【妖精王国】生と死の巡る枷

■ショートシナリオ


担当:葉月十一

対応レベル:4〜8lv

難易度:難しい

成功報酬:2 G 88 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月20日〜09月25日

リプレイ公開日:2005年10月03日

●オープニング

「僕が行く!」
「王子、それは危険だ! 何が待ち受けるのかわからないんだぞ?」
「だが、僕は妖精王国の王子だ。国が大変な時に僕だけが何もしないワケにはいかないんだよ」
 傷も癒え、体力も回復した妖精の王子。
 その矢先に起きた『ゴグマゴクの丘』での異変――奇妙な石造りの祭壇が組み上げられ、時折響くベルを鳴らす音と奇妙な呪文。
 その知らせを聞いた王子は、ある一つの決心をした。
「父上や母上は、今は王国を復興させる為に力を尽くしてる。それならば、僕にも出来るだけの事をする義務がある筈だ」
「しかし!」
「もう決めたんだ」
 見かけの弱々しさと違い、そこには確かに王族特有の威厳めいた雰囲気がある。近衛の騎士でもあり、幼馴染みの妖精の少年の言にも、決して揺るぎない意思がそこにはあった。
 さすがにハッキリと見せられれば彼も何も言えずに、ただ小さく溜息をつくしかない。
 王子はそのまま、生徒会の面々の前に一歩進み出た。
「‥‥あの時、助けていただいて本当に感謝しています。あなた方のお力がなければ、きっと僕は助からなかったでしょう。その上で、どうかもう一度だけ力をお貸し下さい」
 そして、彼は父である妖精王から聞かされたギャリー・ジャックの秘密を語る。
 『ゴグマゴクの丘』に組まれた石造りの祭壇。そこに巣食う多くのゴグマゴクの霊――それがギャリー・ジャックの先祖達であり、彼に力を与えるモノでもある、と。
「じゃあヤツは‥‥決して死なないんじゃ?」
 少し青ざめた顔のガラハッド・ペレス。
 石版に記された『不死身』とはこの事だったのか、納得すると同時に空恐ろしさも覚える。いったいどれ程の霊がそこの存在しているのだろう。
「だからまず、その祭壇を破壊する事が先決なんです。祭壇さえ壊してしまえば、霊も散り散りになるはずだから」
 そこで一旦言葉を切ると、王子は真剣な表情で集まった人間達と対峙した。
「僕と一緒に――祭壇破壊の任に同行をお願いします」
「俺からもお願いする。‥‥王子は、言い出したら聞かない性格だからな」
 二人の妖精が頭を下げる。
 その言動を見て、ガラハッドが生徒会の人たちに視線を移せば、すでに引き受ける気満々の表情をした面々がいた。
 それを見た彼は、ニッと確信めいた笑みを浮かべる。
「騎士たる者、困ってる人たちを見捨てるべからずってな。いいぜ、一緒に行ってやるよ!」
 彼の発した一言。
 その瞬間、王子の張り詰めていた緊張が僅かに緩んだ、気がした。

●今回の参加者

 ea2767 ニック・ウォルフ(27歳・♂・レンジャー・パラ・イギリス王国)
 ea5382 リューズ・ウォルフ(24歳・♀・バード・パラ・イギリス王国)
 ea7435 システィーナ・ヴィント(22歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea9937 ユーシス・オルセット(22歳・♂・ナイト・人間・神聖ローマ帝国)
 eb0379 ガブリエル・シヴァレイド(26歳・♀・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 eb0990 イシュメイル・レクベル(22歳・♂・ファイター・人間・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

