●リプレイ本文
●準備万端?
「なんて素敵なおじょー様♪」
開口一番、チップ・エイオータ(ea0061)の愉しげな声が集められた控えの間にこだまする。
痛いのは平気だけど、天国な経験はないからちょっと不安だなーなどと考えつつ、それでも大好きな褌のことで彼の頭はいっぱいだった。
無論、この場に集まったもので褌が嫌いな者などいる筈もない。
「褌とは肌に一番近い衣服。つまり身に纏う物の中でも最もエレガントでなければね」
優美に微笑むレイヴァント・シロウ(ea2207)も、その中の一人だ。
「それにしても、自分で作っちまうとは‥‥相当な力の入れようだな」
「そんなに心地良い褌を作って、どうするつもりなのかね」
褌発祥の地の出身である陸奥勇人(ea3329)と来生十四郎(ea5386)が、苦笑まじりに呟いてみた。褌一筋のこの尻にも天国が見えるかね、思わず服の上から尻を触る十四郎であった。
「しかし‥‥褌を製作する令嬢、か‥‥なんだかなぁ」
思わず遠い目をするショウゴ・クレナイ(ea8247)。
まあ人それぞれだし熱中するのは良い事です、と己を納得しつつ、何故自分がこの場にいるのか少しだけ考えてしまうショウゴがいた。
「さて、とりあえず腹ごしらえじゃな。市場で精の付く物を買ってきたぞ」
そう言ってオーガ・シン(ea0717)が出した食べ物を、参加者達は皆、喜んで食べ始めた。その様子に彼がニヤリと笑ったのを、誰かが見たとか見ないとか。
やがて。
「あのー皆さん、そろそろ準備の方、お願いしま‥‥ひッ? あ、あのう‥‥」
彼らを呼びに来たリュートが入って来た時、参加者の目がどこか血走った様子だった。
リュートがそのまま無言でダッシュしたコトは言うまでもない。
●最初の洗礼
手渡された布を前に、シータ・セノモト(ea5459)は大きな溜息をついた。
「マーナさん‥‥まだ諦めてなかったんだね」
「え、なにか? ああ、その断裁をよろしくお願いしますわ」
「ううん、なんでもないよ。‥‥熱中できるものがあるっていうのは素敵なこと、きっとそうだよね」
私も吟遊が大好きだし、それと一緒よね、と強引に納得させる彼女に気付くことなく、マーナは一心不乱に針糸を振るう。
その熱心な様子は、ヲーク・シン(ea5984)の琴線に触れたようだ。
「お嬢さん、褌の素晴らしさは、中の男にも関係します。俺なんてどうですか?」
にっこりと恭しく、出来るだけ格好つけた口調も、お嬢様の前では素通りした。
「はい、出来ました。さ、付けてみてください?」
「は?」
気がつくと、ヲークの衣服は見事に脱がされ、彼女の手により褌の布が当てられ――。
「え? ええっ?!」
ぎゅうっと締め付けられた途端、えもいわれぬ快感が全身を駆け巡った。
「うわぁぁぁ――ッ!」
上げた悲鳴は歓喜の声か。慣れない刺激にヲークは見事に白目を剥いて撃沈した。ヒクヒクと紅潮する全身はどこか悦びに打ち震えている様子だ。
「まあ‥‥なんだか嬉しそうですね‥‥」
その様子にどこか感心したような、思わず引き攣り気味な笑みがシータに浮かぶ。ゆっくりと抱き起こしてやれば、どうやら意識を取り戻したようだ。
が、お嬢様の反応は至ってシビアだ。
「もうだらしないわねえ。何着か付けてもらわないと、着心地が判らないでしょう?」
そう言う彼女の手には次の褌が握られている。
「ちょ、い、いや‥‥そりゃもう回復してるけど、連続じゃあ、あ、いやぁああ!」
先の褌を取り去って、早くも次の褌を締め付ける。その手際のよさはさすがといったところだが、まだまだ発展途上の若者には刺激が強すぎたようだ。
