【子供の領分】ケンブリッジより愛を込めて
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■ショートシナリオ
担当:葉月十一
対応レベル:フリーlv
難易度:易しい
成功報酬:5
参加人数:10人
サポート参加人数:2人
冒険期間:01月06日〜01月09日
リプレイ公開日:2006年01月24日
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●オープニング
年迫る冬のある日。
ケンブリッジの景色は、すっかりと雪化粧を施されていた。しんしんと降りしきる白い粉雪が、静寂の世界によりいっそうの静けさを誘う。
そんな景色を寮の窓からぼんやりと眺めるアルは、隣で机に向かうナギに声をかけた。
「なあ」
「なに?」
「もうじき年も変わるよな」
「そうだね」
そこで一旦言葉が途切れる。
怪訝に思ったナギがペンを置いて振り向くと、どこか遠い目をしたアルがいた。
「‥‥アル?」
「ナギはさ、やっぱ将来は魔法使いになりたいんだよな」
「そりゃあ勿論。オレは父さんみたいな立派な魔法使いになるのが夢なんだ」
「――俺はさ、やっぱり剣士になりたい。誰かを護れる力を持った剣士に」
「‥‥そっか」
グッと木刀を掲げるアルに、ナギはただ頷くだけ。これまで幾つかあった冒険を経由して、幼馴染みの彼が剣士への願望を強くしていった事は間近で見て知っている。
それでも、これまで一緒にマジカルシードで頑張って来たから、という思いもナギにはあった。
だけど。
「なればいいじゃないか。別に卒業したって魔法使いにならなきゃって事はないんだし」
将来の進路を決めるのは、最終的には自分なんだ。
「そう、なのか?」
「そうだよ。一応、この学校は魔法に関して教える学校であって、その後進路を変えたっていいんだよ」
言われて、アルは目をパチクリさせた。
「なんだ‥‥そっか‥‥」
ホッとしたのか、安堵の息を吐くアルの表情から険しさが消える。
すると、今度は別のことが気になり始めたのか、しきりにキョロキョロし始めた。
「アル?」
「そーいや、ライトのやつの姿が見えねえよな。どこいったんだ?」
「ライトならいつもの場所に行ってるよ」
「はぁ? またか。つかこの雪ん中でマズくないか?」
「大丈夫だよ、今回はそれなりのボディガードもいるし」
「?」
ほくそ笑むナギに、アルはただ首を傾げるだけだった。
雪の降る森の中。
サクサクと足跡をつけながら歩く二つの影。ただし足跡は一つだけ。
一人は完全防寒の格好をしたライト。
そして、もう一人は。
「‥‥えへへ、また来ちゃった。今日は僕の友達、紹介するねー」
少年の前に姿を現した子供の姿を模した影――アースソウル。その相手に向かってライトが紹介したのは、全身雪の塊が二つ重ねの存在――というより雪だるまそのもの。
「えへへ、去年の冬に友達になったんだ。今年も雪が降ったから、また遊びに来てくれたのー」
エレメント相手にすっかり懐いてるライトに、あまり危機感を感じていない。
「あのね、もうすぐ年越しだから、一緒に遊ぼうかなぁ〜と思って」
にっこりと笑うライトに、二体のエレメントも同じような笑顔を返した。
――FORの校舎。
その女神像の前で静かに佇むガラハッド・ペレス(ez0105)。目を閉じて思い返すのは、ここ一年で起きた事件のこと。
そして、最後に彼女が起こした事件。
グッと拳を握り締め、もう一度女神像を見つめ直す。
「‥‥どんな事があっても、俺は騎士を目指すんだ。誰よりも立派な騎士を」
通り過ぎる人たちを気にする事なく、ガラハッドは誓いを新たに胸に刻むのだった。
「‥‥マリアお姉様、どうかなさいました?」
「いや、何でもない」
心配そうに顔を覗き込む少女に、マリアと呼ばれた女性はただ首を横に振る。
二人にそれ以上の会話はなく、互いに寄り添って歩いていく。その姿は、やがて降りゆく雪の向こうに消えていった。
