【妖精王国】王子様ヘルプ!

■ショートシナリオ


担当:葉月十一

対応レベル:3〜7lv

難易度:難しい

成功報酬:2 G 4 C

参加人数:9人

サポート参加人数:3人

冒険期間:08月26日〜08月31日

リプレイ公開日:2005年09月06日

●オープニング

「王子、早くこっちへ!」
「ボクはいいから、君だけでも‥‥」
「しかしッ!?」
 小さな身体を必死で立たせようとする少年。
 だが、逃亡時に負った傷が酷いのか、目の前の彼はもはや立つことが出来ずにいた。
 だからこそ動けない自分を放って置いて言って欲しい、と彼が叫ぶ。少年が仕えるべき主君――妖精王国の後継である王子が。
「居たぞ、こっちだ!」
 背後に響く追っ手の声。
 慌てて王子は少年の身体を思いっきり突き飛ばした。
 あ、と思う間もなく、視界に入った雷を纏う球体。もはや後戻りは出来ない、そう察した少年はすぐさま反転し、懸命に飛び立った。後ろ髪引かれる思いを振り切って。
 影が小さくなって見えなくなり、ホッと安堵の息をつく王子の身にいきなりの痺れが走った。
「あぅっ!!」
「‥‥手間をかけさせる」
 遠くなる意識。僅かに聞こえた蹄の音。
 不意に身体が浮いたのは、その存在にくわえられたからだと認識しながら、王子の意識は闇へと沈んだ。

「――それは間違いないのか?」
「はい。東の森の‥‥洞窟に」
 生徒会長が尋ねると、肩に乗っていた妖精――ディナ・シーの騎士と名乗った少年が、ポツリポツリと語り始めた。
 突如襲われた妖精の王国。ギャリー・ジャックと名乗った者とその手下により、国の王族達は為す術もなく捕らえられてしまう。
 そのまま彼らはバラバラにされ、そのうちの王子は南部にある洞窟に軟禁された。その辺り一帯はゴグマゴクの丘と呼ばれ、周辺の森の中には幾つもの洞窟があり、そのどこかに王子がいると判断した妖精の騎士は、単身でなんとか王子の身柄を助け出せたのだが‥‥。
「‥‥だけど、オレの力が足りないばかりに王子に怪我を負わせ、結局一人逃がされてしまったんだ」
 悔しがる少年を見ながら、ガラハッド・ペレスもまたその気持ちが痛いほどよくわかった。
 守るべき主君を守れず、またその主君を置いて自分ひとりだけがおめおめと逃げ延びてしまうとは。その内心は自己嫌悪の塊になっているだろう。
 それでも、今度こそ助けたい、その気持ちだけは誰にも負けない。
「お願いだ! どうか‥‥王子を助けるのに力を貸して欲しい」
「――ああ、任せろ!」
 深々と頭を下げる妖精の騎士に、ガラハッドは意気揚々と返事をする。
 それを横目で見ながら、生徒会長は一枚の依頼書をギルドの壁へ張り出した。

●今回の参加者

 ea4675 ミカエル・クライム(28歳・♀・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 ea7435 システィーナ・ヴィント(22歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea8751 ヴァイゼン・キント(16歳・♂・レンジャー・ハーフエルフ・フランク王国)
 ea8785 エルンスト・ヴェディゲン(32歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 ea9937 ユーシス・オルセット(22歳・♂・ナイト・人間・神聖ローマ帝国)
 eb0299 シャルディ・ラズネルグ(40歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb1915 御門 魔諭羅(28歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb2292 ジェシュファ・フォース・ロッズ(17歳・♂・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 eb2554 セラフィマ・レオーノフ(23歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)

