【神の国探索】シリアスなお仕事

■ショートシナリオ


担当:葉月十一

対応レベル:5〜9lv

難易度:難しい

成功報酬:1 G 97 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月29日〜01月01日

リプレイ公開日:2006年01月14日

●オープニング

●聖杯の行方
「真逆、『聖杯』の安置されている『聖杯城マビノギオン』が、リーズ城だったとはな」
「リーズ城を知っているのかよ?」
 アーサー・ペンドラゴンは自室のテラスで、日課の剣の素振りをしていた。傍らには美少女が居心地が悪そうにイスに座っている。けぶるよう長い黄金の髪に褐色の肌、健康美溢れるその身体を包むのは白いドレス。誰が彼女を、蛇の頭部、豹の胴体、ライオンの尻尾、鹿の足を持つ獣『クエスティングビースト』だと思うだろう。
 かつてのイギリスの王ペリノアの居城に、彼女は四肢を分断されて封印されていた。しかも、聖杯によって人間の女性へ姿を変えられて。
 これにはクエスティングビーストを狙っていたゴルロイス3姉妹の次女エレインも、流石に騙された。
 彼女を無事保護したアーサー王は、キャメロット城へ住まわせていた。
「ここより南東に50km、メードストン地方のリーズという村を治めている城だ。城主は‥‥ブランシュフルールといったな。名うての女騎士だが、聖杯騎士とは」
「聖杯は然るべき時にならなきゃ姿を現さないんだろうぜ。でも、てめぇらが手に入れなきゃ、俺だって『アヴァロン』への門を開けられねぇんだからな」
 クエスティングビーストが真の姿を取り戻さない限り、神の国アヴァロンへの扉を開ける事は出来ない。
「しかし、この格好、何とかなんねぇのかよ?」
「グィネヴィアの趣味だ。もう少し付き合ってやってくれ」
 クエスティングビーストは王妃グィネヴィアに取っ替え引っ替えドレスを着せ替えられていた。アーサー王との間の子供のいないグィネヴィア王妃にとって、彼女は娘のように思えたのかも知れない。
「アーサー王、失礼します!」
 そこへブランシュフルールへの書状を携えて斥候に向かった円卓の騎士の1人、ロビン・ロクスリーが息急き立てて駆け込んできた。
「どうした!?」
「マビノギオンから火の手が上がっており、オークニー兵とおぼしき者達とデビルに攻められています!!」
「何、オークニー兵だと!? ロット卿は動いてはいないはずだ‥‥モルゴースか! デビルがいるという事はエレインもいるようだな。ロビンよ、急ぎ円卓の騎士に招集を掛けろ! そしてギルドで冒険者を募るのだ!!」
 ロビンはその事を報せるべく、急ぎ引き返してきたのだ。
 そして、アーサー王より、最後となるであろう聖杯探索の号令が発せられるのだった。

