【Evil Shadow】死を招く夢
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■ショートシナリオ
担当:葉月十一
対応レベル:2〜6lv
難易度:やや難
成功報酬:1 G 69 C
参加人数:7人
サポート参加人数:1人
冒険期間:09月29日〜10月04日
リプレイ公開日:2006年10月07日
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●オープニング
●見知らぬ手紙
「なんだこれ?」
寄宿舎へ戻るなり、寮監から少年に渡されたのは、差出人の書かれてない手紙。
最初は、母からだと思った。
母親以外に身寄りのない少年にとって、自分に手紙を寄越す心当たりを他に知らなかったから。友達や学校の人間ならば、わざわざ書簡の形を取らなくても手渡せばいい筈だ。
少し胡散臭く思いながらも、そこはまだ子供だ。つい好奇心のほうが勝り、どうしても中を確かめたくなるもの。
怪しいとは思いつつ、少年はおそるおそる封を破る。
そして――小さな驚きの声を上げた。
取り出した羊皮紙を掴む手が微かに震え、強い力が皺を寄せる。
「‥‥どういう、ことだ?」
訝しげな呟き。
もう一度、端までじっくり見てみたが、やはり差出人の名前はない。あるのは手紙の内容‥‥と言っても、たった一文が綴られているだけ。
そしてもう一つ。
この手紙が投函されたのが、キャメロットだという印のみ。
「キャメロットか‥‥」
夕闇に沈むケンブリッジ。
ポツリと呟いた少年の声だけがやけにもの悲しく響いた。
――翌日。
少年はキャメロットを目指し、一路街道を歩いていた。
ケンブリッジからキャメロットまでそうたいした距離でもない。子供の足でも、二三日あれば着くはずだ。
そう考えていた少年だったが。
「――あれは、なんだ?」
上がる噴煙。立ち込める腐臭。
風に乗って流れてくるのは、血の混じった匂い。
そして、届く悲鳴を見過ごせない正義感の持ち主は‥‥。
三日過ぎても、キャメロットでその姿を見かける事はなかった。
●張り出された依頼
時、同じ頃。
キャメロットは俄かに騒がしくなる。
突如飛び込んできた国を揺るがす凶事。我先にと飛び出す冒険者達だったが、その流れを汲むかのようにギルドに幾つもの依頼が舞い込んできた。
死者の群が村を襲うという事件。
既に幾つもの村が犠牲となり、地図の上からその姿を消した。聞いた話ではズゥンビの他にもスカルウォーリアーが何体も混じっているらしい。
「まるで何処かを目指してるって話らしいが‥‥ひょっとしたら」
受付に立つ男がそう言って語尾を濁す。
暗に、今起きている事件と今回の騒動が関係しているかもしれない。彼はそう言いたいようだ。
「辛うじて生き延びた者の話だと、近々この近くに現れるようだ。ちょうどケンブリッジまでの街道沿いの村だな」
キャメロットから急げば、おそらく一日で辿り着くだろう。
「あまり悠長にしてられないぜ。急いで向かってくれねえか」
依頼書を片手に、ギルドの男はそう冒険者たちに告げた。
●リプレイ本文
●先行する者達
その村へ近付くにつれ、大気の色が変化していくのを冒険者達は気付く。
街道沿いで時折感じた腐った肉の臭い。そよぐ風に混じるのは、明らかな血の香り。先行の任を追った三人は、急ぐ足を更に早めた。
「‥‥どうか生きている人がいれば‥‥」
借り物のセブンリーグブーツで地を駆る琴吹志乃(eb0836)が眉根を顰めた。
村を飲み込む死者の群。それに為す術もなく飲み込まれるしかない人達を思い、彼女は一人苦悩を零す。
「どちらにせよ、私達に今出来るのは急ぐことだ」
馬上より声をかけたメグレズ・ファウンテン(eb5451)。
討伐の命を受けた以上、自分たちの仕事は他に被害が出る前にアンデッドの群を叩くこと。その一心から彼女は急ぐ。
それは他の二人も――いや、同じ依頼を受けた仲間全員の共通する思いだ。
「それに、村の信者達を見過ごすことは出来ませんから」
同じく馬上より答えたタイタス・アローン(ea2220)。神聖騎士である彼は、属する教会からの派遣と称して今回の討伐へ加わった一人だ。
