【聖杯探索】ハードなお仕事

■ショートシナリオ


担当:葉月十一

対応レベル:1〜5lv

難易度:難しい

成功報酬:2 G 43 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:05月08日〜05月18日

リプレイ公開日:2005年05月19日

●オープニング

「これは、一体‥‥?」
 その机は、巨大な机であった。ぐるりと円を成したその机は、アーサーが王座につきし時より、キャメロットの城と、キャメロットの街と、そしてイギリス王国とその民たちを見守ってきた座であった。
 その名は円卓。勇敢にして礼節を知る騎士たちが座る、王国の礎。そしてそれを囲むのは、アーサー・ペンドラゴンと16人の騎士。
 すなわち、誉れも高き『円卓の騎士』である。
 その彼らの目に映りしは、円卓の上に浮かぶ質素な、それでいて神々しい輝きを放つ一つの杯。緑の苔むした石の丘に浮かぶそれは、蜃気楼のごとく揺らめき、騎士たちの心を魅了する。
「‥‥『聖杯』じゃよ」
 重々しい声の主は、マーリンと呼ばれる一人の老爺。老爺はゆっくりと王の隣に立ち、その正体を告げた。
「かのジーザスの血を受けた、神の力と威光を体現する伝説‥‥それが今、見出されることを望んでおる」
「何故?」
「‥‥世の乱れゆえに。神の王国の降臨を、それに至る勇者を望むゆえ‥‥それすなわち、神の国への道」
 老爺の言葉が進むにつれ、その幻影は姿を消していた。‥‥いや、それは騎士たちの心に宿ったのであろうか。
 アーサーは円卓の騎士たちを見回し、マーリンのうなずきに、力強く号令を発する。
「親愛なる円卓の騎士たちよ。これぞ、神よりの誉れ。我々だけでは手は足りぬ‥‥国中に伝えるのだ。栄光の時が来たことを!」

●死者はかく語る
「‥‥アンデッドが?」
「ああ」
 受付に座る男は思わず眉根を寄せる。
 王城から連絡が来たのはつい先程。『聖杯』と呼ばれる存在のお告げが、円卓の間に下ったという。そのための探索者を冒険者達から募って欲しいという。
 そして、ほぼ同時にアンデッドの群れがドーチェスター周辺でしたという報せも入った。
 持ち込んだのは、パラの少年エルリック・ルーン。
「少し用があって、近くの遺跡に下見をした帰りだったんだよ。ありゃあ十や二十じゃきかねえな。色んなズゥンビやスカルウォーリアーまでいたぜ」
 思い出した光景に思わず身震いする。
 さすがに一人で対応出来る数ではなく、その場は急いで帰ってきたのだ。一人での行動だったのでフライングブルームを使って。
「ありゃ、さすがにヤバいぜ。下手したら近隣の村なんてあっという間に‥‥」
 そこまで言って、おもむろに口を閉ざす。
 暗い沈黙。
 それを破ったのはギルド員の言葉。
「どちらにしろその遺跡を調べるためには、そのアンデッドの群れをどうにかしないとな」
 そうして彼が見せたのは、王城からの馬車の使用許可証。
 つまり、王家がドーチェスターまで馬車を出すというのだ。それはすなわち、かの地で今起きていることがそれほど重要であり、かつ危険極まりないものということを意味する。
「んじゃ、遺跡の方はそれからって事か」
「そうなるな。それでもいいのなら――」
「別にいいさ。どっちにしろ、そいつらを倒さない事にはどうにもならないしな」
 僅かに肩を竦め、エルは静かに了承の意を唱えた。

 英雄か、死か。
 問われるべき選択は、今冒険者達の手に委ねられた――――。

●今回の参加者

 ea0219 ラフィス・クローシス(20歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea1143 エイス・カルトヘーゲル(29歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea1435 ノリコ・レッドヒート(31歳・♀・レンジャー・人間・ノルマン王国)
 ea2261 龍深 冬十郎(40歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea6954 翼 天翔(33歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea8902 ヒューベリオン・グリルパルツァー(32歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ea9356 ユイス・イリュシオン(46歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 eb1384 マレス・イースディン(25歳・♂・ナイト・ドワーフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

 連なる数多の死者。
 果たして彼らは何を思い、どこへ向かおうというのか。
 答えを求める術はなく、ただ黙々と彼らは歩く――――。

●理想
 眼前に広がる光景。
 そのあまりの異様さに、ラフィス・クローシス(ea0219)は思わず顔を顰めた。
「けっこうな数よね」
 はるか上空、仲間から借りたフライングブルームに乗って見下ろしながら、ぽつりとそんな感想を述べる。
 目の良さに自信があった彼女は、真っ先に偵察を買って出たのだが、さすがにこの現実には少々愕然となる。いくらなんでも多過ぎではないか、と。
「ホント、うじゃうじゃいるわね。どっから湧いて出たんだか」
 ともあれ今は、敵の情勢を見定めることが最優先だ。なるべく離れた位置を飛びながら、ラフィスは眼下に見下ろすアンデッドの群れを確認していく‥‥。