失神と復活を繰り返し、気が付いたときには文字通り精も根も尽き果てて‥‥。
「‥‥うーん、漆黒の髪に纏った紅茶の香りを」
「もうやだ、ヲークさんたら冗談ばっかりだよね」
縋り付こうとしたシータ相手に、ケンもほろろに邪険にされ、そのまま彼の意識はガクリと沈んだ。
●エレガントに、しなやかに
渡された褌を一目見るなり、シロウは思わず叫んでいた。
「なんと見事な褌。この艶、滑らかさ、そしてコク(ぇ?)。正統派白褌として完成の域に達している。素晴らしい、実にソウルフルだ!」
歯の浮く美辞麗句を並べ立てられ、さすがのマーナお嬢様も頬を赤らめて照れを見せる。
「そのように誉められたら、恥かしいですわ」
「うむ。ではさっそく――むむ、シロウですフゥーッ!」
突然の叫び。
身に付けた途端、一点からじわじわと這い上がる快感が思わず声に出る。
「で、では‥‥次のを‥‥ふぅおぉぉぉっ、クロス・アウツッ!!」
言葉の意味は理解出来ぬが、どうやら絶頂を極めた感覚らしい。
はぁはぁと荒い息が、そのリアクションの激しさを物語る。
「そしてこれは、‥‥おお、弾ける俺の‥‥!」
「――いい加減にしとかんか!」
優雅なポーズを決めたシロウの後頭部に、オーガの突っ込みが炸裂した。
「やれやれ、依頼人を怯えさせて、どうするんじゃー」
いや、オーガ老人。彼女なら目をキラキラさせて反応を楽しんでいる様子だが。
‥‥それはともかくとして。
「お嬢さんや」
「はい、どのような感じですか?」
「ふむ‥‥なかなか悪くはないが、少々前部分が窮屈に感じるのう」
「そうですか。やはり何人もの殿方で試さなければならないのですね。では、オーガ様、貴方のはどれぐらいなのでしょうか?」
「は?」
まだ幼い少女の問いに、思わず目を丸くした老ドワーフがいた。果たして、実際に測ったかどうかは‥‥二人のみぞ知る。
●ジャパン褌談義
並べられた褌の数々を前に、勇人はつい尋ねてみた。
「ちなみにお嬢さんの褌作りは、どういった点を重視してるんだ?」
「勿論肌触りですわ。やはり一番の大切な部分をお守りする物ですから、心地良い物でないと」
「違いねえ、そりゃあ確かだが‥‥付ける度に汚れちまうってのも考えもんだな」
十四郎の手にあるのは、試着終えた褌達。べっとりと汗などで汚れた布は、かなり異臭を放っていた。
「本国へ帰る前の土産話にしようと思っていましたが、少々やっかいだったようですね」
音無藤丸(ea7755)にとって履き慣れていた筈の褌。
にも関わらず、マーナの手作りだという褌は、今までにない快感を彼らジャパンの人間にすら与える。実は三人が三人とも、前屈みの状態で談義していた。
気力で堪える十四郎。汚れた部分を必死で隠す勇人。もはや天国寸前の藤丸。
「確かに心地良さも大事だが、褌ってのは身につけた時の緊張感ってがあった方がいいんだ」
「そう。しかも毎日締める物なのだから、丈夫なヤツがいいな」
「人の髪は強度があるといいますから。さすがに全面というわけにはいきませんが‥‥」
彼らの話を、逐一聞き漏らすまいと一生懸命なマーナ。彼女の目に、前屈みの男どもはまるで目に入らないようで、大の男相手に平気で褌の着替えを手伝っている。
布の当て方。後ろの締め方。どういう風に包み、どうやって食い込ませるのか。
「そう、ここがこうなるのですね!」
彼女の白魚のような手が、いとも簡単に褌を締める。その拍子に最後のタガが外れ、勇人と藤丸はあっけなく白い雲を越えて天国の門を潜る。
最後まで堪えたのは十四郎で、彼はそのまま部屋を出ていくと‥‥廊下の隅で見事にぶっ倒れた。
