エルの依頼〜地下に眠るもの〜
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■ショートシナリオ
担当:葉月十一
対応レベル:11〜17lv
難易度:難しい
成功報酬:7 G 48 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月30日〜11月06日
リプレイ公開日:2006年11月09日
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●オープニング
ユニバーシティ・カレッジ。
それは、オクスフォードに現存する学舎の中では最古といわれている。その元は教会であり、その場所に修道者達が集ってきた事に端を発しているらしい。
故に、色々と曰くも伝えられてきていた。
かつての聖杯戦争の折、その地下にかなり大きな空洞が発見された。その奥に聖杯へと導く壁画があったこともまだ記憶に新しい。
更に昨年末、とある私闘が繰り広げられた事で地盤が崩れるという事件もあった。
直後は落盤の危険があったものの、今ではそれもすっかり整えられ、研究者たちの研究が細々と続けられていた。
だが、やはり。
その場所は人の手が入るには少々危険であったようで。
「――いいから早く逃げろ!」
エルリック・ルーン――パラの魔法使いが殿を務める一団は、その指示どおり我先にと地上への通路へ向かう。
その後方、漆黒の闇の中。
唸り声とともに近付いてくる気配。小柄な彼からすれば、ジャイアントの大きさが相手ではどう見積もっても大人と子供だ。
「ちっ!」
思わず舌打ちが出る。
このままでは、いずれ追いつかれる。サッと周囲を見渡したエルは、瞬時に考えを巡らせた。
一時的にでも足止めをすればいい。
「‥‥多少危険だが、仕方ねえな」
ニヤリと浮かぶ皮肉めいた笑み。
直後、闇の向こう側に見えた牛の頭を持つジャイアント。
素早く唱えたエルの魔法は、密閉された空間に巨大な竜巻を巻き起こす。その勢いはそこらに散らばる巨岩を巻き込み、上空へと巻き上げ、そして落下させる。
それは結果として、響く地鳴りによって緩んだ岩盤を崩していく。殆ど生き埋め覚悟の行為だったが、なんとかうまくいってヤツの姿を埋もれる岩山の向こうへと隠していった。
ホッとする間もなく、彼は急ぎ出口へ向かった。
先程の魔法の影響で、まだ地鳴りは続いている。あのままいたら間違いなく生き埋めだ。
「――ど、どうだったかね?」
「ああ? さあね、くたばっちまったトコを見たワケじゃねえが‥‥多分まだ生きてるだろうな」
なんとか地上へ出た途端、そこで待っていた学長がエルに尋ねた。
あの程度でくたばるようなら、長年地下で彷徨えるわけがない。それは長年身についたエルの勘だ。
そんな彼の返答に、学長はいっそ真っ青になる。
「とりあえず通路自体は塞いだから、当面は大丈夫だが‥‥どっちにしろ退治しなけりゃ、調査も先へ進めねえぞ」
「た、頼む、なんとかしてくれ! あ、あんなのが地下にいると知れたら!」
「はいはい、と。とりあえずギルドで人を集めてくるさ。ま、その分しっかり謝礼は頼むぜ」
「わ、わかった」
青ざめる学長と違い、喜色を浮かべてエルはニッと笑った。
●リプレイ本文
●瓦礫撤去
逃亡の時間を稼ぐため、エルリック・ルーン(ez1058)の魔法によって埋め尽くされた瓦礫の山。
未だ脆い岩盤が時折崩れそうになる場所で黙々と作業をしているのは、冒険者達が連れてきた二体の小型のゴーレムだ。
「瓦礫をどけて」
そう指示するカシム・ヴォルフィード(ea0424)の声に従い、瓦礫をどけていくスモールストーンゴーレム。頑強な身体を動かし、大きな岩を容易く持ち上げる。
その隣では、ウッドゴーレムが通路を確保しようと動く。
「まずは通路の確保です」
リアナ・レジーネス(eb1421)が命ずるまま、崩れた岩をどかしていく。
