【妖精王国】石版を狙う者

■ショートシナリオ


担当:葉月十一

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月20日〜09月25日

リプレイ公開日:2005年10月04日

●オープニング

 ドン、と拳を力いっぱい壁に叩きつけるアル。
「クソッ!? オレが目を離さなければ‥‥」
「落ち着けよ、アル」
「これが落ち着いてられっかよ!!」
 そう言って突き出しされた拳には、皺だらけになった羊皮紙が握られている。そこに書かれた内容を見た途端、アルは自分の不甲斐なさに激昂した。
 それは彼を宥めているナギも同じで、冷静な顔の裏で悔しさに歯噛みするばかりだ。
「オレだって同じだよ。ライト一人で行かせなきゃよかったんだ」
「生徒を人質に取り、石版を要求する‥‥ケンブリッジ生の風上にもおけませんね」
 いつになく厳しい顔の生徒会長。そんな彼女の表情に集まった者達も、そんな彼女の表情を見るのは初めてだった。
 強い意志を秘めた瞳をそのまま向け、そして彼女は告げた。
「ライト君を拉致した連中の居場所は、おおよその見当はついています。ここケンブリッジの外れに使われなくなった旧校舎等の廃屋があるのですが、そこに最近何人かの人影を見たという目撃証言があります。おそらく‥‥」
「そこにライトが捕まってんだなッ?」
「駄目だって、アル! 騒ぎ立てたりしちゃ、ライトの身が危険だろっ」
 今にも飛び出そうとするのを、ナギが必死になって押さえようとする。
 そんな二人のすったもんだを横に置いて、生徒会長の言葉が静かに伝わる。
「連中に気付かれぬよう、捕らわれたライト君の救出を――そして、こんな真似をしでかした者達に制裁を!」
 厳しい彼女の科白に、集まった者達はいっせいに身を正した。


 ――人の近寄らない廃屋の一角。
 数人の男達が話しているのを、ライトは身を小さくしながら聞いていた。
「‥‥これでようやく目的が‥‥」
「そういや、ヘイドリックのやつ‥‥」
「‥‥あの方からの使いが‥‥」
「吟遊詩人からの伝言だぜ」
 小声で話しているからか、途切れ途切れにしか聞こえないものの、どこか乱暴な口調が気の弱いライトにとってどうしても怯えてしまう。目隠しをされているのも少年の恐怖心を煽る形になった。
(「‥‥アル兄ちゃん‥‥ナギ兄ちゃん‥‥」)
 思わず泣きそうになるのをグッと堪え、ライトは静かに助けが来るのを待つ――。

●今回の参加者

 ea6004 エルネスト・ナルセス(42歳・♂・ウィザード・パラ・ビザンチン帝国)
 eb0311 マクシミリアン・リーマス(21歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb0874 ガルディ・ドルギルス(55歳・♂・レンジャー・ドワーフ・ビザンチン帝国)
 eb2292 ジェシュファ・フォース・ロッズ(17歳・♂・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 eb3117 陸 琢磨(31歳・♂・ファイター・人間・華仙教大国)
 eb3350 エリザベート・ロッズ(23歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ロシア王国)

●リプレイ本文

●偵察
「これが旧校舎のだいたいの位置と間取りだ」
 小声でエルネスト・ナルセス(ea6004)が差し出したのは、旧校舎群の配置図。
 どこで誰が聞いているか解らない。
 そのため、いつもはずぼらな彼も細心の注意を払って、あくまでも内密にという事を念を押して生徒会のメンバーから地図を預かってきたのだ。
「了解しました。ライト君の安全、なんとしてでも確認してきます。ナギくんもアルくんも僕が帰るまで大人しくしててくださいね」
 マクシミリアン・リーマス(eb0311)の言葉に、互いに羽交い絞めのままだったアルとナギも大人しくなる。
 本来、彼らのお目付けだったジェシュファ・フォース・ロッズ(eb2292)も、二人に直接会った事で動揺が伝染してしまい、あわや飛び出そうとしたのを彼の妹であるエリザベート・ロッズ(eb3350)に問答無用で窘められてしまっていた。
「まったく。あんた達が暴走してライトって子が酷い目にあったらどうするのよ。こういう時こそ冷静に行動しないと駄目よ」
「リ、リズぅ‥‥」
「ホント、こんなちんちくりんが兄だなんて‥‥」
 ぼやく溜息にシュンとなるジェシュファ。そんな彼の様子に、エリザベートはただ苦笑を浮かべた。
 言動はキツイものの、別段兄妹仲が悪いわけではない。ただ、自分より年下としか見えない兄の、いつまでもおっとりした子供っぽさが少々歯痒いだけだ。
「では、行ってきます」
「ああ、気をつけてな」
 マクシミリオンの姿がゆっくりと変化し、一匹の大きな犬となったその後姿を彼らは身を潜めたその場所で見送った。