「――なあ」
「ん?」
「やっぱここは、みんなを呼んでパーティでもすっか?」
突然のアルの提案。
「でも、みんな年の瀬で忙しいんじゃないかな」
「まあ、そこはそれ、集まれる連中だけでいいからさ。やっぱ、しんみり過ごすよりワイワイ騒ぎたいじゃん」
「それは人それぞれだと思うけど‥‥」
困惑するナギにアルが強引に決め付ける。
「いいんだよ! 色々と集まれば、それだけで。な、やろうぜ」
「ったく、しょうがないなぁ」
――かくして。
アルの提案により、ケンブリッジに残る者達で行う年越しの宴が催されることとなった。
●リプレイ本文
●真白な地平の決戦(熱闘編)
「そっちー! 行きましたよーっ! ‥‥ぉっと」
声をあらん限りに叫ぶソフィア・ファーリーフ(ea3972)の声が響く。その拍子に彼女の身体が思わずふらついたのは、雪合戦が始まる前に飲みまくったお酒のせいだろう。
穏やかでお淑やか、がエルフの定説なれど、そんなものをひっくり返す程の酔いどれっぷりだ。聖夜祭に騒げなかった分を取り戻すかの勢いで騒いでいた。
「今の私は天下無敵! どんな相手でもかかってきなさいですともさー!」
振り上げた右腕。
そこに掴むのは雪玉ではなく、ベルモットの入った杯。
「‥‥もう、しょうがないな〜」
そんな痴態をやや呆れた顔でジェシュファ・フォース・ロッズ(eb2292)が溜息をつく。その間にも、手にした雪玉を彼女の指示通りの場所へ投げつけた。
北方出身の彼にとっては、アルコールは身体を温めるもの。だからそんなになるまで飲むということはあまりない。それは強い弱いでなく、適量をきちんと見定めているということ。
「ホント、こういう時って大人はだらしないよね」
「何を言うのです! こんな時こそ、アルコールはどんどん飲むのです。いいですか、アルコールは熱を放出するので、寒さに耐えるには――」
「限度ってものを考えなよ〜」
ジェシュファの呟きを聞き咎めたエリス・フェールディン(ea9520)も、ソフィアと同じく酔っ払っている人間の一人だ。
彼女は、懇々とアルコールを摂取する理由を述べているが、うまく呂律が回っていない。
「むっ、そこですね!」
「いてっ! ちょ、何すんだよ?!」
加えて、気配を感じては雪玉をサイコキネシスで飛ばすものの、あらぬ方向――例えば味方めがけて飛ばしているのだ。後頭部に直撃したアルが思わず抗議の声を飛ばす。
だが。
「ご心配なく。錬金術は必須の学問です。必ず学んでくださいね」
「意味わかんねーよ!」
酔っ払い特有の支離滅裂な会話が続いていった。
対するFORを筆頭とした連合軍。
当初は学校対抗での勝負を提案してみたが、集まってみれば魔法学校の人間が過半数を占める。結果として魔法学校組対その他チームという形になった。
「よーし、向こうは酔っ払いさんがいっぱいで混乱してるね。突撃するなら今だよ!」
せっせと雪玉を作っていたシスティーナ・ヴィント(ea7435)が、相手チームの偵察から帰ってきた妖精達の報告にそう宣言した。
「よし、行くか!」
「おう!」
ガラハッド・ペレス(ez0105)の声にイシュメイル・レクベル(eb0990)が同調する。
その時、何かの気配を感じて振り向くと、ガラハッドへ向けて熱い視線を送っている妖精の少女――ニーナの姿を見つけた。不意ににんまりとした笑みを浮かべるイシュメイル。
「ねぇねぇ、ガラハッド君」
「なんだ?」
「妖精のニーナさんと何かあったのかな?」
途端。
ズルッと足を滑らせるガラハッド。
「な、何のことだっ」
「いや、ほら‥‥彼女、ずっとこっちを見てるんだもん」
指差した先に彼女の姿を見つけ、ガラハッドはすぐに顔を逸らした。ちょっとだけ頬が赤くなっているのは、寒さのせいだけではないだろう。
更に突っ込もうとしたイシュメイルだが、それは飛んできた雪玉によって遮られた。
「余所見したら駄目ですよ!」
そう言って奇妙な場所から玉を飛ばすマクシミリアン・リーマス(eb0311)。ミミクリーで伸ばした腕が、頭上から雪玉を降らせていく。