「――と言うわけよ。大部分が人型のズゥンビだったけど、所々にモンスタータイプもあったわ。あと、骨ばっかのヤツもね」
「死人の群れか‥‥この俺の腕でどれだけ相手に出来るか、試してみるも又一興‥‥」
 ラフィスの説明に、龍深冬十郎(ea2261)が好戦的な笑みを浮かべてそう呟く。初めて対峙する敵に、己がどこまでやれるのかを試してみたいようである。
 敵の数を聞いて溜息を零したのは、普段と変わらぬ態度の翼天翔(ea6954)だ。
「敵の数が多い時ってかなりしんどいのよね‥‥」
 貸していたフライングブルームを受け取る彼女は、そう言いつつも表情は真剣そのものだ。手薄なところを細かく聞くといった姿勢からでもそれは見て取れる。
 とはいえ、少々真剣味に欠けていた態度を、ユイス・イリュシオン(ea9356)が真面目に嗜めた。
「王からの依頼という名誉な仕事だ。あまり軽く考えるのはどうかと思うぞ」
「わかってるさ」
「まずは生きてこの作戦を成し遂げるぞ!」
 クルスソードを右手に掲げ、ユイスはただ真剣な面持ちで待ち構える。その背後では、さっきからテンション高いマレス・イースディン(eb1384)が興奮気味に叫ぶ。
「なあなあ、今回の依頼で目覚しい活躍したら、王様から褒美とかもらえんのかなっ? もしかして円卓の騎士へと取りたてられちゃったりして? うわ、そうしたら俺どしよっかな――」
 いらぬ心配に笑みを零す彼を、他の冒険者達はやれやれといった眼差しを向けた。
 が、次の瞬間。
 そのマレスの笑みも引き攣る場面が待っていた。
「きた‥‥ぞ‥‥」
 独特な喋りを持つエイス・カルトヘーゲル(ea1143)。
 その指差した方に見えたのは、蠢く小さな影。やがてその影は次第に数を増し、更には徐々に大きくなっていく。
「――げっ!?」
 そして、大気に立ち込めるのは酷い死臭。
「う‥‥ウソだろ、おい。こいつら皆ぶっ倒せってのかよ‥‥」
 思わず唖然とするマレス。他の者も似たような表情を浮かべ、その身を固くする。
「どっちしてもやるしかないよね。対アンデッド戦、レンジャーがどこまで出来るかわからないけど」
 後方に構えるノリコ・レッドヒート(ea1435)。手にはショートボウと、銀の矢。借りた相手はヒューベリオン・グリルパルツァー(ea8902)。そのお返しという形で彼にはシルバーダガーを貸している。
「そうだな。どちらにしろ、完全に打破するまでだ」
 前衛に一歩踏み出すヒューベリオン。
 一瞬だけピンクの光が彼を包む。構える剣には、さっきまでと違い、明らかに力が漲っているのが感じられる。それは隣に立つユイスのクルスソードも同じく。
「ったく、しょうがねえなぁ」
 マレスもまた、気を取り直してオーラパワーを持つ武器に与える。スラリと抜いた冬十郎の刃にも、ゆるやかに力が漲ってくる。
 準備が整ったのを確認したラフィスは、勢いよく両手を上に掲げた。
「それじゃあいっちょ、派手にいきましょ派手に♪」
 にこりと笑う。
 そして。
「爆炎の魔女の名において命ず、粛清の火を此処呼べ――ファイヤーボム!!」
 勢いよく飛んでいく炎。
 着弾と同時に起こった爆発が、文字通り戦いの火蓋を切った。

●死者は語らない
 大地を染める炎。
 舐める舌のようなそれは、幾つものの死者を容易く飲みこむ。
 が、それで彼らが歩みを止める訳ではない。痛みすら感じる事のなくなった身体は、ただ本能の命ずるまま‥‥あるいは与えられた意思に従い、命ある者へと襲いかかる。
「いくわよ!」
 最初に飛び出したのは天翔。
 続けざまに放たれるラフィスの魔法の合間を縫い、弱まったズゥンビをロングクラブで横に薙ぎ払う。
「さすがにこう密集してると、脚技はキツイわよね」
 敵はそうでなくとも数が多いのだ。一瞬の隙が命取りになる。
「あまり単身で突っ込まない方がいいな」
 天翔に振り下ろそうとした腕を、ヒューベリオンの剣戟が打ち上げた。勿論、それだけで動きを止める相手ではない。すかさず剣を突き落としたスマッシュで袈裟懸けに斬る。
「キャメロットの栄光の為に!」
 正面を外し、横からの死角へとユイスが飛び込んだ。
 爆音が響く戦場の中、ただ腐臭の匂いだけが鼻をつく。思わず顔を顰めるが、戦いの場でそのような事を言っていられない。
 倒れ伏すズゥンビをそのままに、次の相手に向かうユイス。
 ハッと気付いたのはその直後。
「危ない!」
 咄嗟に飛び出し、背後にヒューベリオンを庇う。切れかけたオーラパワーを付与しようと、一瞬集中が途切れた隙を狙ったスカルウォーリアーの攻撃。
 突いた剣の切っ先が、僅かに肩口を掠る。
「くっ!?」
「!」
 すぐに気付いたエイスが、ウォーターボムを直接ぶつけた。完全な質量による攻撃は、さすがのスカルウォーリアーもダメージを受ける。
 僅かにバランスを崩したところへ、天翔の蹴りが頂点から落下した。
 骨の砕ける音が喧騒の中に紛れていく。
「大丈夫かしら?」
「ああ、平気だ」
 女二人、ただ視線だけで会話を交わす。

