あなたしか見えない
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■ショートシナリオ
担当:葉月十一
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:5人
サポート参加人数:1人
冒険期間:11月21日〜11月26日
リプレイ公開日:2005年12月02日
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●オープニング
‥‥とても、とても怖かったの。
いきなり襲ってきた『彼ら』はとても乱暴で、逆らったりしたら本当に殺されると思ったわ。平和だった筈の妖精の王国が、一転して争いの場所に変わったのよ。
連れて行かれたのは薄暗い場所。
寒さと恐怖でいつも震えてたわ。人質だって言ってたけど、いつ気が変わって自分達が殺されるかわからないじゃない。
だから――あの時。
助けが来た、と誰かが言った時、あたし嘘だと思ったのよ。あんな恐ろしいモンスター相手に、一体誰がって。
でも、あの人は本当に助けに来たのよ。
別に自分達の国が危ないワケじゃない、他所の国のことなのに。
困ってる人を見捨ててなんておけない、それだけの理由で。
その人に助け出された時、あたし、運命だって思ったわ。ああ、きっとこの人に会う為に今こんな目に遭ってるんだって。
眩しいほどの金髪に、空のように澄んだ青い瞳。頬にあった傷が、その人の凛々しさをいっそう醸し出していたの。
だから‥‥あたし――。
●見えない想い
「‥‥またか。いったい、なんなんだよ」
寄宿舎に戻ったガラハット・ペレスは、部屋に入るなり嘆息した。
今朝、出ていった時と比べて、物の配置が明らかに移動しているのだ。
机の上に置いてあったペンがベッドの上に。床に脱ぎ捨ててあった寝間着は、整えられてクローゼットの中に。他にも、細々と動かした痕跡が見られる。
最初のうちは気のせいか、と思っていた。
が、さすがに何日も続くのはおかしい。それもここ一週間ずっとだ。
奇妙を通り越して気味の悪さを感じてしまう。加えて、動くだけならまだしも、物が無くなっていたり、花や葉っぱが置いてあったりもするのだ。
「やっぱ、一回『クエストリガー』に相談してみるか。さすがに学校サボって見張るワケにいかないもんな」
もう一度溜息を零し、ガラハットは部屋を後にした。
その頃、妖精王国にて。
「――またか。ったく、あいつどこいったんだ?」
王族の近衛を務める妖精騎士が、自宅に戻るなり困惑の呟きを洩らした。本来、いる筈の妹の姿が見えないことに。
いったい、どこへなにをしに出かけているのか。
平和になったとはいえ、まだまだ出歩くには危ない時勢だというのに。
「しょうがない、探しに行くか」
そうして彼は、あの事件以来日課となってしまった妹探しへと向かった。
●リプレイ本文
●まちぶせる日々
じっと身を潜めること三日。
最初は好奇心から張り切っていたシスティーナ・ヴィント(ea7435)も、ただじっと待つのに限界を感じていた。
(「あーあ、そろそろ来てくれないかなぁ〜」)
身に纏うパラのマントの下で、姿を消したまま彼女は小さく溜息をつく。
ガラハットから依頼内容を聞いた時、乙女のカンからピンときたシスティーナ。折角色々とからかえるかも、と思っていたのに、敵(?)は未だいっこうに姿を見せない。
「‥‥さすがにこれ以上、学校の講義を休むワケにいかないんだけどな」
ある程度の選択の自由がきくとはいえ、やっぱりあまり休むのは少しだけ気が引ける。一応、依頼人であるガラハットにも協力をしてもらってはいるのだが‥‥。
と、そこへ交代のためにセドリック・ナルセス(ea5278)がやってきた。
「やあ、調子はどうですか?」
