セレブなお仕事
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■ショートシナリオ
担当:葉月十一
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 78 C
参加人数:8人
サポート参加人数:3人
冒険期間:07月28日〜08月02日
リプレイ公開日:2005年08月08日
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●オープニング
無人の屋敷をバタンと殊更大きな音を立てて開ける。
「ただいまぁっと」
空しく響く声を、別段気にした様子を見せないその少年は、この屋敷の主であるエルリック・ルーンであった。
「だぁ〜疲れた‥‥」
手荷物を床に置き、大きな溜息をつく。
ちょっとした調べモノのつもりで出かけたのだが、思いの他長引いてしまい、すっかり家を空けてしまっていた。おかげで出かけた時のまま、かなりの物が乱雑に散らばっている。
「‥‥ま、しゃあねえか。これからじっくり片付けを‥‥ん? なんだこれ?」
ゴチャゴチャした机の上、無造作に置かれた一枚の書状。
思わず手にとって見てみれば、どうやら招待状のようだ。
が。
「ゲッ?! あ、あいつらからかよ!」
それは、とある有力貴族からの社交パーティの招待状であった。親しい者達だけを集めたささやかなダンスパーティを開催するから是非出席して欲しいと記されたその招待状には、更にエルとも懇意のあるそこの貴族の三人姉弟の名が連名で綴られている。その名前に少年の表情がますます強張った。
「そういや最近、全然相手してねえからな。ま、行く分には構わねえけど、な‥‥」
彼らの要求が目に見えて、げんなりと肩を落とした。
「‥‥連中にガードしてもらうか」
「――つうワケだ。オレと一緒に貴族のパーティに出てくれねえか」
所変わって、キャメロットの冒険者ギルドの受付前。
小さい身体で妙に偉ぶるエルに、ギルド員ははあ、と軽く溜息をこぼす。
「あのぅ‥‥なんでまたパーティに?」
「オレの護衛に決まってんだろ」
「護衛というと‥‥会場までの、でしょうか?」
「あぁ? 何聞いてんだよ。パーティの相手連中に決まってんじゃんか!」
ますます語気を荒げるエルに、新米のギルド員は怯えた表情でその理由を聞いた。
「招待してきた貴族ってのはさ、オレのまあ‥‥所謂パトロンなんだよ。別に食うに困る生活してた訳じゃないんだけど、そこの親父さんがオレの魔法の研究を気に入ってくれてさ、色々と出資してくれてるんだよ」
「はぁ」
事も無げに口にするが、それはそれで羨ましい話だ。
そう思ったが、特に口を挟まずにいた。
「今居る屋敷だってそいつが出資してくれたようなもんだしな。で、まあそこの三姉弟が‥‥オレを狙ってんだ」
「は?」
「姉のエリザベスは厚化粧バリバリでやたらねちっこいし、真ん中のアレックスってのは筋肉バカのコテコテしたヤツだしな。一番下のヒューイットは、まあ見た目は美少年なんだろうけど、やたらと背筋が寒くなる事ばっか言いやがるんだよ」
要約すれば、貴族のご子息どもがあの手この手でエルの身を狙っているので、それからガードして欲しいということらしい。
「ま、オレも変に反発してパトロンを失うっつうのは嫌だからな。だから、そうゆうのがわかんねぇ程度に妨害して欲しいんだよな」
「はぁ‥‥」
「んじゃま、よろしく頼むぜ!」
それだけ言い残すと、エルは颯爽とギルドを後にした。
●リプレイ本文
●パーティの身支度
内輪で開かれるとはいえ、そこは仮にも貴族のパーティ。
いつもはかなりラフな格好のエルリック・ルーンも、この日ばかりはさすがにキチンとした身なりを装っていた。
「ま、多少顔も立てねえとな」
「しっかし‥‥けったいな依頼だな〜」
その横で半ば呆れ気味に溜息をつくイオニス・ツヴァイア(ea0674)。
一応、エルの友人という触れ込みでこのパーティに参加させてもらったのだが、事前に聞いた依頼内容を反芻しては、どこか落胆気味だ。
「今回こそ少しは楽な依頼かと思ったんだけど」
「あぁ? 楽な依頼? んなもん、あるわけないだろ。ま、せいぜい頑張ってくれよな」
思わず呟いた愚痴を聞き咎めつつ、依頼主は笑顔のままイオニスの背を何度も叩いた。
そんな二人の様子を後目に、もう一人の護衛である鷹野翼(ea9115)は、目の前に広がる煌びやかな世界に思わず目を奪われていた。
「これが噂に聞く『ぱーちい』というものか。見聞を広げるのには良いかも知れんな」
