人の恋路は馬で蹴れ!

■ショートシナリオ


担当:葉月十一

対応レベル:1〜3lv

難易度:普通

成功報酬:0 G 71 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月11日〜08月17日

リプレイ公開日:2004年08月23日

●オープニング

 その日。
 ギルドの受付に座っていた壮年の男は、厳めしい顔を更に苦悩にしわ寄せて溜息をついた。その手には一枚の依頼書がヒラヒラと舞っている。
 そのうちに近付く冒険者達に気付き、ゆっくりと顔を上げた。
「‥‥ん? ああ、よく来たな」
 男は冒険者の視線に、思わず苦笑をこぼす。
「ああ、この依頼か。単なる暴れ馬退治なんだがな‥‥」
 そう呟き、彼は内容を説明する。
 ここキャメロットから少し離れた郊外に、夜景の綺麗な場所がある。そこは、昔から恋人達の語らいの場所として知られていたのだが、ここ最近、訪れる恋人達を度々暴れ馬の集団が襲い、怪我を負わせているというのだ。しかも結果として、襲われた恋人達はその後別れてしまうという。
 噂によれば、その場所でこっぴどく振られた男による差し金だとか。
「まあ、確証があるわけじゃないがな。ただ、馬の群れが通り過ぎた後、高笑いする男の姿が何度か見かけたって話だ。屈強そうな体格をしていたから、誰も関わり合いを怖れて見ない振りをするらしいがな」
 振られた腹いせにしてはさすがにやりすぎだ。
 今はまだ軽傷者だけだが、そのうち重傷を負う者が出てもおかしくない。
「馬に関してはお前らなら十分対処出来るだろ。問題は‥‥その男へのお仕置きだな」
 なんとか改心させてくれ。
 男は最後にそう締め括った。

●今回の参加者

 ea0134 ルキフェル・リュクス(27歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea1137 麗 蒼月(30歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea1274 ヤングヴラド・ツェペシュ(25歳・♂・テンプルナイト・人間・神聖ローマ帝国)
 ea1355 シスカ・リチェル(21歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea3111 ウィリアム・ファオ(22歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea3519 レーヴェ・フェァリーレン(30歳・♂・ナイト・人間・フランク王国)
 ea3993 鉄 劉生(31歳・♂・武道家・ジャイアント・華仙教大国)
 ea4484 オルトルード・ルンメニゲ(31歳・♀・神聖騎士・人間・フランク王国)
 ea4756 朱 華玉(28歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea5235 ファーラ・コーウィン(49歳・♀・ファイター・人間・ノルマン王国)

●リプレイ本文

●待ち合わせ
 そっと食後の飲み物を口に運ぶ麗蒼月(ea1137)。その口元には満足げな笑みを浮かべていた。
「馬‥‥捕まえて、非常食、に‥‥するの‥‥」
「ん? 何か言ったアルか?」
「‥‥いいえ」
 対面に座るウィリアム・ファオ(ea3111)の言葉に、彼女はただ静かに首を振る。その様子に困惑しつつ、今の状況にも困惑するウィリアムだった。
 何故。
「あのう、一ついいアルか? どうして夕方から待ち合わせなんて」
「その方が‥‥真実味、が‥‥ある、から」
 質問の途中で、蒼月がキッパリと答える。その有無を言わせぬ雰囲気に、ウィリアムもそれ以上の追求は控えた。
 偽装とはいえ夕方からの待ち合わせを提案した蒼月。案の定、デートという名の無料ディナーを存分に堪能したところだった。
(「‥‥まあいいネ。このまま偽装と言いつつイチャイチャすればいずれは」)
 ムッフッフ、と心の中でほんのりほくそ笑むウィリアム。果たしてそれがうまくいくかどうかは、神のみぞ知る。蒼月も蒼月で、『非常食』と名付けた馬を空想の中でうっとりと眺めていた。

 ――その前にきちんとお馬さん退治しようね、お二人さん。

●そして、誰もいなくなった。
(「なんつーか、ほんとに他人事とは思えないな、今回の敵は‥‥」)
 ギルドから聞いた男のプロフィール。自分と多々重なるところを覚えた鉄劉生(ea3993)は、内心で大きく溜息を吐いた。
 が、いつまでも落ち込んではいられない。いくら振られたとはいえ、人様に迷惑をかけるようなヤツは言語道断だ。
「見つけたら鞭でビシバシだ! ‥‥お、そこのお二人さん、今日はちとここ立ち入り禁止だぜ」
 視界に入った一組のカップルに、慌てて気持ちを切り替えて劉生は声をかけた。