●続く暗闇の路
 ランタンを翳す手を正面に向け、ニック・ウォルフ(ea2767)は周囲の警戒を解く事無く先に進む。
「なんだかこういうトコ通るの、すごくドキドキするよね」
 陽気に鼻歌でも歌いそうな彼の持つ雰囲気は、緊張に張り詰めがちな空気をやんわりと解す。勿論、何時何が起きてもいいように極力の注意は払っていた。
 長年使われることのなかった洞窟は、あちこちに風化の跡が見られた。すえた匂いと立ち込める埃が相まって、思わず顔を顰めたりもした。
「何か、いるかな?」
「‥‥大丈夫。ニック一人なら怪我しても私が面倒見るから」
 ニックの呟きに、リューズ・ウォルフ(ea5382)がさらりと言い返した。
「リ、リューズ‥‥」
「なに?」
 言葉遣いは淡々としたものだったが、聞き返した途端返された柔らかい笑みに、ニックはそれ以上何も言えなくなってしまった。
 そのまますっと手を繋ぐリューズに対し、微かに頬を染めるニック。
 そんな和やかな雰囲気の中、システィーナ・ヴィント(ea7435)が祭壇で待ち構える敵について妖精の王子に確認していた。
「ねえ、やっぱり今回もアレがいると思うんだよね」
 アレとは、軟禁していた王子を見張っていたウィル・オ・ザ・ウィスプのことだ。今回の妖精王国関連の事件で多くの妖精が関わっているだけあって、その可能性は高い。
「おそらくいるだろうな」
 ユーシス・オルセット(ea9937)が同意し、他の仲間もその可能性を肯定する。
「それに‥‥多分、あのナイトメアも‥‥」
 以前遭遇した黒い馬の形をした敵を思い出す。
 その名を告げた途端、王子の身が思わず固まる。隣にいた妖精騎士の少年は、腰の剣の柄をギュッと握り締める。
「‥‥今度は不覚は取らん」
 一瞬走った緊張。
「ナイトメアは一度退治したことあるよ。あいつらは悪夢を見せたりするから、その辺に気をつければいいんだよね」
 それを解すようガブリエル・シヴァレイド(eb0379)が覚えている情報を仲間に話す。それは知識でなくあくまでも体験談としてだったが、それでも少しは役に立てることは出来るだろう。
 当然、ナイトメアだけでなくウィル・オ・ザ・ウィスプに関しても彼らは話し合った。
「やっぱりなんといっても帯電してるってことだよね。倒す場合は、遠距離攻撃にした方がいいよ」
「そうなんだ。じゃあ、矢で対応しないとダメだね」
 システィーナの説明に、ニックが携帯品の中にある矢をじっと見た。
 その中に混じってある銀の矢が、ランタンの明かりに照らされて何度か光る。
「はぁ‥‥これも使うのかな‥‥」
 仕方ないとはいえ、ちょっとだけ涙声になるニックだった。
 そして。
「みんな、出口が見えてきたよ!」
 妖精王子の案内の下、松明を掲げたイシュメイル・レクベル(eb0990)の声が洞窟内に響く。
 差し込める光の向こう。不気味な音色が聞こえてきて、彼らは一気に緊張を高めた。

●祭壇を守る影
 すでにそこは、戦闘の真っ只中だった。
 祭壇の周辺に配置されていたモンスター達は、先行した仲間達によってその多くを誘き出されていた。肝心のギャリー・ジャックもまた、他の者達が攻撃を仕掛けている。
 今、祭壇の周囲にはウィル・オ・ザ・ウィスプしか見当たらない。
「いまのうちに」
 イシュメイルが、手にしていたダークをおもむろに地面へ突き立てた。軽く目を閉じて静かに祈りを捧げる。
 そして――待つこと、五分。
 やがて短剣を中心とした目に見えない結界が張られると、それを合図に彼らは祭壇へ突入した。
「まずは一気にいくよ!」
 アイスブリザードを唱えるガブリエル。
 結界の影響でエレメントの類はその動きを鈍らせていた。逃げる間もなく、吹雪の中に身を晒していく。
 更に追い討ちをかけるように、ニックの放った矢がウィスプたちに突き刺さっていく。
「よーし、この調子でいくからね」
「あんまり調子に乗ってると‥‥怪我するよ」
 勢いついて前に出そうな彼を、リューズがうまく抑えていた。戦闘で手伝えない分、なるべく怪我人が出ないようにするのが今回の自分の役目と考えているようだ。
「これなら行けるかな。ユーシス、ガラハッドくん、援護お願い!」
 見張りの精霊達を仲間に任せ、システィーナは王子達とともに祭壇の前へと辿り着いた。メイスをその手に持ち、彼女はしっかりと身構える。
 同じく、王子達の姿もそこにはあった。彼らもまた自らの手で祭壇を壊そうと、各々の武器を手にしていた。
「それじゃ、いっくよー!」
 渾身の力を込めてメイスを振り上げる。
 その時、不意に視界の端に入った影にユーシスが飛び出した。
「システィーナ、危ないッ!?」
「え?」
 ハッと見上げるシスティーナ。頭上から振り下ろされるような蹄に思わず身が固まる。
 だが、当たる直前でユーシスとガラハッドが庇ったおかげで、彼女自身に直接の被害はなかった。
「ぐっ!」
「うわぁっ」
 むしろ吹き飛ばされた二人に当たる形になってしまった。
「ユーシス、ガラハッドくん! 大丈夫?」
「ああ、なんとか。だが‥‥」
 僅かに血の滲んだ口元を、ガラハッドは平気な顔をして甲で拭う。
「どうやらあいつをなんとかしないと駄目みたいだね」
「だな」
 いつになく好戦的な目のユーシス。どうやらシスティーナに危害を加えられたことが、ユーシスにとっては少し腹に据えかねることだったようだ。
 そんな彼の言葉に、ガラハッドもまた同じ表情で頷き返す。
「――これ以上、貴様らの好きにはさせん‥‥」
 静かに響くナイトメアの声。
 対峙する両者の均衡は、意外な方向から破られる事となる。