●サポート参加者

ゴールド・ストーム(ea3785)/ ローランド・ユーク(ea8761)/ ラーフ・レムレス(eb0371

●リプレイ本文

●捜索
 近場の木々に対しての質問を終え、仲間の元へ戻ってきたシャルディ・ラズネルグ(eb0299)にガラハッド・ペレス(ez0105)が小声で尋ねた。
「どうだった?」
「連れ去られた方向と、敵の数はわかりました。ですが、さすがにどこに洞窟があるのかまでは‥‥」
 木々は、決してその場を動くことはない。あくまでも周辺の事を知るだけだった事をシャルディは説明した。
 そんな彼の説明にジェシュファ・フォース・ロッズ(eb2292)が森の中の痕跡を調べる。森での土地勘がかなり高い彼だからこそ、すぐに何かが移動した痕跡を発見する。
「こっちだよ!」
「あ、ちょっと待って下さい」
 そのまま走り出そうとする彼を、セラフィマ・レオーノフ(eb2554)が慌てて遮ってその前に出た。
「前衛は私達が」
 育ちのよさそうな顔で告げ、スッとスピアを構えながら周囲を警戒する。
 今回集まったメンバーは、その殆どが魔法に従事する者達ばかり。必然的に前衛を担当する者が少ないから、と彼女は内心でかなり張り切っていた。
 それは、同じナイトであるシスティーナ・ヴィント(ea7435)やユーシス・オルセット(ea9937)も同じで、進んで先頭の方へ並んでいた。
 が。
「王子様かぁ‥‥」
 何故かその単語に目を輝かせるシスティーナ。
 その様子を半ば呆れ気味に見守るユーシス。
「あまりぼうっとしてるなよ」
「わかってるって」
 思わず注意されて、頬をうっすらと赤くした彼女。すぐに気を取り直して、右手に携えた武器を改めて握り締めた。
 そうして周囲を注意深く警戒しながら移動する一行。その間、シャルディが何度か木に対して確認し、その都度痕跡を確認しながら進むといった行動を取っていた。
 幾つかそれらしき洞窟も見つけたが、特に怪しい気配もなく――エルンスト・ヴェディゲン(ea8785)の『ブレスセンサー』により、呼吸する存在がいない事が判明――先へと進む。
 そして。
「――待て」
 行動を制したのは、ヴァイゼン・キント(ea8751)の一声。
 彼が指で示した足跡が木々の向こうへと伸びている。その先には岩肌が見え、おそらく洞窟へつながっているように見えた。
「ここからは風下から移動した方がいい」
 内心、王族とか騎士とかが好きでない彼にとって、今回の仕事はあまり乗り気ではない。あくまでも仕事としての態度が、どこか素っ気無い口調になってしまうようだ。
 勿論、他の者達は別段気にした様子もなく、エルンストが改めて呼吸の気配を探る。
「小さな存在が一つ、か。かなり小さい存在のようだが」
「‥‥どうやら当たりのようですよ」
 彼の言葉を受けて、シャルディが木々へと確認した。その返答は、確かにこの先には洞窟があり、誰かがそこへ入ったという事だ。
 だが、少し気になるところもあった。
「洞窟へ入った人数は八体という話です。しかし、エルンスト先生の調べでは、洞窟内の存在は一つ‥‥おそらく」
 そこから先は言葉にしなくても全員が理解出来た。呼吸しない存在――先に救援を求めて来た妖精の騎士の話では、電気を纏ったエレメントが居たという話だから、おそらくその類の存在が王子を見張っているのだろう。
「とりあえず見張りの方をどうにかしないとな。さて、どうする?」
 ヴァイゼンが確認するように仲間達を見渡すと、ミカエル・クライム(ea4675)が任せて、とばかりに笑みを浮かべる。
「勿論、必ず王子を助けてあげなくちゃっ!」
 そして、事前の打ち合わせどおり御門魔諭羅(eb1915)の方へ視線を向けると、彼女も「ええ」と小さく頷いた。
「じゃあ行くぞ」
 タイミングを見計らうように、ガラハッドが一声かけた。

