【聖夜防衛線】襲い来る悪意の群れ
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■ショートシナリオ
担当:葉月十一
対応レベル:5〜9lv
難易度:難しい
成功報酬:5
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月25日〜12月28日
リプレイ公開日:2006年01月10日
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●オープニング
聖夜祭を間近に控えたその日。
突如沸き起こった襲撃は、浮かれ気分だった人々の油断を突く形となった。さっきまで一緒に飾りつけをしていた知人が、今は敵となって剣を振るう。
当然仲が良ければ良いほど、反撃に躊躇いが出る。その隙を、今度はモンスターの群れが襲い掛かる。
そうして――ケンブリッジの至る場所での喧騒は広がりつつあった。
●母の面影
「――あの人が?!」
何が起きたのか、その真相を知るため『クエストリガー』へやってきたガラハッド・ペレス(ez0105)は、首謀者がル・フェイであると知らされて驚愕した。
彼女に初めて会ったのは、先日行われたハロウィン祭でのこと。幼い頃に生き別れた母の面影を彼女の中に見いだし、ガラハッドはどこか憧れに近い感情を持っていたのだ。
「本当よ。生徒会長はすでに出向いてて、彼女を追ってるわ」
残った生徒会のメンバーの説明に、未だ信じられないといったガラハッド。
否定しようと頭を降るが、今起きている出来事は紛れもなく現実だ。モンスターが跋扈し、操られた生徒達が牙をむく。
かくいうガラハッドも、ここに来るまで何度も顔見知りから足止めをくらい、そのたびに仕方なく倒してきたのだ。
「それじゃあ彼女は、今どこに‥‥?」
「生徒会長の話では、どうやらフリーウィルの地下が目的みたいなの」
聞かされて、ガラハッドは押し黙る。
一瞬の逡巡。
だが、すぐに決意した。
「‥‥俺も行く。行って彼女を止めてやる」
そして聞き出すんだ。
何故、こんな騒ぎを起こしたのかを。
そう胸に秘め、ガラハッドは改めて立ち上がった。立派な騎士になれば母親が――父親が会いに来てくれる。最初の動機を彼は思い出した。
だからこそ、今はこの混乱を打破することが、自分にやれる最大限のこと。
「騎士道の名に恥じない道を! あの人は――ル・フェイは俺が止めてやる!」
そうして、ガラハッドはル・フェイの元へと向かった。
だが、彼は知らなかった。フリーウィルで待ち受ける者達の数々を‥‥。
●リプレイ本文
●集まった者達
フリーウェルまでの道行きの間、エステラ・ナルセス(ea2387)はかなり腹を立てていた。
「まったく、これから旦那様とのデートでしたのに‥‥こんな事をしたのは何処の誰ですの?」
折角の聖夜祭を、とかなり張り切っておめかしをしたという彼女。それが台無しにされたという事でかなりおかんむりの様子だ。
そのおかげか、襲いかかろうとするモンスター相手に容赦は一切ない。
「早くなんとかしないとね」
時折聞こえてくる声に思わず身を竦めるファム・イーリー(ea5684)。
その度にサウンドワードで理由を問うてみると、その多くが同じ生徒に襲われた悲鳴らしい。そして、それらは全てフリーウェルの方角だ。
「ねえ。そういえば地下への入り口ってどこにあるのかな?」
「いや俺は知らないが」
「えぇ、うっそー!」
ガラハッドの返事にファムは思わず声を上げた。
が、それももっともな話。そもそもガラハッド自身はフリーウェルの生徒ではない。付け加えるならば、今集まったメンバーの中にもフリーウェルの生徒は一人もいなかった。
「うう‥‥じゃあ、操られてる生徒さんを正気に戻して聞くしかないんだね」
「それにしてもル・フェイさんがこんなことするなんて‥‥」
ハロウィンで会った時には、あんなに楽しそうで優しい人だったのに。ポツリと悲しげに呟くシスティーナ・ヴィント(ea7435)。
そんな彼女の感情を読み取ったのか、ユーシス・オルセット(ea9937)が慰めるように頭を撫でた。
「どちらにせよ、行くんだろ?」