神の使いを自負する彼にとって、ズゥンビたち闇に属する存在は放っておけないのだろう。
「うまく誘導に乗ってくれればいいですが‥‥」
「見えてきました!」
タイタスの呟きを遮り、メグレスが指差した方向に見えた軒を並べる家。
が、上る噴煙を見つけ、三人の顔色がサッと変わる。
そして――届く悲鳴。
「遅かったか?」
「いえ、まだよッ!」
不安を打ち消すように志乃が叫ぶ。
彼女の声に呼応して冒険者らはその手に武器を構え、急ぎ村へと向かった。色濃くなった死臭に顔を歪めながら。
●遅かった者達
「これは‥‥ッ!?」
愕然と呟く声は誰のものか。
先行組の後を追う形で村へとやってきた冒険者達は、既に起きてしまった惨劇を目の前にしばし呆然となった。
押し寄せる黒い波。それは、ただ命あるものを求めて邁進する、物言わぬ死者の群れ。
未だ村へ完全に雪崩れ込んでいないものの、それも先行の仲間が食い止めていてくれるからに他ならない。
「ズゥンビに・・・・スカルウォーリアまでいるの? 厄介だわ」
レイル・セレイン(ea9938)の声に、彼らはようやく気を取り直す。
四の五の言っても始まらない。まずは戦場の確保をしなければ。
「敵が散らばらない比較的狭い場所、は‥‥」
周囲を窺おうとしたメロディ・ブルー(ea8936)の耳に、不意に飛び込んできた声。
「みんなッ!」
振り向けば、走ってきた志乃の姿を発見する。
「待ってたよ、どこに行けばいい?」
「こっちにちょうど入り組んだ場所があるの。そこなら、敵も一気に押し寄せて来ない筈だよ」
「了解」
「人手は足りてるのかしら? もし危険があるのなら」
戦闘の意欲を見せるエリザベート・ロッズ(eb3350)。
アンデッドのような不自然な存在に対し、彼女は厳しい一面を見せる。曰く、そのようなモノは存在するべきではない、と。
が、彼女の言葉を遮り、志乃は首を横に振ってみせた。
「大丈夫。さすがに私たちだけならどうかわからなかったけど、たまたま立ち寄った少年が加勢してくれたのよ」
「少年?」
「騎士学校の生徒さんだって。綺麗な金髪の男の子で、ここのところに傷があるんだよ」
そう言って、志乃は頬のところを指差した。
不意に、エリザベートの中で一人の少年の名が浮かぶ。彼女自身面識があるわけでなく、年の幼い兄から聞いているだけだ。
「‥‥まさか、ね」
誰にともなく彼女は呟く。
「ともあれ急いだ方がよさそうだな。如何せん数が多い。のんびりしている暇はないぞ」
ラザフォード・サークレット(eb0655)の言葉に促され、冒険者達は互いを見合わせて強く頷いた。
まずは群れを村から引き離し、殲滅すること。
戦闘意欲を見せる彼だが、まずはその事だけを念頭に置く。目指す理想を追うのはそれから。
「行くぞ!」
鬨の声が響く。
死臭舞う村の中で。
●命亡き者達
歩を進めるたび、べちゃりと嫌な音が耳を打つ。
思わず顔を顰めるが、好き嫌いを言ってられない。
「いざ、ズゥンビ退治だよ!」
待ち伏せ場所の先頭でメロディが身構える。彼女の目の前には、動くズゥンビの群れ。その群れを率いるように、タイタス達がこちらへ誘導をかける。
生者を求める彼らは、攻撃を仕掛ける彼らを敵とみなし、本能的に襲おうと迫る。それこそが冒険者達の望む手段。
「予想以上ですが‥‥」
「だが、それもあと少し」
彼と同じく剣を振るいつつ、後退するメグレス。
まずは村から引き離すこと。
「そっちじゃないよ!」
群れから外れようとしたズゥンビに対し、志乃が一振りに切り捨てる。無論、それだけで倒れる筈もなく、傷つけられた事で改めて彼女に向かって襲い掛かった。
そして、それを庇ったのは。
「くっ、その場所ってまだかよ?」
どこか荒っぽい口調の、金髪の少年。
苛立ちが隠せず、つい怒鳴ってしまう。
「もう少しだ!」
それに対し、メグレスもまた強く叫んだ。
ズゥンビ一体一体の力は弱いといえ、集団となれば負担もまた違う。まして相手は疲れを知らない死者だ。
その時。
「みんな! 僕が盾になるから、遠慮なくぶっ飛ばしちゃえ!」
聞こえた声に、四人はハッと気付く。そして、一斉にその場を離れる。
直後。
「‥‥いきます」
静かにエリザベートの手のひらから稲妻が放たれる。それは直線状にいるズゥンビの群れを直撃した。