「あ、セドリックさん。ううん、まだ何も起こらないよ」
「そうですか。では、交代しましょう」
「うん」
システィーナがこっそりと部屋を出て行くのを見送って、セドリックは自分も同じようにパラのマントを被った。軽く念じると、徐々にその姿が見えなくなっていく。
「‥‥それにしても、奇妙なこともあるのですね‥‥」
じっと身を硬くしたまま、彼はぼそりと呟く。
部屋からなくなる私物。時々残される葉や花。
その意味に女性陣――特にシスティーナは、なにやらウキウキとし始めていた。どうやら彼女には、犯人の目的の検討が付いているようだ。
『――ねえガラハットくん、手紙書いてみない?』
『手紙? なんで?』
『うん、ちょっと犯人さんに宛ててね――』
どこか楽しそうだった表情を思い浮かべ、セドリックはますます首を傾げる。
とりあえず言われるまま、部屋の中にあった花を調べてみたのだが、生憎とこの近辺にそれらしい場所は見つからなかった。
そうなると、ケンブリッジ以外の場所から採取された植物になる。
「‥‥さて、いったいどんな相手が犯人なのでしょうか」
どこか好奇に目を輝かせながら、彼はじっと時が過ぎるのを待つ。
「ふう‥‥冷えるな」
季節はすっかり秋から冬に変わりつつある。
防寒服一式に身を包み込んだユーシス・オルセット(ea9937)は、悴む両手に白い息を吹きかけた。
イギリスの冬は早い。おまけに昼間でもその寒さはかなり堪えるのだ。
「まあ、さすがに女性にこの寒さの中、任せる訳にいかないしな」
木陰に身を隠しながら、ガラハットの部屋の窓を見張る。すでに今日で三日になるが、まだ犯人の姿は現れていない。
ガラハットから聞いた話では、だいたい何日か間を置くようだから、そろそろ現れる頃なのだが。
「お待たせ。そろそろ交代時間だよ」
「ッ! お、脅かすな」
背後からイシュメイル・レクベル(eb0990)にこっそり声をかけられ、思わず飛び上がりそうになった。
「ご、ゴメンゴメン。で、様子はどう?」
「‥‥いや、今のところ状況に変わりはない」
「そっか。それにしても怖いよね。いきなり物が無くなったり、花や葉っぱが置いてあるのって」
色恋沙汰に縁のない少年二人。
システィーナ達が騒いでいた意味がまるで解らず、互いに顔を見合わせて首をひねる。
「ねえ、そのロープは?」
イシュメイルに指摘され、ユーシスはバツが悪そうに目を逸らした。
「テレサが押し付けてきたんだよ」
『――犯人って言っても悪い人じゃなさそうだね』
『ああ、そうだな』
先の交代の折、テレサ・ヴァーディグリス(ea8205)がユーシスに向けてそう言った。
低く頷いた彼になおも彼女は続ける。
『やっぱり捕まえて縛っちゃうのは、悪い気がするんだよ』
『そうか』
どこか無邪気に言い放つ。そんな彼女の手には、言葉とは裏腹にしっかりとロープが用意されている。
思わず奇妙な視線をユーシスが向けると、まるで意に介さずにそのロープを少年の手に預けた。
『お、おいっ』
『それじゃ、後はよろしくね♪』
にっこり微笑んだまま、そそくさとその場を後にするテレサだった。
「な、なるほどねぇ〜テレサさんらしいね」
「笑い事じゃない」
思わず笑い出したイシュメイル。
ムッとして抗議しようとしたユーシスだが、次の瞬間慌てて自分の身を潜める。彼の視線を追いかけたイシュメイルも、『それ』に気付いてすぐパラのマントで姿をかき消した。
「‥‥あれって」
「妖精、だな」
小声でぼそぼそと会話する二人。彼らの目の前で妖精と思しき小さな影は、周囲をキョロキョロと見回したかと思うと、すうっとガラハットの部屋に入っていく。
「今だ!」
ユーシスの掛け声と同時に、イシュメイルが咄嗟に窓を閉めた。
途端、部屋の中で色々な物音が響いたが、二人は何も聞こえない振りをした。きっと色々部屋が散らかるんだろうな、とはユーシスの感想だ。