●呪――罪の代償
 その手勢は、決して多くはなかった。
 むしろ味方側の方が数の上では、明らかに勝っていた。
 聖杯騎士の見習いとはいえ、いつかは正式な騎士を目指して日々鍛錬を続けていたのだ。実力で劣っているとも思えない。
 だが、結果は――。
「こ、こんな馬鹿なッ‥‥!?」
 ガクリと膝を付くカルディス。
 身につけていた胸当てなどはすでにボロボロで、体中血だらけだった。もはや立つ力もなかったが、負けん気だけは強い彼の目は、いまだ強く目の前の存在を睨みつけていた。
「威勢のいい目付きだな。とっくに仲間は全滅だというのに」
 目の前の男が嘲るように嗤う。
 一見すると人間のような大柄でがっしりとした体躯。だが、頭部に生えた二本の山羊の角が、男が異形の存在――デビルであることを物語っている。背後に並んでいるのは、おそらくこの城に攻め入ったオークニーの精鋭騎士だろう。
 男の言葉通り、すでにこの場で意識のある味方の兵は自分だけだ。他の仲間は力及ばず、既に息絶えていた。
 悔しげに唇を噛むカルディス。
 女子と見間違われるほどの整った顔立ちは、血で汚れてようとも見る者をどこかハッとさせる。それはデビルとて例外ではないようで、にやりと下卑た笑みを浮かべたままその金髪を鷲掴み、顔を上げさせた。
 カルディスの表情が苦渋に歪む。
「気に入ったぞ。お前には死よりも辛い苦しみを与えてやろう。貴様の罪を暴いた上でな」
「な、にを‥‥ぐっ」
「さあ見ろ! 貴様の犯した罪を、な」
 無理やり向けさせた先、デビルの持つ魔法の鏡に己の姿が映る。
 が、それは今の自分ではなかった。
 虚ろな表情。手にしている愛用の弓。塗られた毒の鏃。狙ったのは――女性の姿をしたクエスティングビースト。聖杯騎士を目指す自分が、本来守るべき存在。
「う、嘘だっ!?」
 動揺に声が震える。自分はこんな事をした覚えはない。
 だが、僅かに過ぎった脳裏には、実際に見た事のなかったクエスティングビーストの姿が思い浮かぶ。
「たいしたもんだ。世界でただ一体のエレメントを殺そうとはな!」
 豪快に嗤う声がカルディスの耳にこだまし、ガクリと膝の力が抜けた。ドクンと大きく心臓が一度跳ねる。
 その様子をしばし眺めていたデビルは、呪いが浸透した事を確信すると、ゆっくりと立ち上がった。
「うぅ‥‥ぐ、俺は‥‥」
「精々足掻く事だ。どうやらお仲間が来たようだしな、俺を愉しませてくれよ」
 そう言い残してデビルが去った直後、カルディスの耳に自分を呼ぶ声が届く。
 そうして姿を現したのは、つい先日知り合ったばかりのパラの少年、エルリック・ルーン(ez1058)だった。お互い気の強い者同士、どこか他人とは思えず意気投合したことを思い出す。
「カルディス!」
「よ、よお‥‥遅かった、じゃねえか」
「おい、しっかりしろ!」
 抱き起こそうと伸ばした手を、エルはハッとして止めた。
 その理由をカルディス自身よく解っていた。視線を上げれば、エルの後ろに何人もの冒険者の姿が見える。おそらく彼が集めてくれたのだろう。
「あと、頼んだ‥‥ぜ」
 それが最後の言葉。
 エル達の見ている目の前で、カルディスはゆっくりと‥‥だが確実に山羊へと姿を変えた。それがデビルの呪いであるのは明らかで、冒険者達は見ている事しか出来ない事に歯痒い思いだった。
「絶対にデビルのやろう、ぶっとばしてやっからな!」
 憤るエルの言葉に、集まった冒険者達は決意を新たにマビノギオンを目指した。

●今回の参加者

 ea1257 神有鳥 春歌(30歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea3800 ユーネル・ランクレイド(48歳・♂・神聖騎士・人間・フランク王国)
 ea4815 バニス・グレイ(60歳・♂・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 ea5235 ファーラ・コーウィン(49歳・♀・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea6144 田原 右之助(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea6917 モニカ・ベイリー(45歳・♀・クレリック・シフール・イギリス王国)
 ea6954 翼 天翔(33歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 eb3653 ケミカ・アクティオ(35歳・♀・ウィザード・シフール・イギリス王国)

