星降る夜のセレナーデ
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■ショートシナリオ
担当:葉月十一
対応レベル:1〜3lv
難易度:易しい
成功報酬:4
参加人数:10人
サポート参加人数:-人
冒険期間:07月12日〜07月17日
リプレイ公開日:2004年07月26日
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●オープニング
遠い異国の地、ジャパン国より月道を使ってやってきた者達。そんな彼らが冒険者街で何かをやり始めているようだ。
そんな噂がキャメロットの街に流れ出したのは、七月に入ってすぐのこと。どうやらジャパンから一緒に持ってきた竹を何本か立てて、そこになにやら紙のような物を吊しているらしい。
興味を抱いたイギリスに住む冒険者達は、その人だかりの場所へと足を赴けた。
遠巻きに眺める面々は、彼らのよく知る仲間達のもの。そして、その中心にはいる見慣れぬ面々――おそらく彼らがジャパンよりやってきた者達だろう。
「なあ、いったい何やってんだ?」
一人の少年が尋ねると、竹を準備していた男がにこやかに答えた。
「ああ。なにって七夕の準備に決まってんだろ? もう時期だしな」
「たなばた?」
首を傾げる冒険者に、男はああ、と納得する。
「そうか‥‥そういや、こっちにはそういうのがないんだったな。とりあえず説明するとだな‥‥」
‥‥ジャパンの地では、空に浮かぶ二つの星を悲恋に例えた物語があるという。
種族の違いにより離ればなれにされた二人。嘆き悲しむ涙はやがて天を流れる河となり、その事に胸を痛めた親たちは、一年に一度だけ逢うことを許したという。
その年に一度の逢瀬をする二人の、束の間の幸せにあやかろうという事で、その日に願いを書いた紙を笹の葉につるし、星に願いを託すという風習だそうな。
「へえ、そんなもんがジャパンにはあるのか。んで、その竹は終わった後どうするんだ?」
「そりゃあ勿論、河に流すんだよ。願いを叶えてくれって感じでな」
「なかなか楽しいですよ。美しい夜空を二人っきりで見れたら、最高ね」
隣からひょこっと顔を出した少女が、嬉しそうに笑う。二人は互いに顔を見合わせて、少し照れたように顔を赤らめさせた。
「‥‥ま、たまには羽根伸ばすのも悪かねえだろ。年中神経をピリピリさせてちゃあ、果たせる仕事も果たせなくなっちまうしな」
どうやら男も冒険者らしい。
彼の言葉に、その場にいる者達もなるほどと頷く。
「どっちにしろ、年に一度の恋人達の逢瀬だ。二人っきりで過ごす手に使うってのも、悪くないだろ?」
ニヤリと笑った男の言葉に、集まった者達の表情は明暗くっきりと別れたのだった。
●リプレイ本文
●儀式の準備を始めよう
「まずは準備が必要だよな」
七夕を『願掛け』のような儀式だと思い込んでいるニコル・ヴァンネスト(ea0493)は、さっそく立派な笹を見つけようと張り切っていた。
が、あいにくイギリスに笹が生息していない。ジャパンの連中にも聞き込んでみたが、彼らも自分達が持ち寄った笹を飾っているだけだ。
「なあ。その笹、一本貰ってもいいか?」
「構わないぜ。ほら、持ってけよ」
気のいい男から笹を受け取り、さて次は眺めのいい広い場所か、と一つ呟いてから街の人達への聞き込みを始めた。
料理の準備をしながら、トア・ル(ea1923)は大きく溜息をついた。
「はぁ〜誰かいい人と一緒に七夕の夜を過ごせたら〜って思ってたんだけど、ちょっと無理みたいだね」
周囲を見渡せば女性陣ばかり。稀にみる男性陣には、すでにお決まりの相手が居るようで。
「ま、しゃあないわな。そもそもこの七夕っちゅうんは、ラブラブな男女が引き離されて、年一回しか逢われへんになったっちゅう話に由来するお祭りやさかい」
飾り付けの準備を手伝いつつ、ミケイト・ニシーネ(ea0508)が苦笑しながらトアの言葉に返す。彼女自身、今は特に異性の興味よりも、やっと参加出来た依頼に少々はしゃいでいるようだ。
そんな風に料理の準備をしながらきゃあきゃあ騒ぐ女性達を、スピア・アルカード(ea2096)はどこか遠巻きに眺めていた。幼い頃から剣を振るっていた彼女にとって、女性的な事はどこか苦手で、今も料理の準備よりも力仕事の方を手伝っている。
