【春の遠足】この〜木、何の樹?

■ショートシナリオ


担当:葉月十一

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:5

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月18日〜06月21日

リプレイ公開日:2005年06月28日

●オープニング

 イギリスの春は遅い。その為、六月になってようやく新緑の芽生えが訪れる。それに併せるように、ケンブリッジでは恒例の春の遠足が開催されるのだ。
 勿論、ここケンブリッジで行われる以上、ただ楽しいだけの遠足ではない。
 あくまでも授業の一環、そして新入生と在校生の交流を図るためのものだ。
 そうは言っても、やはり生徒達の気持ちはそわそわするもので――。

「‥‥それではいよいよ来週は遠足が開催される。各自、準備を怠る事のないようにな」
 以上解散、そう言い残して教師は壇上を去った。
 マジカルシードの生徒達に提示されたのは、野外のハーブの観察と研究。幾人かの班に分かれ、それぞれが選んだ目的地に向かうというもの。
 その場合、やはり同じ場所へ向かう者達は、一緒になって出発するのが当たり前になっていた。
 が。

「‥‥んー集まり悪ぃな〜」
 机の上に寝そべりながら、思わずぼやくアル。
「やっぱり森に向かうってのがマズいのかなぁ?」
 溜息を零したナギは、同じくアルの上に寝そべった。
「僕、もう一度あの子に会いたいなー」
 ライトが思い浮かべているのは、自分を慰めてくれた少年の姿。
「そういえばさ。アル、どんな風にギルドに依頼出したの?」
「あぁ? そんなの決まってんじゃんか。オレらと一緒に森の中を冒険して、バッタバッタとモンスターをぶっ倒そうぜ、って感じにだな」
「馬鹿ッ!」
「ぅぐっ」
 いきなり頭を叩かれて、思わず机に突っ伏した。
「なにしやがるんだ?」
「そんなこと書いたら、新入生の子らが怖がって来るワケないじゃん! あーもう、依頼の文書書き換えなきゃあ」
 怒鳴るアルに見向きもせず、ナギは小さく頭を抱えた。
 その様子をぼんやり眺めながら、いつも二人は仲いいなぁ〜と検討外れな感想を思い浮かべるライトであった。

 ――かくして、改めて依頼の書面がギルドに並ぶ。
『森の中にある大樹の元まで遠足に行きませんか? 徒歩一日しかかからないので、別段危険はありません。野生のハーブ達を前に色々語り合いましょう! ひょっとしたら森に住む精霊に会えるかもしれませんよ♪』
 文書の一番最後。
 何故かライトの描いた似顔絵が載せられていた。

●今回の参加者

 ea0050 大宗院 透(24歳・♂・神聖騎士・人間・ジャパン)
 ea1364 ルーウィン・ルクレール(35歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea7218 バルタザール・アルビレオ(18歳・♂・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea7435 システィーナ・ヴィント(22歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea7984 シャンピニオン・エウレカ(19歳・♀・僧侶・シフール・インドゥーラ国)
 ea9455 カンタータ・ドレッドノート(19歳・♀・バード・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ea9520 エリス・フェールディン(34歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ea9937 ユーシス・オルセット(22歳・♂・ナイト・人間・神聖ローマ帝国)
 eb0299 シャルディ・ラズネルグ(40歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb2292 ジェシュファ・フォース・ロッズ(17歳・♂・ウィザード・エルフ・ロシア王国)

