ダークサイドなお仕事

■ショートシナリオ


担当:葉月十一

対応レベル:2〜6lv

難易度:やや難

成功報酬:2 G 44 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月07日〜12月14日

リプレイ公開日:2005年12月17日

●オープニング

●洛陽
 小高い丘の上。
 夕日を背に立つ小柄な人影が一つ。その視線の先には、十字に形作られた墓標があった。
「‥‥なあ。やっとアイツの手掛り、見つけたぜ」
 ポツリ。
 零れ落ちた呟きは、そよぐ風に散って消える。
 ゆっくりと顔を上げた影――パラと呼ばれる種族の少年エルリック・ルーン――は、どこか毅然とした姿勢で墓を見据えている。本来茶である瞳が、夕日の光を受けて金色に煌く。
 思い返すのは、少年が修道院で院長から聞いた話――。
「わざわざ姿見せてくれるなんてさ、ラッキーだったよ。これで‥‥ようやくアンタの仇が取れる」
 どこまでも冷めた口調。
 普段の彼を知る者は、きっと耳を疑ったことだろう。
 やがて、おもむろに踵を返した。沈みゆく太陽を背中に受けて、影が丘の裾野まで伸びる。
「終わらせてやるよ。『アイツ』もろとも、連中全部をな」
 決して後ろを振り向かず、少年はその場を後にした。

●死者の眠る丘
「依頼、いいかな」
「ええ、どうぞ。いつもありがとうございます。本日はどのようなご用件で?」
 ギルドのお得意様であるエルを相手に、受付に座るギルド員は笑顔で対応する。
 だが、今日の彼の様子はどことなく変だった。
 憮然とした態度は相変わらず、普段の彼と違ってどこか張り詰めた雰囲気がある。つられて、ギルド員も思わず背筋を正すほどだ。
 そして。
「――護衛を頼みたい。ちょっと遠いけど、オクスフォードの手前までな」
 エルが提示したのは、キャメロットから歩いて二日程の距離。その場所にギルドの人間は、聞き覚えがあった。
 それもそのはず、先の戦争で最後の攻防が行われた戦場だからだ。
 噂では一番激しい戦闘だったと言われ、今でも戦死した者達の骸が放置されているらしい。旅人も意図してそこを避けて通る程に。
「あの、いったいこの場所へ何をしに‥‥」
「なーにちょっとした掃除だよ。いまだ残る死臭に誘われて、色々出るらしいからな。パトロンの貴族に頼まれたんだ」
 努めて軽い口調で言い放っているが、目は決して笑っていない。ギルド員の長年の経験から、彼の言っている内容が嘘とまではいわないが、全部話しているとは思えなかった。
 とはいえ、その場所に関してはギルドにも色々と情報が入っている。
 このまま放っておくわけにいかないのも確かだ。
「ま、そこまでの護衛と‥‥あと、そうだな、掃除の方も手伝ってくれればありがたいな」
「わかりました。手配しておきましょう」
 ならばこの機会に、とギルド員はエルの依頼を引き受けた。
「頼んだぜ」
 そう言って、彼はおもむろに踵を返した。

●今回の参加者

 ea2501 ヴィクトリア・ソルヒノワ(48歳・♀・ナイト・ジャイアント・ロシア王国)
 ea6144 田原 右之助(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb3529 フィーネ・オレアリス(25歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb3532 アレーナ・オレアリス(35歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 eb3587 カイン・リュシエル(20歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

