マッチョ ざ Ripperとエロスな剣
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■ショートシナリオ
担当:葉月十一
対応レベル:フリーlv
難易度:やや難
成功報酬:0 G 93 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:09月01日〜09月08日
リプレイ公開日:2006年09月10日
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●オープニング
●それは、とある山中で起きた悲劇
凶悪な賊が出ると地元で恐れられている山道。
事実、何人もの旅人や商人が山賊に襲われ、命までは取られないもののきれいに身包みを剥がされていた。
そして、今日もまた賊は獲物を求めて道中へと姿を見せる。
相手はたった一人の、旅人のような男。
だが、その日悲劇に襲われたのは男の方ではなく――山賊の方だった。
「さあて、おとなしく身包み全部置いていってもらおうか!」
リーダー格と思しき者が旅人の男に向かって恫喝する。突き付けられた剣とともに向けられた迫力は、一般人ならば身震いして即座に降参するだろう。
しかし、男は聞く耳持たない風に黙ったまま。
すでに夕暮れを過ぎた為、周囲はかなり暗い。男の背が高いことまでは分かったが、その詳細までは暗がりでよく見えていなかった。
もしこの時、男の姿を確認出来たならば、山賊たちは一目散に逃げただろう。
それが彼らにとっての敗因だった、と――のちに捕らわれた山賊たちは、涙ながらに悔やむこととなる。
そして今、悲劇が起きた。
「おい、何黙ってやがるんだ! さっさと出すモンを――」
「ハッハッハッ、貴様らのような悪党にくれてやるものなどないわ!」
「なにぃっ?!」
「全てを曝け出した俺の、裁きの鉄槌を喰らうがいい!!」
がばっとマントを払い除ければ、そこには鍛え上げられた屈強な身体があった。汗を弾いてテラテラと光る肌が、闇の中の月明かりに浮かぶ。
言葉通り――男は一切の衣類を身に纏っていなかった。曝け出した裸体を覆うのは、何故か股間に漂う霧のみ。
ギョッとする山賊たち。
そして、男が手にするピンクに彩られた妖しい剣を前に、思わず身を固まらせる。
その隙を見逃さず、男は瞬く間に山賊たちの身包みを文字通り剥ぎ取っていった。丸腰となった彼らを、更なる悲劇が襲おうとする。
「さあ‥‥二度とこのような悪さをせんように、お仕置きをしないとな」
ガシリと腕を掴まれ、身動きが取れない。
「お、ぉい‥‥なにを」
いっそ凶悪なまでの男の笑みに、山賊のリーダーは声にならない悲鳴を上げた――。
●それは、誰にも言えない屈辱
「――はぁ? マッチョな男が道中に現れる追い剥ぎや山賊を襲ってる?!」
ギルドへ持ち込まれた内容に、受付に座る男は思わず声を裏返らせて叫んだ。
ああ、またやってきたんだ‥‥と内心冷や汗を流す男。
が、そこは慣れたもので、あくまで表面上は冷静に受け応えようとする。
「へ、へぇ〜そんな事が起きてるのかい。だ、だが、そんな報告は何も受けちゃいないぜ」
「そりゃそうですよ。腕っ節自慢の連中が、いくら屈強だからといえたった一人にあんな目に合わされたら‥‥」
自分だったら死んでしまいたい。
そう呟いて、貴族の使いの者は思わず目を伏せる。
それだけで受付の男は、彼らがどんな目に合ったのか想像出来た。その予想は、あながち間違っていないだろう。
「で、でもな、別にそいつらが酷い目に遭ったとしても、別段市民は困らないんじゃないか?」
「いえ――実は、男が使ってる剣というのが、わが主の館から賊によって盗まれたものでして」
「その男が?」
「それは違います。主の調べでも別の盗賊が盗んだのはハッキリしてます。それで取り返しに行こうとした矢先、その盗賊連中が無残な姿で発見されたのです。ただ、他の盗品はあったのですが、剣だけは見つからなくて」