●リプレイ本文

●道程
「さあ皆さん、今日は錬金術について語りながら歩きましょう」
 錬金術をこよなく愛する教師であるエリス・フェールディン(ea9520)の引率の元、一行は森の中をまっすぐに進んで行く。彼女はその言葉通り、ここぞとばかりに錬金術の素晴らしさを語り始めた。
「どうです? 魔法もいいですが、錬金術も学んだ方が将来のためになりますよ」
「あ、あはは、うん‥‥そうだな」
 苦笑交じりに返すナギ。思わず助けを求めた視線の先で、アルやライト、そして他の面々で楽しく談笑をしていた。
 恨みがましい視線を気付かぬ振りをして、アルは隣にいたシスティーナ・ヴィント(ea7435)が見せてくれたお弁当に目を向けていた。
「ほら、食堂のおばさんに頼んで作らせてもらったんだよ」
「お、結構美味そうじゃん!」
 思わず手を伸ばそうとするのを、システィーナがパシリと叩く。
「ダメだよ、これはみんなの分なんだから。‥‥まあ、ちょっとあの子が忙しくて来れなくなっちゃったから、多少余るんだけどね」
「じゃあ、ちょっとぐらい」
「だから、アースソウルくんの分だよ」
 彼女が口にしたその名に、それまで黙って聞いていたライトが反応する。
「‥‥会えるかなぁ〜」
「ライトさんを助けてくれた精霊だよね」
 ぼんやりとした雰囲気の中、更におっとりした雰囲気を持つジェシュファ・フォース・ロッズ(eb2292)がそう聞けば、うん、と明るい声が返ってきた。
 そのまま二人は、持ち前の独特なほんわりした空気を醸し出しつつ、互いに会話をかわしていく。同い年の友達が欲しかったジェシュファにとって、念願叶ったりといった感じだ。
 そんな様子を最後尾から眺めていたカンタータ・ドレッドノート(ea9455)。微笑ましいその印象を音楽にするべく、手にしたオカリナを口に当てた。
 そして、流れ出したのはテンポのいい行進風な曲。勿論、高度な技術を駆使するわけではなく、遠足という長閑な雰囲気の中で奏でるなら、それほど難しくもない。
「きれいな音色ですね‥‥」
 西洋の女性が着る服を身に纏って自身を隠している大宗院透(ea0050)が、静かに感想を述べる。
 ふと、オカリナを吹く手を止める。
「ええ、部活でも頑張っていますから」
「部活?」
「僕、笛部なんです。だから、こうして笛を吹けば、他にも入ってくれる人がいるかなって」
 そう言って、また再開しようとしたカンタータの視線が、何かを持っている透の手に吸い寄せられる。薬草か、と思った疑問が顔に出たのだろう。透は小さく首を横に振った。
「いえ、これは毒草です」
 てっきり修行の試練だとばかり思い、毒草を探していた透。
 アル達に聞けば、どちらかといえば行楽に近いという。ならば、とさっさと捨てたいと考えるのだが、さすがにおいそれとその場に捨てられず、今の今まで持ち歩いていたのだ。
「おーい、そろそろ着くよ〜♪」
 先行していたシャンピニオン・エウレカ(ea7984)が、シフールの特徴である羽を大きく羽ばたかせて冒険者達を前方から手招きする。
 その彼女の背後には、巨大な樫の樹が聳え立っていた。

●薬草探し
 明けて、二日目。
 早朝の朝日の中、バルタザール・アルビレオ(ea7218)の簡単な薬草講座が始まった。ちなみに集まった生徒の殆どは、まだどこか眠たげだ。
 が、さすがに一番年下のライトが一番前で張り切って聞くとあっては、他の者もそれに付き合わない訳にはいくまい。
「それでは簡単ですが、薬草がどこに生えるのか、その辺りをレクチャーしますね。シャピニオンさん、例のものを」
「は〜い♪」
 バルタザールに呼ばれ、お手伝いとしてシャンピニオンが元気に返事する。
「バルたん、はいこれ」
「ありがとうございます。えっとこれがこの辺りの森に生える薬草で――」
 手渡された薬草を例として、バルタザールが説明を始める。それを肩に乗って眺めるシャンピニオンの横顔は、どこかぼーっとした様子だった。
 彼の説明がだいたい終わると、真っ先にアルが立ち上がった。どうやらすっかり退屈してしまったようだ。
「おーし、んじゃさっさと取りに行こうぜ!」
「ちょっと待ってアル先輩。ほら、透先輩も一緒に行こッ」
「あ、うん‥‥」
 駆け出したアルの後を、システィーナが隣にいた透の手を引っ張り、一緒になって追いかけた。その様子だと彼女自身、透のことを同性だと思っているのかもしれない。
「じゃあさあ、僕らは向こうへ行こうか」
「うん」
 おっとりした者同士、すっかり仲良くなったジェシュファがライトと連れ立って別の方向へと歩いていく。
「‥‥へえ、じゃあ薬師を目指してるんだ」
「うん。僕の村には医者がいないからね」
 二人の様子は、傍から見ていて何故か微笑ましくなる雰囲気があった。
「なんだかのんびりしていていい感じですね」
 思わず、そう呟いたシャルディ・ラズネルグ(eb0299)。
 彼自身は、バルタザールの講義を受けながら自らの持つ知識との相互を補おうと、二人はそのまま薬草の栽培方法に花を咲かせていた。
「なるほど。そういうやり方が」
「ええ。農業に関しては私もまだまだですけどね」
「いえ、それでも私の師匠の薬草園を手伝う時には役に立ちますよ」
 その時、ふと一人静かにしている青年に彼らは気づいた。最初に声をかけたのは、シャルディの方だ。
「あの‥‥薬草を探しに行かないのですか?」
「ん? あぁ、今回は元々ゆっくりするつもりで来ましたから」
 元々騎士訓練校の生徒であるルーウィン・ルクレール(ea1364)にとって、今日の遠足はある意味骨休めのつもりで参加したのだ。あまり動き回りたくないというのが本音だ。
「まあ、特に強制ではないですから」
 苦笑を浮かべるバルタザール。
「さて、では私も少し見て回りますか。‥‥傷に効く薬草が必要になる人が出ないとも限りませんし」
 そう言って視線を向けた先には、競争とでも言うようにアルと透とシスティーナの三人が例の大樹を登っているところだった。
「そうですね」
 そんな光景に、シャルディもまた苦笑で返すのだった。

