フンドーシ・ミュージアム
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■ショートシナリオ
担当:葉月十一
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 78 C
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月22日〜12月27日
リプレイ公開日:2005年12月31日
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●オープニング
その日、彼女は感極まっていた。
「やっと‥‥やっと、届いたのですね」
先程届いた荷物を胸に抱え、マーナは喜びのあまり身を震わせる。それほどまでに、その荷物は彼女にとって大切なものだった。
「これでようやく開くことが出来ますわ。きっとイギリス中の方々が喜んでくれるでしょう」
あくまでもそう信じているマーナにとって、呟きは至極当然なもの。
が、喜びも束の間。
降って沸いたような不安が、彼女の心に僅かなの曇りを点す。荷物と一緒に届けられた手紙。封を切って中を読めば、そこにはマーナにとって信じられないことが書かれていた。
どうすれば‥‥思案に耽る少女。
そして次の瞬間、閃いた名案にパンと手を打ち鳴らした。
「そうだわ。ギルドへ依頼すればいいのではないかしら。きっと冒険者の方々が力になってくれるはず。皆様、『これ』を愛する方々ばかりですもの」
善は急げ、とばかりに彼女はすぐさま駆け出した。
そして――キャメロット、ギルド内。
「よお、リュートじゃないか」
「あ、お久しぶりです」
受付のギルド員に声をかけられ、リュートと言う名の少年が礼儀正しくお辞儀する。
「どうした、こんなところへ」
「あのう‥‥また、マーナお嬢様が冒険者の皆さんにお願いしたい事がありまして」
おそるおそる彼が差し出した一通の書簡。
その態度に多少嫌な予感を感じつつも、これも仕事だと割り切るギルド員。黙ってその書簡を受け取り、中身を一通り確認する‥‥読み進めるうち、彼の背中には生温い汗が流れ、表情も引き攣ったものに変化していく。
その様子を、リュートはすまなそうな眼差しで見守った。
「‥‥あー、なんだ。こいつは‥‥いったい‥‥」
「あの、その、実はマーナお嬢様、今度社交場を借り切って展覧会をやるみたいなんだ」
「な、なるほど」
「それで、どうもその展覧される物を嫌悪する団体があって、どうやらそれをぶち壊す予告状みたいなのが届いたんだ。で、冒険者の人達にそれを防いで欲しいっていう依頼なんだけど」
心苦しいのか、徐々に声が小さくなっていく。
その気持ちは十分に解るぞ、とギルド員は内心同情する。
が、さすがに言葉にまではしたくない。不安そうなリュートの様子に嘆息しつつ、とりあえず依頼を受ける旨を彼に伝えた。
「ホントか? だ、大丈夫かな?」
「まあ‥‥なんとかなるだろう。彼ら冒険者は皆、歴戦のつわもの揃いだ――色んな意味でな」
そうして。
依頼を受理しようとサインを書きかけたところへ、リュートが最後にポツリと呟く。
「あ、後さ、展覧会で催すステージにも立って欲しいってお嬢様言ってたよ‥‥『世界のフンドーシ・コレクション』のモデルとして、さ」
ぴたり。
ギルド員の手にしていたペンの動きが止まった‥‥。
――そして、その夜。
マーナお嬢様の屋敷に、また一通の手紙が届く。
そこには、流暢な筆跡でこう記されていた。
「開催前夜、集めた23枚のフンドーシをいただきに参上する――フンドーシ愛好連盟」
●リプレイ本文
●ご挨拶
「マーナお嬢様にリュート君、久しぶり〜」
屋敷に訪れるなり、チップ・エイオータ(ea0061)の元気のいい挨拶が響く。
誰でも明るく挨拶されれば気持ちのいいもので、マーナの方も快く迎え入れた。
「まあ、お久しぶりですチップ様」
「聞いたよ。大切なフンドーシが狙われてるんだって?」
「そうなんですの。せっかくわたくしが長年に渡って集めたコレクションを盗もうという輩がいるなんて‥‥」
僅かに顔を曇らせるマーナ。
それを見たキャメロットのHERO(自称)たるレイジュ・カザミ(ea0448)は、憤りを顕わにした。
「褌を盗んで人を不幸にするなんて、この葉っぱ男が許さないからね!」
「まあ! 貴方があの有名な葉っぱ男様なのですね。それなら随分心強いですわ」
