【聖ミカエル祭】復興への礎

■ショートシナリオ


担当:葉月十一

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:9人

サポート参加人数:1人

冒険期間:09月25日〜09月30日

リプレイ公開日:2006年10月03日

●オープニング

●悪魔を退治した大天使を称える豊饒の祭り
「今年は聖ミカエル祭を盛大に行おう」
 商人ギルドマスターは集まった代表者達に口を開いた。商人達は互いに顔を向け合い、何か言い淀むような表情だ。
「‥‥この時期に聖ミカエル祭を行うのですか?」
 この時期に――。言いたい事はギルドマスターにも分かっていた。先の園遊会での噂はキャメロットはおろか、広い範囲に渡っている。
 ――悪魔の不穏な動きとラーンス・ロット卿のアーサー王への裏切りのような行為。そして円卓の騎士達の不和‥‥。
「9月29日に大天使ミカエルを称える『聖ミカエル祭』を各地で行なうのは慣わしではなかったか?」

 ――聖ミカエル祭。
 秋の訪れたイギリスの商人達にとって一大イベントの一つである。
 この祭りに欠かせないものに3つのGというものがあり、『手袋(Glove)』、『ガチョウ(Goose)』、そして『生姜(Ginger)』を指す。
 手袋には、本来決闘を申し込むという意味があるが、左手の場合、市場に店を開く許可の印として成り立っていた。普段はきちんとした出店許可証が無ければ露店を開く事ができないが、この祭りに限って名目上は左手の手袋だけで済むのである。要するに、他のギルドに加入している者が出店していないかの簡単な審査はあるという訳だ。ミカエル祭の月に入ると巨大な手袋が街中に溢れ、活気に漲る。
 ガチョウは、この時期収穫しやすい鳥で、饗宴などの主食として登場する。一度ローストしたガチョウに丁寧に羽を付け直してあたかも生きているような感じに見立てる料理が酒場でも見られるようになり、この料理を『イリュージョン・フード』と呼ぶ。
 生姜は料理の中に添えられる薬の一つとして伝えられているが、何より、偉大な天使に捧げる供物の1つとして成り立っており、聖ミカエル祭では必要不可欠なものだ。
 聖ミカエル祭が近づくに連れ、各地から露店を開くべく人々が街を訪れ、広場は活気に満ち溢れたものである――――。

 商人ギルドマスターは再び口を開く。
「このように不穏な噂が流れる時だからこそ、人々の活気を向上させねばならない。聖ミカエル祭を大いに盛り上げて、噂など吹き飛ばそうではないか!」
 確かに塞ぎ込んでいては、悪魔に付け入る隙を与えかねない。商人達は威勢の良い声を張り上げ、異論がない事を告げた。
 こうして各地へ聖ミカエル祭を行う知らせが届けられたのである。

●集まる人々
 商人ギルドからの知らせは、ここオクスフォードにも程なく届けられた。
 ようやく戦禍から立ち直った人々は、これを機とばかりにこぞって祭りを盛り上げようとした。多くの露店を並べ、広場の活気を取り戻せば、きっとかつての賑わいを取り戻すだろう。
 そんな人々の願いが通じたのか、ここ最近のオクスフォードには多くの人々が集まるようになっていった。
 ――だが。

