【春の修学旅行】キャメロットへ行こう
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■ショートシナリオ
担当:葉月十一
対応レベル:フリーlv
難易度:やや難
成功報酬:5
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:06月21日〜07月03日
リプレイ公開日:2005年07月04日
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●オープニング
その日、キャメロット城から一通の書状がケンブリッジの騎士学校へ届いた。
「おお、どうやら許可が出たようだな。これで今回の旅行は、生徒達にとっても有意義なものとなるだろう」
受け取った教師は、嬉しそうにそう口にした。
生徒達からの要望もあり、今年の春の修学旅行はキャメロットとなった。
だが、生徒達にはキャメロット出身の者も多い。そこで考えられたのが、普段は行けないような場所を見学するというものだ。幾つかの場所が候補として上がり、それぞれを生徒の自主性で決めさせる。その中でさすがに事前に許可を取らなければならない場所が一ヶ所だけあった。
それが、アーサー王が居城であるキャメロット城だった。
「さっそく生徒達に知らせておくか」
手にした書状を大切に仕舞い、教師は改めて春の修学旅行についての内容を貼りに行くのであった。
ふと立ち寄ったギルドで、少年はその張り紙に目を向ける。
それは、騎士訓練校で行われる春の修学旅行の日程だった。
「‥‥キャメロットか。どんなトコなんだろうなぁ」
期待を膨らませた蒼い双眸は、どこか勝気な印象を与える。まだ見ぬ都会を胸中に思い描き、少年の楽しみはますます高まっている様子だ。
が、そうそう浮かれてもいけない事を、彼自身理解していた。
あくまでも騎士訓練校の生徒として、礼儀正しく振舞わなければならないからだ。更に付け加えるならば、修学旅行が終わればその過程をレポートとして提出しなければいけない。
「でもま、やっぱりワクワクしてしょうがないじゃん」
先程までキリッと締まっていた表情が、思わずにやけそうになる。
ちょうどそこへ、友人が少年を呼びに来た。
「ガラハッド、何やってんだよ。早く行かなきゃ、遅れちゃうぜ」
「あぁ、ゴメンゴメン。ちょっとこれ見ててさ」
そう言って指差したのは、『修学旅行』の案内。
「そういやもう来週だっけ?」
「俺、すっげぇ楽しみなんだぜ。なにしろキャメロットに行った事なかったからな」
「んなことより、ほら早く来いって」
手を取った友人に引き摺られるように、少年――ガラハッド・ペレスはそのままその場を後にした。
●リプレイ本文
●王城キャメロット
聳え立つ石造りの門構え。
その荘厳たる雰囲気を前に、ケンブリッジの生徒たちは皆一様に息を飲んだ。棲家もあって、普段からキャメロットに慣れ親しんでいるライノセラス・バートン(ea0582)も、改めて目の当たりにしたその建造物に少なからず興奮気味だった。
「今回の旅行で一番楽しみにしてたからな。学生の俺にとって憧れの場所だ」
「キャメロットに来るのは、本当に久しぶりです。この機会にゆっくり街を見学しましょうか」
小さな筆記用具を片手に、ユエリー・ラウ(ea1916)がそう言ってキャメロット城を見上げた。普段穏やかな雰囲気の彼だが、やはり王国の騎士に会えるかもしれないという期待に、その頬が僅かに紅潮していた。
もっとも既にテンションの高い者もいる。初めての修学旅行に興奮気味のソフィア・ファーリーフ(ea3972)だ。
「はじめての〜修学旅行〜♪」
何気に調子を付けた科白を口にして、年甲斐もなくワクワクする気持ちが止められない。
「では、参りましょう」
ユエリーを先頭に、彼らはそれぞれの思いを胸にキャメロット城へと足を踏み入れた。
「ねえ、見て見て。可愛いってカンジィ。私にも似合うかなぁ」
通り過ぎた貴婦人のドレスをじぃっと見ていた大宗院亞莉子(ea8484)が、すぐ前を歩く大宗院透(ea0050)にそう尋ねてみた。いつものように少し甘えた調子で、だがさすがに場所が場所なので多少の遠慮を含めて。
問われた透はといえば、
「あ、うん。そうですね」
