【聖人探索】オクスフォードなお仕事
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■ショートシナリオ
担当:葉月十一
対応レベル:2〜6lv
難易度:やや難
成功報酬:2 G 44 C
参加人数:8人
サポート参加人数:2人
冒険期間:09月14日〜09月21日
リプレイ公開日:2005年09月20日
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●オープニング
●伝令
――それはオクスフォード候の乱の開戦前まで遡る。
「王、ご報告が」
メレアガンス候との戦端が開かれる直前のアーサー王を、宮廷図書館長エリファス・ウッドマンが呼び止めた。
軍議などで多忙のただ中にあるアーサー王への報告。火急を要し、且つ重要な内容だと踏んだアーサーは、人払いをして彼を自室へと招いた。
「聖杯に関する文献調査の結果が盗まれただと!?」
「王妃様の誘拐未遂と同時期に‥‥確認したところ、盗まれたのは解読の終わった『聖人』と『聖壁』の所在の部分で、全てではありません」
エリファスはメイドンカースルで円卓の騎士と冒険者達が手に入れた石版の欠片やスクロール片の解読を進めており、もうすぐ全ての解読が終わるというところだった。
「二度に渡るグィネヴィアの誘拐未遂は、私達の目を引き付ける囮だったという事か‥‥」
「一概にそうとは言い切れませんが、王妃様の誘拐を知っており、それに乗じたのは事実です。他のものに一切手を付けていないところを見ると、メレアガンス候の手の者ではなく専門家の仕業でしょう」
「メレアガンス候の裏に控えるモルゴースの手の者の仕業という事か‥‥」
しかし、メレアガンス候との開戦が間近に迫った今、アーサーは円卓の騎士を調査に割く事ができず、エリファスには引き続き文献の解読を進め、キャメロット城の警備を強化する手段しか講じられなかった。
――そして、メレアガンス候をその手で処刑し、オクスフォードの街を取り戻した今、新たな聖杯探索の号令が発せられるのだった。
●ユニバーシティ・カレッジ
戦禍にまみれた街・オクスフォード。
街のあちこちで見られる崩れた建物の瓦礫の山や怪我をした多くの人々。復興の途にあるとはいえ、いまだその爪跡はその痕跡を残していた。
教会と同じく、一般市民の避難所となっていたユニバーシティ・カレッジ。非戦闘区域になっていたとはいえ、一時の戦乱を免れることは出来ず、所々に崩れた箇所があった。
そして――。
「‥‥ッゥ‥‥さすがに一人だと限界か」
乱れた息を整えようと、何度か深呼吸を繰り返すエルリック・ルーン。周囲は薄暗く、あちこちに崩れた岩肌が見える。
「おまけに、こんなにモンスターが出るって聞いてねぇぞ、おい」
思わず出る愚痴。
だが、それは薄暗い空間に空しく消えた。
「ったく、こんな面倒な事頼むなんて学長も人使いが荒いよなぁ」
ぶつぶつと文句が次々と口に出る。
多少の腹立たしさもあるが、相手はなんと言ってもユニバーシティ・カレッジの学長だ。昔お世話になった相手から紹介された依頼人でもあるわけだから、仕方ないと半ば諦めの笑みを浮かべてみる。
そのまま立ち上がろうとした途端、ズキリといった痛みに思わず顔を顰めた。視線を向ければ、右足の大きな怪我に気付く。
「マズったな‥‥」
思わずバックパックを探ったが、すでにポーションはなくなっていた。
仕方なくその場にしゃがみこむエル。多少の応急手当をすれば、なんとか時間をおいて歩けるようになるかもしれないが、さすがにこれ以上先に進むには難しい。
「しょうがねえな。なんとか、ギルドの方が動くのを待つしかねぇか」
オクスフォードへ向かう前、なんとなく嫌な予感がしてギルドへ寄ったことが今となっては頼みの綱だ。うまく間に合えばいいが‥‥内心の焦りと一緒に、パラの少年は大きな溜息をついた。
●託された依頼
ギルドの壁に張り出された一枚の依頼書。
エルリック・ルーンの署名が入ったその依頼を見て、ふと冒険者達が足を止める。依頼をした日付が今から三日前になっていたから。
「なあ、おやっさん。これって」