「どうしたんです?」
そんな彼女に後ろから声をかけてきたのは、リト・フェリーユ(ea3441)だった。
「あ、いや‥‥少しばかり寂しくなってな」
己の過去を顧みて、苦笑をうっすら浮かべる。
「まあまあ、元気出してください。なんてったってロマンチックなこのイベント、皆で楽しい一時を過ごしましょ♪」
「そう、だな」
その元気良さに少なからず慰められ、スピアは作業の方へ没頭し始めた。リトもまた、少しでも快適に過ごせるようにと虫除けのハーブを探しに森へと向かう。
●織姫と彦星の逢瀬を眺めて
そして、陽もゆっくり落ちて。
空には満天の星が瞬き始めた頃。
「それじゃあ皆さん、かんばーい!」
乾杯、と誰彼ともなく上がった掛け声に集まった冒険者達は、手にしたグラスを高々と上げた。ワインやジュースといった色とりどりの飲み物を、ぐいぐいと飲み干していく。
「料理、まだまだありますかからね〜」
大皿に乗せた料理をアーサリア・ロクトファルク(ea0885)が一生懸命運んでくる。それをハラハラとしながら見守るレイヴァート・ルーヴァイス(ea2231)。
「レイ、大丈夫ですか?」
「これぐらい平気だよ」
そんな二人のやり取りを周りの人間がヒューヒューと口笛を鳴らして冷やかしまくる。
思わず赤くなるアーサリア。その拍子に彼女は、何もないところで思わず転んだ。
「きゃぁ!」
「おっと」
右手で彼女の身体を、左手で皿をなんとか受け止めるレイヴァート。
「‥‥やれやれ、おっちょこちょいなのは相変わらずですね」
「ご、ごめんなさい」
ますます赤くなるアーサリア。その様子にレイヴァートはただただ微笑むばかり。冷やかしていた連中も、そんな二人を包む雰囲気にからかう気も失せていくというものだ。
「なんや、やっとられへんなぁ」
ひょいっとバーベキューの串を手に取り、ぐいっと肉にむしゃぶりつくミケイト。色気より食い気、そんな彼女にとって、ロマンチックにひたるよりは目の前のごちそうを食べる方が重要だった。
「はぁ‥‥羨ましいなぁ」
「ま、しょうがねえだろう。ま、飲め飲め」
溜息をつくリトに、酒を勧めるニコル。飲んだことがないという彼女に飲ませて、一体何をしようというのか。
「‥‥あら、これ美味しいわ」
が、彼女は一口含むなりそう言うと、一気に喉に流し込んだ。初めてのお酒の味に、思わぬ味を占めた瞬間だった。
そしてパーティが進むにつれて、喧騒の中に澄んだ調べが流れ始める。
ふと誰もが手を止め、その音に耳をすます。
夜の闇の中、荘厳な星の煌めきを背景に聞こえてきたのは、セレス・ブリッジ(ea4471)が奏でる横笛の音色だった。元々異文化の見物のつもりで立ち寄った為、特に手伝いも出来なかった仲間達に対する、彼女のせめてもの貢献だった。
恋人達を静かに見守る為に。
夜道を歩く二つの影。
「マーリ、大丈夫か?」
「ええ、なんとか‥‥」
そっと目元を拭うアマリス・アマリア(ea4061)。そんな彼女の肩を優しく抱くアッシュ・クライン(ea3102)。そんな彼女を気遣って、川べりの土手へ座らせた。
「とりあえず座ろう。ここからなら、星も見えるしな」
歩きながら語られたアマリスの過去。思い出された感情に涙を浮かべた彼女を、アッシュはただ黙って聞くばかり。口を挟まず、ただその思いの吐露を受け止めるだけで。
「私は‥‥生きていていいのでしょうか! 生きる価値があるのでしょうか!!」
彼女の話した内容は悲惨で、とても慰めをかけられるものじゃない。
だが、敢えてアッシュは言葉を紡ぐ。彼女の目を、少しでも未来へと向ける為に。
「生きる価値‥‥それは誰にもわからない。だけど、お母さんの気持ちなら少しは分かる気がするな」
「え?」
「マーリには、自分の分まで生きて、そして幸せになって欲しいという思いを託した。‥‥俺はそう思うよ」
一言一句。
静かに語った後、アッシュはアマリスを優しく抱き締めた。突然のことに驚くも、彼女の手はおずおずと彼の背に伸びる。
そして。
「‥‥それならば‥‥私は、これからも‥‥一生懸命生きていきます」
「ああ」
「アッシュ‥‥私の、支えになってくれますか?」