「――で、どうです? 錬金術の勉強は進んでいますか?」
「あ、あのう‥‥」
「わからない事があるのなら、ちょうど時間もあることですので、教えましょう」
「え、えっと‥‥フェールディン先生、ちょっと飲みすぎじゃあ」
「うふふ、だから錬金術は素晴らしいのです」
 詰め寄るエリスに、ナギはすっかりヘトヘトだ。
 彼女の手にはすでに半分まで飲み干された発泡酒。すっかり目の据わった顔で、真剣に錬金術の事を語るその口を、ナギには止める事が出来なかった。

 大樹の周辺をすっかり掃除し終えたシャルディは、木の幹に手を当てて静かに目を閉じた。薄い光が彼の体をゆっくりと包む。
「質問とは少し違いますが、もし叶うなら‥‥」
 地の精霊魔法である『グリーンワード』を発動するのに手を触れる必要はない。が、ある意味それはシャルディにとって、この100年生きた大樹に対する礼儀なのだ。
「森の神秘、お見せいただけませんか?」
 ライト少年を助けたとされる森の精霊――アースソウル。その存在を今一度。
 ちょうどその時、お茶会の準備に忙しく飛び回っていたシャンピニオンがシャルディに気付き、声をかけてきた。
「あれ、シャルディさん。何してるの? あ、ひょっとしてこの樹とお話してたの?」
「‥‥いえ。何でもありません。他愛ないことですよ」
 思わず浮かべた笑みではぐらかす。
 その機微に気付いたのか、気付いてないのか。大樹を見上げながら、シャンピニオンがぽつりと呟くのを彼の耳が捉えた。
「長ーく生きてる植物や物には、魂が宿るんだよね。ライト君を守ってくれた精霊さん、また出てきてくれないかな?」
 それに対し、シャルディはといえば。
「さあ。どうでしょうか」
 それだけ、言葉を返したのだった。

●月下の宴
 すっかり陽も落ちて、周囲が暗くなり始めた頃。
 集められた薬草や持ち寄った食料で、ささやかな宴が繰り広げられていた。
 カンタータの持つ竪琴から滑らかなメロディが紡がれていく。夜の闇に溶け込むそれは、どこか幻想的に集まった仲間達の耳に届いた。
「――ボク等は集い、歌いて踊る♪ 大地の子等よ、共に環に在れ♪」
 振舞われた発泡酒ですっかり陽気になったバルタザールが、シャンピニオンの手を取って踊り始めた。その頭には彼女から送られた花冠が飾られている。
「ふふふ‥‥」
 すっかり酔ったエリスは、飼い猫のミスリルを抱きながら、すっかり地面に寝転がった状態だ。
「‥‥凄かった、です‥‥」
「うん、もう私感激しちゃった」
「ああ、すげえよな〜あの光景は」
 一角では、大樹の天辺から臨んだ光景に、三人が口々に驚きの感想を言い合っている。
 透にいたっては、無愛想ながら震える言葉が見事にその感動を物語っていた。システィーナも同様で、かなり興奮気味だ。
 皆が、わいわいと騒ぐ中、一人静かに発泡酒を口にしていたルーウィンだったが、ふと気配に気付いて顔を上げると――。
「あ、来てくれたんだぁ〜」
 最初に声を出したのはライト。
「うわぁ〜〜」
 どこか感動のような声をジェシュファが洩らす。
 そして。
「ああ、来てくれたのですね」
「わー、精霊だよねー」
 シャルディの嬉しそうな言葉に、シャンピニオンが驚きの声を上げる。
 そんな彼らの目の前で、精霊――アースソウルはニコリと微笑むと、楽しげに彼らの踊る環の中に入ってきた。
 その刹那。
 ちょうど大樹の隙間から零れるように、月の光が差し込んで精霊の身体に降り注いだ。それは、まるで光をその身に纏っているようで、彼らはそのどこか幻想的な光景に目を奪われた。
 そうして、ゆっくりと‥‥夜は更けていく――――。


 一夜明け、彼らは名残惜しみながらケンブリッジまでの帰路へと着いた。
 採取した薬草で作られたお弁当。そして、差し出された発泡酒の数々。
「これは‥‥?」
「今回は一緒に行ってくれてありがとな。これはオレらからのささやかなお礼だよ」
「えっと‥‥聞いてもいいかな? これ、作ったのって」
 システィーナの問いかけに、ナギが自信満々に答えた。
「勿論、オレに決まってるだろ」
 その瞬間、差し出されたお弁当を前に彼らの顔が全員思わず引きつった笑みに変わった事を、当事者以外は知る由もない。

●ピンナップ

シャルディ・ラズネルグ(eb0299


PCシングルピンナップ
Illusted by 白亜