【オクスフォード復興】慰労支援
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■ショートシナリオ
担当:葉月十一
対応レベル:2〜6lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 76 C
参加人数:5人
サポート参加人数:5人
冒険期間:10月02日〜10月10日
リプレイ公開日:2005年10月13日
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●オープニング
オクスフォード候の乱より数週間。
いまだあちこちにその爪跡は残るものの、街はようやくかつての落ち着きを取り戻しつつあった。嘆いてばかりだった住人達も、ようやく自らの手で立ち上がろうとしていた。
そう。
例え領主が倒れようと、どれだけ悲惨な戦乱に巻き込まれようと、自分達はここで生きていかなければならないと気付いたから。
崩れた瓦礫の撤去。
亡くなった多くの死者の弔い。
助かったとはいえ少なくない負傷者達の治療。
やるべき事はたくさんあり、動ける者は率先して手伝いを申し出た。男も女も、若者も年寄りも、大人も子供でさえ。
それでもまだ人手は足りない。誰もがそう感じているのだ。
更に付け加えるならば、もう一つ厄介な問題も抱えていた。戦後のどさくさに紛れた追いはぎや野盗である。
戦時中、集められた傭兵達が主を失くして職を解かれたことが原因の一端にある。勿論彼らだけでなく、一般の人間もまた、戦乱で荒んだ心により簡単に悪事へと走ってしまったようだ。
当然、そのような輩には騎士団が対処したし、そのための警備も疎かにした訳ではない。
だが――。
「‥‥どうしても手が足りないのです」
キャメロットのギルドへと訪れたのは、以前にも依頼を持ってきた女性だった。溜息とともに、少しだけ疲れた顔を伏せがちにする。
「確かアリア、とかいう名だったな」
「はい」
受付の男が名前を確認すると、彼女は静かに頷いた。
「それで、今回は?」
「オクスフォードの復興は、私達街の人間がしなければいけないことは解っています。ですが、今は本当に人手が足りないのです。騎士団の方々もよくして下さいますが、なにぶん先の戦乱で‥‥」
そこまで口にして、アリアは僅かに言葉を濁した。
その意図は受付の男にも理解出来る。騎士団ともなれば、おそらくこの前の戦で真っ先に先頭に立ったのだろう。ならば戦死した者の数も多い筈だ。
結果、今の騎士団には十分な人数がいないということだろう。
「冒険者の皆様の力をどうかお貸しいただけないでしょうか? 少しでも早く街が元に戻れば、きっと荒んでしまった方々も元に戻っていただけると思うのです」
そう言って差し出した布袋には、おそらく今回の報酬が入っているのだろう。きっと必死で集めてきたに違いない。
それを受け取っていいものかどうか一瞬迷う。
が、それを決めるのは自分ではないと悟る。
「とりあえずこれは預かっておく。依頼の方もきちんと張り出しておくぜ」
「ありがとうございます」
男の言葉に、アリアは大きく頭を下げた。
●リプレイ本文
●一握りの善意
「募金を集めるというはどうでしょう?」
ギルドに集まったメンバーを前にケイ・ヴォーン(ea5210)が口にした一つの案。それは、今後も継続的にオクスフォードの復興を支援していこうという彼の気持ちだった。
今回自分達が訪れ、手伝いをしたところでそれは一時凌ぎにしかならない。
それならば、僅かながらでも長く続けられる募金箱をキャメロットのギルドや酒場に設置しておけば、少なからず助けにはなるはずだ。
「どうでしょう、アリアさん」
「それは大変ありがたいのですが‥‥大丈夫なのですか? 仮にも私達の街は、アーサー王に反旗を翻してしまった領主ですのに」
「心配ないですよ」
シルリィ・フローベル(eb3468)が肩にそっと手を置く。
気遣うような笑みを浮かべ、彼女が静かに差し出したのは事前の呼びかけに集められた僅かながらの支援金。
「これはみんなの気持ち、みんな応援しています。これを有効に使い、立派に復興して下さい」
重みのある布袋。
それを確認するように手で持った途端、アリアは感極まった様子で思わず泣き出していた。
「あ‥‥ありが、とう‥‥ございます‥‥」
それでも涙声で懸命にお礼を述べると、深々とお辞儀をした。
「今後、どこまで続くか‥‥どれだけ集まるかわからないけど、出来るだけ長く続けてみるね」
励ますシルリィの言葉。