やがてしばらく時間が経ち、物音もいつの間にか止んでいた。
●憧れのあの人と
ガラハットがセドリックから連絡を受けたのは、ちょうど学校の終わる時間だった。
「報告をしたいので、この場所まで来てくれますか?」
わざわざ案内の地図まで渡されたガラハットは困惑した。
犯人を捕まえたのなら、今すぐ教えてくれればいいのに。どうして場所を指定して呼び出す必要があるのだろう。
そんな疑問を投げかける。
と、システィーナとテレサは互いに顔を見合わせて、今まで見た事ないようなにこやかに笑みを浮かべる。どこか楽しそうな様子だったが、何故かそれ以上聞ける雰囲気ではない。
「来てみてのお楽しみだよ」
「そうそ。やっぱりこういうのは、先に延ばした方が嬉しいんだよ」
ふと隣を見れば、ユーシスがあらぬ方に視線を向けている。
が、その口元が笑みの形を刻んでいたのを、ガラハットは目敏く見つける。
「何隠してるんだ?」
「全然別に。何も隠してないよ〜」
誤魔化すようにイシュメイルが笑うと、最後にセドリックが切り上げた。
「それでは、待っていますから」
「‥‥なんなんだよ、いったい」
ポツンと一人残されたガラハットは、困惑した表情で頭を掻いた。
「ふーん、そんなことがあったんだ」
「ええ、そうなの。あの時、本当に思ったわ。ああ、この人こそがあたしの理想だと」
「それなら、やっぱり黙ってガラハットくんの部屋に入ったりしたら駄目だよ」
恍惚と思いを口にする妖精の少女。
ニーナと名乗った彼女は、彼らに問われるままにガラハットへの熱い熱い想いを口にしていく。それこそ至上の王子様といった様子だ。
当然、そのことで盛り上がるのは女性の世の常。
「それに気持ちは押し付けるばかりじゃ駄目だよ。やっぱり行き過ぎは注意しなきゃね」
「でもいいなぁー。そんなに情熱的に好きな人がいて」
システィーナが諭すように注意すると、テレサはどこか羨望の目で妖精の少女を見る。女三人集まれば、そこだけまるで別空間のよう。
男性陣は、といえば。
「ま、そういう事だ。お前も今度からは大変だな」
ガシッとユーシスに肩を取り押さえられ、ガラハットは困惑するばかり。
「お、俺は別に、今はそんなことに気を取られてる暇はなくて、だな」
「あーダメだよーガラハットさん。折角、彼女が好きだって言ってくれてるんだよ」
やはり年頃だけあって、イシュメイルもそんな色恋が羨ましくなりつつある。
「ほらほら、観念するんだな。‥‥昔は炭化したクッキーを食べてた時代もあったな」
ボリボリと手作りのクッキーを口に頬張りながら、遠い目をするユーシスに思わず目を見開くガラハット。
と、そこへシスティーナの手に引かれ、妖精の少女が目の前にやってくる。
「あ、あの‥‥」
おずおずと口を開く。
つい後ずさった少年の退路を経つようにセドリックが立ち塞がる。
「えっと、俺は、だな‥‥」
「ガラハット様。どうか、これからもあたしに会っていただけますか?」
必死な形相のニーナ。
加えて、じっと凝視する十の視線が彼に冷や汗を流させる。さすがにこの場で下手な答えは返せない。
実際のところ、好意を持たれるのに悪い気はしない。
「ま、まあ‥‥会いに来るだけなら構わねえよ。けど、今度から勝手に部屋の中を動かすのは、無しにしてくれよな」
少年の返事に女性達からキャーッと歓声が上がる。
男性陣からも何故か拍手が沸き起こる。
「あ、ありがとうございます」
嬉しそうに頭を下げる妖精に、ガラハットは照れる自分を隠すようにぶっきらぼうにそっぽを向いた。
かくして、この日よりケンブリッジのとある寮で、時々妖精の姿を見かけるようになったとの噂が流れ始める。
真相を知る者達にとっては、その噂を聞くたびにどこか微笑ましく思うのだった。