ゴーレムとしては小型とはいえ、どちらも普通の人間よりははるかに力がある。今回の撤去作業にはうってつけだ。
とはいえ、力に比例して重量もそれなりにあるゴーレムだ。地盤の弱くなった場所へ、そう何度も足を踏み入れさせる訳にはいかない。
「一時凌ぎですが、しないよりはマシでしょう」
作業の終わった場所から順番に、アデリーナ・ホワイト(ea5635)はクーリングを施した。
凍りついた岩盤は、冷気を放っているのはうっすらと霧が立ち込める。同様に彼女の手にも冷気の霧がまとわりついていた。
「どちらにせよ、一人分の隙間があれば十分だろう」
向こうから彷徨い出られてはかなわんからな。
そう口にするセオフィラス・ディラック(ea7528)は、エルフや女性が多い今回のメンバーの中で数少ない体力を持つ男だ。スコップを片手にせっせと瓦礫の撤去に勤しんでいる。
「ま、ちゃっちゃと片付けてしまいましょうか」
大きな物はゴーレム達に任せ、凍扇雪(eb2962)は細かい残骸をテキパキと片付けていく。時々鎧が邪魔になりそうだったが、なんとか気合で動き回っていた。
ある程度纏めた残骸は、アデリーナの連れてきたグリフォンによって運び出される。
「‥‥大丈夫か?」
セオフィラスが問えば、彼女は安心させるように笑みを浮かべる。
「ええ、スカーレットは飼い主であるわたくしには従順ですから」
「こちらもお願いします」
「でしたらこちらに」
言われるまま、持ってきた瓦礫の山を積み上げる雪。大人しく従っているグリフォンは、そのままアデリーナの指示で外へ運び出して行った。
●生態講義
一方。
採掘現場さながらの光景を脇で見守りながら、叶朔夜(ea6769)は今回の敵であるミノタウロスについての説明を受けていた。
「では振り回す斧に気をつければいいんだな」
「そうです。知能は大して高くありませんが、その腕力はかなりのもの。正面での接近戦は避けるべきかと」
「時々疑問に思うんですが、食べ物もなさそうな場所によくミノタウロスがうろついてるのは、何故なんでしょうか?」
説明するジークリンデ・ケリン(eb3225)に対し、リアナが以前からの疑問を投げかける。
その質問には少し戸惑ったのか、思案顔を見せた後、彼女はゆっくりと首を振った。
「さすがにそこまでは‥‥ひょっとしたら、何か食料を調達する手段があるのかもしれません。或いは、食べなくても平気なのかも」
「そういえば自分は以前、文字通り性根も体も腐ったズゥンビなミノタウロスと戦ったね。さすがにあのときはきつかったな〜」
懐かしい思い出のように語るレイヴァント・シロウ(ea2207)。
「そうそうエル君、もうちょっとこの地下について、色々と情報を聞きたいのだが」
「はぁ? さっきあれだけ聞いてたろうが」
「何言っているんだい。情報はとにかく細かく、だ。何が役に立つか分からないかもしれんのでな」
うんざりした表情のエルに構うことなく、レイヴァントの質問は続く。その様子がどこかおかしく映ったのか、場に流れる雰囲気が多少和やかになった。
●地下探索
作業から数時間後。
無事に、人一人がギリギリ通れる道を確保した冒険者達。連れてきたペット達をその場に待機させ、最大限の警戒をしながら地下へと潜っていった。
「あまり動き回るのは危険な気もしますね」
今にも崩れそうな雰囲気に、心配そうに呟くアデリーナ。ランタンが照らす壁面には、崩れたばかりの痕跡が生々しく残っている。
警戒するように壁に手を当てていた朔夜も、彼女と同じ意見を告げる。
「私達なら気をつけられても、さすがにミノタウロスの攻撃までぶつかったら洒落にならないからな」
「どこかある程度の広さがある場所はないのか?」
セオフィラスが尋ねると、エルは右方向を指差した。
「確か、こっちに以前聖杯の壁画が見つかった空洞がある筈だ」
「空洞?」
「ああ。どうやら昔は、そこに聖堂らしきものがあったみたいだぜ」
「へえ〜」
どんな場所なのか、そんな興味を孕んだ朔夜の呟き。
その時、周囲を索敵していたカシムとリアナが同時に叫んだ。