「ああ、そいつか。エルの坊やが三日前に持ってきたヤツなんだがな、オクスフォードにいる知人に頼まれたんだとさ」
先の戦乱により、多くの建造物が倒壊されたオクスフォード。
避難所として開放されていたユニバーシティ・カレッジも例外でなく、校舎の一部が壊されてしまった。勿論、それだけでも問題なのだが、それ以上に重要視されたのは、崩れた場所から発見された物だ。
「ユニバーシティ・カレッジってぇのは、結構古くからある学び舎でな。色々といわく付きの伝承が残ってたりするんだ。何しろ、校舎を建てる前は教会だったらしいからな」
そう前置きしたギルドの親父の説明によれば、建物が崩れた場所から現れたのはその教会の跡地らしきもので、その奥には地下へと通じる道が開いていたようだ。
そこでカレッジの学長は、地下の調査をいろんな伝手を辿ってエルへ依頼したのだという。
「ギルドではなく?」
「‥‥ま、色々他に知られたくねぇ事情もあるみたいなんでな。その辺の詳しく事は聞いちゃいないが」
言いながら、男は改めて依頼書を指差した。
「最初は一人で大丈夫だと踏んでたみたいだが、出発の段になって妙な予感がするって言い出してな。わざわざギルドに寄って依頼を預けていったんだ」
曰く、一週間経っても帰って来なかったら冒険者達に依頼して欲しい、と。
「え、でもまだ三日しか経ってないんだろ?」
「ああ。だが、例の聖杯に関する情報、覚えてるだろ?」
頷く冒険者達に、男は一転して真剣な顔になった。
「どうやら解読された内容だと、そこにあった教会ってのが『当たり』って話だ。となるとギルドとしても放っておくワケにいくまい。なにしろ――この国には、アーサー王以外にも『それ』を欲してるヤツらがいるみてぇだしな」
重苦しい口調に思わず身ずまいを正す冒険者達。
その時、ふと疑問の思った一人の冒険者が質問した。
「そういえば‥‥わざわざキャメロット近郊にいる彼を紹介したのは誰なんですか?」
「あぁ。オクスフォードにある小さな修道院の院長だそうな。なんでもエルにとって自分を育ててくれた恩人らしいぜ」
それだけ告げると、男はそれきり押し黙ってしまう。その科白に付随する様々な想像が、冒険者達のそれ以上の問いを図らずも躊躇わせた。
●リプレイ本文
●地下へ続く回廊
「‥‥そうですか。では何もご存知ないのですね」
「お力になれず」
「いえお気になさらずに。こちらこそありがとうございました」
申し訳なさそうに頭を下げる学長に、リースフィア・エルスリード(eb2745)は軽く会釈をしてその場を辞した。
結局、何の手がかりも得ることが出来ず、隣を歩くソフィア・ハートランド(eb2288)は少し不満げだ。
「結局、無駄足だったな」
「仕方ありませんよ。ここの建物も百年以上前の物ですし、その遺跡にしてもそれより更に昔ですから」
教会の跡地とはいえ、そもそもその教会自体があまり知られていないものだったのだ。先に発見された聖杯に関しての情報から、ここに関連した何かが眠っているとわかったぐらいだし、それほど期待するべき情報はなかっただろう。
そう考えるリースフィア。隣を見れば、ソフィアもまた難しい顔をしていたので、納得したのだろうと苦笑を浮かべる。
が、彼女が考えていたのはそんなことではなく、今救助を待つエルリックのこと。
(「――そういえば、これって玉の輿のチャンスじゃないか。貴族とも繋がりがあるっていうし、円卓の騎士じゃないが、十分だ」)
思わずガッツポーズを付けたいぐらい彼女の気合は高ぶっていた。
「あ、どうでした? 見取り図かなんかあったやろうか?」
入り口で待っていた藤村凪(eb3310)に声をかけられた二人は、静かに首を振った。
「そうどすか。ま、しゃあないやな」
元々、ダメもとと思っていただけに落胆も少ない。
すぐに気持ちを切り替えた彼女は、地下への通路へと向き直る。
「ほな、早いとこ行こうや」
その言葉を合図として、冒険者達は薄暗い道へ入っていった。
――そこは、奇妙は空間だった。
地下ということで確かに周囲は暗いのだが、完全な闇というワケではない。おかげで松明の火でもある程度見渡せるようになっていた。
「すごいわね〜こんなものが、もう百年以上前に作られたなんて」
