【子供の領分】続・お子様先生ナギ

■ショートシナリオ


担当:葉月十一

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月10日〜10月15日

リプレイ公開日:2005年10月24日

●オープニング

 学園都市ケンブリッジ。
 多くの少年少女が希望ある未来を夢見て、何かを学ぼうと集まってくる地である。その学舎の数は数十とも言われ、集まる者達はそれこそ種族や階級も様々だ。
 それ故に。
 人と人が衝突するトラブルもまた絶える事がなく。
 結果――生徒達の手による解決を求め、ケンブリッジギルド『クエストリガー』が設立されたのであった。

●体験入学
「――え? 体験入学?」
「うむ。妖精王国の事件もひと段落着いたことだし、例年通り受け入れようと思ってな」
 職員室に呼び出されたナギは、教師から言われた言葉を反芻した。
 話によれば、毎年この時期のマジカルシードでは、幼い子供達を集めて体験入学なるものを行っているようだ。
 勿論額面どおりの堅苦しいものではなく、単に学校の見学や授業風景を見せて、子供達に魔法や剣技などに興味を持ってもらう為らしい。
「本来なら、もう少し早めに行う筈だったのだが、例の妖精王国の件があっただろう? さすがにそんな時期に幼い子供らを預かるわけにはいかなくてな。延期による延期を重ねていたのだが‥‥何しろまもなくハロウィン祭も始まる時期だ」
 忙しくなるこの時期、さすがに他に手を分けることが難しくなる。
 そこで白羽の矢を立てたのが、ナギというわけだ。
「でも、どうしてオレ‥‥じゃなかった、僕なんですか?」
「成績上位者は大概なんらかの役職に付いていてね。それ以外となると、安心して任せられる人物を君以外に私は知らない」
 クスリ、と笑みを浮かべる教師。
 そこまで言われるとさすがのナギにも照れるモノがあった。
 とはいえ、こうしてわざわざ教師に頼まれたのだ。それも名指し付きで。ならば、それに応えるのが正しい魔法使いの在り方だ、と彼は考えた。
「解りました。お引き受けします」
「おお、そうか。引き受けてくれるか」
「あの‥‥それで、他の人に手伝ってもらっちゃダメですか?」
「勿論構わんさ。君が信頼出来ると思える人達ならな」
 そう言って、教師は今回の体験入学してくるメンバーのリストを手渡した。
「ああ、そうだ。くれぐれも危ない真似だけはさせないでくれよ」
 最後に念を押す教師に対し、ナギは振り向きざまニッと笑う。
「――大丈夫だって。オレはアルと違うんだからな!」
 本人が聞いたら激怒しそうな事をサラリと言って、そのまま職員室を後にした。

 翌日。
 『クエストリガー』の掲示板に一枚の依頼書が張り出された。

●今回の参加者

 ea3972 ソフィア・ファーリーフ(24歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea7435 システィーナ・ヴィント(22歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea9520 エリス・フェールディン(34歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ea9937 ユーシス・オルセット(22歳・♂・ナイト・人間・神聖ローマ帝国)
 eb2292 ジェシュファ・フォース・ロッズ(17歳・♂・ウィザード・エルフ・ロシア王国)

●リプレイ本文

●ご挨拶
「さあ皆さん、全員集まりましたか?」
「はぁーい!」
 エリス・フェールディン(ea9520)が手を叩いて注目させると、その場にいた子供達は元気よく返事した。彼らの視線がいっせいに壇上へ注目する。
 普段から慣れているエリスはともかく、あまり年齢の変わらないナギはさすがに緊張しているようだ。
 そんないつもとは違った様子を見せる彼に、同じく壇上に立っていたソフィア・ファーリーフ(ea3972)はクスリと笑みを零した。
「今日は、ここケンブリッジの体験入学に来てくれて、本当にありがとうございます。きっと皆さんの興味あるものがここには沢山あるから、ゆっくりと見学して下さいね」
 エリスの説明を、誰もが爛々と目を輝かせて聞いている。
 時々、そわそわする者もいたりしたが、概ね真剣だ。この分なら悪戯もあまりなさそうだ。
 一人一人の顔を確認しながら、そんな感想をエリスは持った。
 とはいえ、念のためにとソフィアの方へ目配せする。その意を受けて、ソフィアは今回の体験入学に際しての注意事項を説明した。
「――くれぐれも悪戯したりして、先生を困らせないでね。悪い子には、お昼ご飯が野菜ばかりの特別メニューになっちゃいますよ」
「ふふっ、くれぐれも大人しくしましょうね」
 二人の意味深な笑みに、子供達からはえーだの、やだーだのといったブーイングが上がった。
 が、それをあっさり黙殺してから、今回の引率者であるナギを紹介する。
「さっ、ナギくん。ご挨拶よ」
「う、うん‥‥えー、みんな。本日みんなを案内するナギウス・ウィンフィールドです。今日は色々な事を体験するだろうけど、しっかりと『学ぶ楽しさ』ってのを満喫してね」
 幾分緊張した面持ちでそう告げたナギ。
 やがて、どこからかともなく拍手が流れ始め、最後には盛大な歓迎の調べとなった。