ジャパン人である彼は、パーティでは正装をすることを聞いて、和装による礼服を着ていた。当然のことながら周囲は全て洋装であり、実のところ随分注目を浴びていた。
ましてや育ちのよさそうな容貌である。女性が目をつけないワケがない。
結果としてかなり悪目立ちをしていたのだが、翼にとっては初めてのパーティだ。緊張してそれどころではなかったようだ。
キラン、とどこかで視線が光る。
ハッとエルが顔を向けた先には、こちらをじっと見つめる三人の男女の姿があった。
「ゲッ」
「‥‥あの人たち、ね」
忌野貞子(eb3114)がぼそりと呟く。
他の冒険者達もそちらへと視線を移す。そして三人の姿を見た途端、「あぁ‥‥」と何故か苦笑とも呆れともつかない溜息をついた。
そんな彼らの反応に、依頼人である少年も乾いた笑みを浮かべるしかない。
「まあ、そんなトコだ。んじゃ、頼んだぜ」
「ええ。了解したわ」
どことなく暗い口調で返事をする貞子。
それを合図に冒険者達はそれぞれに移動を開始した。
●舞踊の調べ
「さて、と。こんな感じでいいかしら」
手にした竪琴を持ち直し、ライカ・カザミ(ea1168)は会場の端のほうへ腰を下ろした。
さすがに中央で演奏することは止められたが、最初の挨拶による印象がよかったのか、パーティの主催である貴族からこの場所を案内されたのだ。
黄色の礼服に身を包み、水晶のアクセサリを付けたライカは、イギリスレディの名に相応しい装いだった。そのおかげで末の弟であるヒューイットから熱い視線を受ける事となった。
「それじゃあいきましょうか」
「お任せ〜! うちの踊りで皆の視線を釘付けだよ〜♪」
ふわりとライカの肩から飛び立ったシフールのゼファン・トゥムル(ea1556)。いつの間に着替えたのか、すっかり踊り子の衣装に変わっている。
「えへへっ、食べ物やお酒はこれが終わってからのお楽しみ〜」
言いつつ、ゼファンが床へ降り立つと、ライカは竪琴を奏で始めた。
最初は静かに流れるようなメロディ。
やがて、徐々に曲調を変えていく。優しい気持ちを呼び起こされるようなメロディを、ライカが魔法と合わせて竪琴の調べに乗せる。
その曲にそってゼファンが颯爽と踊りを披露する。
エジプト出身である彼女の国独特の民族舞踊は、イギリスの貴族達にとって物珍しく映ったようだ。それまでざわめいていた会話も、いつの間にか会場の片隅で行われている演奏と舞踊に目を奪われている。
その中には、当然のごとく三兄弟の視線もあり、特に逞しい肉体を持つアレックスには、その小さなジプシーの姿はひどく可憐に見えたようだ。
「むぅ、君のような可憐な少女は見た事ない! どうだ、このオレと」
「ええぇ〜そうねぇ〜うふふっ」
ぐっと伸ばしてきた太い腕を素早くかわし、ゼファンはひらひらと宙に舞った。
「だったら――うちを捕まえてごらん〜♪」
にっこりと笑みを浮かべるシフールに、屈強な男は懸命に腕を伸ばした。
が、いっこうに捕まえられずムキになる男の姿に、周囲から思わず失笑がこぼれる。その様子を面白おかしく演出するよう、ライカの流す演奏が再び曲調を、今度はアップテンポの明るいモノへと変えた。
「くっ、このっ!」
「うふふ、あはは〜」
余興のようにひらひらと舞うゼファン。
大男を煙に巻くその踊り子と、色をつける演奏家が、パーティを徐々に盛り上げていった。
●美女は野獣
そこはパーティ会場から離れたとあるテラスの一角。
気だるげに肘かけた女性の前には、リオン・ラーディナス(ea1458)がニコニコ顔で立っていた。
「いや〜これ程の美人を知ってるのに、こんな機会じゃないと紹介してくれないなんてエルも人が悪いなぁ」
あたかもお世辞に聞こえるが、言ってる本人大マジだった。
なにしろ、リオン自身現在彼女なし告白連敗記録を更新中である。だからこそ美人のお姉サマとのパーティは、かなり楽しみにしていたのだ。
じっと見つめる視線は真剣そのもの。
それに悪い気はしないのか、エリザベスはふふっと笑みを浮かべる。
「そう?」
「ええ、マジですって。あ、なんか賑やかになってきたみたいだね」
ふと、会場のほうから音楽が聞こえてくる。
それを契機にリオンはスッと手を差し出した。
「ええっと、一緒に踊りませんか?」
「うふ、こんな私でいいの?」
色香漂う表情を近付けてくる。
思わずかぁっと真っ赤になるリオン。合わさった手の温もりに思わず慌てた途端、急にバランスを崩してしまった。
「う、うわぁ!」
床に転がるリオンの上にエリザベスが乗っかる格好になる。豊満な胸の感触にますます赤面していく。その様子に、何故か彼女はフフッと笑みを増すばかり。