前衛で注意深く進む御法川沙雪華(eb3387)が、思わず感嘆の声を上げる。
イギリスの言葉を知らない彼女の呟きはジャパン語で、そのために他のメンバーには何を言っているのか解らなかった。ただ一人、同郷でもある凪以外は。
「‥‥どうや? なんか見つかったやろか?」
「いえ、今は何も。特に罠の類は無いみたいですわ」
「んなことよりさー、エルのやつは見つかったか?」
ぐいっと顔を出すマレス・イースディン(eb1384)。そわそわする気持ちを隠す事なく、そこには好戦的な笑みを浮かべている。
「人かモンスター‥‥どっちが出てくるかしんないけど、この俺がとっとと叩きのめしてやるんだけどな」
手にしていた剣をぶるんと振るいながら、意気揚々と片手を上げる。そんな子供っぽい彼に、やれやれと苦笑を零す仲間達。
その中にあって、ふと立ち止まった者がいた。
「‥‥どうやら出たみたいやで」
その言葉を聞いて、クロス・レイナー(eb3469)が一歩前に出た。
「お望みどおり敵ですよ。注意、してくださいね」
剣を抜いて即座に構えを取る。いつ何が起きてもいいように。
マレスもまた、同じように剣を抜いた。一瞬だけピンクの光が彼の体を包んだ。
「お、おいでなすったな。おっしゃ、んじゃとっとといこうぜ。エルリックの仇はここで取らせてもらうぜ!」
「‥‥まだ死んでませんよ」
クロスに軽く突っ込まれたのを気にする事なく、マレスはその視線が捉えた敵に向かって一太刀を振るった。敵――ねずみに似た小さく這いずり回る物体は、その剣戟に一目散に飛び散っていく。
「逃げさへんで」
凪の構えた弓から矢が放たれる。
ほぼ同時に中盤の位置からソフィアが突撃する。が、移動の助走が足りず、その攻撃は思ったより威力をなさなかった。
「しまったっ!」
体勢を立て直すよりも先に、敵の長い尾が伸びてきて彼女の足に絡まった。強い力に引っ張られ、そのまま彼女は倒れ込んだ。
「ソフィアさん!」
言葉が通じないと解っていつつも沙雪華が叫ぶ。
ソフィアにいっせいに襲い掛かろうとしたねずみに向かってダーツを放つ。狙いが定まらないまでも、牽制の意味では効果があったようで、その動きがわずかに鈍る。
その隙を見逃さず、リースフィアとオーラパワーが付与されたクロスの一撃がその身体を切り裂いた。
「あ、くそ! 待ちやがれッ」
逃げようとする敵をマレスが追いかけようとする。
が、それを止めたのは仲間であるシルリィ・フローベル(eb3468)だった。
「待って」
「なんだよッ、逃げちまうだろうが」
「‥‥静かに」
憤るマレスを手で制して、シルリィは聴覚に集中する。
「ねえ、あの声――」
「声?」
そう言って、彼女はスッとある方向を指差した。それは、ちょうど敵のデビルが逃げた方とは逆の方で。
「こちらの方向に誰か怪我した人がいるみたいだよ」
その言葉に彼らはハッと目を見合わせた。
●救援
「‥‥ったく、しつこいなぁ」
荒れる息のまま、彼は壁に背中をつく。もはや足の感覚がない。意識がかなり朦朧としていた。
だが、明らかに近くに感じる敵の気配。
すでにポーションはなく、魔法力も底を尽きている。
「そろそろ、ヤバイ‥‥か」
思わず零れた苦笑い。
迫り来る凶刃をかわす力は、もうない。覚悟を決めて目を瞑る。
だが――襲ってくるべき痛みは、いっこうに訪れなかった。代わりにバタバタとした足音と、くぐもった悲鳴にも似た叫び。
そして。
「おい、大丈夫か? しっかりしろって。よく頑張ったな。待ってろ、今治してもらえるからな」
突然かけられた男の声。
思わず目を見開くと、そこには心配そうに自分を覗き込む赤い髪の女性の姿。
「エルリック様、大丈夫ですか?」
その向こうでドワーフの少年が周囲を注意深く見回している。
ふと気付いた足の感触に目を向ければ、黒髪の女性が慣れない手付きで応急処置をしていた。どこか異国な印象の雰囲気から、きっとジャパンの人なのだろうと考える。
「まったく無茶しはって。ほら、これで大丈夫やろ」
独特な言葉遣いの少女から差し出された魔法液。言われるがままにそれを飲み干せば、自身の傷がみるみる癒えるのを感じた。
「本当に‥‥よく頑張ったね。もう大丈夫だよ、動ける?」
エルフの女性の気遣うような口調。
が。