「お、お嬢様ぁ〜」
そんな様子を、リュートが涙目になって見てたとか見なかったとか。
●弄ばれる星の下で
「う、うひゃぁあん!」
思わず上がった声に、チップは慌てて口を塞ぐ。
その横で、
「うぁああっ!」
同じような甲高い声がショウゴの口から洩れ出ていた。
「あ、ちょっとそこ駄目だっておじょー様ぁ」
「ほら、大人しくしてくださいな。きちんと締められませんわ」
腰をよじるチップに構わず、マーナの指が布をしっかりと掴んで締めつける。ぎゅうっという擬音が聞こえてくるくらいの強さに、すっかり元気になった証が痛みよりも悦びを示していた。
「お、おいら‥‥もう駄目ぇぇ」
これで何度目か。
普段慣れない褌の試着。そう言ったら、マーナ自らが試着を手伝うと言ってきたからさあ大変。うら若き青年(ぇ)にとって、その有様といったら‥‥。
「も、もう‥‥おいら、お婿に行けないかも」
天国に行く気持ち良さで意識を失いかけながら、そんなことを呟いてみるチップだった。
対してショウゴの方はといえば、こちらもすっかり失神状態。
「あ、ああ、僕‥‥」
普段の礼儀正しい口調はどこへやら、すっかり素の自分に戻っている。
女性用の褌を、と提案してみたのはいいのだが、マーナの言い分はこうだった。
「逞しい殿方が凛々しい褌を締める姿、それこそが私の理想なのですわ」
どうやら彼女の脳裏に、褌は男性が締めるエレガントなもの、という認識が焼き付いているようだ。
かくして。
ショウゴもまた褌の犠牲‥‥もとい、試着をする羽目になったのだが、元より多少気の弱い部分のある彼。お嬢様の押しの強さに追いやられ、身に付けた褌の数は途中から数えるのも面倒になったほど。
「‥‥ぅ、あの‥‥そろそろ、休ませ‥‥ふあぁあ!」
言いかけて、布のチェックとばかりに触られた瞬間。
見事絶頂への階段を昇りきってしまったのであった。
●戦い(?)済んで
「ふう、今日はとても充実した一日でしたわ」
用意した褌の試着を一段落終えたマーナは、充実した表情で自室に戻ってきた。
色んな人達から聞けた様々な意見。良い所、悪い所。どんな布がいいのか、どういった飾りならいいのか。締め付け方は、初心者でも安心して着られる物を、あくまでシンプルに、等など。
それはリュート一人では得られなかった意見だ。
「これで明日からの作業も愉しくなりますわ‥‥あら?」
部屋に入った彼女は、そこにあるテーブルセットに目をやった。
「やぁ君か‥‥そこに座りたまえ」
驚くマーナなどお構いなしに、シェゾ・カーディフ(eb2526)は席を勧める。そのあまりの自然体に彼女はただ素直に従った。
そして始まったのは、彼の長い演説。
「――だから私は言ってやったのだ。今度『先生〜トイレ〜』などと言ったら‥‥」
だんだんと話の興が乗ってきたのか、テーブルの上にダンと飛び乗り、ガバッと衣服を脱ぎ捨てる。そこにははためく白い褌があった。
「だから、ここに刺繍をしたらどうだ?」
ぐいっと股間を指す。
それを静かに眺めていたマーナは、やがてゆっくりと立ち上がりパンパンと手を叩いた。
途端、シェゾの両脇を抱える黒ずくめの男達。ともに筋肉隆々の身体をした彼女の執事達だ。
「ちょ、ちょっと何をッ」
「お願いしますわ」
「う、うわぁぁぁぁっっっ」
その一言でずるずると彼を引きずる執事達。やがて悲鳴は徐々に遠去かっていく。
静寂が戻った部屋で、ようやくマーナはふうと一息ついた。
「さて、と。ゆっくりとお茶にしましょうか、リュート」
そうして彼女は、幼馴染みの名を呼ぶのだった。