●リプレイ本文

●前――戦いの先触れ
 目の前で佇む山羊を見て、ユーネル・ランクレイド(ea3800)は携帯していた酒壷を取り出した。
「おうおう、聖杯騎士見習い様もこんな姿になっちゃあ形無しだな。酒でも飲ませてやらぁ、元に戻るんじゃねぇか?」
 おもむろに蓋を開けて中身を頭からかけようとしたところを、隣にいたファーラ・コーウィン(ea5235)が慌てて差し止める。
「ちょ、ちょっと待って下さい、ユーネルさん!」
「おっと」
 強引に奪ってしまえば、へへっと苦笑を洩らすユーネル。その様子から、どうやら本気ではなかったのだと知る。
 ファーラは少しだけ呆れたように溜息をついた。
 そして、改めて山羊となったカルディスへ向き直る。
「‥‥やはり呪いを解くには、教会へ連れて行くしか手段はなさそうですね」
「ゴメンね。こんな時に力になれなくて」
 集まったメンバーの中で唯一クレリックであるモニカ・ベイリー(ea6917)が、すまなそうに俯いた。呪いを解くべき魔法である『リムーヴカース』を覚えていなかった事に、少なからずの罪悪感を持ったようだ。
「いや、貴殿だけのせいではない。私も同じだ」
 神聖騎士であるバニス・グレイ(ea4815)が、すぐにフォローするべく言葉をかける。
 それはユーネルも同じで、俯くモニカに対して彼女のせいではないと繰り返した。口調もいつものべらんめぇなものではなく、妙に改まったもので。
 そんな中、ファーラが山羊となったカルディス相手に同じ目線まで下げる。
「カルディス様。すいませんが、しばらくお待ち下さい。必ず、敵を倒して戻って参ります」
 その様子を横目で見ながら、じっと前方を見据えたままのエルリックに対し、田原右之助(ea6144)がおもむろに声をかけた。
「よぉまた会ったな、チビ助」
「――何ッ!」
「おっと」
 反射的に振るった拳を軽々と避けると、右之助は苦笑まじりに頭をぐりぐり撫でまくる。
「んな怒るなって。別にそんな豆粒じゃねーじゃん」
「てめぇ‥‥」
「あらあら、そんな顔をしたら可愛らしいお顔が台無しですわよ」
 二人のじゃれ合いに思わず茶々を入れる翼天翔(ea6954)。
 当然、エルリックにとって相手が男でも女でも関係ない。キッとキツい眼差しを向けてから、がぁーっと吠え立てる。
「だぁれが可愛らしいお子様だ!!」
「そんなに怒らなくても」
「そうだぜ。別にチビって言ったワケじゃねえしな」
「今言っただろうが!」
 そんな小さな喧騒の中、一人偵察のために先行していたケミカ・アクティオ(eb3653)が舞い戻ってきた。彼女の報告によれば、どうやら敵はアザゼルとその配下と思しきグレムリンが数体、そしてアザゼルに率いられたオークニー兵。
「ここから先はずっと森になってるみたいなのよ。で、例の悪魔は森をちょうど抜けたところにある城壁のところで、別に逃げも隠れもしないで待ち構えてたわ」
 遠目だったけど、ハッキリと解ったの。
 彼女は自信満々にそう告げた。
 そうとなれば、まずは進む他に道はない。どちらにせよ、リーズ城から彼らを追い払うことが今回の任務なのだから。
「では行くか。ここで踏ん張らなきゃ後がねえからな。ロートルの意地、見せてやるぜ。ファーラ、お前も遅れんなよ?」
「はいはい。あまり張り切って無理はしないようにね」
 ユーネルの掛け声にファーラが苦笑を返す。
 そうして一行は、敵が待ち構えているだろう森を進むのだった。