●図書館――妖精王国のおさらい
「ナギ先輩! 先生になるんだね、凄いね!」
 子供達を先導するナギの元へ駆け寄ったシスティーナ・ヴィント(ea7435)は、開口一番にそう口にした。驚きの中に尊敬の眼差しを受け、思わず照れて頬を紅くする。
「そ、そんなことないさ」
「ううん、やっぱ凄いよ。私もこの子達の先輩として一緒にお手伝いするね」
 そして、辿り着いた場所は静寂に満ちた図書館。
 ざわざわし始めた子供達を、ソフィア達は静かにするよう説明する。中には勝手に本を出そうとする子供もいたが、エリスがすぐに見つけて元に戻させた。
「ダメですよ。これから色々とお話があるのですから、きちんと聞いておかないと。そもそも自然の摂理の中で人間は‥‥」
「エリスさん、エリスさん。今日はそのくらいで」
 僅かな注意から何故か錬金術の定理を説明し始めた彼女を、ソフィアが苦笑を浮かべて慌てて食い止めた。
 そんな中で始まった妖精王国の物語。
「――最初は、ちょっとしたきっかけだったの。ディナ・シーという妖精さんが、このケンブリッジに助けを求めて来たんだよね」
 相次ぐ悪戯に調査へ乗り出した生徒会。
 図書館で目撃された青い幽霊に導かれて見つけた石版。そこに記されていたのは、過去に妖精王国で起きた事件の概要。
 結果、解ったのは復讐に燃えるギャリー・ジャックの手による王国の転覆劇。
「捕らわれてしまった王家の方々を救出するべく、僕達は敵のモンスターと戦ったんだよ。こんな感じのモンスター――ナイトメアっていうんだけどな」
 ユーシス・オルセット(ea9937)が見せたモンスターの絵に、子供達は少しビクッと震えた。中には目を輝かせて興味を持つ子もいたが。
「このモンスターはね、悪夢を見せて襲ってくるんだよ」
「こっちのウィル・オ・ザ・ウィスプというのは、結構厄介でね。電気を帯びてるから直接の攻撃はこっちもダメージを受けるんだ。だから、魔法のような攻撃がないと危なかったね」
 交互に説明する二人に向ける子供達の尊敬の眼差し。
 どこかくすぐったい感じを覚えながらも、話はいよいよ佳境へ向かう。
 ギャリー・ジャックの秘密。祭壇の破壊。取り返した筈のベルがまたしても奪われてしまったこと。
「――石版の破壊を企む連中もいたぜ。卑怯にも人質を取る、なんてやり方をしてな。お前達もこのケンブリッジで学ぶ以上、そんな卑劣な人間になるんじゃないぞ」
「うん!」
 ナギが最後にそう纏めると、子供達からいっせいに元気のいい返事がきた。
 そこへ、子供達の一人が声を上げた。
「ねえねえ、戦ってるトコ見せてよ!」
「え?」
「わー見たーい♪」
 一人を皮切りに、彼らは口々に見たい見たいと連呼し始めた。
「え、えっと‥‥」
「あはは、どーするナギ先輩。ほら、みんな期待してるよー?」
 たじろぐナギに、にんまりと笑みを浮かべて近寄るシスティーナ。その横でユーシスが無言のまま十字を切った。
 彼の視線が明白に告げる――ご愁傷様、と。
「き、今日は、時間もないのでこの次にします!」
 途端、盛大なブーイングが上がった事は言うまでもない。

●食堂――ケンブリッジで昼食を
 お昼前からジェシュファ・フォース・ロッズ(eb2292)がじっくりコトコト煮込んでいた野菜と薬草のスープが子供達の前に配られた。
「さ、身体がぽかぽか温まるからね〜しっかり残さず食べるんだよ」
 妙に張り切るジェシュファだが、当然その理由はある。
 午後一番の見学先が、自分が取り仕切る部室への案内だからだ。子供達を前にして――自分も子供っぽい外見をしていることは気にせず――どこか得意気な態度は、傍から見ていても微笑ましい姿だった。
「それでは皆さん。食べ物は残さず食べるんですよー。みんなは早くおっきくなりたいですよね?」
「おっきくなりたーい♪」
「はい、好き嫌いなく食べる子は、きっとおっきくなりますよ。私は好き嫌いがあったからこの身長なんですよー」
 壇上でのソフィアの演説にドッと笑いが沸く。
 しばらく笑いが絶えなかったが、ようやくそれも収まってきた頃。
「それじゃあみんな、いただきます」
「いただきまーす」
 ナギの合図と同時に、子供達は思い思いにお昼御飯を食べ始めた。
「‥‥そういえば、ジェシュ君。今日はどうしてスープにしたの?」
「だってこれからすっごく寒くなるからね」
「え‥‥?」
 問い返したナギに、ジェシュファはにんまりとした笑みだけを浮かべた。