●討ち捨てられた地
 その場所へ辿り着いた時、鼻をつく死臭に冒険者の誰もが顔を顰めた。
「こいつはひでぇ‥‥」
 思わず出た田原右之助(ea6144)の呟き。
 彼自身、先の戦争の時はまだジャパンにいたため実感がなかったが、今目の前に広がる光景に改めて激戦の様子が窺える。
「これなら死人が彷徨っててもおかしくはないよな」
 手にしたスコップを肩に担ぎ、軽く黙祷を捧げる。
 命を賭して戦った者達に対し、精一杯の敬意を――それは誰もが持つ想いだった。それを代弁するかのように、カイン・リュシエル(eb3587)が一つの提案を口にした。
「それでエルリックくん。今回の依頼は、この打ち棄てられたままの亡骸を埋葬して、弔うこと‥‥かな?」
「エルでいいって言っただろ。ま、その辺は追々とな」
 ここまでの道中、同い年であり同じウィザードという事で話しかけたカイン。その努力もあってか、今では親しげに会話出来るようになっていた。
 そんなエルリックの表情が、次の瞬間厳しいものに変わる。
「とりあえず今は、あいつらをなんとかしようぜ」
 少年の視線の先。
 おそらく、死臭に引かれてやってきたのだろう野犬の群れ。そして、その向こうに見えるのはゴブリンの集団。
「な〜るほど。色々とやっかいな連中だね」
 ジリジリと近付いてくる相手に身構えるヴィクトリア・ソルヒノワ(ea2501)。淡い光に身を包みながら、依頼主でもあるエルににっこりと笑いかける。
「安心おし。おチビさん一人ぐらい、あたいらが十分守ってやるさねえ」
「だ、だぁれがマメツブどチビだっ!!」
 思わぬ口にした禁句に反応して烈火の如く怒鳴りまくるエルに、子供相手だとばかりのおおらかさでポンポンと頭を撫でた。
 それが余計、彼の背の低さを自覚させるとも知らず。
 案の定、よりいっそう真っ赤になって怒鳴ろうとしたエル。その出鼻は、右之助の言葉によってあっさり挫かれた。
「おら、二人とも。遊んでねえでちゃんとしな。カイン、頼むぜ」
「了解」
 言うなり、カインの魔法が素早く練成される。一瞬のうちに右之助の持つ日本刀が、魔法の炎に包まれた。
 と同時に彼は、その刃をちょうど飛び掛ってきた野犬に向けて横薙ぎに振るう。咆哮が悲鳴に変わり、地面へと撃ち倒される。
 それが合図となり、両者の戦闘が始まった。
「さあ、掃除の始まりだねえ!」
 ヴィクトリアが勢いよくロングソードを振り下ろす。文字通り叩きつける威力で、ゴブリンを一体退けた。
 すぐさま第二撃を放つため、仲間との位置を確認する。その目線を合図に、今度は右之助が一気に間合いを詰めた。
「叩っ斬ってやる!」
 ゴブリンが振るう斧をかわす格好で、彼の刃がモンスターの身体に突き刺さる。一瞬の間を置いて、血飛沫が舞った。
 そのまま自らが汚れるのも構わず刀を振るう姿はどこか無謀に見えた。
 が、当然引くべきところは心得ている。
「いくよ!」
 響いた声にサッと散る冒険者達。
 そこへ後方からカインが炎の玉を放つ。着弾と同時に爆発が起こり、その場にいたモンスターたちを一気に巻き込む。結果、敵の数は半数以下に減った。
 途端に不利を察したのか、逃げようとする相手を追い詰める二つの影。
「聖母の赤き薔薇フィーネ・オレアリス(eb3529)!」
 傍らのハーフエルフがそう叫び、口元には麗しき薔薇をくわえた姿でポーズを取る。
 それに習う形で妹のアレーナ・オレアリス(eb3532)もまた、麗しき薔薇を口にくわえ、そのまま対になるポーズを極めた。
「聖母の白き薔薇アレーナ・オレアリス!」
「「二人揃って悪を討つ!!」」
 最後の科白を合わせた瞬間。
 一瞬だけだが、彼女ら二人の背後に吹雪のように舞い散る薔薇の花びらが見えた。当然幻影に過ぎなかったが、多少なりとも敵には効果があったようだ。
 僅かな戸惑いの中、たたらを踏むゴブリン達。
 その隙を逃さず、エルがトドメとばかりに稲妻を放った。