「――そういう事だ。今日のところはお引き取り願いたい」
 紳士な態度でカップル事情を説明するレーヴェ・フェァリーレン(ea3519)。
 最初こそ渋っていた彼らも、レーヴェの派手な顔立ちに女性の方が素直に頷いていた。ちょっと顔を赤くする彼女に、さすがに彼はいい顔をしない。
 が、どうやらこの組み合わせは女性の方が上位にあるらしい。彼女のツルの一声に、カップルはそのまま立ち去っていった。

 一方では、シスカ・リチェル(ea1355)は辻占いの卓を出して、通りかかる恋人達に不吉な占いを告げていた。
「あ、ちょっとそこのお二人さん。今日の二人の運勢はトリプル大凶。恋が踏みにじられる波乱の予感が出てるわよ」
 いきなり通りすがりに不吉な事を言われ、恋人達は途端にムッとした顔をする。
 が、そんなコトに構わず、シスカはさらに言葉を続けた。
「けれど、災いから逃れる手段はあるわ」
「え、ちょっと‥‥」
「なに」
「大丈夫、ここから離れれば災いは降り掛からないのよ」
 戸惑う彼らを、彼女はそう言って強引に避難場所へと誘導していく。それこそ有無を言わせずに。

 そうして、件の場所から一般人の姿は見えなくなってから、冒険者達はそこに罠を仕掛けていった。先頭に立ったのは馬の習性に詳しいファーラ・コーウィン(ea5235)。
「まずはリーダー役の馬を止めるのが一番いい方法ですね」
 彼女の指示の元、地面にロープを張っていく。それを手伝いながら、ルキフェル・リュクス(ea0134)は今回の相手に少々腹を立てていた。
「詳しい理由はわかりませんが、女の人に振られたという理由で関係ない人に危害を加えるという考えは改めていただきたいです。全く迷惑も甚だしい。」
「ふっ、所詮は哀れなプロレタリアート。この我が輩の手で‥‥」
「どこ触ってるんですか!」
「あうちっ!」
 ロープを張りつつ、ファーラの太股を触るヤングヴラド・ツェペシュ(ea1274)を、彼女はバチンと平手打ちした。
 が、そこは『秘密結社グランドクロス』により改造された怪人(と思い込んでいる)ヤングヴラド。懲りずに他の女性に手を出しては、返り討ちに遭い続けた。

 かくして。
 陽がすっかり落ちる頃には罠も完成し、後は待つだけとなったところで、囮の二人が姿を現した。

●暴れ馬御一行
 暗くなった場所で蒼月とウィリアムはぴったりと密着する。
「さっき食べたご飯、美味しかったアルな」
「これから‥‥桜肉、食べ‥‥れるかしら‥‥」
 例え会話が色気より食い気であろうとも。傍目から見れば、完全にいちゃつくバカップルぶりだ。
 結果、どうやら相手を引っかける事が出来たようだ。