「フェイ様、お待ち下さい!」
 慌てて駆け寄る側近の声など耳も傾けず、フェイと呼ばれた少年は中庭を突っ切ろうとしていた。
 が、後一歩で抜けようとしたところで、目の前に現れた影に阻まれてしまう。ハッと見上げた先にいたのは。
「マルヴェン団長!」
 側近がホッとしてその名を呼ぶことに、少年は軽く舌打ちして顔を背けた。
 まるで嫌なヤツに見つかった、といった表情だ。フェイのそんな顔に男――オクスフォード騎士団を束ねる団長であるレオニード・マルヴェンは苦笑を浮かべる。
「フェイ様。いったいどこへ行くつもりだったのですか? まだやることが残っているのでは」
「別に‥‥街に出てみるだけだ。なんか、色々と賑わってるんだろ。だったら」
「お待ち下さい。フェイ様、お一人で出かけるなんて!」
 言葉を遮るように、側近の一人が声高に叫ぶ。
 思わず顔を顰めるフェイに、レオニードはやれやれと嘆息した。
 彼――劉 飛龍(リュウ・フェイロン)がオクスフォードの領主として連れてこられ、早半年。
 その間、彼なりに一生懸命頑張ってはいたが、やはりまだ子供だ。出会った当初は両親の仇討ちという気概があり、年齢以上に大人びた雰囲気を見せていたが、その閊えが取れたからか、今では年相応な振る舞いを時々見せるようになった。
 今も、きっと城下の賑わいを聞きつけ、その騒ぎの中で息抜きをしたいのだろう。元々の性格からか、あまり我侭を言わない彼の、これは精一杯の我侭なのだ。
「――解りました。街の方へ出かけられるよう手筈は整えましょう」
「それは」
 何か言いかけたフェイを、レオニードは手を出して軽く制する。
「勿論、護衛もお付けしません。ギルドへ連絡すれば、何人かの冒険者が来てくれると思いますので、彼らと一緒に祭の方を楽しんで下さい」
 冒険者と聞いて、一瞬フェイの目が輝いた。
 彼自身、元は冒険者の身。それならばきっと一緒に行動しても楽しいものになるだろう。
「ですから、今は領主としての公務をお願いします」
「‥‥わかった」
 しぶしぶと言った様子だったが、なんとか納得したようだ。悪かったな、と側近に謝罪すると、彼は元来た道を帰っていく。
 その後姿を見守りながら、その場に残った側近の一人がレオニードに問うた。
「よいのですか? 市場には今多くの人間が出入りしております。もしよからぬ輩が入り込んできたら」
「仕方ないさ。さすがにずっと城に閉じこもっていろというのも酷な話だ」
「ですが、貴族の方々の中には、未だフェイ様を認めていない者もいると聞きます。それに先の戦禍の折の不穏な噂も」
「解っている。だからこそ冒険者達を付けるのだ」
 フェイを一先ず領主として迎えたとはいえ、いまだオクスフォードの内政は不安定だ。先の戦乱で逃亡したかつての同胞が落ちぶれた末に、冒険者に討たれたとも聞く。
 そして――流れる不穏な噂。
「護衛の意味もあるが‥‥今はただ、冒険者達と一緒にフェイ様にも聖ミカエル祭を楽しんでいただこう。自分の治める街がどれだけ復興出来たかを知る良い見聞にもなる」
 そう言って微笑むレオニード。
 そこには、どこか子供を見守る父親のような眼差しがあった。

●今回の参加者

 ea0050 大宗院 透(24歳・♂・神聖騎士・人間・ジャパン)
 ea4287 ユーリアス・ウィルド(29歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea5322 尾花 満(37歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea5635 アデリーナ・ホワイト(28歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea7435 システィーナ・ヴィント(22歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 eb2238 ベナウィ・クラートゥ(31歳・♂・神聖騎士・パラ・ビザンチン帝国)
 eb2628 アザート・イヲ・マズナ(28歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・インドゥーラ国)
 eb3532 アレーナ・オレアリス(35歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 eb3630 メアリー・ペドリング(23歳・♀・ウィザード・シフール・イギリス王国)