おそらくその男が戦利品として持っていってしまったのだろう、と。
一般人からすればある意味危険とも言えるその剣。
だが、どうやら男にとってはよほど波長のあった代物だったのだろう。
「それで?」
「はい。その男から剣を取り返してほしいのです」
別段男が行っている盗賊狩りには興味なく、ただ剣さえ戻れば、ということらしい。
「お、お願いです。なんとか依頼を受けてください。で、でないと僕は主に‥‥」
涙目になる依頼者。
その必死の形相に受付の男も無下に断るワケにもいかず、しぶしぶと依頼を引き受ける事となった。
●リプレイ本文
●それは、絹を裂くような悲鳴
夜も更け、人気のなくなった山道。
突如響き渡るうら若き乙女の叫び。
「キャー助けてーッ!!」
襲われた子羊のように、精一杯の金切り声を上げるティアラ・フォーリスト(ea7222)。不安げな表情を装うものの、内心かなりワクワクしていた。
(「マッチョさんに会うの、初めてなんだよね。早く現れてくないかな♪」)
同じような悲鳴が、リーラル・ラーン(ea9412)からも上がる。
「きゃー、あーれー! だれかたすけてくださいー」
ただし、こちらは明らかな棒読みだ。本人はいたって真剣だが、さすがにこの調子では襲う方も力が抜ける。
だが、生憎と彼女らに迫る二つの影は、その程度ではビクともしなかった。
「ハーッハッハッハッ、これでこそネギリス! これでこそカマロット!」
叫ぶ科白は微妙に意味不明だが、ヲーク・シン(ea5984)のテンションは嫌が応にも昂ぶっていた。
どれだけかというと、この場所に集まるより前に勢い余ってエロスカリバーを抜こうとし、仲間達からいっせいにシバき倒されてもなおテンションの高さを保てるぐらいに。
「さあ、さっさとしないと――」
ノリノリで口走る言葉は、女性陣の顰蹙を買うこと間違いない。
おそらくコトが終わった後で思いっきりドツかれるだろうな、とは隣で同じように襲う役を担っている来生十四郎(ea5386)の内心の呟きだ。
例の男が頻繁に出没するらしい場所を調べ上げ、まずは騒ぎを起こすべく始めた囮だが、さすがにこれはやり過ぎか、とは思いつつ――実のところ彼もまた、徹底した悪役に成りきっている。
「おうおう、呑み代代わり金目のモンは全部置いていけ、服も飾りも全部だ!」
剣の切っ先を突き付けて大声で凄む様は、まさに迫力満点だ。
「‥‥所詮、今回集まったのはイギリスでもトップクラスの変態な人達ですから、皆さん一緒ですね‥‥」
男性陣の演技とは思えない迫り方に、藤宮深雪(ea2065)が思わずポツリと呟いた。
最初に悲鳴を上げた後は、少し身を引いて大人しくしていた彼女。おっとりとしている外見とは裏腹に、変態マッチョへの適応がある点から見ても、どうやら類は友を呼んだらしい。
そんなこんな騒ぎが続く中、不意に漂ってきた怪しげな雰囲気。
その場にいた誰もがハッと振り向いたまさにその先に――男は、立っていた。
●それは、約束された全裸の剣
浮かべる不敵な笑み。
手に持つ剣は、恥ずかしい程のピンクの刀身。
そして――股間を覆う白い靄。
「ハッハッハッ、そこの悪党どもよ! これ以上乱暴を働くというのなら、この俺が裁きの鉄槌を下してやろう!」
逞しい肉体を惜しげもなく披露し、豪快に叫ぶマッチョ男。
「なんだか久々にイギリスの暗部を見る気がするな」
身を潜めて様子を伺っていたヴァイン・ケイオード(ea7804)が呟く。
彼が思い出したのは、冒険者になっての初仕事のこと。その時も同じ剣絡みの依頼だったな、と振り返り、今更ながらに今回の依頼の破壊力を思い知る。
そんな彼の呟きに、同じように隠れていたエムシ(eb5180)が受け応える。
「‥‥そうか、これがお国柄というものか」
間違った認識を刷り込みつつ、二人はいっせいに飛び出した。
「むっ、仲間が隠れていたのか? なんの、多少の加勢があろうと構わないぜ!」
「おーっと、お前の相手はこの俺だ!」
