子供達は夜の住人

■ショートシナリオ


担当:葉月十一

対応レベル:1〜3lv

難易度:普通

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月03日〜07月08日

リプレイ公開日:2004年07月12日

●オープニング

 王都キャメロット。
 その市街地はいつも人で賑わっている。
 が、さすがに夜になると、人足は途絶えて閑散となる。例外的に一部の大人達で賑わう場所もあるが、住宅街にいたってはひっそりとしているのが普通だろう。
 そんな、大人でも少し怖くなるような静かな街の夜に、ここ最近子供達の姿が目に付くようになった。
 最初に目撃した大人は、見間違いだと思った。
 自警団が見つけた時はすぐに保護し、親元のところへ届けられた。
 子供の親達は、きつく言い聞かせた。
 にも関わらず、子供達は親の目を盗み、夜毎に家を抜け出す始末。いくら王都とはいえ治安が完璧とは言えず、親の心配も増すばかりだ。
 いったい子供達は、夜遅く抜け出してドコへ行っているのだろう。
 何人か保護した者達は、皆一様に「夜遊びがしたかったから」と答えているのだが、それだけではないだろう事は容易に想像できる。

「‥‥だから、親たちが連名で依頼してきたのさ。どうして子供達が夜に抜け出すのか、突き止めて欲しいってな」
 ギルドの人間が、冒険者に向かってそう告げた。
 どれだけ叱ろうとも夜遊びを繰り返す、子供達が何をしているのか。
「目撃するのは、街中だけじゃなく北部に広がる森近くでも姿を見たらしいぜ。ったく、いったいそんなガキどもが夜中に何やってんだろうな」
 受付の男はそうぼやきつつ、依頼書を冒険者へと手渡した。

●今回の参加者

 ea0702 フェシス・ラズィエリ(21歳・♂・レンジャー・エルフ・イギリス王国)
 ea0714 クオン・レイウイング(29歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea1115 ラスター・トゥーゲント(23歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea1182 葛城 伊織(37歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea2856 ジョーイ・ジョルディーノ(34歳・♂・レンジャー・人間・神聖ローマ帝国)
 ea3668 アンジェリカ・シュエット(15歳・♀・クレリック・エルフ・ノルマン王国)
 ea4137 アクテ・シュラウヴェル(26歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea4313 フィオッカ・ロンディノット(17歳・♂・バード・エルフ・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

●子供達は何を望む
 深く頭を下げる親に、フェシス・ラズィエリ(ea0702)は礼を言ってその場を後にした。
「‥‥収穫はなし、か。親にも言いたくないのか、それとも言えないのか‥‥どっちなんだろうな」
 ポツリと呟いてみる。
 魔法学院へ入学するという話から、入学前の思い出作りか、度胸試しのどちらかだとフェシスは考えていたのだが、どうもそれとは様子が違うようだ。
 親の話では、叱れば叱るほど意固地になって、その態度も頑なになっていくらしい。
「どちらにしても、後を付けてみる他はないな」
 念のため、先程訪ねた家とは別の子供の家へ彼の足は向かった。

 一方。
 アクテ・シュラウヴェル(ea4137)は、近所づきあいのある親御さん達と井戸端会議に花を咲かせていた。
「ホントにうちの子は‥‥」
「こっちもよ。全くなんにも言ってくれないんだから」
「うちの子なんか、言うに事欠いてクソババァ呼ばわりするのよ」
 心配は、してるのだろう。
 が、古今東西お母さん方が集まれば、そのお喋りに歯止めはない。息継ぐ間もない言葉の羅列に、アクテは思わず圧倒されていた。
「あ、あのぅ、それでお子さん達は魔法の事を何か言ってませんでしたか?」
 ようやく口を挟んだ、次の瞬間。
「あの子ったら主人の書物をいきなり引っ張り出してきてね」
「あら、うちのもよ。古い文献を部屋中に散らかしてたわ」
 一言えば、十どころか百になって言葉が返ってきた。隣にいたフィオッカ・ロンディノット(ea4313)に助けを求めようにも、イギリスの言葉が通じない彼にすれば、ただにこにことするだけで、アテにはならなかった。

