【妖精王国】青い影

■ショートシナリオ


担当:葉月十一

対応レベル:3〜7lv

難易度:普通

成功報酬:2 G 4 C

参加人数:11人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月24日〜07月29日

リプレイ公開日:2005年08月01日

●オープニング

 人の口に戸は立てられない。
 その言葉通り、噂話は瞬く間に広がっていく。そして人伝に広がっていくうちに、一番最初の情報すら曖昧になり、誇張され、面白おかしく変化していくものだ。
 ケンブリッジにも、ここ最近奇妙な噂が流れていた。東の森で妖精を見た、妖精から金の小石を貰った、奇妙な笛の音が聞こえてきた、などなど‥‥まるで学園の七不思議のように語られているのだ。
 そして、そのうちの一つ――――。

「青い影?」
 『クエストリガー』に立ち寄っていたアル達は、生徒会長であるユリア・ブライトリーフの言葉に聞き耳を立てる。興味津々といった眼差しを向けるアル・ナギ・ライトの三人を前に、ユリアは苦笑しつつ話を続けた。
「ああ。結構最近なんだが、校舎の中のあちこちで青い影を見かけるらしい。妖精だという話もあるんだが、実際のところはまだわからない。別の噂では幽霊じゃないかって話もあるんだけどね。まあ、特に危害があったという話は聞かないが、今後も同じとは限らないからな」
 この機に少し調べて欲しい、というのが彼の提案だった。
 勿論、そんな面白い話に食いつかないワケがない。真っ先にアルが身を乗り出した。
「へえ、面白そうじゃん! なあなあ、見かける場所ってのは決まってんのか?」
「噂では図書館が一番多いみたいだけど、他には食堂や市場でも妖精の姿を見かけたって話もあるな」
「んーじゃあ僕、市場の方に行ってみるね〜。へへ、妖精さんに会えるんだぁ♪」
 おっとりした口調で、にも拘らず真っ先に希望を述べるライト。
「それじゃ、オレは食堂に行ってみようかな。その妖精ってのが、何してるのか気になるしさ」
 次にナギが行きたい場所を言うと、残ったアルの表情が一瞬固まった。
「‥‥て、ことは‥‥俺が、図書館か?」
 さっきまで乗り気だった彼の動きが、どこかぎこちないものに変わる。そのことにいち早く気付いたナギは、意地の悪い笑みを浮かべてアルを見た。
「あれー? アル、どうした? まさか‥‥ひょっとして幽霊が怖い、とか?」
「バッ! ち、ちげぇよ! だ、誰が幽霊なんか怖いもんか!!」
「んじゃ、アルは図書館に決定な」
「おうっ!」
 勢いで返事をしてから、アルはしまったーと内心で叫ぶ。
 そんな三人を見ながら、ユリアは一言付け加えた。
「とりあえず何が起きるか解らないからな。是非気をつけて調査して欲しい」

●今回の参加者

 ea0731 紫城 狭霧(34歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea1000 蔵王 美影(21歳・♂・忍者・パラ・ジャパン)
 ea1135 アルカード・ガイスト(29歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea5684 ファム・イーリー(15歳・♀・バード・シフール・イギリス王国)
 ea7435 システィーナ・ヴィント(22歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea7984 シャンピニオン・エウレカ(19歳・♀・僧侶・シフール・インドゥーラ国)
 ea9937 ユーシス・オルセット(22歳・♂・ナイト・人間・神聖ローマ帝国)
 eb1355 アリア・シャングリフォン(23歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb1422 ベアータ・レジーネス(30歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 eb1915 御門 魔諭羅(28歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb2292 ジェシュファ・フォース・ロッズ(17歳・♂・ウィザード・エルフ・ロシア王国)

