マッチョ ざ Ripper

■ショートシナリオ


担当:葉月十一

対応レベル:1〜3lv

難易度:普通

成功報酬:0 G 57 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月10日〜07月16日

リプレイ公開日:2004年07月14日

●オープニング

 そこはキャメロットにほど近いとある街。
 近年、増え続ける人口は街に繁栄をもたらしているが、逆に影の部分も増加の傾向にあった。スリ・引ったくりは言うに及ばず、盗賊による強盗までもその発生件数は昔に比べて倍近い。
 街の自警団等によって警備を強化しようにも、人手不足からうまく回っていないのが現状だ。
 だが、そこに一人の男が立ち上がった。
 街をこよなく愛するその男は、犯罪を犯す者達を許しておけなかったのである。自ら鍛え上げた肉体と修練を重ねたナイフ捌きを、ここぞとばかりに遺憾なく発揮したのだ。
 おかげで街の犯罪件数は激減した。
 彼の活躍が実を結んだのである。
 が――。

「‥‥いい話じゃねえか。それのどこに問題があるんだ?」
 若い冒険者の一人が、受付に座る男に向かって問う。
 元冒険者であった男の、いまだ衰えを見せぬ眼光が、黙って聞け、とばかりに鋭く光る。
「まあ、確かに犯罪は減った。その事は喜ばしい事だ。だがな、そのやり方にちと問題があってな」
 男は、ゴホン、と咳払いを一つ。
 そして、やや言いにくそうに言葉を紡いだ。
「そいつは夜な夜な犯罪者を見つけては、その熟練のナイフ捌きで切り刻むんだ」
「え?! 殺しちまうのうか?」
「あ、いや‥‥別に命までは取らないんだが‥‥まあ、ある意味死ぬより酷い目には遭わせてるな、うん」
 なかなか先へ進もうとしない男の言に、冒険者は苛立ってくる。
 が、最後まで聞いてしまった後で、聞かなければよかったと誰もが後悔した。
「‥‥切り刻むのは衣類だ」
「へ?」
「ようは身ぐるみ剥がしてだな、色々とお婿に行けない身体にするらしいぜ‥‥まあ詳しくは知らねえけどな。その後、一糸纏わぬ姿で軒先に宙づりしちまうんだ」
 一瞬の沈黙。
 そして、騒然。
 男の話では、どんな達人であろうと相手が男である以上、その村の男は凄まじい力を発揮して事を為し得るらしい。さらに、今では街のちょっと犯した罪なき罪の場合でもお仕置きと称して行動するらしく、街の男達はすっかり怯えているそうだ。
 おかげで周辺地域にも噂を呼んでしまい、街を訪れる者が少なくなってしまったのだ。
「悪いことをしてる訳じゃねえから、街のえらいさんもなかなか言いづらいらしいぜ。おまけに自警団の何人かが男に同調したらしく、一緒になって街を見回ってるって話だ。それで、冒険者達になんとか男を説得して欲しい、って依頼が来たんだが‥‥どうする?」

●今回の参加者

 ea0043 レオンロート・バルツァー(34歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)
 ea0061 チップ・エイオータ(31歳・♂・レンジャー・パラ・イギリス王国)
 ea0310 ローゼン・ヴァーンズ(38歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea0448 レイジュ・カザミ(29歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea1182 葛城 伊織(37歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea1314 シスイ・レイヤード(28歳・♂・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 ea3993 鉄 劉生(31歳・♂・武道家・ジャイアント・華仙教大国)
 ea4094 リアスティリル・レムリアーヌス(26歳・♀・バード・エルフ・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

●覚悟完了!
 イギリスのとある街で、今日も怪しい雄叫びがこだまする。
「変質者か! だが、我が輩の手にかかれば赤子同然だな! ふはははははっ!」
 高らかと笑うローゼン・ヴァーンズ(ea0310)の姿に、道行く人は皆、サッと視線を逸らして足早に過ぎていく。
「ママ、あのおじちゃん」
「シッ! 見ちゃダメよ!」
 幼い少女が指差そうとするのを母親が慌てて窘める、そんな光景があちこちで見られた。必死になって関わり合いを拒んでいる姿に、思わずホロリと涙が出そうだ。
 そんな仲間を横目で眺めながら、レイジュ・カザミ(ea0448)が負けじと胸を張る。
「こっちだって色々な覚悟なら出来てる! 事件は必ず解決するさ、葉っぱ男の名にかけて!」
 ビッとカメラ目線(何)で人差し指を突きつけた堂々たる宣言。どうやら、以前の依頼で授かった称号が、かなりお気に召したらしい。
 ある意味、堂々たる囮宣言でもあった。
「なんの、こっちだってやってやるさ!」
 勢いよくもろ肌を晒したのはレオンロート・バルツァー(ea0043)。その見事な体格を剥き出しにしたまま、二人を相手にポージング勝負をする。
「言っておくが我が輩が変質者として上位というわけではないぞ」
「なんのこれしき」
「とりゃー!」
 ‥‥町の人々の奇異な視線をものともせず、ただひたすら己の肉体を誇示する囮候補者達。
 やれやれ、と溜息を吐いたシスイ・レイヤード(ea1314)は、ただひたすら氷の視線を彼らに注ぐ。
「頼むから‥‥変態、じゃなかった‥‥マッチョ相手に‥‥ポージングで‥‥説得するなよ」
 幾分引きつった顔は、どことなく青ざめていた。
「おいら、弾けるの苦手なんだよ‥‥」
 茫然と呟くチップ・エイオータ(ea0061)の肩を、シスイがまるで哀れむように優しく叩いた。
 無駄だ、と告げるように首を横に向ける。つられてチップも隣を見れば、妙に熱血溢れる瞳をした鉄劉生(ea3993)が、ガッツポーズのように拳を振り上げていた。
「とりあえず被害者の証言からだよな!」
 燃え盛る炎を宿し、背中に『異議あり!!』の立体文字を背負っているように見えるのは気のせいだろうか。
「おっしゃ、行くぜ!」
 張り切る劉生の大きな背中を眺め、二人はもう一度溜息をついた。
 少し離れた所では、相変わらず三人が肉体を晒しながら囮の練習を行っている‥‥。