「勿論! 学校の混乱を放っておけないし、なんでこんなこと起こしたのか聞かないと。ね、ガラハッドくん!」
気持ちの切り替えの早いシスティーナに苦笑するユーシス。
そして、前を走るガラハッドの背中を見て、その気負いを少しだけ不安を感じるのだった。
「それで‥‥どこまで進むつもりだ?」
フリーウェルの入り口が見えたところで、ヴァル・ヴァロス(eb2122)がガラハッドに確認の意味を込めて問うた。
元々今回集まった目的の一つに、彼をル・フェイの元へ行かせる事にある。先程の質問は、その意志を今一度確認するために聞いたものだ。
それに対し、ガラハッドは躊躇なく答えた。
「あの人の――ル・フェイの元まで」
直後、彼らは騒動の只中にあるフリーウェルへと足を踏み入れた。
●喧騒と戸惑い
幾つもの悲鳴があちこちからこだまする。突然の友人の豹変に訳も分からず打ち倒される生徒達。生徒からの襲撃に反撃するわけにもいかない教師、もしくはその逆もあった。
そんな騒動に紛れて、モンスターが次々と人々を襲っていた。
「まずはここをどうにかしないとなりませんね」
エステラが取り出したのは、『フレイムエリベイション』のスクロール。力が増していくのを感じた彼女は、すぐにウインドスラッシュがモンスターに向けて放った。
狙ったのは、腐臭が目立つズゥンビだ。振り下ろそうとしたその爪を寸前のところで食い止める。
「えい!」
トドメを刺したのはシスティーナの一閃。
が、次を構えようとする前に今度は操られた生徒が彼女を襲う。
「システィーナ、危ない!」
飛び出したユーシスが、彼らの攻撃を喰らう。幸い素手による打撃だったからよかったものの、それでもダメージは残った。
さすがに同じ生徒相手に反撃することは出来ない。
「急げ、こっちだ」
とっさに彼女の手を掴み、ユーシスは逃れようと走る。
なおも追いかけようとした彼らに向かい、ファムがメロディに乗せて歌を歌った。
「――思い出して、本当の自分の心」
(「お願い、正気を取り戻して」)
祈る思いを込めて歌に乗せる。もし、これで正気を取り戻してくれれば、きっと助っ人となってこちらの戦力になってくれる筈だから。
ファムのその念が功を奏したのか、それまで虚ろだった彼らの目が徐々に正気の光を取り戻していった。
「お、俺達はいったい‥‥」
「なにが起きてるんだ?」
「お願い、どうかみんな協力して」
戸惑ってる生徒達に、小さなシフールがその周囲を飛び交いながら懇願した。圧倒的に数の不利を補うべく、ファムの頼み方も必死だった。
さすがにその姿勢に圧倒されたのか、彼らはそのまま合流した。
「これ以上はさすがに無理か」
軽く舌打ちするヴァル。
その後も、正気を取り戻した生徒や教師と一緒に動き、なんとか戦闘を回避しつつ進んでいた一行だったが、地下への入り口が近くなるにつれて敵の攻勢も激しくなっていった。操られた一般人の数もそうだが、モンスター達もこの場所に集中している。
「‥‥どうやらここが正念場、というところですね」
「うん」
表情を引き締めるエステラの言葉に頷くシスティーナ。先程自分を庇ったユーシスをチラリと確認し、今度は自分が彼を守ろうと決意を新たにする。
そして、ガラハッドへと向き直ると、グッと肩に手を置いた。
「ガラハッド君、ここは私達が食い止めるから。だから、その間に先に行って、ル・フェイさんとの決着をつけてきて!」
「え?」
「これ‥‥貸してあげる」
そう言って彼女はフューナラルを差し出す。
「これで決着をつけてきてね。私達の分まで」
「そうだ。ここは僕たちに任せておけ!」
傷ついた身体ながらも、ユーシスが拳を作ってガラハッドの胸に添える。何かを託すようにトン、と一回だけ軽く叩いた。
「‥‥ここは俺らが引き受けてやる」
戦闘の高揚で赤くなった眼のまま、ヴァルが無感情に呟く。
だが、纏う気迫は背筋が寒くなる程の凄みがあった。
「じゃああたしがガラハッド君について行くね。魅了してくる敵がいたら、あたしがなんとかするから」
任せて、と言わんばかりに彼の周囲を飛び回るファム。
そして。
「これを」
エステラから手渡されたのは黒色の勾玉。掌の中に渡され、そっと包み込むようにギュッと握り締める。
「幸運を呼ぶ黒勾玉です。事が終わったら、あなたの手で返してくださいね」
