
見れば、他にも見知った顔がいた。いつもアルやナギと一緒にいるシスティーナ。まるで自分を保護するかのように彼らは囲い、そして『あの子』と対峙するように向かい合う。
最初だけ敵意に似た雰囲気のあった冒険者だったが、相手に害意がないと知るとその警戒を解く。
「ったく、やあっと探したぜ。心配かけやがって」
ジーンと名乗った人が頭をぐりぐり撫でつける。
「ライトくん、遊びたいんだったら私達と一緒に遊ぼうよ。ユーシスだっているし、皆で友達になってね」
「‥‥ライトさえよければね」
システィーナに手を引かれ、照れながらもそう言ったユーシス。
とはいえ、まだ気持ちがついていかず、ライトは少々戸惑っていた。
「皆、心配してるから帰ろう」
ふわふわと宙を飛ぶシフールに、思わず手を伸ばしたくなった。
シャンピニオンと名乗った彼女は、フィアッセの肩にそのまま止まり、にっこりと笑う。フィアッセもまた微笑みながら、抱きしめてきて頭を撫でられた。
「怖くなかった?」
そう聞かれ、ライトは首を横に振る。
だって本当に怖くなかったし、淋しくはなかった。だって『あの子』がいたんだから。
そう言おうとして振り返ったとき、『その子』の姿が‥‥だんだんとぼんやりとしていたことに気付いてハッとなった。
「――待って、あの‥‥」
――大丈夫。
「‥‥あなたは誰ですか? どうしてここへ現れたのでしょう?」
ルナがそう問う。テレパシーでの会話を試みようとしたのだ。
そうして、返ってきたのは。
――もうこんなところで泣いちゃあダメ、だよ?
にっこりとそう笑った、かと思うと次第にその姿は霧散していき、やがてもやのようなものに変わった後、冒険者達の前から一切の欠片も消え去っていった。
「‥‥なんだったんだ、ありゃあ‥‥」
ポツリと呟いたジーンに、ライトは小さく答えた。
「あの子は‥‥森の精霊だよ」
ばいばい‥‥またね。
浮かべた笑顔に、周囲の皆がいっせいに安堵の息を吐く。
「さて、帰るか」
誰かが上げたその声に、冒険者達は皆一様に帰り道を歩き出した。
――帰り道でリアナが、ライトと一緒にいた『あの子』は『アースソウル』という森に住む精霊だと説明した。
おそらく一人でいたライトの身を案じてそばにいたのだろうと、冒険者達は思うのだった。