素早く身をかわす二人。
「なんのっ、負けないぞー!」
いい仕事したら雪像が作られるという話を聞いたばかりなので、張り切って雪玉で応戦するイシュメイル。対するマクシミリアンも、ミミクリーを使って足を伸ばしたりするかなりトリッキーな動きで避けたりしていた。
その攻防を横目で見ながら、先へ進もうとしたガラハッド。
「っ!?」
「行かせないよ!」
だが、彼の前にユーシス・オルセット(ea9937)が立ち塞がる。
本来ならFORの生徒である彼は、同じチームの筈だった。しかし、同じ騎士志望として多少なりとも意識していたガラハッドと対戦してみたい気持ちが強かったので、無理を言って別チームにしてもらったのだ。
「しばらくしたらイギリスを出るつもりなんだよ。そうしたら当分会えないだろう?」
ニッと笑うユーシス。彼の心意気を感じてこちらも笑みを返す。
そして次の瞬間、二人は雪玉を投げ合っていた。
「ユ、ユーシス頑張れ〜!」
その光景を見ていたシスティーナ。思わず敵チームであるユーシスの方を応援してしまい、同じように雪玉を作っていたサラン・ヘリオドール(eb2357)が苦笑しながら窘める。
「駄目じゃない。敵チームを応援してちゃ」
「あっ」
「あのね、システィーナさんはユーシスくんのことが好きなんだよー」
「まあ、そうだったの」
「ちょ、ちょっとライトくん!?」
思わぬところからライトの突っ込みが入り、真っ赤になって慌てるシスティーナ。その様子を楽しく思ったのか、クスクスと笑う。
そんなほのぼのとした光景とは裏腹に、旗付近では紅谷浅葱(eb3878)がせっせと近付いてくる敵に向けて雪玉を投げつけていた。
「いくぞ!」
「なんの!」
迫るナギの目の前に、粉雪をぶつける。固めなかった雪は目くらましとなって、ナギの行く手を遮った。
そして、近くの木をドンと強い力で叩く。
ドサドサドサッ!
「うわぁっ!」
「これでどうですか?」
木の上に積もった雪がナギの上に落ちて、彼はそのまま埋もれてしまう。すっかり身動きが取れなくなった相手を見て、浅葱はただにっこりと笑みを浮かべた。
そして――。
「ふう、まあこんなもんかな」
出来上がった雪像を前に、エルネスト・ナルセス(ea6004)は感嘆の息を吐いた。
何人もの仲間に手伝ってもらいようやく完成した像は、雲間から射し込む太陽の光に照らされて、どこか輝いて見える。その光景に作った甲斐があったとエルネストは満足する。
本当なら雪合戦で素晴らしい働きをした人物の表彰して、という意味を込めての雪像作りだったのだが、いざ始めてみればやはり記念という意味も込めたくなった。
だから。
「さすがに人数分作るのは手間だったがな。まあ、結局は全員が手伝ってくれたから助かったな」
作られた雪像は、今回集まった者達全員のもの。雪合戦で遊ぶ楽しげな様子が、まざまざと伝わってくる雪像群が出来上がったのだ。
そんな雪像の間からひょっこりと雪だるま――もとい、冬の精霊が顔を覗かせる。
「ま、すぐに溶けてしまうが、しばらくの間は‥‥頼んだぜ」
応えるかのように、精霊がゆっくりと手を振った。
●戦い終わり、無礼講なパーティへ
「ナギく、じゃなかった、またナギ先生―って呼んじゃいますね」
「うわっ! ちょ、お酒臭ッ」
「もう、何言ってんですかー」
酔いどれエルフことソフィアに絡まれるナギ。お酒の匂いがさすがにきつく、思わず顔を顰めていた。
そして、同じように絡んできたエリスが、いつもの調子で懇々と錬金術について聞いてきた。
「どうです? 錬金術の勉強は進んでいますか? 分からないところがあったら、今すぐにでも教えますよ」
「あ、いえ‥‥ほら、先生。今はパーティですから」
「何を言ってるのです。勉強に時と場所は関係ないのですよ!」
言いつつ、掲げるのはアルコールの入った杯。あまり説得力のない姿だ。