と、どこか生返事だが、彼女はそれに気づかない。
そのまま透自身は、広く長い回廊をいつもの癖で注意深く観察していった。
「ここがキャメロット城ですか‥‥」
そっと石造りの壁に手を触れる。どこまで荘厳で、思わず息を呑む。
時折擦れ違う騎士に目をやり、もやもやとした感情が次第に形になっていくのが解る。
「‥‥忍者として‥‥ナイトでもイギリス人でもない私がここへ仕えることは可能でしょうか‥‥」
「え、透なんか言ったぁ?」
「いえ。なんでもありません」
小さな呟きを聞き返した亞莉子に、透は素早く誤魔化した。
「ほぇー、中はこんな風になってるのですか」
どこもかしこも豪奢な造りに、きょろきょろと目移りするソフィア。
通りかかる騎士の姿をうっとりした眼差しで見つめる視線は、まさに憧れの極みだ。
「ガラハット君も、将来あんな風になるのかなぁ」
「え、俺?」
十年後を想像する熱い視線に、まだ幼いガラハットは思わず後ずさる。
その様子を見ながら、システィーナ・ヴィント(ea7435)はつい苦笑を洩らす。普段生真面目な後輩の彼の、思わぬ一面を見てしまったようだ。
「ガラハット君、ほら今度はこっちに行こうよ。ユーシスも早く!」
ぐいっと腕を引っ張る相手は、後輩のガラハットと幼馴染みのユーシス・オルセット(ea9937)。
「お、おい。そんなに引っ張るなよ」
とはいえ、システィーナがいつも以上に浮かれる気持ちも解るから、とりあえず彼女に逆らわないようにしているユーシスだった。
彼自身、英雄たる騎士に憧れる一人。
一見無表情に見える顔も、少し興奮しているのがガラハットにも見て取れる。
「‥‥なぁ」
「ん?」
「‥‥やっぱ、誰かと話してみたいよな」
「ガラハットもか」
やはり目指すからには、一度くらい話を聞いてみたい。そのあたりは騎士の卵といえで、どこにでもいる子供と変わらないようだ。
「マジカルシードの私としては、やっぱりマーリンさんに会えたら嬉しいようなモノよね!」
こそこその内緒話に、ソフィアがいきなり口を挟む。
そんな三人に向かって、とっくに先を歩いていたシスティーナが大声を上げた。
「ほら、早く! こっちに騎士の詰め所があるんだって。誰かいるかもしれないよー!」
静かな回廊に彼女の声が大きく響く。
思わず赤面しながらも、三人は急いで後を追った。
手にしたメモを何度も吟味しながら、ユエリーはとある目的地へ向かって歩く。
「‥‥なるほど、随分ためになりました」
そこには、先ほどまで話していた城の騎士との会話が事細かく記されていた。イギリス王国のこれからについて、それに対しての騎士たちの考え方など。
話を聞いた者はまだ一平卒に過ぎず、あくまでも個人の考えとしてということだったが。
気がつけば、目の前には大きな扉。
そこは、キャメロット――いやイギリス王国が誇る宮廷図書館。実は、今回の旅行で一番彼が気になった場所がここだった。
「さすがに全部は無理ですが‥‥時間の許す限り読みたいですね」
そう呟いてから、ユエリーは静かにその重厚な扉を開いた。
「それじゃあ、勉強頑張ってね」
「は、はい!」
麗しい女性騎士にそう声をかけられ、思わず顔を真っ赤にするライノセラス。手にした羊皮紙にはなんとかお願いしたサインが書かれている。
年上だろうその女性は、流れるような優雅な動作で彼の前を去っていく。
その後姿を、ライノセラスはぼーっと眺めていた。
「はぁ‥‥やっぱり、女性でも騎士の動きはいいなぁ」
思わず見惚れてしまう。
ぼんやりと見送ってどれだけ経っただろうか。ゴーンゴーンと響いた鐘の音に、ハッと気づいた時は既に夕刻近い。
「いけない。そろそろ宿の方に帰らないと! 街での買い物は明日だなっ」
言うが早いか、そのまま彼はダッシュで門へと急いだ。
●キャメロットの街中で
久しぶりのキャメロットの街を、ルーウィン・ルクレール(ea1364)はのんびりと歩いていた。
かつて冒険者でいた頃は急がしく、こんなにのんびりした時間を持てなかったこともあり、彼は色々と街を見物して回ることを選んだのだ。
先ほどギルドへ顔を出した時も、
「懐かしい顔ぶれに会いましたね」
見知った友人に出会い、思い出話に花が咲いた事が脳裏をよぎる。
さて、これからどこへ行こう。