一瞬気が反れた隙に、ヲークがマッチョ男の前に飛び出す。
両手に構えるのはピンクの刀身――つまり全裸になった彼が、全裸の男の前に立ち塞がる光景が完成した。
「やーん♪」
思わず手の平で顔を覆うティアラ。しっかりと指の隙間は開けたままで。
「あらあら‥‥私は信じていますよ」
意味不明に呟く深雪は、ちゃっかりと物陰に隠れていた。本人曰く、貴方たち変態さん達を心から見守っています、だそうな。
「まあ、大変――ぁっ!」
打ち合わせ通り退避しようとしたたリーラル。
が、何故か彼女は一歩踏み出した途端、ものの見事に蹴躓いて転んでしまった。
そんな女性陣が見守る中、男達とマッチョ男の壮絶なる死闘の幕が切って落とされた。
「マッチョ男よ、これを見ろ!」
十四郎が着ていたローブをばっと脱ぎ捨て、褌一枚の姿で男の前に立ちはだかる。
「思い出せ、この姿を! お前の褌への思いとはその程度のものだったのか?」
「何を言っているのかわからんが、悪事を働く者に一切の手加減はせん!」
褌という単語に一瞬躊躇したが、その躊躇いを打ち消す勢いで彼目掛けて突っ込んでくる。
駄目か、と落胆する彼の肩をポンと叩くヲーク。不敵な笑みを浮かべ、自信満々に告げた。
「まあ、任せな。やつの目、俺が覚まさせてやるさ」
格好をつけてるつもりだろうが、全裸であることが全てを台無しにしていることに彼は気付かない。むしろそこに喜びを見出しているように傍からは見えた。
そして――案の定。
「イクぜッ‥‥て、痛えぇぇっ!?」
「む、悪い。どうやら狙いが逸れたようだ」
ヲークの悲鳴に重なったのは、援護射撃を行っていたヴァインだった。
「て、どうやって逸れるんだよ!」
「なーに、顔を区別なんかしてられないからな。だから『全裸』のヤツだけを狙ったつもりだが‥‥そうか、お前もだったな」
許せ、と言った彼の顔が一瞬悪どい笑みになったのを、十四郎は見逃さなかった。当然、告げもしなかったが。
そしてもう一度、とばかりにヴァインが援護の矢を放つ。
が。
「ぎゃぁーっ!?」
流れ矢は、ものの見事にヲークの尻へと突き刺さった――合掌。
「ちんたらするな、来るぞ!」
相変わらず冷静さを失わないエムシの叱咤する声。
気がつけば前線にいた彼は、マッチョ男が繰り出す見事な剣捌きを、辛うじてかわしつつ掠めるような反撃を繰り出していた。
「ふっ、悪党にしてはなかなかやるなっ!」
「いい加減聞く耳を持て。その剣は盗品で、本来の持ち主がいるのだぞ」
「そんなことは知らん!」
「ぐっ!?」
鋭い切っ先がエムシを捉え、彼は思わず後ずさる。修練を積んでいるとはいえ、やはり実力的には彼よりもマッチョ男の方が一枚上手だ。
援護に入ろうと十四郎やヴァイン。
だが、それよりも早く高らかに響く声があった。
●それは、雪辱の燃える男の美学
「そこまでだ、マッチョ男!」
男の目の前に飛び出したのは、今や葉っぱ男として逞しく成長を遂げたレイジュ・カザミ(ea0448)だった。本来ならばトレードマークの葉っぱ一枚という出で立ちだが、今は手に構えるエロスカリバーのおかげで、葉っぱだった場所が靄に覆われている。
「あ、レイジュさんだ〜♪ なんだかすごい光景だね」
照れもせず言ってのけたティアラ。
「だ、駄目ですよ、未成年がこんなのを見たら」
慌てて彼女の目を隠そうとするリーラルだが、彼女自身すっかり今の展開を満喫していた。
傍らに用意されたお弁当やらお茶がその証拠。
「イギリスの変態が揃い踏み、ね」
お弁当をぱくつきつつ、呟く深雪の頬は何故か赤かった。
すっかり和やかな観客席を作る女性達とはうらはらに、マッチョ男に対峙したレイジュの目は真っ赤に燃えていた。
「二年前、キミの部下にやられた屈辱の数々。僕はそれらを決して忘れなかった」
「――貴様は」
「この僕を忘れたとは言わせない、僕はキャメロットの葉っぱ男レイジュ! 今日こそ決着をつけてみせる!」
「‥‥面白い、どれだけ出来るのか見せてみろ、葉っぱ男よ!!」