ダメージを負った彼らだが、そこで歩みを止めるワケではない。
が、進もうとする間もなくその集団が宙へ浮く。
「‥‥天へと落ちろ‥‥!」
ラザフォードによる重力の反転。
そして、瞬間の効果が切れると同時に、ズゥンビ達は受身を取ることも出来ずに地面へと落ちていった。
腐肉が飛び散り、骨が砕ける。腐臭が充満するも、ひとたび戦闘へ入れば冒険者達にとってそれは些細なことで。
「破刃、昇天!」
気合一撃とばかりに放ったメグレスのソードボンバーが、その衝撃波をもってズゥンビ達にトドメを刺す。
怒涛の如き波状攻撃に、黙々と前進するズゥンビ達もさすがに足を止める。
その隙を逃す冒険者達ではない。
「いくよ!」
先行に飛び出す志乃。手持ちの武器と同時に蹴りを織り交ぜた攻撃に、為す術もなく倒れるズゥンビ。
が、その背後にもう一体敵の影。
しかし、一歩遅れる形でレイルが放ったホーリーが敵を退けた。闇に身を落としたアンデッドにとって、聖なる力は抵抗することなくダメージを与える。
「ありがとう」
礼を言われるものの、どうやら彼女は少し不満のようだ。
「うーん、やっぱり早く高速詠唱を覚えないと不便ねえ」
「そうないものねだりをするものではありませんよ」
同じくホーリーを放ったタイタスが、苦笑まじりに応える。先程と違い、彼の手には剣ではなくショートボウが握られていた。
「今ある力を使い、最善を尽くす。神の試練は、越えることの出来るものしか与えられません」
おもむろに矢が放たれ、ズゥンビの足を穿って動きを止める。
その隙に、メロディのホーリーパニッシャーが容赦なく押し潰した。
「そうだよ。この程度の敵、僕らにとっちゃ、大したもんじゃない」
余裕と取れる発言。
だがそれは、己を鼓舞することで緊迫感に呑まれないようにする、彼女なりの自衛手段だった。神の摂理に反していると言われるこの身、なればこそ仲間に迷惑をかけないようにしなくては。
その思いを隠したまま、彼女は武器の鉄球をズゥンビの群れ目掛けて大きく振り回した。腐った肉も、剥き出しの骨も、跡形もなく砕く勢いで。
「おっと、貴殿の相手は私だ」
形勢を不利と見たのか、それまでズゥンビの中に紛れていたスカルウォーリアーが飛び出した。
それを目敏く見つけたメグレス。素早く行く手を遮り、両刃の剣を身構える。
「一体も残らず片付ける」
騎士として、拝命した任を全うする事が彼女の自負。
骨がぶつかる音を響かせながら突っ込んでくる敵に対し、避けるよりも勢いよく剣を振り被る方を選択した。狙いに気付き、避けようとしたスカルウォーリアー。
だが、その動きを妨げるように、エリザベートの放つ風の刃が彼を襲う。
「逃がしませんわ」
戦闘の中で笑む彼女。狂気を孕んでなくとも、さぞや恐ろしく見えただろう――そう感じる心があれば。
バランスを崩した、その隙。
いち早く動いたメグレスにとって、それは十分すぎる程の好機。
「撃刀、落岩!」
刀身の重みと勢いを増した一撃は、両断のもとに骨をも砕いた。
そして。
「‥‥薙ぎ払えッ!」
ラザフォードの一喝と同時に放たれたのは、黒い帯状のグラビティキャノン。対峙していたスカルウォーリアーのみならず、群れるようにいたズゥンビごと薙ぎ払う。
やがて、最後まで這いずっていたモノも、メロディの一撃で動きを止めた。
それは同時に、依頼の完遂を意味していた。
「終わった‥‥」
一言。
タイタスの呟きに、彼らは張り詰めていた気を緩め、安堵の息を吐いた。
●訪れる者
「村を襲うアンデッド‥‥やはり例の騒ぎに関係してるのかしらね?」
「どうかな。まだはっきりした訳ではないが‥‥」
溜息をつくレイルに、メグレスが端的に答える。
周辺の村を幾つか見て回ったが、アンデッドの残りはいなかった。どうやらギリギリで食い止められたらしく、とりあえずホッとする。
その横では、エリザベートが件の少年の名に目を瞠っていた。
「あなたが‥‥ガラハッド?」
「そうだけど」
ガラハッドと名乗った少年が静かに頷く。
「どうしてこんなところに? だってあなた確かケンブリッジに」
兄から聞いて知っている、と言った彼女に対し、ガラハッドと名乗った少年は別段隠すふうでもなくこう答えた。
「――父さんを、探しに来たんだ」