 ――旧校舎群。
 かつては多くの生徒が通っていた校舎だったが、老朽化が原因で次第に使われなくなっていった校舎の総称だ。
 その多くは立ち入り禁止とされている。とはいえ別段常に監視があるわけでもない。その為、生徒達の度胸試しの場として入り込む事もしばしばあった。
 その一角。
 比較的、他の建物より老朽の進んでいない建物の中から微かに声が聞こえてきたのを、犬に変化したマクシミリアンが耳に止めた。
(「‥‥ここ、かな?」)
 建物の影に身を潜めながら、ゆっくりと集中する。生命の感覚を自分の中で数えていく。
(「一、二‥‥全部で七つ、だね。確かライトくんは小さかった筈だから‥‥」)
 七つの命の中で一番小さな輝きを探ると、ちょうど一番奥の位置にそれは感じられた。
 すぐに彼の身体は再び変化を始める。今度は大きな蛇だ。
(「確か見取り図どおりだと、こっちに入り口が‥‥あった!」)
 目に入った入り口から進入を試みると、ちょうど廊下を這いずる形になる。そしてそのままゆっくりと移動し、先ほど感じた生命の位置のちょうど裏側に辿り着く。
 隙間から見える影――ぐるぐるに縛られたライトを確認した。
 どうやら監禁している連中は、今のマクシミリアンにまだ気付いていない。その事を確認してから、彼は一度その場から離れた。
(「必ず助けますからね」)
 そう心に固く誓いながら。

●突入
「この経路で行けば、見つからずに傍まで行けるはず‥‥か?」
「そうだよ」
 確認しながら尋ねるエルネストに、マクシミリアンが小さく相槌を打つ。
「まず救出というわけだな?」
 彼の説明にそう念を押すガルディ・ドルギルス(eb0874)。手にしたショートボウの手入れをする彼は、自分の役どころを理解していた。
「わしは戦闘でしか役に立たんようだしな」
「それは俺もだ。小僧の救出は他に任せる。俺はくだらん連中を相手にしてやるさ」
 陸琢磨(eb3117)が浮かべる笑みに、他の者達は言い知れぬ寒気が走った。
「死なん程度に痛めつけてやる」
「で、ではそういう形でいいですか?」
 張り詰める雰囲気を無理やりに戻し、マクシミリアンが全員に確認する。アルもナギも、同じく頷いた。
「くれぐれもライトのこと‥‥」
「大丈夫。僕らも一緒なんだから!」
 必ず助ける。
 考えることは一緒なんだ、とジェシュファが二人の肩を軽く叩いた。
「じゃ、行くか」
 エルネストの言葉を契機に、彼らは一斉に立ち上がった。