●リプレイ本文

●市場〜金色の煌き
 昼間は人で賑わう市場も、夜ともなればしんと静まり返り、どことなく景色が変わったように感じられる。
 それでも、多少の人の出入りはある、と昼間のうちに色々と聞き込みをしていて知っていたのだが‥‥。
「‥‥よよよ夜の市場って怖いね、ユーシス」
 あくまでも強がった科白を口にするシスティーナ・ヴィント(ea7435)。
 だが、その手はしっかりと隣を歩くユーシス・オルセット(ea9937)の腕にしがみついている。そんな女の子らしい可愛さに思わず赤くなりつつも、少年は優しく頭を撫でてやった。
「大丈夫だよ」
 安心させるような口調にどこか男らしさを感じ、今度はシスティーナの方が頬を赤く染める。
「二人ともどーしたのぉ? 顔が赤いよ?」
「な、なんでもないの!」
「うん、そう‥‥だよ」
 不思議そうに尋ねられたライトに、システィーナはつい声を荒げて否定した。つられるようにユーシスも同意するが、二人の顔はますます真っ赤になっていく。
 そんな幼いカップル(?)の微笑ましい姿を前に、紫城狭霧(ea0731)は優雅な笑みを浮かべた。
「仲のよろしいことですね」
 呟いて、ふと脇にあるこの国特有の器に目が移る。
「あら、これは‥‥」
「どうしたの?」
「い、いえ。なんでもありませんわ」
 思わず出てしまった声に反応したジェシュファ・フォース・ロッズ(eb2292)に対して、狭霧は慌てて誤魔化した。
 ジャパンから来たばかりの彼女にとって、この国にあるものは全てが物珍しいものばかり。思わず目移りしそうになるのを、必死で押し留めているのだ。
「妖精でもいたの?」
 更に聞いてくるジェシュファに、彼女はもう一度首を横に振った。
「いえ、本当になんでもありませんから」
「そう? そういえば、妖精って色々種類があるみたいだね。僕、ちょっと調べてみたんだ」
「へぇ〜そうなんだ」
 感心したように口を開くライト。
 それに合わせるようにシスティーナが口を挟んできた。
「あのね、一応妖精さんが食べれるご飯とか持ってきたんだけど大丈夫かな」
 そう言って彼女が見せたのは、木の実や蜂蜜といったもの。どうやら食べ物でつろうと考えているようで、そのことにユーシスは疑問に思いつつも口を挟む事はしなかった。
「妖精さんって、どんなのかなぁ〜?」
「うん、ワクワクするね」
 純粋に楽しそうな笑顔を浮かべるシスティーナとライト。
 その時。
「――静かに」
 先頭に立っていたアルカード・ガイスト(ea1135)の制止する声が響く。その鋭さに思わず押し黙る仲間達。
 静まり返ったその場で、アルカードはもう一度『インフラビジョン』を用いて前方をじっと凝視した。暗闇の中、彼の視界は光に関係なく色で識別される。その中を一つの熱ある物体が横切るのが見えた。
「あれは‥‥」
 物音を立てずに移動しつつ、更に眼を凝らした先に見えたモノ。
 人形のように小さく、どこかシフールに似た姿形。ふわふわと飛びながら、光る粉のようなものを闇の中にキラキラと煌かせている。
「うわぁ‥‥」
 思わずジェシュファが感嘆の声を上げる。
 その声に気付いたのか、クルリと妖精がこちらを向く。眼があった途端、その妖精は自分達に臆する事無くこちらへ飛んできた。
「本物の妖精さんだぁ」
「すっごーい!」
 嬉しそうなライトとシスティーナ。さっそくと言わんばかりに手にしていた蜂蜜を差し出した。
「ねえねえ。これ美味しいんだけど、どうかな?」
「あ、ありがと♪」
 ペロリと舐めるその姿の可愛さに、狭霧もまた微笑みを浮かべる。
「それにしても、どうしてこのような場所に?」
「そうですね。ここ最近、頻繁に妖精騒動が起きているようだし、いったいなにが」
 アルカードがそう呟いた矢先、ハッと顔を上げた妖精の顔が真剣な表情に変わる。
「あの、あなた達に‥‥お願いがあるんだ。王様達を、どうか助けてよ!」

