始まりはいつも、惨劇
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■ショートシナリオ
担当:葉月十一
対応レベル:3〜7lv
難易度:普通
成功報酬:2 G 4 C
参加人数:5人
サポート参加人数:2人
冒険期間:05月31日〜06月05日
リプレイ公開日:2006年06月09日
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●オープニング
キャメロットにある冒険者ギルドに平穏の時が訪れて半年――。
受付に座る大柄な男は、今日もまた静かな一日になるだろうと思い、退屈そうに欠伸をしていた。勿論舞い込んでくる依頼がなかった訳ではない。だが、どれもが冒険者達の手を煩わせる事のない些細な手伝いのようなものだった。
そんな折――平穏は、唐突に終わりを告げた。
大きな音を立てて入ってきた、突然の来訪者によって。
「――‥‥骸骨、か」
「そう、です‥‥どうかお願いです。村を、村を助けて下さい!」
男の手を握り、懸命に訴える若者。体中を傷だらけにしながら、彼はこのキャメロットまでやってきたと言う。
二日ほどの距離にある小さな村。
のどかで平穏だったその村は、突如として惨劇の舞台と化した。近くの森より現れたスカルウォーリアーの手によって。
一般人にとってそれは恐怖以外の何者でもない。ただ逃げ惑い、悲鳴を上げ、恐怖に怯えるだけだ。
モンスター達に法則はない。
ただ、声のする方に殺意を向け、手にする剣で命を奪う。生前は名のある戦士だったのだろう、村人の反撃をいとも容易く返り討ちにあったそうだ。
冒険者達に助けを、そう考えた若者は懸命の思いでここキャメロットまで走ったのだ。途中遭遇したモンスターの手を命からがら振り切って。
「それで、敵の数は幾つだ?」
男の問いに、彼は幾分自信なさげに答える。
「三体ぐらい、でしたか‥‥なにぶん怖くて」
まあそれも当然だろう。
「わかった。とりあえずお前さんは怪我の手当てをしておけ。その間にこっちは冒険者を集めておくさ」
依頼書を受け取ると、男は安心させるように肩を軽く叩いた。
「さて。‥‥これからまた忙しくなるぜ」
●リプレイ本文
●急使
「アンデッド‥‥うん、久しぶりの依頼だけど、気合入れないと」
ナロン・ライム(ea6690)がかける声に、ガブリエル・シヴァレイド(eb0379)が勢いよく頷く。
「村人達を助けるなの!」
こうして移動している間にも村人が危険に晒されているかもしれない。
そう考えた冒険者達は、セブンリーグブーツで急ぐ事を決めた。ガブリエルだけ手持ちになかったため、ローガン・カーティス(eb3087)から借りていた。
「ホント図々しいよね。自分が死んでるからって他所様の村に押し入って殺戮しちゃうとかさぁ」
憤るルディ・ヴォーロ(ea4885)の言。
そうは言っても、元々死んでいるからそんな思考力は無いに等しいのだが、その点に突っ込む仲間はいなかった。
その代わり、ヴァレリア・ロスフィールド(eb2435)の静かな一言が場を引き締める。
「何の罪もない村人を手にかけるとは‥‥速やかにあるべき場所に戻して差し上げましょう」
この大地に亡者の生きる余地など無い。
それが神聖騎士としての彼女の持論だ。
それきり、彼らは無駄口を挟むことなく、件の村へと急いだ。喋る時間すらも惜しむように。
●避難
村へ到着してすぐに、ローガンは上空へと飛び立った。
まずは敵の位置と数を確認するためだ。出来れば村人の居場所も把握しておきたいところだが、不安定な箒の上で集中力を要するインフラビジョンはさすがに危険だと感じた。
囮として敵を引き付けるにしても、うまく誘導出来なければ話にならないからだ。
「皆が上手く村人を避難してくれればいいのだが」
仲間を心配する彼の視界の中、夜の闇に紛れた白い骨が出現する。
「出たか‥‥こちらだッ、来い!」
フライングブルームを操ったままでは戦闘もままならない。
なるべく相手が気付き、そして攻撃が当たらない距離を保ちつつローガンは村の外への誘導を試みた。
村人から聞き、その建物を確認したルディ。
「よかったぁ、教会があって」
これなら今残ってる村人をなんとか全員収容出来そうだ。
「はーい、みんなこっちに急いで来るなの〜」
ガブリエルの誘導する声が響く。
あまり大きな声を出せば、敵に気付かれる可能性もあるのだが、今は急ぐ方が先決だった。その分ナロンが周囲の状況に注意深く目を光らせている。
そこへ周辺を見回って村人の避難を手伝っていたヴァレリアが戻ってきた。
「いかがでしたか?」
「この辺の村人達はあらかたこちらへ避難出来ました。ただ‥‥」
「‥‥そうですか」
ヴァレリアが言いたかったのか、ナロンは無言のうちに察した。
ここへ逃げて来れなかった人々。すなわち既に命を失った者達の姿も、彼女はまた見てしまったのだろう。
言葉を交わして後、彼女は少しだけ目を伏せた。
「ええっと、これで全員なんだよね?」
教会の方からルディが顔を出す。
その手には、ローガンから借り受けた『黄金の枝』が握られている。いつでも結界を作れるということだ。