●サポート参加者

リデト・ユリースト(ea5913

●リプレイ本文

●邂逅
 その再会は、誰もが喜ぶべきものだった。
「フェイ様、ご無沙汰しております」
 口火を切ったアデリーナ・ホワイト(ea5635)が、柔らかな笑みを見せてフェイの顔を覗き込む。まるで母親のような仕種に、少年は頬を赤くしつつそっぽを向いた。
「ひ、久し振り、だなっ」
 相変わらずな彼の態度に、以前一緒に行動した冒険者達は思わず苦笑する。
「ふふっ♪ フェイくんと会うのも久しぶり」
 言いつつ、頭を撫でようとしたアレーナ・オレアリス(eb3532)。
 が、寸前のところでそれを止め、むしろ指を伸ばしてフェイの額に当てる。
「背は伸びた?」
 思わず尋ねた問いにムッとなるその表情。最初ぎこちなかったものが徐々に打ち解けていく様子に、彼女はついつい笑みを零していた。
 それを後ろで見ていたユーリアス・ウィルド(ea4287)も、なんとなく嬉しくなってはしゃぐ気持ちが抑えきれずにいる。折角ドレスでお洒落をしたのだから、とそれだけでも気分が高まってしょうがない。
「フェイさんに会えるの、楽しみだったんですよ。勿論お祭りの方も」
「フェイさ〜〜ん♪ お久しぶりなのですよ〜お祭り、思いっきり遊びましょうね」
「うわっ!? ちょ、ちょっと」
 ガバッとベナウィ・クラートゥ(eb2238)が後ろから抱きつく。その遠慮のない態度を迷惑がりながらも、やはりどこか嬉しく思っているのを彼らは見逃さない。
 護衛という話は聞いているが、ベナウィにとってはそれは二の次、三の次。折角のお祭り、楽しまなきゃ損だとばかりに、今の彼ははしゃぎまくっていた。
 そんな風にフェイを囲む四人。
 彼らがひとしきり再会を懐かしんだ、そのタイミングを見計らってメアリー・ペドリング(eb3630)が静かに声をかけた。
「そろそろ紹介してもらってもいいか?」
 シフールである彼がアデリーナの肩に止まると、彼女は嬉しそうにフェイの方へ腕を差し出した。
「こちら、オクスフォード領領主のフェイ様ですわ。以前は私たちと同じ冒険者でしたの」
 そこに至るまでの過程は多く、さすがに一言では説明出来ないため、彼女はそう彼のことを紹介した。
 続いて、アレーナがフェイに対し、初見の冒険者達を紹介し始めた。
「こちらが大宗院透(ea0050)殿とシスティーナ・ヴィント(ea7435)殿だ。お二人とも学生の身ながら、冒険者としても活躍している」
「始めまして、私システィーナと言います。今は色んな国を回りながら勉強中です」
 丁寧にお辞儀する彼女。にっこりと笑う表情が、彼女の育ちのよさを物語る。
 その横で女学生に扮した透が、普段の無愛想とは裏腹な笑みを見せていた。
「よろしくお願いします」
「それで、こちらが尾花満(ea5322)殿だ。キャメロットで料理人をしている」
「尾花と申す。僭越ながら復興の祝祭、末席に加えていただきたい」
 独特の言い回しで挨拶する満。
 いくら年若くても相手は領主、粗相のないようにと堅苦しく考えていた彼だったが、そんな彼の態度にフェイはつい苦笑を洩らした。
「別に‥‥そんな畏まらなくても」
「いえ、何事もケジメが肝心である故」
 この辺、彼の性分なのだろう。
 そして。
「最後だが――」
 アレーナが紹介しようとするより早く、メアリーがフェイの肩に降り立った。
「メアリー・ペドリングだ。メアリーと呼んでくれ」
 そのまま、楽しませるかのように周囲を飛び回る彼女。何度か旋回した後、彼の顔の前まできてゆっくりとお辞儀する。
 一通り挨拶を終えたところで、フェイが少し申し訳なさそうに口を開いた。
「今日は‥‥わざわざすまなかったな」
 が、すぐにそれは冒険者達によって否定された。
「なに言ってるんです。私たち、友達でしょう?」
 ユーリアスの言葉に全員が頷く。
「フェイ様、こういう息抜きの時ぐらい、わたくし達を頼っていただいてもいいのですよ」
「そう、あまり抱え込まないようにな」
 アデリーナとアレーナが、年上の女性の顔で同意すれば、ベナウィはどこか茶化すようにニヘラっと笑う。その手には何故か獣耳ヘアバンドがひとつ。
「ほら、これ一緒につけてお祭り楽しもうよ!」
「なっ?!」
「あ、カワイイ♪」
 目にも留まらぬ速さでベナウィがフェイの頭に付けたそれ。
 その姿にシスティーナは、思わず黄色い悲鳴を上げた。途端、真っ赤になるフェイ。
 和気藹々となって騒ぐその様子を――見つめる視線が一つ。
「‥‥以前とあまり変わらないな」
 少し離れた場所で、ぽつり呟くアザート・イヲ・マズナ(eb2628)。
 一人先行していた彼は、皆とは別行動を取ってオクスフォードの地理の出来る限りの把握に務めていた。
 当然今も、フェイの見えない場所から彼のことを監視している。その方が何かあった時に動きやすいと判断したからだ。
「何もなければいいがな‥‥」
 無事に終わればそれに越したことはない。そう願う彼の口元には微笑が浮かんでいた。