●食堂〜悪戯の理由
 誰も居ない食堂。
 じっと身を潜めながら、彼らは物音が聞こえるのを待った。
「‥‥ねぇ。どうして食器を壊したりするのかな?」
「さあな。捕まえて確認するしかないさ」
 物陰に同じように隠れるナギが小さく答える。そんな二人の方に小さく乗っかったシフールの二人が口添えした。
「聞いた話だと、朝になると必ず素焼きの茶碗が壊れてるんだって。まるで狙ってるかのようらしいよ」
 これはファム・イーリー(ea5684)が食堂のおばちゃん達から仕入れた情報。
「学生さんは夜、入ることって出来ないみたいだから、学生の悪戯ってことは無い筈だって」
 こちらはシャンピニオン・エウレカ(ea7984)の言だ。さすがに騒ぎに便乗して、という事はないらしい。
「妖精は友好的だって話みたいだけど、一応気をつけた方がいいんだよね」
「ああ。壊され方が少し度が過ぎてるって話らしいし‥‥」
 美影の言葉にナギが同意しかけた、その時。
 自分達以外誰も居ないはずの食堂で、いきなり雄叫びが上がった。
「あーもう! なんだって全然気付かないんだよ? 早く‥‥なんとかしないとッ!!」
 まるで腹を立てているようなその声。
 直後、ガシャーンといった何かが割れる音が食堂に響く。
「‥‥まさか」
「ええ、でも‥‥」
「なんかイメージが」
「でも、さ」
 顔を見合わせる四人。
 そっと物陰から顔を出して覗き込んだ先に彼らが見たのは、金色の粉のようなものを振り撒きながら、素焼きの茶碗に突っ込んでいく妖精の姿だった。
 そこには妖精という名前からイメージする神秘的な雰囲気とは程遠い、かなりやさぐれた――いや非常に活動的に動いていたのだ。
「うわーすっごい。ねえ、スリープで眠らせたほうがいいかな?」
 ファムがそう提案するが、さすがにそれは‥‥と蔵王美影(ea1000)が止める。
 だが、そうこうする間にも何かが壊れる音は続いている。
「と、とにかくあの子を止めよっか。一応、現行犯って事だしね」
 そして、互いに視線で合図すると同時に、彼らは物陰から飛び出した。
「ね、ねえ! なにしてるの?」
 シャンピニオンが声をかけると、空中で立ち止まった妖精はクルリと向き直った。そして、そのまま「あーっ!」と声を張り上げた。
「やぁっと見つけた! なんだよお前ら、いったいどこにいたんだよ!!」
「いやぁ何処に居たって言われても‥‥まあ、ほらちょっと落ち着いて」
「ほら、蜂蜜もあるから一緒にこっちで食べよ♪」
 シャンピニオンとファムのなだめる言葉に、いきり立っていた妖精もさすがに気を落ち着かせた。差し出された蜂蜜をコクコクと飲むその仕草は、言動がどうであれやはり可愛く映る。
 シフール二人と妖精一人のその囲いは、どこかおとぎの国の風景のようだ、とナギは感じた。
「‥‥ねえ。どうして食器を壊してたの? やっぱり何か理由があるんだよね」
 やんわりと美影が尋ねる。
「そうそう、ちゃんとあたし達に話してくれれば力になるよ」
「ボク達で協力できることならするし、話だって聞くよ」
 ファムやシャンピニオンも次々にそう口にすると、蜂蜜を口のまわりに付けたまま、妖精は顔を上げてキッと強く彼らを睨んだ。
「あったり前だ! お前達の協力がなけりゃ駄目なんだよ!」
「え? それってどういう‥‥」
 ナギがそう問いかけようとした声を遮って妖精が叫んだ。
「オレらじゃあいつの笛に負けちまって、王様達を助けられないんだッ!」
 どこか悲痛な声が、夜の食堂に空しくこだました。