 ――その前夜。
 子供達が向かうと言われる森へ、クオン・レイウイング(ea0714)は単身調査に訪れていた。
 土地勘があるとはいえ、さすがに夜の森には何が潜んでいるか分からない。子供達が今まで危ない目に遭わなかったからといって、これから先も同じとは限らない。
 ふと、目に付いたのは少し広めの空き地。木々に囲まれるように、そこだけぽっかりと空間がある。
 そして、地面に目をやれば何かを描いた痕跡が、うっすらとだがまだ残っている。
「これは‥‥何かの魔法陣か?」
 奇妙な不安が、背筋を走った。

●子供達は何処へ向かう
「よう、クリス」
 偶然を装い、葛城伊織(ea1182)は目当ての少女に声をかけた。イギリスに来た際、英国語の師匠をお願いしたクリスという少女だ。
「さっき、おふくろさんから聞いたぜ。お前、夜出歩いてるんだってな?」
 彼女の顔色がサッと変わる。
「おふくろさん、随分心配してたぞ。本当の事、話せないのか?」
 見つめる視線の中、少女は伊織を見ない。直感的に、かなり後ろ暗い事がありそうだと彼は感じた。
 その時、後ろからアンジェリカ・シュエット(ea3668)がタイミングよく声をかける。
「伊織、あまり無理強いはよくないわ」
「ん、あぁ‥‥そうだな」
 アンジェリカの存在に気付いたクリス。自分とあまり変わらない彼女に、思わず首を傾げて伊織を見る。その視線に気付いた彼は、二人に互いを紹介する。
「伊織、彼女はアンジェリカ。で、こっちはクリス、俺の英国語の師匠だな」
「アンジェリカ・シュエットよ。よろしくお願いね」
 そのまま、伊織に聞かれないように顔を近付けて、その耳元でそっと囁いてみる。
「ねえ‥‥魔法の研究でもしているの?」
 ハッと驚く顔に、更なる笑みを浮かべて。
「大丈夫。伊織には内緒にするから」
「え、でも‥‥」
「私も精霊魔法とかに興味あるわ。ねえ、今度一緒に連れて行ってもらえないかしら?」
 そっと口元に指を当て、内緒の合図を作る。僅かに逡巡したクリスだったが、アンジェリカの微笑に気圧されるような形で、彼女は伊織に気付かれないようこくりと頷いた。

「やっほー、みんな元気〜!」
 遊んでいた友人の輪に、ラスター・トゥーゲント(ea1115)は元気良く飛び込んだ。
「お、ラスターじゃん」
「お前、どこ行ってたんだよ?」
「なんでも修道院飛び出したって話じゃん? 今、なにやってんだぁ?」
 ここぞとばかりに質問攻めにしてくる友人達。さすがに冒険者になったとは言えない。
「そういえばさ、お前ら魔法学院ってのに行くんだって?」
「おう、よく知ってんな」
「オイラもちょっとはルーン文字とかわかるんだよ。だから‥‥オイラもさ、夜遊びに混ぜてよね」
「お、お前なんで?」
 ニッと笑うラスターを前に、虚を突かれておどおどする友人達。
「いいけどさ、絶対大人達には内緒だかんな?」
「分かってるって」
 それは、子供同士の内緒話。ドキドキする気持ちとは別に、ラスターは心の中でしっかり見守ってやろうと決めていた。

●子供達は何時抜け出すか
 マントを羽織り、目立たないようにジョーイ・ジョルディーノ(ea2856)は物陰に立つ。
 目当ての家を見守る事数時間。人影もすっかりなくなり、家の灯りも殆ど消えかけた、その時。
 窓からこっそり抜け出ようとする人影がいた。
「‥‥動き出したな」
 小さく呟き、気付かれないようその影を追う。小さな影は何度も立ち止まり、辺りに注意を払う。その度にジョーイは身を隠して動向を見守った。
 やがて影が一つ、二つと増えていく。どうやら待ち合わせをしていたようだ。
 その時、誰かがポンと彼の肩を叩いた。ハッと振り向けば、他の子供を尾行していたフェシスが立っていた。
「どうだ、そっちは?」
「大丈夫だ、気付かれてはいない。なんとかこのまま、子供達の事情まで調べられればいいけどな」
「とはいえ、彼らの身の安全が第一だ。危険が迫った時は‥‥」
 じっと見つめる視線の先、小さな影はまた増える。
 その後を追っていたボロを纏う青年が、ゆっくりと二人に近付いてきた。隠密技能で変装している伊織だ。
「子供達の中にアンジェリカも混じっているからな、なんとかなるだろう」
「そういえば‥‥ラスターも友達と一緒に行く、と言っていたな」
 そんな会話の間にも、子供達は注意深く周囲を見回しながら森の方へと向かう。その後を暫く彼らは尾行を続けた。
 住宅街を抜け、街の外れに差し掛かり、そして。
「もうじき森だな」
「ひとまず仲間と落ち合うか」
「ああ」
 三人は、事前に決めていた待ち合わせ場所へと向かった。