「もちろんだ」
そう、彼ははっきりと答えを返した。
見つめ合う二つの影が、星の明かりの下にゆっくりと重なっていく――。
●星に願いを、笹の葉に乗せ
笹の葉が風に揺れる。
そのあちこちに、一枚の紙――日本では短冊というのだそうな――がさわさわと葉擦れを起こして笹を彩っていた。
「あまり‥‥みっともいい内容じゃないんだがな」
苦笑するニコル。
『彼女に幸せを』
そう書かれた一枚の短冊を、懐から出したバンダナに結びつけて笹に吊す。
今はもうどこの国にいるのかわからない古い知り合い――彼女から貰ったバンダナ。種族の違いにより離ればなれにされ、このキャメロットを去った彼女。
いずれは探し出すつもりだが、今はただ、彼女の幸せだけを星に祈ろう。
ニコルはそう胸中で呟いて、そっと空を見上げた。
「河に流すんかぁ〜」
ニコルが運ぶ笹を見ながら、少し汗を浮かべるミケイト。幼い頃に溺れた事で、海や河が苦手になってしまったというトラウマが、彼女を少し引け腰にさせる。
そんな彼女の目の前で、笹の葉に付けられた短冊の一つがゆらゆれと揺れる。そこには彼女の願い‥‥というか、目標めいた事が記入されていた。
『いつか、凄い大物の獲物が獲れますように』
やはり、ミケイトにとって男は二の次、獲物の方が気になるようであった。
スヤスヤと小さく寝息を立てるアーサリアを、あぐらをかいた足の上に乗せてレイヴァートは起こさぬように優しく頭を撫でていた。すっかり安心しきった寝顔に、彼の顔にも笑顔が浮かぶ。
「‥‥大好きだよ‥‥レイ‥‥」
ふと呟かれた寝言。
穏やかな空気の中、すっと見上げた夜空。天に瞬く星の輝き。今宵、空の恋人達は無事に巡り会えたのだろうか。
そんな思いに馳せる彼の手には、笹に飾る短冊が二枚握られている。
『世界にセーラさまの愛が広がり、レイといつまでも一緒にいられますように』
『愛する人といつまでも』
二人の願い。
それがいつまでも続くようにと心に誓う。
短冊を笹に吊しつつ、トアはぶつぶつと呟きを零している。
「はぁ〜お師匠さま、本当どこに行っちゃったのかなぁ‥‥」
エジプト出身である彼女は、元々ジプシーだった師匠に強引に弟子入りをした身。そのまま師匠の旅に一緒に旅をして、ここイギリスまでやってきたのだが‥‥。
『お師匠さまにまた会えますように』
そう記された短冊が、彼女の目の前で揺れている。
はぐれてしまった師匠に会える事が、今のトアにとっての最大の願い。
「お願い、お星さま。どうかお師匠さまに会わせてよね」
もう一度強くそう願い、彼女はグッと空を見上げた。
‥‥皆の輪を抜け、一人だけたスピアは、夜空を見上げながらふと過去を振り返る。
その育ち故に異性から声をかけられたこともなく、むしろ同性からの声掛かりの方が多い。
だが、彼女にだって年頃の女性らしい思いはある。だからこその、手にしている短冊への願いなのだが‥‥さすがに恥ずかしくて他の面々には見せられない。
「私だってだな‥‥」
目を伏せた先には、
『頼りがいがあり、私のことを理解してくれる人間の男性と巡り会いますように』
そう記入された短冊が一枚。
‥‥理想を追い求めているのは分かっているが、それぐらいは夢を見させて欲しい。そんなコトを考えながら、彼女はただひたすらに空へ願った。
平均より少し(←ここ強調)ばかり薄い胸を嘆きながら。
「別にね、恋人さんだけじゃないの。友達とか沢山、素敵な人に巡り会えますように‥‥で、でも、やっぱり素敵な人とは‥‥キャッ♪」
リトが照れながら吊した短冊には、少し控えめな字でこう書かれていた。
『素敵な出会いが出来ますように』
(「一緒に楽しく笑い会える人、いつか会えるかな‥‥」)
「え、アッシュ。それって‥‥」
「ん? 問題ないだろ?」
「で、でも‥‥」
「いいだろ、一緒に書こう」
そう言ったアッシュに、アマリスは小さくこくりと頷いた。
そして一枚の短冊に二人の願いが書き込まれた。
『マーリと二人、いつまでも幸せに暮らせますように』
ゆっくりと笹竹が河を流れていく。
それを静かに見送りながら、セレスは再び横笛を吹き始めた。
『大切な人が元気でいますように』
そんな願いを調べに乗せて。
更けていく夜の静寂に、その音はいつまでも響き続けていた――。