ケイも同じような科白で彼女を励ました。
「それでは、そろそろ出発しましょうか」
最後にそう締めて、彼らはオクスフォードへ向けて旅立った。
●森の散策
昼間とはいえ、生い茂る森はどこか薄暗い。そんな中を注意深く周囲を観察しながら歩く三つの影。
「この季節なら秋の味覚が手に入ると思うんだけどな」
自身の持つ植物の知識を総動員して、シルリィは薬草等の口に出来るものを集めている。
彼女に教えてもらいながら、フォーレ・ネーヴ(eb2093)が自分で覚えると同時にそれらの植物を籠に入れていた。僅かに鼻につく匂いは、ペパーミントの香りだ。
「いい香り〜」
「これ、ペパーミントって言うんだよ。知り合いから教えてもらったんだ」
あまり枯れることのない強く、どんどんと増えて成長していく植物。オクスフォードの住人に、そんなふうに頑張ってもらいたいという願いを込めて‥‥。
シルリィがキャメロットを旅立つ前に友人に教わったという説明を、フォーレは噛み締めるように聞き入った。
「そうだね。残る傷跡から早く回復して、また元の街並みに戻れるといいよね」
「こないなもんでいいやろうか?」
指示されるまま薬草摘みをしていた藤村凪(eb3310)の両手には、抱えられる量ギリギリの薬草があった。
街に寄った際、確認出来ただけでも戦災で困っていた人は大勢いた。これだけでもまだ足りないくらいだが、出来る事からやるしかない、と凪は考えている。
「二人よりも三人、まずはここからや」
他の二人より土地勘のある彼女は、迷うことなくどんどんと先へ進む。
その足が、とある場所でぴたりと止まった。
「やっぱり出たね」
「そうやな」
フォーレと凪がお互いに目配せする。
「シルリィはちと下がっといてや」
素早く小太刀を構えた凪。その視線が捉えたのは、下顎から突き出した長い牙が特徴のオークの姿。
おそらく餌を求めて街の近くまで現れたのだろう。
「人様のもん、盗もうっちゅうアホなモンスターには、一発お見舞いしてやらなぁな」
「同感だね。一気にいくよ」
と、そこまで口にしたところで、フォーレはある事に気付いた。
「あ、あれ?」
「どないしたん?」
「‥‥あ、あはは‥‥武器、忘れちゃった」
「なんやてぇ!?」
思わず引き攣る笑み。そんなフォーレに目が点になる凪。
が、今更四の五の言うわけにいかない。既にモンスターと遭遇してしまってるのだから。
「仕方ないや。ウチ、一人で頑張るわ。援護だけは頼むでぇ」
「う、うん」
仕方なくフォーレは、スリング用の石を手に構える。命中率や威力は心許無いが、無いよりはマシだ。
「ほな、行くでぇ!」
踏み出した凪は、掛け声と同時に最初の一手を繰り出した。
●日常風景
「そこで何をしているのですか?」
崩れた家屋の隅でこそこそとする男を見つけ、リースフィア・エルスリード(eb2745)は毅然とした態度で詰問した。
見かけ上はお淑やかなお嬢様然としているとはいえ、彼女も立派な冒険者。不審な動きをする者には、態度もまた厳しくなる。
「‥‥い、いえ、なんでもないッスよ」
薄ら笑いを浮かべ、男はぺこぺこ頭を下げながらその場を去ろうとする。
挙動不審、と言えなくもない。
だが、相手が下手に出ている以上、これ以上の追求は難しい。へたに刺激してしまい、冒険者への不信感が街の人に伝わってしまえば、折角の支援も次から厳しくなってしまう。
「そうですか。その辺は危ないですから、気をつけてください」
「へえ」
そう言って立ち去る男の後姿を、リースフィアは注意深く見つめていた。
「今夜の警戒、少し気を付けた方がいいですね」
改めて気を引き締める彼女の耳に、ふと綺麗な音色が流れてくる。
視線を向けたその先では、シルリィが集めた子供達相手に竪琴を使った弾き語りを行っていた。そして、彼女の肩に乗ったシフールのケイもまた、手にしたオカリナで伴奏をしていた。
「――今から語る物語は、夢と希望の物語‥‥夜明けを祈る人々の歌‥‥」
これから向かう未来のために、少しでも希望を持てるように。
ささくれ立った気持ちを和ませ、心にゆとりを持たせるように。
時折、調子に乗ったケイが熱い演奏で脱線するも、シルリィが軽く諌めることで子供達の間に軽く笑いが起こったりもした。
そんな心和む風景に、周囲の大人達も時々足を止めては眺め、険しく苦悩に彩られていた顔も徐々にだが落ち着いたものへ変わっていった。
そして。
「さあさ、食事の用意が出来たぇ〜」
炊き出しの準備を手伝っていた凪の声がいっせいに響く。
わぁーっと群がる子供達。
「こらこら、そんなに慌てんでもちゃんと人数分あるんや。順番に並びぃな」
