償い
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■ショートシナリオ
担当:葉月十一
対応レベル:2〜6lv
難易度:やや難
成功報酬:1 G 69 C
参加人数:8人
サポート参加人数:1人
冒険期間:07月24日〜07月29日
リプレイ公開日:2006年08月01日
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●オープニング
かつて、盗賊を生業としていた男がいた。
人死にの仕事はなかったものの、男の悪名は近隣一帯に轟き、街の自警団すら手に余るほどだった。
が、やがて男は捕らわれる事となる。名のある冒険者たちの手によって。
そうして裁きは下され、流刑の身となった男。本来なら近親の者にも咎が及ぶところ。既に二親もなく、兄弟のいない男にとってそれは故郷に置いてきた妻だけだったが、男の必死の嘆願が聞き入れられ、妻にまで罰が与えられることはなかった。
――やがて年月は流れ、償いを終えた男は妻の待つ故郷の村へと帰還した。
当然、近所の者達からは白い目で見られ、後ろ指を差される日々が続く。
だが、男は特に文句を言うでもなく、黙々と仕事をこなしていた。それは、おそらく迷惑をかけた村に対する彼なりの償いのつもりなのだろう。
そして――。
「待って、あなた!」
扉を開けようとした男を、妻は必死で引き止めた。既に外は暗く、人通りもない。
その理由は、ここ最近起こっている事件のせいだ。どうやら近くの森にモンスターが現れたらしく、遭遇した村人の何人かが犠牲となっていた。かろうじて逃げ帰ったものの話では、灰褐色の毛皮で覆われた巨大な熊とのことだ。
幸いにもまだ村まで降りて来ないようだが、それもいつまで保つか誰にも分からない。
「‥‥このままでは被害は増える一方だ。ならば、少しでも腕に覚えのある俺が」
「でも、あなた一人では」
「頼む、退いてくれ。俺は‥‥少しでも村に償いたいんだ。俺のせいでこの村は周囲から色々言われてきたんだろう? お前だって色々と辛い目に」
「ええ‥‥でも‥‥」
「ならば行かせてくれないか。この村に対して‥‥そしてお前のために、少しでも償いをしたい。盗賊をしてたおかげで、腕っぷしだけは多少自信あるからな。それに、俺はこれぐらいしか」
グッと拳を握り締める男を見て、彼女は軽く目を閉じた。
ああ、きっと何を言ったところでこの人は行ってしまうだろう。かつての罪を悔やみ、村のために何かをしたいと常々思っていたのだ。その罪の意識のため、この人は行ってしまう。
それならば――彼女は決意した。
「‥‥解ったわ。あなたがそこまで言うのなら」
「そうか」
「でも――お願いだから、一人で行くのだけは止めて。せめて冒険者の方々の助力をお願いしましょう」
「冒険者‥‥」
一瞬、男が顔を顰める。
おそらく自分が捕らえられた時の事を思い出したのだろう。
「私が依頼をお願いします。だから、彼らが到着するまで‥‥待ってて下さいね」
「‥‥わかった」
頷く男に、妻は小さく安堵の息をつく。
翌日。
彼女はキャメロットのギルドへ向けて村を発った。急げば徒歩で一日の行程だ。
だが、村へ冒険者たちと戻ってきた彼女は知ることとなる。男がすでに森へと向かってしまったことに。
●リプレイ本文
●探索
鬱蒼と生い茂る森。それほどの大きさではないが、昼間でも光があまり届かないぐらいには深い。
決して見通しのよい場所とは言えぬ視界が、冒険者達の警戒をより強くする。
「たぶん、これが熊の通った獣道って事だな」
「そうですね。多分間違いありませんよ。村で聞いた目撃場所ともだいたい一致しますし」
メグレズ・ファウンテン(eb5451)が見つけた一本道。膝丈もある藪の中を、まるで踏み荒らしたように移動した痕跡がある。
その事を彼女がレイヴァート・ルーヴァイス(ea2231)に確認すると、出立前に知人から聞いた情報を思い出して頷いた。
彼女の忠告通り、村の者達に確認した熊との遭遇場所。
その場所へとやってきた冒険者達は、見事グレイベアの痕跡を発見したのだ。あとはこの道筋を辿っていくだけ。