●救出
 ガサッと音がする。
 と、同時に一つの人影が木々の間から飛び出した――ミカエルである。そのまま彼女は目の前の洞窟を横切ろうと駆け抜ける。
 だが、気配を察したウィル・オ・ザ・ウィスプが二体ほど洞窟から飛び出し、彼女の後を追う。程なく追いつかれ、そのまま体当たりを喰らってしまった。
 その衝撃で彼女の身体は地面に崩れ落ち‥‥一握りの灰へと変化した。
「今ですわ」
 一瞬の隙。
 それを見逃さず魔諭羅が敵に向かって『スリープ』を詠唱した。僅かな逡巡の後、二体の精霊が大人しくなる。
 直後、ジェシュファのスクロールによる魔法が発動した。同じようにエルンストの『ウインドスラッシュ』が眠りにあるウィル・オ・ザ・ウィスプに対してダメージを与える。
 見張りがウィル・オ・ザ・ウィスプである事が判明した時点で、冒険者達はどうやら遠隔による攻撃を主体に変えた。常に帯電した敵であるので、素手や武器による直接攻撃は不利だと判断したからだ。
 異変に気付いた他の見張り――同様にウィル・オ・ザ・ウィスプであった――に向かい、ヴァイゼンがダーツを放つ。
「それほど裕福でもないんだがな」
 思わず溜息と同時に愚痴もこぼれる。
 が、さすがにそうも言ってられない状況だ。洞窟から次々と姿を現していく敵。遠隔でしか攻撃出来ない相手とあって、冒険者達もなかなか思うようにダメージを与えられずにいた。
「こうなったら一気に――」
 これ以上騒ぎになれば、他から応援がかけつけるかもしれない。
 そう考えたミカエルは、一気に突き進むためその身に炎を纏った。火の鳥とでも言うべきその姿で、彼女は一気に見張りを突き抜けようと飛ぶ。
 だが、いくら炎を身に纏っているとはいえ相手からのダメージも受けてしまう。結果として、彼らを弾き飛ばしたまでは良かったが、逆に自分の方も力尽きてしまっていた。
「くっ‥‥さすがにここまでね。みんな、早くッ!」
 それでも道が開けたのには変わりない。
 ミカエルの叫びにシスティーナ達がいっせいに洞窟へと入った。その後を追おうとしたウィル・オ・ザ・ウィスプだったが、シャルディによっていつの間にか張り巡らされた蔓によって動きを封じられていた。
「ここから先は行かせませんよ」
「そうだよ」
 ニコッと笑ったジェシュファがそのまま問答無用で詠唱すると、凍てつく吹雪がウィル・オ・ザ・ウィスプを襲った。

 一方、洞窟へ突入した面々が見たのは、小さな鳥籠に入れられたシフールよりも更に小さな妖精の少年。散々痛めつけられたのか、ぐったりとうつ伏せで倒れたまま、ピクリとも動かない。
「だ、大丈夫?!」
「しっかりして下さい」
 慌てて駆け寄るシスティーナとセラフォマ。
 だが、声をかけても何の反応もない。
 急いでリカバーの呪文を詠唱するシスティーナ。白く淡い光が、彼女を通じて妖精の少年を包み込む。優しい癒しの光の中で、怪我が見る間に治っていく。
 その間、ユーシスとガラハッドは洞窟内に油断なく目を光らせていた。見張りが全部外に出たとは限らないからだ。
「‥‥んん‥‥」
「気がつきましたか?」
 セラフォマの声の反応して、ゆっくりとまぶたが開いていく。二度、三度、瞬きを繰り返した後、少年はゆっくりと起き上がった。
「ボクは‥‥キミ達は、いったい‥‥」
「おまえの騎士に感謝するんだな。俺達に必死で助けを求めに来たんだ」
 鳥籠を容易く開けたヴァイゼンの言葉に続き、
「そういうことです」
 まだ動けずにいる少年の身を鳥籠が出し、セラフォマがマントで包んで抱え上げる。
「さ、こんなトコ一刻も早く撤収だよ!」
 洞窟を出ようとしたシスティーナ。
「危ない!」
 咄嗟に彼女の前に飛び出したユーシス。
 驚く間もなく、眼の前に突然飛びかかってきたウィル・オ・ザ・ウィスプの体当たりを彼は受け止めた。そのままダメージを負いつつも、シルバースピアを敵の身に突き刺した。
「ユーシス!?」
「僕に構わず、早く行くんだよ」
 その強い意志を知り、彼女らは先へ洞窟を出た。それを見計らい、彼は隣にいるガラハッドに目で合図する。
「女の子を矢面に立たせるってのは、騎士としてマズイだろ?」
「ああ、そうだな」
 互いに苦笑を浮かべつつ、敵を牽制しながら二人も後を追った。