そう考えるルーウィンの目に入ったのは、酒瓶のマークのついた看板。クスリ、と思わず零れた笑み。
「まあ一応学生の身ですが‥‥ケンブリッジでは手に入らないお酒でも購入しておきますか」
勿論お土産用ですよ、などと誰も聞いていないのにそう呟いてみる。
そうして彼は、すたすたとその店へと入っていった。
「うーん、うーん、お腹いっぱいですぅ〜」
ショッピングに来た筈だったソフィアは、いい匂いに引き寄せられ、気がつけば食堂に腰を下ろしていた。
「やっぱり保存食だけじゃなく、美味しいものも食べたいですよ!」
などと主張して、目に付く美味しい食事を食べていたのだが‥‥結果として、腹八分どころかかなりの量を平らげてしまった。
「ああっ。この後もお土産買いに行きたいの‥‥お、お腹が苦しい、ですぅ」
街中を腕組しながら歩く亞莉子はかなりご機嫌だ。
「私たちって新婚旅行ってぇ、してなかったのでぇ、これを新婚旅行にしちゃうってカンジィ」
特に反論するでもなく、彼女に付き合う透。
亞莉子のほうはともかく、透自身は二人の婚姻は形式上のものだと考えているからか、二人の温度差は傍から見ていてかなり微妙だ。
勿論、好意がないわけでもないので、先程の彼女の科白にも彼はやんわりと返事した。
「確かに学生最大のイベントと人生一度の新婚旅行を一緒にするなどあまり例がみられない旅行です‥‥」
「やぁーだ、もう! 透と一緒の時間をいっぱい過ごせてぇ、最高ってカンジぃ」
噛み合わない二人の会話。
が、どうやらそれでも楽しければいいのだろう。
「ねえねえ、このリングなんかどうぅ?」
「そうですね‥‥」
じぃっと見つめる視線の先には、キラキラ輝くペアリングが光っていた。
酒場を出てきたライノセラスは、様々な冒険譚を聞かされてすっかり興奮していた。
「やっぱり冒険者は凄いな。俺もいつかは!」
そのままの足で、土産物を買いに市場へと向かっていると、途中でユエリーとばったり出くわした。
「やあ、ライノセラス君。君もお土産を?」
「ああ。格安でお値打ちな武具や防具があればな。一応予算はこれぐらいなんだ。他にも部活の連中にお土産買わないとな」
「じゃあ一緒に行きましょうか。人数が多い方が楽しいですし。食べ物のお土産でしたら、保存のきくお菓子がいいですね」
元々、二人ともがキャメロットにいた身。ある程度の街の情報なら理解している。
が、それではさすがに面白くない。
「なあどうだ? いっそ、裏の方に行って、色々探してみないか?」
そう言ってライノセラスが持ちかけると、ユエリーもまた笑みで肯定する。
「面白そうですね。普段は見落としそうな場所にこそ、結構掘り出し物があるといいますから」
「よっしゃ決まり! んじゃ、さっさと行こうぜ」
走るライノセラスにつられて、ユエリーもまた彼の後を追うのだった。
一通り武器や防具を見て回ったシスティーナは、クルリと振り向くと後ろにいたユーシスに言葉を振った。
「ねえねえ、武器はどれがいいと思う? 私、こっちのラージクレイモアなんかいいと思うんだけなぁ」
が、呼ばれた本人はまるっきり聞いちゃおらず、昨日出会った騎士との会話ですっかりガラハットと盛り上がっていた。
「やっぱり格好よかったよね」
「ああ。さっすが騎士ってカンジだぜ」
「いつかは僕もあんな立派な‥‥何かに命を賭けれるようになるのかな」
「なれるさ――いや、なるんだ!」
そんな会話を夢中になってしている二人に、思わずシスティーナが声を上げる。
「もう! 二人ともちゃんと私の話を聞いてよ!」
プイッとソッポを向く少女。
それに慌てるユーシスだったが、すっかり彼女は拗ねてしまい、彼のほうを見向きもしない。
「ご、ゴメン。僕が悪かったよ」
そうやって宥める先輩の姿を見て、ガラハットは内心「まだまだだな〜」などと思ってしまったのは抜群の秘密である。
かくして二泊という短い期間だったが、ケンブリッジ御一行はすっかりキャメロットの街を堪能して、再び学問の街への岐路へと着いた。
誰も皆、騎士訓練校の生徒として毅然とした態度で臨んでいた様子だ。多少羽目を外したところもあったようだが、概ね良好だったようだ。
「いつか俺も、あんな立派な騎士を目指して頑張るぞ!」
帰り道、グッと拳を振り上げて叫ぶガラハットの言葉は、誰もが心に刻み付けた思いでもあった。