 一方で、冬十郎はなにやらしきりと感心していた。
「ふむ‥‥斬らば赤い血潮が出て当然と思っていたが‥‥死人は流す血すら腐ってしまうものなのか」
 刃から漂う腐った臭いに、つい顔を顰めてしまう。率先して剣を振るう相手は、魔法によりダメージを受けた者に対してだ。
 少々不足な感は否めないが、数が多いから仕方ないだろう。
「あーもう、まだいんのかよぉ!」
 思わずマレスの口から愚痴が零れる。勿論その合間も剣を振るうことは忘れていないのだが。
 さすがに最初っから勢い込んで突進したおかげで、何度か傷を負っていた。ある程度は我慢出来たものの、さすがにダメージが酷くなればポーションによる回復は必須だ。
 他の連中は‥‥と見回してみれば、
「おいおい、みんな大丈夫かよ」
 戦闘に夢中になるあまり、回復の方にあまり頭が回らなかったようだ。
「さすがにこの群れは、キツイか‥‥」
 もう一度剣で薙ぎ払い、冬十郎がぼそりと呟く。
 疲労により思わず膝を着いた拍子に、バグベア‥‥当然ズゥンビだ‥‥の巨椀が彼を襲う。
「冬十郎さん、避けて!」
 ノリコの放った矢がその眉間に刺さる。一瞬動きが止まるものの、それだけで倒せる相手ではない。すかさずマレスがその身を砕くべくノーマルソードを振り落とした。
「大丈夫か、冬十郎!?」
「ああ。すまんな」

 ――戦況は冒険者が有利。
 だが、如何せん数の違いは、徐々に彼らの体力を奪っていく。勿論相手も無限ではない。既に残す数も僅か。
 しかし――。

●現実
「きゃあっ!?」
「‥‥ら、ラフィス‥‥ッ!」
 いつの間に回られたのか。
 距離を保ってると思っていた相手が、思いもよらぬ場所から現れたことに、ラフィスとエイスは驚きを隠せない。
 慌てて離れようとしたが、それより早くその凶刃がラフィスの身を捉える。
 後衛だらかと、何も装備をせずに来たことが仇となった。
 飛び散る鮮血。傷は深く、その身がゆっくりと地面へ倒れる。
「ラフィスさん、よくもっ!」
 ノリコの手には二本の矢。そのまま放たれ、ズゥンビの身を貫く。その後、エイスのウォーターボムが文字通り敵を吹き飛ばした。
 すぐに駆け寄り、彼女の身体を抱き起こすが、一目見て重傷だと見て取れる有様だった。
「ラフィスさん、しっかりして」
「あ、あは‥‥さすがにちょっと失敗したかなぁ〜」
 痛みに耐え、僅かに笑みを浮かべる。心配をかけないように、と。
 だが、それが返って痛々しいことに彼女は気付いてない。
「マズイよね」
「‥‥あ、ああ‥‥」
 他に敵が近くにいないか注意深く探る二人。
 前衛での敵も少なくなっている事から、どうやらあれだけだったようだ。そして、その最後の敵も、今まさに倒されようとしているところだった。
「これで、最後だ」
 ユイスの剣、
「終わりだ」
 ヒューベリオンの剣が、スカルウォーリアーの肋骨付近を薙ぎ払う。剥き出しの背骨に刃が当たり、その動きが止まる。やがて、ガラガラと音を立ててその身が崩れ落ちていった。
 それを見届けてから、地面へとぶっ倒れるマレス。
「だああ〜〜もう動けねえぞぉ。今回は本当にハードな仕事だったあ」
 もはや体力の限界、とばかりに叫ぶ横で、こちらも少し息切れをしている冬十郎がガクリと膝を付いた。
「まだまだ力不足ということか‥‥」
 自身に刻まれた少なからずの傷を思い、彼は己の力不足を悔いた。
「なんとか倒せたが‥‥」
「ラフィスの傷の具合から、急いで撤退した方がいいだろうな」
 ポーションによる回復を試みながらのユイスの言葉に、あら、と天翔が少し肩を落とした。
「せめて水浴びでもして腐臭を洗いたかったのだけれど‥‥」
 仕方ないわね、そう納得して残念な顔をする。殿方と一緒に浴びたかった、などとは決して口には出さない彼女。
「結局、連中が遺跡の方から来たことぐらいか。判った事とは」
「しにん、に‥‥くち‥‥な、し‥‥か」
 一言纏めた冬十郎の言葉に、エイスがぼそりと付け加えた。
 そして彼らは、一路キャメロットへ帰る為の馬車へと急ぐのだった。