「やっぱり旦那さんは、熊の後を追ったのかな?」
心配そうに呟くティアラ・フォーリスト(ea7222)。
この森に入る前に見た奥さんの様子を思い出し、彼女はどこか憂鬱だった。道中、何度も目を凝らしながら持ち前の土地勘を駆使して一行を導くのだが、いまだ男の姿も見えない事に不安を覚えていた。
「元盗賊の男も熊を狙っているのだ。どちらにせよ熊を見つける必要があるならば、このまま熊を追っていけば自ずと彼とも出会えるだろう。」
クリムゾン・テンペスト(ea1332)が冷ややかに言い放つ。他者に対してクールな態度を取っている彼らしい言い回しだ。
その発言に同意するようにコウキ・グレイソン(eb5501)も言葉を紡ぐ。
「熊が出没するという情報は、俺達も彼も同じはずです。ならば、後は獣道や足跡から追っていけば形はどうあれ彼とも出会えるでしょう」
どちらにしても彼より先に熊と遭遇する必要はありますが――そう胸中での呟きを、彼は声に出さなかった。
それは、冒険者の誰もが思っていたことだから。
男の無茶な行動は確かに褒められたものではない。だが、その心情は多少なりとも理解は出来た。
「償い‥‥か‥‥」
思わず呟いたストレー(eb5103)にティアラが声をかける。
「ん? ストレーさん、何か言った?」
「いや‥‥なんでもない」
通訳を受け持ったティアラにとって、自分のどんな一言にも耳を傾けていたのだろう。慌てて首を振ったストレーは、もう一度気にしなくていいと彼女に告げた。
その時、先頭付近を歩いていた藤村凪(eb3310)が突然声を上げた。
「なあ、これって爪痕やないか?」
彼女が指差したのは、周囲より幾分太い樹の幹。
そこには五本の線がちょうどクロスするように削り取られた痕があった。それも比較的新しいものだ。
おそらくここより先が今回の敵――グレイベアのテリトリーなのだろう。
その事に気付き、彼らはいっせいに口を閉ざした。これからはよりいっそうの警戒を心掛けながら、冒険者達は注意深く進んでいく。
どんな些細な物音すらも聞き漏らさないよう。周囲の僅かな動きも見逃さないよう。
そうして、どこからかくる水の匂いが彼らの鼻腔を擽った、次の瞬間。
森を震わせるような雄叫びが轟く。
直後、彼らは弾けるように駆け出していた。
●共闘
僅かに開けたその場所は、どうやら水場のようなものらしい。
「あそこに!」
声を上げるアルフェリア・スノー(ea0934)。
彼女が指差した先に見たのは、興奮したグレイベアが凶悪な爪を今にも振り下ろそうとしている姿。その矛先は尻餅を付いて倒れている男。
「させないわ!」
とっさに放ったムーンアローが弧を描いてグレイベアに命中する。
一瞬体勢を崩すが、さほどダメージを受けた様子はない。それでも冒険者達が男との間に割って入る時間稼ぎには十分だった。
次いで、攻撃を仕掛けたのはストレーと凪だ。
「藤村‥‥相手の目や足を‥‥狙うよ」
「任せてや」
言いつつも、彼女は少し不安げに矢を構える。
ストレーの矢がまず先に。
続く形で凪が、ストレーが矢を番えている間に矢を放つ。グレイベアが思わず両腕で振り払おうとしたが、狙いを定めた矢が足へと刺さり、よろけた巨体が後退る。
彼らが足止めをしている間、ティアラが男の怪我をポーションで癒していた。
「お前らは‥‥」
「じっとしてて下さいね」
「は、離せ! 俺は――」
どうやら自分たちが冒険者だと気づいたようだ。
反射的にティアラの手を振り解こうとしたのを、メグレズが有無を言わさず押し止める。
「待ちなさい」
その腕を掴み、彼女は静かに諭す。男の家族――妻がどれだけ男のことを心配しているのかを。
だが、冒険者に対して何らかの思いがあるのだろう、男の頑なな表情は変わらなかった。なおも前に出ようとするのを、ユウキが腕を伸ばして食い止める。
「――この戦いは、貴方一人のものではない」
男の無謀を見逃すことは出来ない。
だからこそ、レイヴァートが共同で戦うことを提案してみた。
「あなたがしないといけないのは、一人で無理して命を無駄にする事ですか? 村の為、奥さんの為にグレイベアを倒し、危機を回避する事ではないのですか?