●図書館〜蒼い影
「――そちらはどうでしたか?」
「いえ、こっちにはいませんでした」
 アリア・シャングリフォン(eb1355)の問いに、ベアータ・レジーネス(eb1422)は軽く首を振った。
「どこに行ったんだろう?」
 青い影を見失ったことを悔しがるベアータ。当初は『ステインエアーワード』で大気の澱みを調べようとしたのだが、特に人以外の呼吸をした形跡がなく、また『ブレスセンサー』でも自分達以外の存在は確認出来なかった。
 結果、図書館を逐一調べるという形になったのだが。
「後は魔諭羅さんからの報告だけですね」
 別の方へ青い影を探しに行った仲間を思案するアリアだが、ふとベアータが何か抜けている事に気付いた。
「そういえば‥‥アル君は?」
「ええっと彼なら‥‥」
 アリアが指差した先には、青くなった表情のままぎこちなく動く少年がいた。
「‥‥こ、こ、怖くなんか‥‥ない、からな‥‥」
 明らかに怖がっているのは明白で、どうやら今回の戦力にはならなさそうだ。
 と、そこへ御門魔諭羅(eb1915)が帰ってきた。
「どうでしたか?」
「駄目ですね。すっかり見失ってしまいました」
 先程見つけた時、声をかけようとしたのも彼女だったが、それより早く蒼い影は書架の向こうへと消えていったのだ。
「‥‥まるでどこかへ連れて行こうとしてるかのようでしたけど」
 その動きを思い出し、思わず魔諭羅が呟く。
 それに同意するアリアとベアータ。
「呼吸がないということは、やはりあの蒼い影は‥‥幽霊、という事ですか?」
 妖精だとばかり考えていたが、どうやら違う線を探る必要がある。
 そう考えたベアータだが、もう一度口を開こうとした時、アルの声がそれを押し留めた。
「バッ、バッカヤロウ! ゆ、幽霊なんかいるワケねえじゃんか!」
「しかしアンデッドというモンスターは、そもそも死者になるのですから、やはり幽霊がいても不思議では」
 そう言って宥めようとするアリア。
 が。
「お、俺は怖がってんじゃねぇ!」
 あくまでも認めようとしないアル。
「まあまあ、とりあえずその影を――」
 探しましょう、と言い掛けたベアータは、視界の端で揺らめく影を見た。ハッと見上げた途端、その影はまた書架の隙間に消える。
 慌てて周囲を見渡す彼に、つられてアルも視線を動かそうとして‥‥。
「アッ!」
 アリアが思わず指を差した先。
 それは、ちょうどアルが振り向いた場所。その目の前に蒼く揺らめく影――明らかに向こう側が透けるその影に、彼の動きが固まった。
 そして。
「――うわぁぁぁぁッッ!!」
 思わず後ずさるアル。ドン、と激しい音と同時に背中が書架にぶつかる。
「危ない!?」
 隣にいた魔諭羅がとっさに彼の腕を引っ張る。
 直後、大きな音を立てて棚から大量の本が落ちてきた。大量の埃が辺り一面に舞う。
「ゲホッ、ゴホッ‥‥だ、大丈夫ですか?」
 咳き込むベアータの声に魔諭羅が辛うじて応える。なんとか庇ったアルはといえば、しっかりと気を失っていた。
「‥‥あ、はい。こほっ、こっちはなんとか‥‥」
「こちらも大丈夫です。もう、ホントに‥‥あら?」
 この書架に収められているほぼ全ての本が崩れ落ちていた。それらを拾おうとしたアリアは、空になった書架の中に見慣れない物体を見付け、思わず手を伸ばした。その感触からどうやら石版のようだ。その表面にはビッシリと何かが刻まれている。
「なにかしらこれ」
 ようやく埃が収まった頃、アリアの元へ二人がやってきた。
「どうしました?」
「何かあったのですか?」
「いえ、本がなくなった書架の中に実はこんなものが‥‥」
 そう言って彼女が書架の中を指差そうとした時、先程の青い影がいつの間にか石版のすぐそばにやってきていた。
 思わず身構える三人。
 だが、石版と三人を交互に見やった後、影は小さくお辞儀した‥‥ように見えた。
「まさか、これを?」
 不意の予感にベアータが尋ねると、影はうっすらと笑みを浮かべた後、こくりと頷いた。すると、三人が見守る中で影はゆっくりと姿を消していった。
 しばらくぼうっとその場に立ち尽くしていた三人だったが、ようやく気を取り直し。
「どうやらこの石版が、今回の騒動と何か関わりありそうですね」
 今まで本に埋もれ、書架と書架の間にその存在を隠していた石版を覗き込み、アリアがそう呟く。
 他の二人も同様に頷き、彼らもまた石版へと視線を移した。

 予感が――彼ら冒険者の中で渦巻こうとしていた。