●閑話休題
 一先ずの戦闘が終われば、しばらくはこの場所で待機する事となる。
 勿論、ただじっとしているだけではない。
 身近なところから遺体の埋葬を行った。当然風に晒され、損傷の激しいものも中にはある。それでも皆、嫌な顔一つせずに手伝うのだった。
 その間、エルの表情は前にもまして厳しくなっていた。
「ほらほら、色々あると思うけれど、独りで抱え込んじゃ駄目だぞ」
「別になんでもねえよ」
 アレーナが優しく諭そうとするも、彼は無下に拒むばかり。
 が、そんな態度も彼女にとっては可愛く映るのか、
「いやーん、ぎゅ〜って抱きしめてあげたい〜」
「ちょっとアレーナ、鼻血、鼻血ッ!」
 そうフィーネに突っ込まれる場面もあったとか。
 そんなやり取りの中、夜の警戒中にヴィクトリアが問い質した時、一瞬だけ彼の顔色が変わった事があった。
「――あんた、誰を待ってるんだい?」
「え?」
「とぼけなさんな。あんた、誰かを待ってるんだろ?」
 それまで何を聞かれても邪険にしか扱わなかったエルの、初めて見せた動揺の瞬間。
「まあ、あんたが何を隠してても構わないよ。どちらにせよ、あたいらはあんたから要請があればいつだって手を貸すわさねえ」
 その為にあたいらを呼んだんだろう?
 どこか微笑みながらそう言う彼女の言葉に、エルは何も言い返せずに顔を背けた。その視線が広がる闇の向こうを見ている事に、誰しもが思っていた。