その様子を傍目に眺めながら、こちらは静かにお酒を飲むエルネスト。さすがに自分の酒癖を分かっているようだ。
「‥‥ん? 惚気て良いのなら、存分に飲むが‥‥」
「あーいやー」
相手をしているのはアル。酒癖を知ってるだけあって、エルネストの言葉に少しだけ冷や汗が出る。
「それで? あれからどうなった? ちゃんと三人とも元気でやってるか?」
「あ、うん。勿論。オレらは仲良くやってるぜ」
「そうか‥‥ならいい」
「――そういえば、アルくんは剣士希望ですか?」
マクシミリアンの言葉に深く頷くアル。
「ああ。やっぱさ、大事なヤツはこの手でしっかりと守ってやりたいじゃん」
グッと拳を掲げる少年を、どこか優しげな目で見る。
「そうですね。僕は神聖騎士ですが、魔法に重点を置いてます。そういう意味では、色んな剣士や騎士があっても良いですよね。学んだ事にきっと無駄なものなんてありませんから」
励ますような言葉を受け、アルの瞳はその意志をハッキリと固めたようだ。
「うわー、美味しいなー」
パーティのテーブルに並ぶお菓子を、イシュメイルは目を輝かせながら次々にパクパクと食べていく。お菓子に目のないお子様からすれば、今の現状はまさにパラダイスだ。
ふと、手に取ったジュースを口に含み、チラリと視線はテーブルの上にあったお酒を見た。
「‥‥ん、どうしたの? お酒飲みたいの?」
隣でスープを飲んでいたジェシュファに聞かれ、イシュメイルは慌てて否定する。
「ち、違うよ! 別に、そんな、好奇心でお酒を飲んでみたいな、とは考えてませんよ?」
「なんで子供がお酒を飲んだいけないんだろうねー。僕、よくわからないや」
「違うって。そんなこと考えてませんったら、考えてないいいいっ!」
ジェシュファの言葉を目一杯否定するイシュメイル。脳裏には叔母さんに怒られる様子が過ぎり、ぶるぶると頭を振り続けた。
そんな彼の様子にキョトンとするジェシュファだった。
「ねえ、ねえ。あれからニーナちゃんはガラハッドくんとどうなったの?」
「え? あ、その‥‥いえ、別に」
「よーし、じゃあその辺の進展も聞きたいから、今夜は私の部屋に泊まってね」
決めた、とばかりににっこり笑うシスティーナ。
実際招待をしておいて、夜遅い中を帰すワケにはいかない。
「ええ、いいんですか?」
「勿論」
「あ、ではお兄様と王子様は‥‥」
「ユーシスとガラハッドくんにお願いするから大丈夫だよ」
そんな女同士での話し合いが勝手に進む中、当の本人達は先の合戦の戦い振りを互いに健闘し合っていた。
「さすがに凄かったな」
「そっちこそ」
「今度会う時は、お互いに立派な騎士になって会おうな!」
「ああ。立派な騎士になってお前を驚かせてやるぜ」
「――ついでにニーナとも仲良くね」
「‥‥バッ、それは!?」
真っ赤になるガラハッドに、ユーシスは悪戯っぽい笑みを浮かべた。
――そうして宴は終焉に近付き、あちこちで酔い潰れたり眠気に耐えられなかった子供達が眠り込んでいた。
そんな彼らに凍えないよう毛布を掛けていくサラン。
彼女自身はお酒も程ほどに控えていたおかげか、少し火照るぐらいでまだ大丈夫だった。
「本当に色々なお話が聞けて楽しかったわ。どうか皆さんに幸運の精霊の祝福がありますように」
楽しかった事のお礼の意味を込めて、サランは彼らの頬にキスをしていく。
「‥‥すっかりなくなってしまいましたよ」
作り置いていたホットワインやホットミルクがなくなった事に、浅葱は思わず苦笑する。それほどみんながワイワイ騒いだのだろう。
ふと見れば、ハーフエルフの女性であるマリアと少女が、互いに寄り添うようにして眠っている。少しずれた毛布を、彼は気付かれないよう静かに掛け直してやった。
それでも彼女らは気付かない。
それは、少しだけでも彼女らが心を開いてくれた証かもしれない。他の人達と変わらずに接した浅葱に対しての。
「大丈夫。きっといつかは解ってくれますよ」
誰に言うともなく呟く。
機を待たずに降り始めた雪。
やがて、ケンブリッジを白い静寂へと包み込んでいった。