拳を振り上げる葉っぱ男――もといレイジュに、キラキラと憧れの眼差しを向けるマーナ。それを横目にしたリュートは、はぁ〜と大きく溜息をつく。
その様子に思わず苦笑する来生十四郎(ea5386)。
「相変わらず気苦労が絶えないみたいだな」
「ええ、まあ」
「ま、今回はお嬢様の熱意の勝利ってとこだ。俺でよければ手伝おう」
そこまで言ったところで、ふと気になる事を聞いてみた。
「そういや展覧会の客層ってのは‥‥どうなってんだ?」
「え‥‥」
十四郎の問いに、リュートはすっと顔を逸らした。その態度からおそらく察するものがあったのだろう。それ以上追求する事をせず、互いに乾いた笑いを浮かべるに留めるのだった。
そして。
「本日はお三方だけですの?」
マーナがそう尋ねた途端、どこからともなく高らかな笑い声が響いてきた。
「――ヤングヴラド・ツェペシュ(ea1274)は怪人である。彼を改造したのは結社グランドクロスである。彼は信仰によって」
「やめんか!」
とどろくナレーションを打ち切ったのは、参加者で唯一の常識人だろう十四郎だ。
「な、何をする! せっかく一年振りのキャメロットなのだ! 凱旋帰国の記念すべき」
「んなことやってお嬢様ば怯えちまったらどうするんだ」
警告のつもりでビシッとマーナを指差す。
だが、彼女は怯えるどころかうっとりした表情でヤングヴラドを見つめていた。
「素敵、ですわ。今回もこのような素晴らしい冒険者の方に集まっていただけて本当に感謝ですわ」
「うむ。そうだろうそうだろう。我が輩もマーナ殿のような女人に出会えて嬉しいぞ」
すっかり意気投合する二人。
「あ、おいらも一緒にやる!」
「僕だって」
加えて、チップやレイジュまでもが同調し始めたからもはや収拾がつかない有り様だ。
目の前で繰り広げられる様子にオロオロするリュート。その肩をポンと叩いた十四郎は溜息とともに呟いた。
「‥‥諦めろ」
●類は友を呼ぶ
展覧会前夜。
「ダミーのフンドーシはこれぐらいでいいかな?」
チップの作ったモノを見て、マーナはにっこりと微笑んだ。
「ええ、大丈夫ですわ。それに皆様からも幾つか準備していただいたものもありますから」
「本物はきちんと隠したからね。誰かの役に立てるなら惜しまずに各国の褌をお貸しするよ!」
レイジュ達から提供された褌は、十分マーナのコレクションに匹敵する。まさかそこまでの協力が得られるとは思わなかった彼女は、本当に嬉しそうだ。
そんな和気藹々とした雰囲気の中、突如それを破る声が轟いた。
「ふはははっ! そのコレクション、我等フンドーシ愛好連盟が頂戴する!」
バサッとマントを靡かせて、月明かりをバックに登場したのは、筋骨隆々の男達。全員が純白の褌姿のままで他には何も身に付けていない。
普通なら悲鳴すら上がる光景だったが、生憎とここにいるメンバーも普通ではない格好をしていた。
「そうは問屋が卸さない!」
「な、何者!?」
「この僕を知らないなら教えてあげよう! キャメロットの英雄にして生きる伝説☆ 葉っぱ男レイジュとは僕のことだ!」
「ええい、この葉っぱが目に入らぬか!」
マントに褌、奇しくも愛好連盟の者達と同じ格好をしたヤングヴラドが、その褌の中から取り出した葉っぱを彼らに見せつける。
「ここにおわす御方をどなたと心得る! 元祖葉っぱ男、レイジュ・カザミ殿にあらせられるぞ!」
堂々たる紹介にレイジュはエッヘンと腰を前に突き出した。
すると、身に付けていた褌がハラリと取れて、中からはしっかりとくっ付いた葉っぱが顔を覗かせる。
「な、なにぃ!」
「貴殿があの噂の葉っぱ男か!」
さすがに世界に知れ渡る知名度を誇る葉っぱ男。
愛好連盟の男達は恐れ戦きながらざわざわと騒然とする。焦る彼らを横から見ていた十四郎は、多少呆れながらも説得の言葉を口にした。
「まあ、そういうことだ。お前ら大人しくした方が身の為だぜ」
「む、うぅ‥‥」
「それにだな、どうやらこのコレクションは撲滅委員会とかいう連中に狙われてるみたいなんだ。お前さんらも一緒になって守ってくれないか?」
「な、なに?! そんな連中が?」
「そうなんだよ。だからおいら達と一緒にこのフンドーシ達を守ろうよ。でないと」
遠慮なく撃っちゃうぞ、と矢を番えるチップの姿。さすがに撃たれては構わないと思ったのか、彼らはあっさりと一緒に守る事を約束してくれた。
「やっぱり同じ褌を愛する仲間だったんだね! 僕は嬉しいよ!」
涙を流して喜ぶレイジュ。