●追手
 見張りを全滅とまではいかなかったが、今回の任務は妖精の王子の救出。その目的が達せられた以上、長居は無用だ。
 洞窟から出てきた仲間を見た途端、彼らはすぐに撤退を始めた。
 森の土地勘に秀でたジェシュファを筆頭に、彼らは木々の間を急いで駆け抜ける。シャルディが時折仕掛ける『フォレストラビリンス』が、更に追手の行動を妨げる効果を発したようで、なんとか逃げることが出来たと誰もが安堵した。
 まさにその直後。
 彼らの耳に届く蹄の足音。
「あれは‥‥まさか、ナイトメア?」
 ミカエルの呟きに全員がハッとなる。
 セラフィマの手の中では、妖精の王子がガクガクと震え始めた。
「――やれやれ。少し目を離した隙に‥‥」
 夜の闇に似た漆黒の馬。厳かな科白には、強者の自信のような雰囲気が見え隠れする。
 だが、臆してはいられない。
 先手必勝とばかりにシスティーナが、月桂樹の木剣でいきなり切りかかった。それを援護する形でユーシスが時間差で攻撃する。
 だが、その切っ先は僅かに掠っただけで、大したダメージにはならなかった。逆にその蹄での蹴り上げに危うく吹き飛ばされるところだった。
「悪夢の中に彷徨うがいい」
「させないよ!」
 相手の詠唱よりも早く、ジェシュファが広げたスクロールから周囲が瞬く間に霧に包まれていく。
「こっち!」
 不自由な視界の中、彼らは決してはぐれないよう、互いの手を取って移動した。ヴァイゼンやジェシュファといった森の土地勘がある者達がいた事も幸運だったかもしれない。
 可能な限り来た道を辿ることで、彼らは辛うじてナイトメアを撒くことが出来た。

「‥‥なんとか逃げ切れたみたいですね」
「そうですね」
 ケンブリッジに辿り着いたところで、セラフィマと魔諭羅は互いに顔を見合わせてホッと一息ついた。その手に抱えた小さな妖精にも、安心するようにと笑顔を向ける。
「もう大丈夫ですわ」
「‥‥ほ、ホントに?」
 まだ、多少怯えの残る少年に、システィーナは心配ないと念を押す。
「そうそ、もう心配しなくていいんだよ。ほら、あの騎士クンにもすぐに――」
「王子ィ――――ッ!!」
「噂をすれば、だね」
「ああ」
 聞こえてきた声と一緒に飛んできた妖精の騎士に、苦笑を浮かべるユーシスとガラハッド。そんな彼らの前で二人の妖精は感動の再会を果たしていた。
「お、王子、よくぞご無事で」
「君こそ大丈夫だったの?」
「いえ、オレの方こそ力が足りず、王子を助ける事が出来ずに」
「でも、僕のために助けを求めてくれたんだよね」
「所詮、オレはそれぐらいしか」
「何言ってるんだよ。僕なんかのためにそこまでしてくれるなんて」
 互いに互いを譲らぬ光景は、見ててどこか微笑ましい。
 それは、王族といった存在が好きでないヴァイゼンの目にも、少なからず好意的に映っていた。
「とりあえずお二人とも、まだ体力が完全に回復してはいないのですから、少し休んだほうがいいですよ」
 シャルディの言葉にエルンストやジェシュファも同意する。
「そうだな」
「うん、ゆっくり休んでから、妖精王国の事を聞かせて欲しいなあ」
 そう言った彼らの方へ、王子は改めて顔を向ける。
「あの‥‥助けてくれて、本当にありがとうございました」
 そして小さな妖精の少年は、深々と頭を下げるのであった。