●いざ出陣!
「で、どうだったんだ?」
 強引に詰め寄る劉生に、ただ無言で視線を逸らす被害者。
 これで十人目になるが、誰一人として何をされたか口にする者はいない。おまけにガタガタと震えるばかりだ。
「埒があかないね、これじゃあ」
 溜息をつくチップが軽く肩を竦める。
 一応、襲われた場所までは確認出来たので、ある程度被害の多い場所は分かった。とりあえず今はそれで良しとしよう。
「で? チップ、その格好はなんだ?」
 シスイが思わず突っ込んだチップの格好。
 服の何カ所かは切れ込みが入り、羽織るマントは少しだけ緩め。まるで今にも襲ってくださいと言っているようなものだ。
(「まさか、これを使う羽目になるのか?」)
 僅かに顰め面になるシスイの手には、何故かハスの葉っぱが数枚ほど握られている。そんな風に冷ややかに見つめる彼を気にする事なく、劉生は熱く――ある意味暑苦しく――チップは真面目に情報収集に励むのであった。
 例えそれが、あまり役に立たなかったとしても(汗)。
 狙った獲物(ぇ)は決して逃がさない。それが彼らの信条であることを、この時の三人はまだ知らなかった。

 そして、街の中に散っていった囮達はというと――。

●お嫁に行こう!
「引ったくりだー!」
 悲鳴と同時に疾走する影。手に抱えているのは高級鞄。そして彼――レイジュは一目散に路地裏へと逃げ込んだ。
 直後。
「出たな悪党! てめえらの悪事はお天道様が許しても、この俺達が許さねえぜ!」
 通路を塞ぐように姿を見せたのは、逞しい肉体の男が二人。どうやら見回りをしていた自警団のようだ。
 が、その格好にレイジュは思わずあんぐりした。聞いていたとはいえ、さすがに目の当たりにすれば思わずビクつく。ましてこっちは、地面に転がって腹を出しているのだ。
(「こ、こんなトコで『やめて乱暴はいや!』なんて叫んだら‥‥」)
 サッと血の気が引く。
「あ、あのさぁ」
「ほう、感心なヤツだな。俺達に怖れをなして、降伏の合図か?」
 いやそれは犬の場合であって。
「なぁに心配いらねえ。ちぃとばかし、活を入れてお前の心を正してやるぜ!」
 ガシッと腕を押さえ込まれれば、もはや逃げ場はない。
「あ、いや、そうじゃなくって‥‥僕は、犯罪者じゃなくって」
「心配すんな。痛くはねえって」
 言うなり、レイジュの服は見るも無残に切り裂かれ‥‥全てを男達の前に晒け出した。
「うわぁぁぁぁぁぁ――っ!!」
 街の人々の為、犠牲になることを厭わないレイジュの、それが最後の悲鳴だった。
 シスイが駆け付けた時には、既に事が終わった後で。
 あまりの哀れさに、手にしていたハスの葉をそっと股間に覆い被せた。
「‥‥新たな快感に、目覚めないと‥‥いいが‥‥」
 ホロリ。
 思わぬ涙が一筋、頬を流れる。