 ドドドドドドォォォ――。

 遠くから聞こえて来る足音。
 あちこちの物陰に身を潜めている冒険者達はハッと身構える。
「来たか」
 オルトルード・ルンメニゲ(ea4484)が静かに立ち上がる。罠があるとはいえ、そこから漏れる馬もあるだろう。その対処をする為に彼女はしっかりと目を光らせた。
 音を立てて馬の群れが近付いてくるのを、すでに夜目にもはっきり見えた。そのままいちゃつくカップルに向けて突入しかけたところへ、先頭の一体が急にバランスを崩して倒れた。
 足下に張られたロープが絡み合い、次いで何頭もの馬が転げる。
「来たアルね」
 ハッと振り向いたウィリアムが、念じると同時に辺り一帯に濃い霧が展開する。そこに併せてルキフェルが足下へウォーターボムをお見舞いした。
 そのまま捕らえようとしたものの、次から次へと馬が押し寄せてくるのでさすがにその暇がない。
「それじゃあ今度はこれよ!」
 尚も脚を止めない暴れ馬に対し、シスカがファイヤーボールを投げつける。爆発は馬群の中央で発生した。
 さすがに動揺する馬たち。
 その隙にヤングヴラドはなんとか宥めて捕獲していく。
「ふむ、売り払うにはなるべくキズモノではない方がいいからな」
「‥‥子供の、悪戯、には、お仕置き、が‥‥必要‥‥」
 どさくさに紛れて触る彼に、蒼月の容赦ない拳が落ちた。
 多少大人しくなった馬の背に、ひらりと宙を舞ってファーラが飛び乗る。とっさに振り落とそうと撥ねる馬の耳元に顔を近付けた。
「そう、ゆっくりと落ち着きなさい。いい子ね」
 馬に罪はない。
 そんな彼女とは対照的に、なおも暴れようとする馬にレーヴァが仕方なくトドメを刺す。
「残念だが‥‥仕方ないな」
 冒険者と暴れ馬。
 暗闇と霧に覆われて混沌とする現場の中、一人その喧騒から離れた場所で観察する人間が居た。その影をいち早く察したのは、朱華玉(ea4756)だ。
「あ、あの‥‥あの馬達貴方のですよね! そうですよね!!」
 どこか目をキラキラさせた乙女の瞳で尋ねる彼女に、その男は些か驚きつつもまんざらでもない顔でニヤリと笑った。
「おう、そうだ! あれらは俺んトコの馬でな、俺の言うことならなんでも聞くんだぜ」
 自慢げに答える男に、華玉の目がキラーンと光る。サッと目配せして、近くにいる劉生に合図を送る。
「あんなに馬持ってるなんて素敵ですね! あ、しかも筋肉すごい〜♪ 抱きついていいですか?」
 言いつつ、ジリジリと後退する彼女を、特に怪しむ様子もなく――むしろ久々に女性に声をかけてもらい、どこか舞い上がっている男は、「どーんとこい!」などと胸を叩いた。
 ほぼ同時に。
 勢いよく突っ込んだ馬走拳を、男の腹にお見舞いした!
「人の恋を邪魔して悦ぶような暗い趣味持った男に、このアタシが惚れると思ったかこの」
 その後叫んだ彼女の科白は、ことごとくが検閲削除な内容だった。
「おっと逃がすかよぉ!!」
 さすがに鍛えられた身体であり、一撃では倒れなかった男がそのまま逃げようとしたのを、劉生が放ったホイップで脚を絡めて動けなくした。
「く、くっそぉー!」
「‥‥やれやれ、彼女がいないのがなんだ、辛いかも知れないがお前のような思いをしてるのは、世の中に五万といるんだ。自分だけと思うんじゃねえ!!」
 容赦のないビンタ。
 言ってて、ちょっとだけ劉生自身も悲しくなったりもしたが。

●馬に蹴られた男
 結局、捕らえた男の言い分を最後まで聞いていたのは、シスカただ一人。
 他の連中は、捕らえた馬を「やれ食料だ」や「やれ自分が欲しい」などと取り合っていた。中にはヤングヴラドのように、セクハラをしまくったあげく、華玉相手に、
「あら? 君が噂のヴラド君ね。彼女いるらしいのにいいのかな〜? 逆に貞操落としちゃうかもよ〜?」
 あわや逆にセクハラをされてしまい、今はレーヴェの手によってしっかり地面に埋められていた。
「そこで死ぬまで反省していろ!」
「‥‥くすくす。ねえ、それってあたしのため?」
 問われ、レーヴァは思わずソッポを向いた。
 まあそれはともかく。
「はい、そこうるさいわよ」
 作り出された炎で仲間を牽制しながら、彼女は辛抱強く男の話を最後まで聞いた。
「大丈夫、シスカがちゃんと受け止めてあげるよ」
 そもそも、誰も彼の話を聞いてくれる人がいなかったから、こんな事を起こしたのだろうし。そんな正義感に燃える彼女の思いが伝わったのか、男は涙ながらに切々と訴えた。どんなに非道い仕打ちでこっぴどく振られ続けてきたのかを。
 それを脇で聞いていた劉生も、何故か涙ぐんでいた。
「悲しいのはわかるけど、もう二度とこんな事したらダメだよ。過去は洗い流して、新しい恋を始めようよ♪」
「そうです。こんな事をする暇があれば自分を磨いて新しくあなたを愛してくれる女性を探すなり出来るでしょうに」
 そうルキフェルが付け加えれば、
「そうそう、世の中にはマニアックな女性もいるネ。そういう奇特な人を捜すヨロシ」
 隣からチャチャ入れるウィリアム。
 あまりフォローになってないと思うんだが、とはその場にいた全員の心の声。とはいえ、男は今感動しきりの最中だから、あまり突っ込むのは控えておこう。
「さあ、あとはお馬さんのバーベキュー食べようね♪」
 ‥‥ああ無情。
 お亡くなりになった馬達は、冒険者の手によってその場で食料にされてしまいました(合掌)。