「あらあら、真っ赤になっちゃって可愛い子ね」
「あ、あの‥‥ちょっと、降りませんか?」
「あら、私重かった?」
「い、いえ、その、あの」
しどろもどろになったリオンは、エリザベスの目が獲物を見つけた狩人のようにキランと光ったのを気付かなかった。
「うふふ、ホント可愛い反応ね‥‥」
「え、その‥‥」
「一緒にお酒、飲みましょう」
「あ、あぁ、その、オレは酒は‥‥」
自分の口に含んだものを、彼女はゆっくりとリオンの口の中に流し込んだ。
そうして、彼の記憶は暗転する。
●君に薔薇薔薇
エリック・レニアートン(ea2059)が選んだのは、ビザンチンの礼服に何故か花飾りの帯止め。
華奢な外見と相まってよく異性と見間違われる彼。
だからこそを踏まえて選択した衣装だが、案の定目の前のヒューイットは彼を女性と間違えているようだ。
「――素晴らしい。僕は、君のように美しく可憐な存在を他に知らないよ。この高貴な薔薇ですら、君の前ではまるで霞んでしまうだろう。君を一目見た時から、僕の心は君の虜だ」
歯の浮くような科白を次々と口にするヒューイット。
普通の人間が聞けば、それこそ背筋が寒くなるだろう。
が、元々イギリス語がまだそれほど得意でない上に、口にしているのは少々小難しい言葉ばかり。
「‥‥うん、そうだよね」
聞いているように頷くエリック。
だが、その実、さっぱりと聞き流しているのだ。さすがにあからさまな態度を取るわけにもいかず、簡単に調子を合わせてはいるが。
更にヒューイットがエリックを口説いているのにも訳がある。
最初は、素直に依頼人のエルの元へやってきたヒューイットだったが、ふと目を合わせた瞬間にエリックが仕掛けた『チャーム』の魔法がどうやら功を奏したみたいだ。
それ以来、すっかり口説きモードになった相手をエリックが対応する形になったのだ。
「このほっそりとした指先も君に相応しいよ。まるで白百合を思わせる可憐さだ。君に出会って僕の中で美しさの定義が一新されてしまったようだね」
「そう、ですか」
さすがに少々顔も引き攣る感じだが、目の前の出されたパーティの食事には十分に満足出来るものだったので、相手の科白をさらりと聞き流すエリックだった。
●素晴らしき筋肉
「凄いねえ。飲みっぷりのいい人ってかっこいい〜♪」
「む、そうか? ならばもう一杯」
ころころとした笑顔のアステリア・オルテュクス(eb2347)に煽られるまま、アレックスは更にもう一杯のお酒を一気に飲み干した。
「すっごーい。はいはい、もう一杯」
「うむ」
既にかなりの量を消費しているからか、フラフラになりつつも注がれるままにお酒を口にする。心の中で黒い羽を生やしたアステリアが、ニヤリと笑っているのも知らずに。
ゼファンを追いかけていたアレックスは、その途中でぶつかったアステリアの可愛らしい振る舞いについついフラフラっとなったのが彼の運のつき。
その後、乗せられるままにお酒を飲まされ、次第に酔っ払っていったというわけだ。
「ねえ、アレックスさん。私のお願い、聞いてくれる?」
「ん、どうしたかね?」
「あのね、どうかお兄ちゃんの研究をよろしくお願いしたいの。アレックスさんだけが頼りなの♪」
「はっはっは、そんなことか。なーに任せておけ、この俺がどーんと援助してあげよう」
ドンとその分厚い胸を叩く。
クスリと笑みを浮かべる彼女に気付く事無く、結局彼はそのまま酔い潰れていった。
「――この分なら腹下しの毒草を使う必要、なかったわねぇ」
どこまでも小悪魔な笑みを、アステリアは浮かべるのだった。
●宴もたけなわ
壁際ですっかり話し込んでいたエルとイオニスと翼。
イオニスの女装の話で盛り上がったかと思えば、翼の故郷であるジャパンの事を色々と聞いてくるエル。すっかり打ち解けた三人だったが、すうっと背後に貞子が近付いていたのに気付かなかった。
「‥‥なに‥‥話してるの‥‥?」
「うわぁっ!?」
「ッ、なんだあんたか」
「貞子殿、どうした?」
問われ、俯いたままの彼女だったが、不意にポツリと呟いた。
「‥‥私の出番、なかったです」
「え?」
そして指差した先では、例の三人――のうち二人――はどうやらエルどころではない様子だ。
「そういえば長女は?」
そう聞いたイオニスの言葉に、貞子は何故かポッと顔を赤らめた。
「‥‥大丈夫」
いったい何が大丈夫なのか。
それについて問い質す勇気は、彼ら三人にはなかったようだ。はたして何があったのか、それは当事者だけが知っているのだろう。
ともあれ、パーティは無事に終了したようだった。