「この辺りなら子供達の様子もよく見えるよね」
「え、なに?」
 ポツリと呟いたフィオッカの声にアクテが聞き返す。
 が、意志の疎通はともかく、互いに言葉が通じない二人には、会話すべき手段がない。作戦にしても身振り手振りでようやく理解出来たぐらいだ。
 こんな事ならもう少し言葉を勉強しておくべきだった、とフィオッカは内心で後悔した。
(「‥‥これじゃあ、いまいち活躍できないよね」)
「様子はどうだ?」
「他のお子さんもどうやら集まってきたようです。それと、周りには特に危険な生物等はいないようです」
 クオンの問いに、周囲の気配に注意しながらアクテが答える。そこへ、残り三人の冒険者もやってきた。
 どうやら、子供達は全員集まったようだ。
「さて‥‥どうする?」
 仲間達に問い掛けるクオン。彼から昨夜見つけた痕跡を説明された時、アクテはアル一つの予感を想定していた。彼らは、何か魔法の練習をしているのではないか、と。
 だが、それは正しい知識の元に行わなければ危険過ぎる。ましてや夜の森なら尚更だ。
「ラスターさん達が止めようとするのを契機に、私達も説得に姿を見せましょう」

●子供達は明日を担う
 集まった子供達は十人。その中にラスターとアンジェリカの姿もいた。
「ねえ、いったいどんなことをするの?」
 クリスにそう耳打ちすると、彼女は少し悲しい顔を浮かべ、すぐに笑みへ紛らわせた。
「ラッシーを生き返らせるの」
「え?」
「街の外れにさ、おっきな犬がいたんだ。みんなラッシーって名前付けていつも一緒に遊んでたんだ」
「だけど、死んじゃったんだ。河で溺れてる僕を‥‥助けてくれたのに」
「だから俺らでラッシーを生き返らせるんだ!」
「父ちゃんが持ってる本に、そういう魔法が載ってたぜ」
「今日こそ絶対成功させてやる!」
 友人達の言葉に、ラスターは思わず叫んでいた。
「だ、ダメだよ! 一度死んじゃったものを生き返らせるなんて‥‥」
 彼らの悲しい気持ちは分かる。
 だが、未熟な力でそんな魔法を使えば、何が起きるか分からない。
 その時。
「そうだな。まだ未熟な腕で、魔法を使うのはよくないな」
 いきなり聞こえてきた声。
 ハッと向けた先、闇の中からジョーイが姿を見せる。次いで、他の冒険者も子供達を取り囲むように次々と姿を見せた。
 突然現れた大人達に慌てて逃げようとしたが、所詮は子供の足だ。クリスは自分の腕を掴んだのが、伊織だと気付いて大きく目を見開いた。
「だ、騙したのね」
「そうじゃない。お前がやろうとしてる事、今は無理だと俺も思うぜ」
「でも!」
「クリス、お前は学院に行くんだろう。ならば今はキチンと魔法を学ぶ事だ。俺はいつだってお前の味方だぜ」
 ジョーイもまた、子供達相手に説得の為の弁をふるう。
「駄目だとは言わない。だが、親に心配をかけてまですることか。お前達は魔法学院へ行くのだろう? ならば、そこでキチンと魔法を学び、その上で今やろうとしている事がどんなものかを理解するべきじゃないのか」
 どこか熱血な教師を思わせ、子供達は思わず背筋を正す。
「それにそんな事では、心配で魔法学院へ行かせてもらえなくなるかもしれなくてよ」
 アンジェリカの言葉に誰もが押し黙る。
 しんと静まり返った森の中、子供達が互いに視線を見合わせる。あと一押し、と誰もが思ったところで、アクテが最後に付け加えた。
「私も魔法学院で勉強してましたので、学院へ行くまでに効果的な勉強方法をお教えする事ぐらいは出来ますよ」
 自分達の先輩にあたる彼女の一言。
 それが、子供達の興味を一番引き付けたようだ。

 その後。
 魔法学院へ行くまでの間、アクテが色々と教える事となった。
 結果、夜に抜け出す事はなくなって親達は安堵するが、彼らがラッシーの事を諦めたのかどうかは知る由もない――。