すっかり盛り上がる二人。
ピンクの刀身が闇夜に煌き、交差し、剣戟が響く。
「ほお、あのときの小僧がよくここまで成長したな」
「僕をいつまでも子供だと思うな! 成長した僕の実力、今こそ見るがいい」
始まった一騎打ち。
他の仲間たちもさすがに手が出せず、ただ見守るしかなかった。何しろレイジュの実力は、今いる仲間たちの中でも群を抜いている――あんな格好であったとしても。
そこに割って入ろうものならば、それ以上の実力でなければ逆に足手まといになるだろう。
今はただ、見守るしかない。
そう思い、十四郎は剣を収めたのだが、ふと気付く。
「そういえばヲークは?」
確か彼だけ力が上ではなかったか。
そんなことを思い出して彼の姿を探すと――。
「危ないぞ」
ぼそり、とエムシが一言。
彼の指差した先。意識を取り戻したらしいヲークが、尻を擦りながら起き上がろうとしている。
が。
「貴方の正義には愛がない。そんなことでは、いつまでたっても本物のHEROにはなれないんだ!」
「む、ならばお前ならばどうするというのだ!」
「力ばかりに頼るんじゃなく、力と同じように愛だって必要なんだよ」
「あ、愛だと?!」
戦いを繰り広げる二人に周囲は見えておらず、彼らの進行方向にヲークがいることにも気付いていない。
そして、ヲーク自身もなにやら自分の中に入っているのか、近付いてくる音に気付かない。
「そうさ、彼女が出来るまで俺の勇気は死なない」
「まずいッ」
十四郎が叫び、と同時に。
「三人とも危ないよ〜!」
ティアラの声が被さった。
途端、彼女を発端に黒い直線状の帯が三人目掛けて放たれる。それをかわす事は――彼らに出来る筈もなく。
「こ、これが愛の‥‥痛みか?」
「うん、そう‥‥かな?」
「なんで俺ばっかりぃぃ‥‥」
三者三様の叫び声が響き、彼らはそのまま地面へと倒れこんだ。
●それは、いわゆる一つの
「ふう、色々あったけど楽しかったね。これで僕が世界のHERO(自称)葉っぱ男と言われているのがよく分かったでしょう?」
エロスカリバーも無事にマッチョ男から返却され、ホクホク状態のレイジュ。
うむ、と頷く男とどうやら奇妙な友情まで生まれたようだ。
「ようやく真っ当なマッチョ変態さんに戻られたのですね」
「‥‥真っ当な変態ってのはなんだ」
素直に感心する深雪に、小さく突っ込んだ十四郎の声は届かない。
むしろあっさりとスルーされた方向で。
「いやあ、エロスカリバーノ、マリョクトハ、オソロシイモノデスネー」
明らかな棒読みをしつつ、服をいそいそと着るヲーク。もはやバレバレの状態なのだが、本人これでも本気で演じてるつもりらしい。
そんなヲークの方を見向きもせず、ヴァインは突き抜けるほど爽やかな笑みを浮かべていた。
「‥‥ま、なんつーか、全裸になっちまったらお終いよ」
誰に言うでもなく、ポツリとそう呟く。
彼とは逆に、リーラルはヲークへの賞賛の声を述べた。
「先程の、本当に名演技でしたねえ」
いささか気の抜けた褒め言葉だが、本人はいたって真剣そのものだ。
それが分かっているからこそ、ヲークも冷や汗をかきつつ「おう、サンキュー」と返した。
そして。
「いい加減、この剣を包む布が欲しいのだが?」
え、と思い、全員が声の方を向けば、エムシがエロスカリバーを抱えたまま途方に暮れている。当然のことながら全裸のままで。
何事?!
全員が思ったのも束の間、そこへ布を持ったティアラが走ってきた。
「ゴメンね〜、布が風に飛んじゃって。はい、これでもう大丈夫だよ」
彼女が剣を包む。
と、同時に、靄が消え――エムシの全てが露わになる。
だが、彼は別段気にした様子も見せず、何事もなかったように服を着始めた。むしろ固まったのは、その様子を見ていた仲間達。
小柄な身体に似合わぬ荒々しさに、男性陣は唖然とし、女性陣は頬を赤らめ。
「ん、どうした?」
じーっと見つめるティアラの視線。
気付いて尋ねれば、彼女はにっこり笑ってこう告げた。
「エムシさんのって――スゴイネ♪」