●死者が招く夜
 そして三日目の夜。
 大地を覆い尽くさんばかりだった遺体の山は、あらかた埋葬する事が出来た。さすがに全部とまではいかなかったが、戦死者の弔いにはなっただろう。
 後は――。
「‥‥これが鬼火の正体ですか」
 呟くフィーネ。
 目の前で揺らめく青白い炎。時折人型を形成し、そして怨めしい視線を冒険者にぶつけてくる。それは、レイスと呼ばれる文字通り幽霊そのものだった。
 彼らに通常の武器は効かない。銀製の武器か、魔法のみだ。
「ならばこれでどうだ!」
 聖者の加護を得たデュランダルを振るうアレーナ。その効果が辛うじてレイスに通じた。
「神のご加護を‥‥」
 その妹を援護するように、フィーネがホーリーを放った。聖なる威力がレイスにダメージを与える。
「それじゃこっちもいくぜ!」
 残りのレイスを相手に、右之助がバーニングソードを付加された刀で斬り付ける。続けざま、ヴィクトリアがオーラパワーを纏う剣を最上段から振り下ろして叩きつけた。
 当然、相手も黙ってやられる訳ではない。
 ダメージを受けながらも腕を伸ばして攻撃を仕掛けてくる。その全てをかわす事が出来ず、二人は火傷に近い痛みを受ける形になった。
 すぐに身を引いた二人に代わり、カインの魔法が炸裂する。放たれた火の玉は強烈な爆発を起こし、寄り添うように漂っていたレイス達に、同じダメージを与えた。
 ギャァアァアアアッ!
 耳を劈く悲鳴。
 それでも彼らは攻撃の手を止めない。それほどまでに怨みが深いのか。
 或いは、未だ戦いの中に身を投じてるつもりなのか。
 どちらにせよこのまま放っておく訳にはいかない。死を忘れた彼らに、改めて死を認めさせなければ。
「どうぞ神の導きを」
「お逝きなさい!」
 フィーネの身が一瞬白く輝く。次の瞬間、レイスを白い光が包み込んだ。間髪入れずにアレーナの剣がレイスの身体を一刀両断する。
 物理的手応えはないものの、その攻撃は確実にダメージを与えた。
 やがて全てのレイスが消え去り、ホッとしたのも束の間。
 むくり、と何かが動く影。
「なに?」
 いち早く気付いたカインがそちらを向く。見れば、エルもまたそちらを凝視していた。
 やがて――未だ埋葬されずにいた死体が動き出した。生きる屍、すなわちズゥンビと化して。
「!」
 一瞬躊躇したものの、すぐに気を取り直すカイン。エルが仕掛けるのと殆ど同時に、ファイヤーボムをズゥンビに向けて放った。爆風と稲妻に、何体かのズゥンビ達が倒れる。
 だが‥‥。
「嘘、だろ?」
 目を瞠る右之助。
 倒された遺体の向こうで、まだ損傷の少ない骸がゆっくりと起き上がる。その身を黒い光に包まれた状態で。
 すぐに理解出来たのは、神聖騎士でもあるフィーネとアレーナの二人。
「黒の魔法、ですか」
「そうなるとどこかに術者が――」
「出てこいよ。そこにいるんだろ!」
 二人の言葉を遮り、エルが暗闇の向こうへ言い放つ。ハッと彼の顔を見れば、今までの中で一番厳しい顔をしていた。
 彼が睨みつける先でゆっくりと姿を現したのは、彼と同じパラの若者だった。
「よお。‥‥元気そうじゃないか」
「‥‥てめえもな」
「エルくん、一体彼は?」
 横でカインが聞くと、エルは皮肉めいた笑みを浮かべる。
「‥‥俺の、待ち合わせ相手だよ。以前から噂があったんだ、夜な夜な死者を従えた神父が出るってな。どうやらアタリだったぜ」
 どうやら今回の依頼の真の目的は、目の前の相手に会う事だったようだ。
 その事を知り、ヴィクトリアは改めて問いかける。
「それで? あんたはどうしたいんだい?」
「‥‥アイツを、殺す!」
「お、おいっ」
 思わずギョッとした右之助を無視し、エルは無謀にも突っ込もうとする。
 だが、彼の行動にいち早く反応したアレーナによって、寸でのところで阻まれてしまった。ジタバタと暴れる少年を、彼女はぎゅうっと抱きとめる
「は、放せ!」
「落ち着け、エル。無闇に突っ込めば、それこそ向こうの思う壺だ」
 ちらりと見やった相手が薄く笑みを浮かべている事に、彼女の本能が危険を告げる。
「‥‥賢明な判断だな。よかったじゃないか、エル。頼もしい仲間がいてな」
 言い放つ彼の背後、二つの大きな影が立つ。
 屈強の肉体が特徴のジャイアントが二人。おそらく生前はそれこそ歴戦の強者だろう事は、想像に難くない。
「死人を愚弄しようって輩か‥‥」
 命をかけた者達を弄ぼうとする相手に、卯之助はムカムカと嫌な気分がこみ上げてくる。
 とはいえ、これ以上の戦闘は正直避けたい。
 皆黙ってはいるが、連日の戦闘ですでに体力がギリギリだっだ。特に先程のレイス達との戦いで、全員かなり消耗していた。
「所詮力及ばすに死んだ連中だぜ。だから、俺が有効利用してやろうってんだ」
「てめえ!」
 挑発めいた言葉にエルが反応する。
 だが、それを制してヴィクトリアが一歩前に出た。依頼主である彼を守るように。
「それで? あんたの方はどうしたいんだい? このままあたいらとやるかい?」
 ある意味ハッタリだ。
 数の有利があるとはいえ、向こうにどんな奥の手が潜んでいるか今のところ解っていない。それならばこれ以上の戦闘は絶対に避けたい。
 そんな彼らの思惑を読み取ったのか。
 一度だけニヤリと笑った後。
「ま、別にいいさ。とりあえずの収穫はあったからな。精々ガキのお守りでもしてるんだな」
 それだけを言い残し、ズゥンビ達を従えたまま彼はその場を去っていく。
 その後ろ姿を、冒険者達は黙って見送るしかない。ただエルだけが、最後に相手に向かって叫んだ。
「待ちやがれ、誰がガキだこの野郎! ぜってぇお前だけはいつか殺してやるからな、クソ兄貴!」
 最後の一言。
 そこに込められた意味を冒険者達が理解するには、もう少し先の事になる――。