●ある意味最強!
 丁度角を曲がった所で、チップはバタリとそれに出会った。
 彼曰く、『お仕置きマッチョ隊』だ。
「‥‥危険な肉体が出た」
 呟き、思わず身構えるチップだったが、別段彼らが襲ってくる事はなかった。
 それもその筈、彼らは別に無差別に他人を襲う変質者ではない。悪を懲らしめる変態なのだ(マテ)。
「ん、どうしたその格好は? 誰かに襲われたのか?」
 男の一人がムッキムキの腕を見せつけながらチップの肩に手を置く。切り込みの入った彼の格好は、確かに襲われた跡に似ていた。
 が、チップ自身、男に襲われると思ってしまい、思わず呼子を吹いてしまった。
「ふはははははは! 待てい、そこな犯罪者ども!」
 屋根の上、颯爽と登場(本人談)したローゼンは、腕組みをしながら下界を見下ろしていた。そして、ポカンとした顔を一切無視し、切り口上を言い放ち始めた。
「貴様等のやっていることが本当に正義だと思っているのか? 笑止! 貴様等ごときが正義を名乗るなど片腹どころか横隔膜すら痛いわ! 我が輩が真の正義というものを教えてやろう!」
 その後、延々と三十分に渡る自画自賛の科白が続く中、マッチョ隊の男達とチップの間には、和やかな空気が生まれていた。思わず正座してお茶を啜りたくなるほどの。
「そうか‥‥やはりこのままでは駄目なのか」
 がっくりと肩を落とす男達
「考え方は間違ってないけどね。ただ、尻尾に乗るだけの奴に正義を名乗る資格はないんだよ。その辺よっく考えた方がいいんじゃないかな?」
(「‥‥ていうか、まず服着ろ!」)
 思わず心で突っ込むチップだが、まあそれは後でもいいだろう。
 とりあえず男達は、なんとか分かってくれたようだし。
 そして、ローゼンの演説もようやく終わった。見れば、二人仲良く談笑などをしている。
「ふっ、貴様等も己の過ちに気が付いたようだな! これからは悔い改め、我が輩を見習って精進するがいい! 我が輩を師匠と読んで崇めても構わんぞ、苦しゅうない!」
 誰も呼ばねぇよ、とその場の誰もが突っ込んでみたが、絶対彼には届かないだろう。
「今日もいいことをした! さすが我が輩! ふはははははは!」
 そう言い残し、さっさとその場を立ち去るローゼンの後ろ姿を、残った者達はただ茫然と見送るしかなかった。

●逆転有罪!
 肩で風切り、周囲に眼付け、唾を吐きながらレオンロートは歩く。なるべく街の無頼者っぽくしてるつもりだが、果たして引っ掛かってくれるだろうか。
 そんな心配は、あっさりと目の前に現れた男達を見つけた事で、無用の長物に終わった。
「街の美観を損ねる貴様、この俺が正義の裁きを喰らわせてやる!」
 サッと身構えたその腕には、いつの間にかナイフが握られている。脇の二人も同じように鋭い刃を煌めかせていた。
 が、それに怯える事なく、レオンロートは勢いよく自ら服を脱ぎ捨てて全裸になった。
 思わずハッと身を固くするマッチョ達。
「貴様、なんのマネだ?!」
「知りたいか? それはな、俺が正義だからだ! 貴様らのように腰に布を巻いて己を偽っているお前らに正義を語る資格などないわ!!」」
 ドドーン、と背後に効果音(或いは爆発)。思わずたじろぐマッチョ達。
 だが、すぐに気を取り直して二人の男が左右に飛ぶ。正面の男が、一際鍛え上げた胸や腕を誇示して威嚇する。
「ふざけた事を! 俺こそがこの街の正義を守る者だ!」
 その時。
「ちょっと待った!!(当社比四倍角)」
 どこからともなく聞こえた声。
 そして、空からジャンプしてきた影がスタッと地面に着地する。
「今の発言、矛盾があるぜ!」
 ビッと指を差し、マッチョ達に劉生が叩き付けたのは、町民から収集したアンケート『夜道を出歩かない理由』だ。
「さあ、よぉーく見やがれ。夜道を歩かないのは犯罪が多いからじゃない。お前らが怖いからだ!!」
 どどーん!!
 天に稲妻が走り、地面が割れる――精神的ダメージをマッチョ達は受けた。
 が、彼らにも意地はある。
「だが、俺達は街の為にしてきたんだ! 街にのさばる悪を討つ為にこの肉体を鍛え上げ、そして罰を注入してきのだ!!」
 何を?とは聞かないように。
「ならば聞こう、お前達の正義とはなんだ、己を偽り他者を辱める。そのような行いが正義と呼べるか!」
 再びレオンロートの怒声。
「正義とは、偽りなき己を曝け出す事から始まるんだ」
 全てを隠さず、堂々とポーズを決める彼の自信に満ちたオーラが、徐々にマッチョ達を説得していく。‥‥まあ、彼の姿もあまり一般の人々は見たくはないだろうが、ここは一つごり押しだ。
 なおも開こうとしたその口へ、今度は調書という名の被害者の声を突っ込んだ。
「罪人を裁くことは社会復帰不能にすることじゃない! お前らのやっていることはただの自己満足だ!」
「それでも理解出来ねえってんなら、この俺が正義の名の下に鉄拳を喰らわせてやる!」
 互いに振り上げた拳。どちらも逞しい腕だ。
 じっと見つめる視線。
 そうしてどれだけ時間が過ぎただろうか。
 カラーンという音とともにナイフが地面に落ちる。そして、がっくりとマッチョ達は片膝を付いた。
「‥‥お、俺達の負けだ」
 何故!? と、聞いてはいけない。それが男達の暗黙の了解なのだから。
「分かればいいんだ」
「ふっ、今日もいい仕事したねぇ」
 爽やかに夕陽をバックに歯を光らせる劉生。
 あれ、今夜じゃなかったのか――なんて突っ込みも、決してしてはいけない‥‥。