それは、暗に無事に戻ってくるようにとの彼女の願い。このまま行けば、決して無傷では済まされない事が確信しているから。
だから。
「‥‥分かった。全て終わったら、きちんと返しに来るよ」
「行ってらっしゃい」
頷き、ガラハッドは地下へと向かう。
その後ろ姿を見送ってから、彼らはくるりと向き直った。襲い来ようとしている群衆の波をここで食い止めるために。
●想いの連鎖
「全て‥‥断ち切る!」
前衛で飛び出したヴァルの短剣が、モンスター達を切り刻む。その勢いを後押すするように、システィーナも持ち替えた月桂樹の木剣で攻撃を仕掛けた。彼女の攻撃は、通常のモンスターだけでなくデビル相手にもダメージを与えた。
勿論、相手はモンスターだけではない。通常の人間達も襲い掛かってくる。
だが、さすがに彼ら相手に本気で攻撃を仕掛ける訳にはいかない。とにかくユーシスは、彼らの武器を叩き落とすことに専念した。
「みんな正気を取り戻せ」
何度も必死になって叫ぶが、言葉が届くことはない。ユーシスだけでなく、他のメンバーも懸命に正気を取り戻すよう訴えかけているが、どうやらいっこうに効果はない。
後衛でその様子を見ていたエステラは、ふうと小さく溜息をついた。
「仕方ありませんね。こうなったら‥‥」
彼女が取り出したスクロールは『イリュージョン』。一度念じて成功すれば、思いのままの幻影を見せることが出来る。
「上手くいけばよいですが」
勿論、相手も黙って見ているわけではない。
動きの止まった彼女に対し、容赦なく攻撃を仕掛けようと襲い掛かる。
「させない!」
素早く飛び出したユーシスが彼女を庇う。
そして。
「――戒めの幻影を見せよ」
途端、相手の動きがピタリと止まった。おそらく地面から伸びた手に雁字搦めになった幻影を見ているのだろう。その隙にユーシスが手刀を叩き込んで昏倒させた。
その向こうでは、同じようにヴァルが柄の部分で相手を気絶させていた。
「‥‥力加減が難しいな」
勿論彼らだけでなく、他にも合流した正気を取り戻した者達もいる。彼らもまたモンスター相手には手加減なく、そして同じ一般人を相手にはなるべく手加減して気絶させようとしていた。
「ここは通させないんだから!」
懸命に剣を振るうシスティーナ。
本心から言えばガラハッドの後を追いかけたい気持ちでいっぱいだが、そうすればこの波は一気に押し寄せてくるだろう。
なんとかここは食い止めなければ。
「まったく‥‥いつまで続くのでしょうか」
ウインドスラッシュを放つエステラだが、少し息切れが見え始めた。魔法力も無限ではない。このままの消耗戦が続けば、こちらが圧倒的に不利だ。
誰の表情にも疲労の色が見え始めた時。
「あっ!」
前衛の三人のうち、一番体力が低かったシスティーナが思わず剣を落としてしまった。その瞬間、無防備になってしまった彼女に向かって操られた生徒の一人が襲い掛かってきた。
「?!」
「システィーナ!」
ユーシスが庇おうと急ぐが間に合わない。
振り下ろされる剣が視界に入った途端、システィーナは思わず眼を瞑る――だが、訪れる筈の激痛がいっこうに与えられる気配はなく、不思議に思った彼女はおそるおそる眼を開けた。
すると、そこには呆然としている生徒の顔があった。まるで自分が何をしているのか分からないといった様子だ。
「え、えっと‥‥」
「俺はいったい?」
カランと音を立てて剣が地面に落ちる。
それを契機に押し寄せていた生徒達の動きが全て止まった。誰もが武器を落とし、ただ呆然と立ち尽くすのみだ。
「ひょっとして‥‥やったのか?」
ポツリ、とヴァルが呟く。それまで戦っていた者達も、突然の成り行きに黙って見守っている。
すると。
「みんなー!」
静寂を破るように大声を上げて飛んできたのは、ガラハッドについていったシフールのファム。嬉しそうな笑顔が全員にまさかの期待をもたらす。
そして、彼女の後から姿を現したのは。
「ガラハッド君!」
「ガラハッド!」
システィーナが。ユーシスが。
「‥‥ガラハッド君」
「ガラハッド」
エステラが。ヴァルが。
――仲間に名前を呼ばれ、少年は厳しかった表情を崩すように笑みを浮かべ、
「ただいま、みんな」
自分に向けてくる彼らの想いに答えたのだった。