●部活動――氷点下の楽しさ
「みんな、しっかりと防寒着を着込まないと風邪引くからね〜」
 魔法を唱え終えたジェシュファは、どこかのんびりした口調。
 が、誰もそんな彼に突っ込む事はなかった。というか、さすがに口を開くどころではなかったのだ。
「ちょ、ちょっ、ちょっとジェシュ君!」
 意を決して突っ込んだナギも、次の瞬間歯の根をガチガチと鳴らす。
「ん、な〜に?」
「あ、あのさ‥‥こ、こ、こ、ここって‥‥」
「僕が最近作った『真冬部』って言うんだよ。ほら、その辺に色んな植物が生えてるよね。それってどれもこれも薬草として効果があるものばかりなんだ」
 薬師を目指す彼にとって、自分で薬草を育てるのは必然的な事。
 それ自体は特に悪い事じゃない。むしろ頑張ってる方だろう。
 とはいえ、それ以上にこの部室自体が問題なのであって‥‥。
「あ、あ、あ、あのね‥‥さすがにこの寒さは‥‥」
「システィーナ、こっちに」
「きゃぁ! ちょ、ユーシス! どこ触ってんのよ!」
「‥‥痛い」
 寒さに震えるシスティーナを傍に寄せようとしたユーシスは、彼女から思いっきり平手打ちをくらって落ち込んだ。
「こ、この寒さは‥‥さすがに堪えますわ。ですが、今こそ錬金術をもってこの自然現象を打破するべく私は頑張ります!」
「‥‥エリスさん、ダメです! 起きてください!」
 虚ろな目となったエリスの頬を、ソフィアが夢中でバシバシ叩く。かくいう彼女の指先も悴んでいて、あまり力が入らなかった。
「本当はもう少し沢山揃えたかったんだけどね。さすがにロシアから持ってくるのは困難だったみたい」
「い、いや、それはいいからさ。早く子供達を外へ出そうよ! ほら、みんなしっかりして、眠っちゃダメだよ」
 薬草の中にロシアの植物が多少混じっている事から、ジェシュファは定期的にフリーズフィールドを唱えているのだろう。とはいえ、ジェシュファのフリーズフィールドは1時間しか保たないから、常に掛かっているという訳にはいかないようだ。
 ナギの声に導かれるまま、子供達は部室の外へと脱出する。
「うーん、この寒さが楽しいのになぁ〜」
 残されたジェシュファは、冷たい寒気が吹き荒れる中でのほほんと呟いた。

●授業風景――それぞれの教え方
 運動場の片隅で一塊になった子供達の前で、ソフィアが魔法を唱える。すると、傍にあった大樹の枝が生き物のように動き始めた。
 おお、という歓声の中が沸き起こり、彼女もまたご満悦だ。
「もし、みんなが魔法でこんな風に樹に動いてもらえるとしたら、どんなことをしてもらいたい?」
「私、ブランコ〜」
「オレはその樹に登ってみてー!」
「はいはい、順番にね」
 やいのやいのと騒ぐ子供達に、ソフィアは楽しそうに手を貸した。
 この子達が将来魔法使いになったらどんな風になるのか、そんなことを想像しながら。

「ナギ先輩! 私、負けないからねっ!」
「ちょ、ちょっと、システィーナ?!」
「おー頑張れ〜」
 ユーシスとの模擬刀による戦闘を披露していたシスティーナが、何故かナギに向かってきた。思わぬ展開に子供達から歓声が上がる。
 その声援を背に受けて、彼女はますますやる気を出した。
「だ、だから〜」
「ええい、問答無用。いくよ、ナギ先輩!」
「うわっ!」
 剣を鋭く突き入れる。咄嗟に横へ避けたナギは、バランスを崩してお尻の方から転がってしまった。
 途端、子供達の大爆笑。
「えへへ、やりぃ!」
 思わずガッツポーズを決めるシスティーナであった。

「そうそう、その調子。きちんと密封してね」
 エリスの言葉に、容器を持った子供が慎重にその中にある炎を見ている。そして、しばらく経過した後、彼らの見ている目の前で炎は緩やかに消えていった。
「うわーすげぇー」
「ねぇ、なんで〜?」
「それはね、きちんとした自然の摂理からなってますから。火は水や風などなくても消すことが出来るのですよ。錬金術を学べば自ずと理解出来るようになります」
 子供達の疑問に相変わらず錬金術至上主義で応えるエリス。それでも、彼らの尊敬する眼差しの前に、悪い気はしないようだ。

 体験入学の一日は、こうして静かに幕を閉じた。
 今回訪れた子供達が果たして未来のケンブリッジ生徒になるのか、将来魔法使いとして活躍する事が出来るかは、まだ誰にもわからない。
 ただ、今日の出来事の中で受けた感嘆や興味は、彼らの心に深く刻み付けられたことだろう。
「ナギ君、先生お疲れさま〜」
 ジェシュファの労いの言葉に、ナギはあははと少し疲れた笑みを浮かべるだけだった。