優しく諭し、他の冒険者達も手伝って一列に並ばせる。意外にも素直に言うことを聞いてくれて、凪はなんとなく嬉しくなった。
暫くの間の逗留。
いずれは去っていく余所者である自分達が、少しでも彼らの輪に入れたような気がして。
●理由
夜。
昼間は復興による賑わいのあった街も、日が暮れてしまえば人々は作業の手を止め、それぞれの寝床へと帰っていく。エールハウスやユニバーシティカレッジ等、多少明かりのついている場所もあるが、多くの人たちは明日のために、と休息を取ることを選択する。
そして――誰もが寝静まった真夜中。
月明かりを避けるようにして動くいくつかの影があった。
「‥‥騎士の皆さん、というワケではないようですね」
物陰から遠目で確認するリースフィア。
事前の連絡により、オクスフォード騎士団と冒険者達とで今夜見廻りを行う範囲を明確に分けていた。余程のことがない限り、彼らがやってくることはないだろう。
それに。
「なんやみすぼらしい格好やしな」
離れていても判別のつくぼろ布のような服に、凪は少しだけ眉を顰める。二人の視線が追う中、男達はとある教会の前までやってきた。
そこでなにやら一人の男が、他の連中に対して指示を出している。
「‥‥どうやら、食料を狙ってるみたいだよ」
「決まり、ですね」
フォーレが聞き取った言葉に、彼らは互いの顔を見合わせて小さく頷く。
そして、ケイが一足早く飛び出した。
「――西の方向、先頭の男へ白銀の矢を!」
月の煌きが鋭い矢となり、指示を出していた男へと直撃する。
不意を突かれた彼らは慌てて振り向いたが、リースフィアの振り下ろしたレイピアの切っ先がその行く手を遮る。その隙に冒険者達の包囲は完成した。
「もう逃げられへん」
小太刀の刃が照らす月光を僅かに反射させる。どこか冴え冴えとした鋭さに、男達は誰もが身震いしてその場に立ち尽くした。
その時、射し込んだ月光に照らされた顔を見て、リースフィアは思わずあっ、と声を上げた。
「あなたは昼間の‥‥」
攻撃を受けて倒れこんだ男に彼女は見覚えがあった。昼間、瓦礫となった家屋をなにやら探っていた者だ。
彼女の視線を受け、男は慌てて俯いた。
「いったい何のためにこんなことを?」
「この教会には、多くの子供達がいます。そんな彼らの大事な食料を‥‥」
そこまでケイが言いかけた途端、男はキツイ視線を上げて彼らを睨んだ。
「子供ならこっちにも大勢いるさ! 親が亡くなったヤツラがたくさんな!」
そこまで言われて、凪はよくよく彼らを見る。顔を隠してあるからわからなかったが、リーダー格の男を除けばどれも体格が大人に比べて一回り小さかった。
「そやけど、ならなんで保護を求めへんかったん?」
「求められるかよ。俺も含めたこいつらの親はな‥‥先の戦争で街をメチャクチャにしちまったんだしな」
その言葉に誰もがはっとなった。
確かに、今回の戦争で騎士達も含め、領主に従い反旗を翻した有志の傭兵などは多くいるだろう。おそらく目の前の男もそんな一人だった筈だ。
だが、戦争が終わり、雇い主が断罪されてしまえば、後に残るのは‥‥。
「お願い、おじさんを責めないで」
「父さん達がいなくなって、どうしていいかわからなかったオレらをずっと守ってくれてたんだ!」
それまで怯えて黙していた他の仲間――少年達が、次々とリーダー格の男を庇う言葉を口にする。
そのことからも、彼が少年達の面倒をどれだけ見ていたか解ろうというものだ。
シルリィが一歩前に出る。一瞬緊張し、彼らは怪我を負った男を庇うように間に立つ。
それを見て、彼女はにっこりと微笑んだ。
「安心して。誰も彼を罰しないよ」
そして、今一度男の方に顔を向ける。
「戦争はもう終わったんだよ。そりゃ、少しは蟠りが残ったかもしれないけど、今はもうそんなこと関係なくみんなでこの街を元に戻そうとしてるんだ」
「そやそや。なら、敵も味方も関係あらへん。この街で過ごすんなら、みんな同じや」
凪の言葉を受け、宙に飛ぶケイがその後を続ける。
「親を亡くしてしまった子供達は、この教会にもいます。どうか、奪い合うのではなく、皆さん一緒に仲良くしていきましょう」
「‥‥わかった」
諭され、男は小さく頷いた。
そんな彼らの光景を、夜空に浮かぶ月はいつまでも静かに眺めている。
その後。
依頼人であるアリアの協力もあって、少年達は教会へと引き取られた。男の処遇については騎士団に一任されたが、少年達の嘆願もあって復興を手伝う事で放免される形となった。
「これで少しは復興が早まるといいね」
フォーレの呟きに、冒険者の誰もがそうであればいいと心から願う。