●戦――待ち構える者達
 戦いは、すぐに幕を切って落とされた。
 突き進む彼らを待ち構えていたように、身構えた兵が彼らの前に立ち塞がる。殆ど間髪入れずに振り上げた剣が襲い掛かった。
「あまりガツガツ求めて来る男は嫌われるわよ」
 が、焦ることなく天翔が優雅にかわす。そのまま軽く一撃を叩き込んだ。悶絶して倒れる男を跨ぎ、次の相手に蹴りかかる。
 そんな彼女の後を追う形で、ファーラが腰に下げた剣を一気に引き抜いた。
「まずは彼らの足止めですね」
 魔法の武器を持っていない以上、デビルを相手にダメージを与える事は出来ない。魔法の助力を借りる事も出来たが、あまり全員で突っ込んでも消耗するだけだ。
 そう考えたファーラは、デビルに向かう仲間の援護に回ることにした。つまりオークニー兵達の攻撃をこちらに引き受けることに。
 そんな二人を援護するのは、上空から魔法を放つシフールの姿。
「ケンブリッジ武道会を総なめにした、惨状の氷棺使いの力ごらんあれ〜」
 ケミカが素早く放ったアイスコフィンが、襲い掛かる兵を次々と氷の棺の中へ閉じ込めていく。
 もう一人、上空にいたモニカからは敵の位置の指示が飛ぶ。
「あ、そちらから来てるよ!」
「了解」
 言われるまま、その方へ足を運べば現れるオークニー兵。問答無用で剣が振り下ろされる直前、彼女の繰り出した拳が綺麗に入った。
 その背後を取ろうとした兵も、逆にファーラに後ろを取られる格好となり、敢えなく薙ぎ払われた。
「あ、危ない!」
 間髪入れずに襲い掛かってきた男に対し、モニカが容赦なくホーリーを放った。呻き声を上げて、崩れ落ちていく身体を踏み越えて、なおも兵が近付いてくる。
 だがそれは、待ち構えていたケミカの魔法によって氷の中に閉じ込められた。
「おーみんなすげえな。この調子ならヤツのトコにも簡単に‥‥」
「いや、待て!」
 オークニー兵を仲間に任せて先を進んでいた右之助を遮り、バニスが立ち止まる。彼の手元にあった『石の中の蝶』が僅かに羽ばたきを始めた。
 時同じくして、モニカも感知する。デティクトアンデットによる効力の中、命持たぬ者達が近付きつつあることを。
「前方から四体、何か来てるよ! うち一体は‥‥すごく大きい、かな」
 強さまでは判定出来なくても、他の二体より大きさは段違いのため、なんとなく強そうだと直感する。そして相手が誰であるかという事も。
 彼女の言葉に即座に身構えるユーネルと右之助、バニスの三人。彼らに対し、モニカは急いでレジストデビルの加護を与えると、即座にすぐに撤退を図った。
「あ、あとは前衛任せってことでいいよね。それじゃあ私は逃げるから、後はよろしくね」
「――後はあの悪魔だけ、ってことでよろしくね〜」
 シフール二人、モニカとケミカは阿吽の呼吸でその場を後にする。
 直後、デビル達が彼らの前に姿を見せた。
「‥‥ふん、待ち兼ねたぞ」
 ニヤリと笑うのは、屈強な体躯を持つ大男。一見ジャイアントに見えなくもないが、人でない証として捩れた山羊の角を頭部から生やしている。
 そして、デビルに従う者もやはりデビルであり、こちらは蝙蝠の羽を持つ毛むくじゃらの小鬼姿のグレムリンと呼ばれる存在だ。
「とっととここから出ていってもらうぜ!」
 先手必勝とばかりにユーネルが先陣を切る。
 手に持つのは、右之助から借りたハンマーofクラッシュだ。重量があるのが少々難点だが、デビルにダメージを与えられる武器がこれしかないのだから仕方ない。
 少し遅れてアザゼルを狙って突進する右之助。
 途中、グレムリンがその進行を阻もうとしたが、バニスがおもむろに飛び出して敵を切りつけた。
「こちらは任せろ。二人はヤツを!」
「風よ――切り裂け!」
 それまで後方に控えていたエルリックが、ここに来て初めて攻撃を仕掛けた。デビル相手に魔法武器でしかダメージが与えられない事を知っていた為、これまで温存していたのだ。
「助かる。やるべきことをやっちまうぞ」
「わかった」
 雑魚とはいえ、デビル相手だ。油断一つが命取りになる。そのまま二人でグレムリンを引きつけるよう攻撃を仕掛ける。
「――俺の相手は貴様ら二人か。精々愉しませろよな」
 言うが早いか、アザゼルの身が黒い光に包まれる。と同時に、その光が右之助に向かって飛んでくる。
「くっ!」
 辛うじて避けたが、僅かに掠った部分から血が流れる。
 直後、間合いを詰めたユーネルがハンマーを振り下ろした。だが、余力の残っていた相手は、僅かに直撃をずらしてそのまま角で攻撃してきた。
 ほぼ相打ちの状態。
 しかし、思わぬ反撃にユーネル自身のダメージ以上に動揺も大きい。
「‥‥さすがに強い」
「だが、ここで引き下がる訳にはいかねえ。出来る事をやろうぜ」
「ああ」
 ユーネルと右之助は、互いに視線をかわす。
 そして。
「その程度か。ならばこちらから行くぞ」
 豪腕から繰り出される一撃が二人を襲う。一瞬、早く避けた後に響き渡る地面が砕ける音。
 その一瞬を逃さず、右之助が一気に反撃した。
 手にした武器と、素手による格闘。その二撃がアザゼルにヒットする。魔法武器であるハンマーはもとより、事前に天翔にオーラパワーを付与された拳が、相手にひとしきりダメージを与えた。
 次いで、ユーネルがハンマーを横薙ぎに振り払う。
「ぐぉっ!」
「とっとと倒れやがれ!」
「でやぁっ」
 再び攻勢を仕掛けようとした矢先。
「舐めるなぁっ!!」
 アザゼルの身体が再び黒く光る。
 直後、右之助の身を激しい光が覆う。痛みともつかない衝撃が彼を襲い、思わず呻き声を上げてその場に膝を付いた。
「次は貴様の番だ」
 ジロリと睨むと、思わずユーネルは後ずさった。そのままじりじりとにじり寄ってくる敵に、隙を窺いつつ間合いを保つ。
 その時、不意に上空からの衝撃がアザゼルを襲った。
「なにっ?!」
「セーラ様のご加護をっ」
 逃げ隠れたと思ったモニカが、アザゼルに向かってホーリーを放ったのだ。次いでエルリックが放った雷がその身を貫く。
「ぐぉぉぉっ!」
「アイツの仇だ」
 焦げ付く匂いが鼻をつき、ガクリと膝をついた。
 すぐに攻撃へ転じようとするが、
「――どこを見ている。こっちだ」
 聞こえた声に振り向くより早く、バニスが剣が振り下ろす。デビルスレイヤーの名を冠するだけあってその威力は絶大、屈強の太さを誇った腕が容易く斬り落とされた。
 驚愕に歪む表情。
 周囲を見渡せば、連れて来ていたグレムリン達はすでに倒されていた。わざわざモルゴースから借りたオークニー兵らも、どうやら冒険者達の前に屈したようだ。
「ふっはっはっ! 面白い、それでこそ戦いよ!」
 窮地である筈なのに、途端に笑い出したアザゼル。どうやら引く気はないようだ。
 勿論、それはこちらとて同じ。相手を見逃す理由もない。
「いくぜ!」
 ユーネルと右之助が同時にハンマーを叩きつける。それを避けるでもなく、アザゼルは一気に魔力を放ち、己の抵抗力を高めた――攻撃に対する抵抗を完全なものにするエボリューションだ。
 だが、僅かの差でそれは遅かった。
 一撃目を受けた直後に魔法が発動したため、二撃目もまたアザゼルにダメージを与えることとなり、それが致命傷となった。
「油断大敵だな」
「ぐっ‥‥!」
 呻き声を上げたアザゼルが、最後の力とばかりに捻じ曲がった二本の角で串刺しにするべく、ユーネルと右之助目掛けて突進する。それを見越していたかのように待ち構えたバニスのアルマスが右の角を、エルリックの放つ風の刃が左の角を折る。
 そして、天翔の大きく振り上げたオーラパワーを纏う脚が、目に見えぬ速さで脳天に一撃を喰らわした。
 そのまま、巨体のデビルは断末魔の声もなく地面へと倒れるのだった。