「‥‥やれやれ、やっと大人しくなったか」
「そうそう。静かにしとけば、きちんと返してやるんだぜ。生徒会の連中が取引に応じてくれればな」
 聞こえてきた声。
 思わず身を硬くする冒険者達。
 が、どうやら相手は気付いていないようだ。そのまま、彼らは暢気に会話を続けていた。
「そういや、あいつはどうした?」
「ああ、もう一回交渉の連絡に行ったぜ。二人でな」
 その言葉が示すように、マクシミリアンがもう一度生命の数を確認すると、確かに二つ減った五つほどしかいない。
「‥‥どうやら見張りは四人になったみたいだよ」
「それなら救出も少しは楽ですわね」
「リズ、くれぐれもヤツラに制裁加えるのはライト君を助けてからだからね」
「わかってるわ。あなたこそ『本当に』無鉄砲に飛び出さないでよね」
 後衛を歩くエリザベートとジェシュファの会話に、ナギは思わず苦笑を零した。
「ホント、仲いいんだね」
「おい、そろそろだぜ」
 位置するのは、ちょうどライトがいると思われる場所から壁を挟んでちょうど反対側。そっと息を潜めれば、確かに人の気配があるのを感じる。
「では‥‥行きます!」
 老朽化の進んだ壁は、犬に変化したマクシミリアンの体当たりで容易く壊れる。激しい破砕音が静寂を破った。その後に続いて、ガルディと琢磨が突入する。
「な、なんだ?!」
「誰だッ!」
 突然の襲撃に慌てる男達。
 その隙を逃すわけがなく、ガルディが素早く身構えて矢を放つ。見事狙い通り、その軌跡は男達の一人の足に突き刺さる。
「うわッ」
「足さえ封じれば、逃げられんだろう」
「て、てめえら生徒会の手の者か!」
「汚えぞ」
「人質を取り、逆恨みをする輩が何を言う」
 琢磨の剣が素早く振り下ろされると、それまで威勢の良かった男は逃げようとして後ろへ引っくり返った。
 更に追い討ちをかけるよう、ダンと勢いつけて剣を床に突き刺す。それはちょうど男の首筋を掠め、赤い筋を一つ作った。
「ひぃぃぃッ」
「‥‥口ほどにもない」
 侮蔑の意を込めた琢磨の呟き。
 その実力に一瞬で勝てないと悟った男は、急いでライトを人質にしようと向かったが、その行動が叶うことはなかった。
 何故なら、彼の行く手を冷たい吹雪が遮ったからだ。
「よくもこんな酷いことを!」
 涙目のジェシュファが怒りにまかせて乱発するアイスブリザード。
 そして。
「‥‥品性に欠ける行為だな」
 エルネストの唱えた魔法により、男は冷たい棺の中に閉じ込められてしまった。
 残すは、一人。
「くっ、てめえら‥‥よくも!」
 血走った目で剣を振り上げる男。狙う先は犬の姿をしたマクシミリアン。
 だが、それよりも早くガルディの放った矢の方が早い。ちょうど継ぎ目部分に当たった矢は、男の動きを鈍らせる。そのままマクシミリアンが足に噛み付くと、悲鳴を上げて男は倒れた。
「とりあえずこれで」
 終わりか、とガルディが言い掛けた途端。
 不意に扉が開いた。
「な、なんだこれは?!」
「てめえら、いったい」
 どうやら交渉に出た二人が帰ってきたらしい。彼らは一目見るなり、現場の状況を悟ったようだ。
 互いに目配せするなり、くるりと方向転換する。
「ま、待て!」
 急ぎ、ガルディがショートボウを身構える。
 が、二人が外へ出ようとする寸前ですさまじい稲妻が彼らを襲った。
「うわあぁあ!」
「ぐはっ!?」
 衝撃に倒れ伏す男達。
 その攻撃を放ったのは、後方に待機していたエリザベート。
「卑怯極まりない輩に、手加減は一切しませんわよ」
 かくして脅迫を試みた不届き者達は、見事捕らえられたのだった。

●解放
「ライトく〜ん、無事でよかった〜」
 泣きじゃくりながら抱きつくジェシュファ。
「ジェシュくん、心配かけてごめんね」
「ったく、ホントに‥‥どれだけ心配かけたことか」
 どこか不貞腐れた表情でそっぽを向くアル。どうやら少し照れているようだ。そんな彼にナギは苦笑を零す。
「まったく‥‥ホント情けない」
 泣くジェシュファの様子にエリザベートは静かに溜息をつく。本当にこれが兄なのかしら、そんなことを考えつつ。
 一方で縛られた六人の男達は、恐怖に引き攣った顔で互いに身を寄せ合っていた。
 彼らの前には凶悪な笑みを浮かべた琢磨がいる。その手に持つロングソードの刀身が妖しく煌く。
「さて。騎士を名乗るからには、そう簡単に吐いてはくれんよなぁ?」
「程ほどにな」
 その様子を見つめるエルネストが、ポツリと小さく呟く。
 が、特に止める気もないようだ。
 そうして様々な拷問が行われたのだが、元々気概の強くない者達ばかり。あっさりと自分達の素性とその目的を口にした。
 曰く、石版を破壊してくれるよう頼まれたこと。その依頼者は吟遊詩人の姿をしていたこと――おそらくその吟遊詩人は、以前から噂されていたヘイドリックのことだろう。
 彼らはそれ以上何も知らなかった。
 さすがに拷問の限界を感じ、ガルディが慌てて止めるという一幕もあったが、ひとまず六人をしかるべき場所へ預けることにした。
「‥‥それにしても、一体何があるんだろうな‥‥」
 ギルドからの帰り道。
 エルネストが呟いた一言は、この事件に関わった者達全ての心の代弁だった。

 それから数日の後。
 捕らえた筈の六人がいつの間にか姿を消した事を彼らは知る。その痕跡に赤い血溜まりだけを残して‥‥。