「こ、子ども扱いすんなっ!」
思わずそう怒鳴ってしまったのは、性格による条件反射か。
「お、その元気なら大丈夫そうだな。ま、無事でよかったな!」
バンバンと背中を叩くドワーフの少年に、赤い髪の女性が慌てて止める。
「ちょっ、何やってんだよ。怪我人なんだよ! ――大丈夫ですか? ああ、よろけるといけませんから、肩につかまりませんか?」
怒鳴ったと思ったら、一転言葉遣いも変わる女性に、周囲の者達は思わず渇いた笑みしか出てこない。
キラキラさせた目を向ける彼女に、さすがにこちらも笑うしかなかった。
「‥‥ま、なんにしろ助かったぜ。さすがにキツかったからな」
「もう大丈夫ですか?」
「ああ」
心配する少女をよそに、ゆっくりと立ち上がる。
「でさ、これからどうするんだ? 一応、俺らの依頼はおまえの救出って事だったしな」
「そうですね。遺跡の調査は‥‥」
二人の少年の言葉に、思わず何を言っているのか、と視線を向ける。
「先進むに決まってんだろ。だいたい、終点はもうすぐなんだぜ」
そう言ってある方向を指差すと、彼らは驚きの声を上げた。
「ちょっ、そっちの方向って――」
それが、先ほど戦ったデビルが逃げた方向であるのを、エルリックは初めて知った。
●過去との邂逅
冒険者達は、急ぎその場所へ急行した。
が、そこで彼らが見た物は‥‥。
「あっちゃー、やっぱ遅かったか」
「‥‥仕方ないですね」
落胆するマレス。その肩に手を置いてクロスが慰める。他の者達も皆、その惨状に口を開いて呆然とするだけだ。
壁一面に残る破壊の爪跡。あちこちに散らばる瓦礫の山。
破片を拾ったソフィアは、そこに何かが描かれているのを知る。
「どうやら目的の物、だったんだな」
「そんな‥‥せっかくここまで来たのに残念や」
手に入れるのではなく、破壊する。
おそらく後から来る者に情報を知られるのを防ぐため。
「たいしたもんやわ」
凪の呟きに同調するように沙雪華が悔しさを口にする。
「あの時、眠らせてればよかったわ」
後方に下がっていた為、一瞬対応が遅れてしまった。今更だがそんな後悔の念が胸を突く。
手にした松明を壁に掲げるシルリィ。やはり、そこにはもはや崩れ落ちて何も無い。
「ったく、せっかくここまで来たのによぉっ‥‥て、エル? なにやってんだ?」
マレスが振り向くと、エルはなにやら壁画があった場所とは反対側の場所でごそごそしていた。
彼が手を付けている場所には、苔がびっしりと生えている。幾つかの蔦が纏わりつき、祭壇めいた岩がそこにあった。
それを見た途端、凪は思わず駆け寄った。
「ねえ、これってそうなんちゃうん?」
「ああ、多分な」
同意するエルとほぼ同時に彼女はその苔を蔦と一緒に引き剥がす。他の者達もそれを手伝うように、岩にこびりついた苔を取り除いていった。
すると、そこに浮かび上がってきたのは、ぐるりと一周する一枚の絵。おそらくかつては祭壇だったのだろうそれは、長年の風化で大きな岩と化していた。
だが、その側面にある絵柄は、苔に覆われていたためか辛うじて読める程度に残っていたのだ。
「するとあっちにあった壁画は」
「まあ、普通に教会にあるような壁画だったんだろうぜ」
エルの言葉に一同はとりあえず納得するしかなかった。
ともあれ、彼らはその絵柄をもう一度確認する。そこにあるのは、絵巻物のように流れる物語だった。
「これは‥‥大きな獣ですね。そしてその視線の先に」
「聖杯、だよな?」
リースフィアの言葉の後をマレスが続ける。
「この大きな獣が聖杯に導くってなのかな?」
シルリィが首を傾げるが、さすがにそれ以上はここからすぐには読み取れない。とりあえず一旦引き上げてじっくり調べる必要がありそうだ。
依頼人でもあるエルのその言葉に、冒険者達はしぶしぶながらも納得する。ひとまずの目的は達成出来たのだから。
後の処理は依頼人でもあるエルや、ユニバーシティ・カレッジの学長が決める事だ。
「それじゃ帰ろうか。ね、エルリック様」
ニコリと満面の笑みを浮かべたソフィアはエルの腕を取ると、そのままべったりとくっついたまますたすたと歩いていく。
「お、おい、ちょっと待てって」
強引に引き摺られていく彼の姿に、どこからともなく零れた笑いが地下の空洞に響き渡った。