●解――全ての希望と未来へ
 教会へ連れて行き、呪いの解かれたカルディス。
 その開口一番は、
「クエスティングビーストは、聖杯はどうなった!?」
 だった。
「――ちゃんと無事に聖杯まで辿り着いたみたいだよ〜」
「うん、クエスティングビーストも無事だったね」
 モニカとケミカ、二人のシフールが彼の周りを飛び交いながら説明する。その言葉にようやく安堵の息を吐くカルディス。
 深刻になりがちな彼を和ませるべく、ユーネルがすっと肩を抱き寄せながら軽口でこう言った。
「そうそう。呪い解除の代金な、ちゃーんと貸しといてやるからな。きちんと返せよ」
「え、あ、あの」
「ま、今度からはしっかりしろよ。惑わされんなって事でちっとした授業料だぜ」
 尻馬に乗っかって、ふざける右之助が言葉を繋げる。
 その様子を見ていたファーラは、半ば呆れながら溜息をついた。苦笑を浮かべているのは、無事に元に戻ってホッとしているからだ。
「本当に無事でよかったわね。ふふ、せっかくの良い男が一人減るところでしたわ」
 にこりを妖艶に微笑む天翔を相手に、さすがのカルディスも真っ赤になる。
 慌てて視線を逸らせば、その先には友人のエルリックの姿が。
「‥‥神の国アヴァロンへの道が解放されたぜ。クエスティングビーストの手によってな」
「そうか」
 その言葉にどこか寂しそうな笑みを浮かべるカルディス。守るべき聖杯がなくなれば自分達の役目も終わるのだと、心のどこかが告げているのだ。
「神の国ってのは?」
 多くの依頼が出された今回、その理由を知りたいのは当然だろう。
 右之助がそう問いかけると、カルディスの口から思いがけない言葉が飛び出した。
「神の国ってのは――伝説の国、アトランティスだよ」