遅れてガブリエルも教会から姿を見せた。
「怪我人さん達の手当ても大体終わったの〜」
「‥‥ならば、わたくしは参りますね」
スカルウォーリアーを結界の場所まで誘導する役目として、ヴァレリアがその場を離れようとした、その時。
視界の端で空飛ぶ箒の姿が目に入った。
「どうやらその必要はなさそうですね。ルディさん!」
「任せてッ!」
ナロンの言葉に、よしきたとばかりにルディが応える。
『黄金の枝』を地面に突き刺し、一心不乱に祈りを捧げる。その間も空を飛ぶローガンの姿が近付いてくる。彼を追う敵――事前に聞いていた数よりも多い五体のスカルウォーリアーの姿も。
「来たなの〜」
身構えるガブリエル。同じようにナロンやヴァレリアも、前線にて剣を持つ。
「――よし、出来たぁ〜!」
瞬間、確かに周囲の空気が一変した。
濃厚だった夜の闇の雰囲気が、どこか清浄さを得た感覚だ。そして直後にローガンが戻ってきた。
「来るぞ!」
彼の言葉を合図に、戦いの火蓋が切って落とされた。
●死闘
「先手必勝なの〜!」
殆ど直線に向かってくる骸骨を相手に、ガブリエルは速攻でアイスブリザードを放つ。吹雪の勢いが僅かに足止めとなり、その歩みを阻む。
結界の影響からか、避けようとする動きも既に緩慢だ。
その隙をヴァレリアは見逃さない。
「あなたがたの歩みは、ここで終わりです」
コアギュレイトの束縛がスカルウォーリアーの一体を絡め取った。続けざまに攻撃を仕掛けようとしたかったが、僅かに時間が足りず他の敵の攻勢を許してしまう。
だが、その攻撃を同じく前線にいたナロンが受け止めた。
「ここは突破させませんよ」
リュートベイルで相手の剣を弾き、すばやく切りつけた。その間にもヴァレリアは、先程の骸骨相手にピュアリファイを放っていた。
瞬間、僅かに苦悶の声を上げたかと思うと、白い骸骨は塵となって霧散した。
轟く爆音が夜の静寂を破る。
ローガンの放った炎の玉が、次々と敵にぶつかり爆発していく。相手の動きが緩慢だからこそ出来る芸当だったが、そうでなければすぐに間合いを詰められてしまっただろう。
「これ以上‥‥彷徨うのは止めろ。お前達が剣を向けるべき相手は、平穏に暮らす村人ではなかったはずだ」
理解しているとは思わない。
だが、どうしてもそう叫ばずにはいられなかった。死者となり、それでも剣を振るい続ける哀れな戦士達に。
「そうだよ〜、これ以上もう止めるなの」
彼を援護するようにガブリエルが真空の刃を放つ。相手の腕を断ち、首を吹き飛ばしても、なおも歩みを止めないスカルウォーリアー達。
その殺戮の意図を見出せないまま、冒険者達は応戦する。
唐突に、鋭い直線を描いて銀の矢が背骨に当たる箇所を射抜く。支えを失い、ガラガラと音を立てて崩れていく様を見ながら、ルディは小さく呟いた。
「後でその矢は回収させてね。さすがに高いんだよ」
脳裏に浮かぶ値段に、思わず彼の本音が出たようだ。
最後の一体が向かってくるのを、ナロンが静かに迎え撃つ。放たれたのは死者を浄化するピュアリファイ。既に弱まっていた相手にとって、それはまさに致命的だ。
ガランと剣が地面に落ち、敵の姿は跡形も無く消えていった。
「‥‥これで全部、ですかね」
あくまでも警戒を緩めないナロン。
それに対し、ローガンが付け加える。
「村にいたのはこれで全部だ。上空から確認した限り、だがな」
さすがに時間が足りなく、近隣までの調査はしていないとのことだ。
「ならばわたくしとローガンさんとで、一度周辺の調査をしてきましょうか」
「そうだな。村人達の安全も確保しないとならないから、他の三人はこの場で待機しておいてくれ」
「わかりました」
その後、二人はスカルウォーリアーが現れたとされる森のほうを重点的に調べてみたが、他にモンスターの姿は見かけなかった。
特に怪しい遺跡などもなく、あくまでも原因は自然発生らしい、という結論に終わる。
そして――。
●追悼
モンスター退治が完了したことを村人へ告げた時、彼らの間に思ったほど安堵の歓声は沸かなかった。
「無理もない、ですね」
暗い溜息をつくナロン。
あちこちで見かけた惨劇の痕跡。無残にも殺された隣人、知人のことを思えば、手放しで喜べるわけがない。
教会の中では、あちこちですすり泣く声や嗚咽に咽ぶ者の姿がある。
「これぐらいしか手伝うことがないが」
ローガンが埋葬の手伝いを申し込むと、最初は眉根を顰めていた村人達。
だが、彼が次に告げた言葉に、不承不承ながらもともに手伝うこととなった。曰く、血の臭いに惹かれて新たな魔物が現れないとも限らない、と。
神に仕える者、としてヴァレリアも弔いに力を貸した。
犠牲となった村人達の事を思うと、悔やんでも悔やみきれないが、今はただ静かに祈るしかない。
「どうか‥‥安らかに‥‥」
ルディやガブリエルも、一緒になって死んでしまった者達の埋葬を手伝った。
「もうこんなこと、嫌だよね」
「そうなの‥‥」
そうして――村人達は祈る。
助かった喜びと、死んでしまった者達に対する悼みと。
その中で一人、ナロンは誰にも言う事なく祈りを捧げる。自らが倒した筈の、スカルウォーリアーと化した者達に対しても。