●明けない夜はない
「僕を忘れてもらっちゃ困るよ!」
 いつの間にか背後に回りこんだイシュメイルの声。
「なに!?」
 手にしたフレイルがナイトメア目掛けて振り下ろされる。急襲に慌てた敵は、辛うじて避けたもののその身体のバランスを崩した。
 その隙にユーシスが一気に間合いを詰めた。機敏性より防御力を重視した今回の彼の装備では、こうして近接していた方が何かと都合がいい。突き出したスピアの刃が、相手の馬身に突き刺さる。
「ぐっ、貴様ら」
「ここは任せて、システィーナや王子達は早く祭壇を!」
 離れた場所では、ギャリー・ジャックを相手に奮戦する仲間がいる筈。
 彼らのためにも早く祭壇を壊すより手はない。
「で、でも」
「いいから早く行け!」
 僅かに躊躇するシスティーナを、ガラハッドが叱責するように叫ぶ。それを契機に彼女は、ようやく祭壇へ向かった。
「悪いね、付き合わせて」
「構わねぇよ」
 お互い苦笑で顔を見合わせる二人。
「僕も頑張りますよ!」
 イシュメイルも声を合わせ、三人はナイトメアを取囲むように構える。
 だが。
「たった三人で止められるかッ!」
 それでもシスティーナを追おうとする漆黒の馬身。
「うわっ」
 シールドでその威力を受け止めるも、その衝撃が逃がせず後ろへ吹き飛ばされるユーシス。
 フレイルを振り回して追いかけようとするイシュメイルだったが、さすがに正攻法の攻撃ではうまく捉える事が出来ない。
「くそ、今度こそ‥‥っ、わぁ!」
 渾身の力を込めようとするより早く、敵の蹄が彼の身体を蹴り上げた。衝撃が逃がせずにその小さな身体が宙に舞う。
 思わずハッと振り返るシスティーナ。
 敵の攻撃が想像以上に強い。このまま駆け寄りたい衝動にかられる。自分の戦力も加われば、まだなんとか対抗出来るはずだ。
 そう思って一歩踏み出そうとした、瞬間。
「来るな、システィーナ!」
 叫んだのはユーシス。懸命に立ち上がり、なおもナイトメアの前に立ち塞がる。それは吹き飛ばされたイシュメイルも、ガラハッドも同じだった。
 誰もが敵を食い止めることを己の役目として胸に刻んでいる。
「システィーナさん達は早く祭壇をッ」
「で、でも‥‥」
「いいから‥‥ここは、任せろ」
 辛うじて立つ彼らの姿に、ナイトメアの冷笑が夜の闇にこだまする。
「愚かな。その程度の力で‥‥ならば悪夢の中を彷徨うがいい」
 視線がゆっくりと三人を巡る。
 その時。
「そこまでだよ――月の光よ」
 突如、響いた声。顔を向けた先には、ガブリエルがスクロールを広げて念じているところだった。
 直後、月光が夜の闇を突き抜けてナイトメアに衝突する。バランスを崩したところへ、銀の矢がその身を貫いた。
「――あと二人忘れてるよ」
「‥‥ニック?」
「あ、いや、三人、だよ」
 リューズに睨まれて、あたふたと慌てて訂正するニック。そんな彼を放っておき、彼女は怪我人の元へ走った。
「貴様ら‥‥」
「残すは、あなただけだね」
「笑止! たかだか三人増えたところで」
 言うなり、攻撃に転じようとしたナイトメアだったが、それより早くユーシスの銀の槍が動くほうが早かった。いや、むしろ相手の動きが遅くなったというべきか。
「‥‥どうやら形勢逆転だね」
「な、何故」
 視線を巡る先で彼が見つけたのは、スクロールを広げるガブリエルの姿。
「あなたの動き、少し抑えさせてもらったよ」
 にこりと笑みを浮かべる。
 僅かに目を見開く。
 その隙を逃さずにイシュメイルがフレイルを振り回した。
「いっくぞー!」
 リューズに手当てされたとはいえまだ痛みはある。
 だが、それを懸命に堪えたままの彼の攻撃は、しっかりした手応えをその腕に伝えた。ガクリと跪くと、そのまま地面へと崩れ落ちていく。
「こ、こんな‥‥」
「侮ったほうが負けだよ」
 本来システィーナに手渡す筈だった聖水。祭壇がまだ壊されない今、彼女はまだ祭壇の前にいて。
 だから、ニックは自分の手でその中身全てをナイトメアに向かって振りかけた。
 と、ほぼ同時に。
 祭壇の崩壊する音が周囲に響き渡った。間を置かずにもくもくと立ち込める砂埃の煙。
 やがて、倒れたナイトメアの身体が消えていくと、煙の方も次第に薄れていき‥‥。
「システィーナ!」
 ユーシスの呼ぶ声に、壊れた祭壇の前で得意げに笑うシスティーナ。その両肩には、妖精の王子と騎士がちょこんと座っている。
「やったよ」
 その刹那。
 聞こえてきたのは、激しい断末魔の声。それは、おそらく何れかの冒険者がギャリー・ジャックを倒したという証。
 瞬間、彼らはいっせいに肩の力を抜いたのだった。