そして感慨深げに頷くヤングヴラド
「うむ。同じ魂を持つ者同士、きっと仲良く出来るであろう」
「ただし、また盗もうとすればぶん殴るだけだがな」
にやりと笑む十四郎に、男達は身震いしながら首をブンブンと横に振り続けた。
●朱に交われば赤くなる
そして、展覧会当日。
会場を埋め尽くす人、人、人。
男臭い者。暑苦しい者。爽やかな男性もいれば、どうしてこんな人が、と驚く程煌びやかな女性まで様々な人手で賑わっていた。
「なかなか盛況だな」
些か温い汗をかきながら、十四郎が入り口のところでポツリと呟く。念のためにとボディチェックをしている彼は、その異様な光景に少々魘されそうだった。
招く客の多くが貴族であるため、そう詳しく検査は出来ないのだが、今のところ怪しい人間は見ていない。ある意味、今いる客全員が怪しいといえば怪しいのだが。
そして、当然にしてそれは当たりであり、警護をしていたレイジュの目にそれは映った。
「何をしてる!」
声を上げた途端、男は目の前の展示品(ノルマン製フンドーシ)に手をかけようとする。
「させるか!」
特攻したレイジュの攻撃は、見事に男の急所(言わずもがな)に直撃した。
「褌は、はるか東国の秘法。イギリスでは輸入しかないから貴重品なんだよ。それを撲滅しようって言うの? 貴方が一枚褌を消せば、それをつけるはずの英国人が不幸になるんだ」
堂々とした口上だったが、悶絶する男には届かなかった。
「褌はただの布じゃない。漢を主張する立派なシンボルなんだ!」
おおーという歓声が周囲から沸き起こる。誰もが納得とばかりに頷き合っていた。
「素晴らしいですわ‥‥葉っぱ男様」
「待てー!」
別方向から聞こえてきた声。
追いかけるチップの前で、スレンダーな男が客の合間を器用にすり抜けていく。チップ自身も一生懸命走るが、なかなか追いつけない。
半ば諦めかけていたその時、愛好連盟の面々が筋肉の壁を作って行く手を遮った。
「今だっ!」
距離が縮まったところで勢いよく足を引っ掛ける。見事にすっ転んだ男の上から、チップは体重をかけるように乗っかった。
「さあ、観念するんだ」
スッと矢を向けると、男はひぃぃと情けない声を上げて気絶した。
どうやらかなり気の小さい奴だったみたいだ。
「情けないよね。褌を着ければ、少しは男らしくなれるのに」
やっぱりチップも、褌に対する概念が少しずれてるようだ。
●世界のフンドーシ・コレクション開催
「さあ、さっさと歩け」
十四郎がステージに送り出したのは、彼が捕まえた撲滅委員会の面々。全員が褌を身につけさせられ、恥ずかしそうにモジモジしているのを強引に立たせた。
「これでちったぁ褌の良さも解るってもんだ」
そう言う十四郎自身は、ジャパンらしい侘び寂び漂う褌を身に付けて堂々と登場した。黒の正絹に銀糸で雪月花の刺繍が施されたその褌は、見る者にほうっと溜息を零させた。
「うむ。なかなか素晴らしいな、これは」
「なんの、こっちだって負けてないよ」
次いで姿を見せたのはレイジュ。
彼が身に付けている褌は、イギリス中に轟く彼の名に相応しく全てが葉っぱによって作られていた。
「捨てても自然に返ります! しかも天然でカラダに優しい褌だよ!」
すると観客から葉っぱ男、葉っぱ男、とコールが沸き起こる。その歓声にジーンと感動するレイジュ。
ああ、頑張ってきて良かったーと感慨深げに思う彼であった。
「じゃあ、次はおいらだね。見て見てふわふわ〜」
現れたチップの姿に、今度は女性陣から「可愛いー」と黄色い声が上がる。
真っ白なふわふわの毛を宛がわれた褌と、同じ飾りつけをした手足。パラという種族からか、小さな妖精を思わせる雰囲気がそこにあった。
「えへへ〜♪」
満足げに笑うチップ。
そして。
「さあ、いよいよトリを務めるのは我が輩だな!」
煌びやかな光がステージの上を覆い尽くす。盛大な楽団の音楽が突如として響き、会場全体が騒然となる。
そして、満を持して登場したのは‥‥
「見よ! この素晴らしい我が輩の褌を!」
堂々と股間を主張するヤングヴラド。ギラギラと輝く褌は、目にも眩しい代物だった。
観客のあちこちからあれいいなぁ、あれ欲しいよ、と声が上がる。
「ははははっ、どうだぁ〜」
そんなステージを、脇からうっとりと眺めるマーナ。恍惚とした表情に隣にいるリュートは重い溜息をついた。
「本当に素晴らしい展覧会になりましたわ」
「うう、やっぱり冒険者なんてみんな一緒なんだ‥‥」
フンドーシに囲まれた一日は、こうして終わりを告げた。