その眼差しは真摯で。
それが男には解ったのだろう、固く唇を噛んで俯いた。
「お前たちと?」
「ええ。貴方と一緒に、私達も熊を倒すお手伝いをさせてくれませんか?」
もう一度。
メグレズが静かに言葉を紡ぐ。
すると。
「――わかった。一緒に‥‥ヤツを倒してくれ」
「喜んで」
傷の手当てを終えたティアラが、にっこりと笑みを見せる。
「では――美しく始めようか」
クリムゾンの掛け声と同時に、彼の手から作り出された炎が周囲を明るく照らした。
●戦場
グレイベアの腕をギリギリでかわすレイヴァート。見切ったつもりだったが、避け切れなかった髪の切れ端が宙を舞う。
思わず冷や汗が首筋を伝うが、敵の注意が自分に向いた事で彼は合図を送った。
その視線を受け、メグレズが手にしていた両刃の剣を勢いよく振り下ろす。
「撃刀、落岩!」
「グォォォ――ッ?!」
重量のある威力がグレイベアの皮膚を一閃した。
唸り声が大気を震わす。
「やったか?」
クリムゾンが遠目でそう呟けば、それを否定するアルフェリアの声。
「いえ、まだよ」
ムーンアローを放ってみるものの、あまり効果はない。むしろ手負いになったおかげで、ますます凶暴さが増していく。
我武者羅に腕を振り回し、咆哮とともに爪が宙を切る。
「‥‥これでは近づけないですね」
オーラボディを纏ったユウキが、間合いに踏み入るタイミングを計りかねて顔を顰める。同じように男の方も近付くことが出来ずにいた。
なんとか動きを止めることが出来れば。
誰もがそう考えていたその時、後方で静かに唱えていたティアラの詠唱が完成した。
「――大地の精霊よ、我に力を与えたまえ‥‥みんな、気をつけて!」
その声に、誰もがハッとなってその場から離れる。
直後、彼女の体が茶色の光に包まれたかと思うと、グレイベアの巨体が上空へと舞い上がった。そのまま体勢を立て直す間もなく、ズドーンと大きな音を立てて地面に落ちた。
「今だ!」
ユウキの叫びが森の中に響く。
弾かれたように飛び出した冒険者たち。
繰り出した剣戟の数々。放たれる矢の雨。光が闇を貫けば、躊躇いのない爆音が響き渡る。
そして。
示し合わせたように譲られた最後の一撃を、男の一太刀が締め括る。そのトドメの斬撃は、見事にグレイベアの首を跳ね飛ばした。
「‥‥やった、のか?」
信じられないといった様子で、男がその剣に感じた手応えを確認している。
常に後衛に控えていたクリムゾン。
男が目的を達した姿を見て、彼はぼそりと呟いた。
「師匠は言った――魔法使いは隠し味」
●理解
「‥‥どうして理解し合おうとしないの!? なんで相手の事、分かろうとしないのよ!?」
村人達のあまりの頑なな態度に、アルフェリアは思わず声を荒げた。その剣幕に思わず圧倒される村人。
彼女の剣幕に、まあまあと落ち着かせるティアラ。
とはいえ、彼女の気持ちも似たようなものだったから、ぐるりと村人を見回して言葉を続けた。
「あなたたちが警戒するのも凄くよくわかる。でもね、彼も彼の奥さんも、仲良くしたいと思ってるよ」
言いたいことはいっぱいある。
でも、それは口を出てしまったら酷い言葉になりそうで、彼女はそれを懸命に抑えていた。
「‥‥また何かするんじゃないか、とか思ってるんだろうけど‥‥きっとそんなこと、ないよ‥‥。だって、勇敢に戦った‥‥村のために必死になって‥‥」
だから、ストレーが懸命に言葉を紡ぐのを、通訳しながら自分の言葉のように村人へ伝える。
一瞬、沈黙が流れる。
そんな気まずい雰囲気になりかけたのを、凪が独特の口調で和ませた。
「そうやな。まずはお互い話してみな、何も始まらせんやわ」
にこりと微笑むと、じっと俯いていた男の手を取って前へと連れ出した。もう片方の手には、先ほど討ち取ったばかりのグレイベアの首。
「彼が村を護るために戦ったのは事実。今すぐとは言いませんが、どうか彼も村を思う一人の人間として扱っては頂けないでしょうか?」
メグレズがそう付け加える。
そして最後に一つ、ユウキが男に向かってこう促した。
「貴方も、まずは言葉を以って謝罪するべきですよ」
ハッと顔を上げる男。
村人の視線がいっせいに彼へ注がれる。集中する幾多の瞳の中、男はグッと拳を握ると意を決したようだ。
誰もが見守る中、男はゆっくりと頭を下げ――、
「あの頃は本当に悪かった、どんな謝罪でも負おう。だから、どうか‥‥許して欲しい」
男の声が響き渡るのを、冒険者達は固唾を呑んで見守った。