●祝祭
 徐々に人の戻りだしたオクスフォード。
 特に祭りとあらばよけい近隣より人が集まるため、更に多くの人ごみが出来る。その中を彼らはフェイを中心としてひとかたまりで移動していた。
「あ、あのお店美味しそう。フェイさん、いりませんか? お姉さんがおごっちゃいますよ!」
 太っ腹なユーリアスの科白。
「‥‥い、いいのか?」
「もちろん!」
「ほう。なかなか珍しい食べ物だ。この辺りの名物か? すまん、少しレシピを教えて貰えると助かるのだが」
 満が屋台の店主を質問攻めにしていれば、システィーナは小物売り場をじっと眺めていた。
「うーん、こっちの方が可愛いかな。あ、でもこっちも綺麗だし〜アデリーナさんはどう思う?」
「そうですね。こちらなどお似合いではないですか?」
「そ、そう? どうしようかなぁ」
「ふふ、こういったお祭りには恋人と一緒に、というのも憧れますね」
 深い意味もなく口にしたアデリーナだったが、途端システィーナは顔中を真っ赤にした。しどろもどろに答えるところを見ると、どうやら少なからず思う人物がいるようだ。
「うーん、ここには獣に変装出来るような物、ないですね。折角フェイさんに似合うものを買おうと思ってたのに」
「そ、そんなもん買ったって、別に付けないぞ!」
「えーでも似合ってたじゃない。あの獣耳」
「言うな!?」
 ベナウィの科白にフェイは真っ赤になって言い返す。それがよけいからかいのネタになる事に気付かない辺り、やはりまだまだ子供なのだろう。
 そんな事を思いながら、目の前で繰り広げられる微笑ましい光景をアレーナは眺めていた。
 祭りを半ばを過ぎ、人も盛り上がりも今が最高潮。
 こういう時だからこその油断を知る彼女は、それこそ表面上の笑みを崩さぬまま鋭い眼で周囲を警戒する。
 その時、透が何かに気付いたらしく、不意に立ち止まった。
「どうした?」
「う、ううん。ちょっとあっち見てくるね」
「ああ」
 悟られないよう、努めて明るい女性のように振る舞う彼。素早く何人かの仲間に目配せすると、集団から離れていった。
 その後を追う満とアレーナ。
 そして。
「少し私も席を外そう。すぐ戻ってくるので、向こうの広場で待ってて貰えぬか」
 飛び立とうとするメアリーに対し、怪訝な顔をするフェイ。
 が。
「あ、向こうで出し物やってるみたいだよ。ほら、見に行こう!」
「うわっ!」
「そうそ、もっと楽しまなきゃ」
 システィーナがフェイの手を強く掴む。同じようにベナウィも彼の首根っこに腕を回し。
 結局、うやむやのまま二人に強引に引っ張られ、ずるずると引き摺られていくフェイ。その姿を残った冒険者達は笑いながら見守っていた。

●不審
「――ぐぅ」
 呻き声とともに地面へ沈む男。その姿を見下ろしながら、満は軽く息をついた。
 不審者を人気のない場所まで誘いこんだのはアザートだったが、その後の戦闘は透と満によって瞬く間に片がついた。
 その鮮やかな手並みに少なからず感心するアレーナ。
「さすがだな」
「‥‥一つ確認してもらいたい」
 問うた満の視線に、メアリーがこくりと頷いた。そのまま近付こうとした矢先、男の顔が苦悶に歪み始めた。
「しまった、毒か?!」
 慌てて駆け寄ったが、時既に遅し。
 唇の端から赤い血を流し、男はとうに絶命していた。
「自決、です‥‥」
「つまり裏がある、という事であろう」
 透の呟きに、満はやりきれない口調で返した。当然その思いは、この場にいた五人全員同じである。
 そのまま、再度メアリーが男の顔を確認する。
 が、男は彼女が以前取り逃がした人物ではなかった。

●終宴
 つつがなく祭りが進み。
 それは、すなわち終わりが近付いているということで。
「今日は楽しかったですね。また一緒に遊びましょう♪」
「ああ。なかなか凝った料理を学べて嬉しく思う」
「本当に‥‥フェイ様に会えて、嬉しゅうございましたわ」
「オクスフォードは一時期大変って聞いてたけど、今は皆楽しそうだったね。良かった」
「もふもふなアイテム、見つからなかったよ〜」
「今も昔も私達は大切な仲間だから、またいつでも呼んでね」
「‥‥フェイ殿は、祭りを楽しめたか?」
 口々に告げる冒険者達の言葉。
 その最後にメアリーから聞かれた問いに、フェイは満面の笑みを見せて頷いた。
 それは過去の彼を知る者からすれば、信じられないくらいに楽しそうなもので。この笑顔を守る為ならば、騎士団長であるレオニードが思うのも無理からぬこと。
 不安定な情勢。
 年若い領主であるが故の危惧。実際今日襲って来た男の素性すら未だ不明のままだ。
 そして、かつての戦乱に踊らされた者達の残党。
 懸念は幾つでも浮かんでくる。
「‥‥その為の冒険者だ」
 ポツリと呟き。
 フェイが城へと戻るよりも先に、アザートはオクスフォードを後にした。

 同じ頃。
 他の冒険者達も岐路へ着く。少しだけ後ろ髪引かれる思いを残して。