「大きな生物がこっちへ近付いてるよ!」
「西の方角、20メートル先。この大きさからして、おそらくミノタウロスと思われます」
西といえば、さっきエルが指差した方と反対側。
すぐにジークリンデは、聖堂跡の方向をインフラビジョンで確認した。大丈夫、生物と思われる熱源は確認されない。
「皆さん、こっちへ誘い込みましょう!」
躊躇している暇はない。
彼女の提案に瞬時に彼らは頷いた。
「来ます!」
リアナが叫ぶ。
と、同時に姿を見せたミノタウロス。薄暗さも手伝って、その巨体がよりいっそう大きく見える。
冒険者を見つけた途端、凄まじい咆哮を上げるモンスター。先日逃げられた事が頭の端に残っているのか、脇目も振らず真っ直ぐに向かってくる。
「後衛の者は走れ! ここは私達がひとまず食い止め、誘導する!」
セオフィラスが一歩前に出る。それに反応して斧を振り回すミノタウロス。勢いついたそれを、盾でなんとか受け止めた。
一瞬、その動きが止まる。
その隙に背後へと移動した朔夜。その動きを気付かれぬよう、雪の剣がミノタウロスの肩先を掠める。
敵の意識が彼に向いた瞬間、朔夜が素早くその間合いへと飛び込んだ。近接状態となった為、相手の動きが僅かに鈍る。
「しばらくじっとしてもらおうか」
唸りが空洞内に響く中、すぐさま彼は攻撃へと転じた。
一瞬のうちに足を狙い、そのバランスを崩す。それに追従する形でレイヴァントの槍が脇腹を抉った。
グォォォ――ッッ!!
ガクリと膝をつく。
「悔しければ追いかけてくることだ」
あくまでもここは足止めだけだ。この場所で暴れられれば、こっちまで生き埋めの危険がある。
そう考え、レイヴァントは嘲るように相手を挑発した。
馬鹿にされた雰囲気が伝わったのか、身を震わせながら立ち上がるミノタウロス。その場を後にする彼らを、目をギラつかせながら追ってきた。
それは、猛牛の突進さながらの姿で。
「――こっちだよ」
カシムの手招きで、彼らはとある空洞へと飛び込む。その空間の広さに一瞬驚いたものの、すぐさま気を取り直してミノタウロスが現れるのを待ち構える。
やがて、後を追ってきたミノタウロスが姿を見せたと同時に、カシムの放った風の刃が叩きつけられた。
グラリと体が傾いた隙を突き、今度はアデリーナの魔法が襲う。撃ち出された水の球は、狙いを僅かにそれたものの、顔面へ確実にダメージを与えた。
「こちらもいきます」
リアナの攻撃も、彼女と同じ相手の目を狙っていた。放たれた雷撃は地面に影響を与えず、モンスターへと直撃した。
猛る雄叫びが大気を揺るがす。
それに怯むことなく、ジークリンデは攻撃を続けた。
「安らかな夢の国へ――」
広げた羊皮紙。記された碑文が呪文を編み、体力の削られたモンスターへ仕掛けられる。程なくして、その意識は緩やかに闇へと落ちていった。
が、これで終わりではない。
「ヤツが目覚めぬうちに、一気に畳み掛けるぞ」
セオフィラスの号のもと、前衛陣が一斉に仕掛けた。
先陣を切った彼は、手に持つ斧を一気に振り下ろす。叩き潰す勢いそのままで、噴き出す血臭が周囲へ充満する。
「これぐらい広い場所があるなら、本当は斬馬刀を持ってくればよかったですねぇ」
身構える『霞刀』を手に、間合いを詰める雪。
強い相手なら、広い場所で思い切り戦ってみたかった、とそんな事を考えつつ、彼の刃はミノタウロスの身を掠めるように切り裂く。
ミノタウロス自身、既に覚醒していたが、度重なる激痛に意識が混濁しているようだ。
その隙を突く形で、朔夜の手足を狙った一撃がその動きを封じる。
「自慢の力も、当たらなければ意味はないな」
不敵に笑う彼。
その後ろから高ぶる士気のままレイヴァントが前へと出る。
「さあ、ゴーアヘッドだ!」
突き出した三叉の槍が一思いに胸を貫く。その一撃が、文字通りのトドメとなる。
そして、最後に一声。
断末魔の絶叫を上げた後、その巨体は力なく崩れ落ちた。
●遺跡発掘
「今回は助かったぜ」
にこやかにお礼を言うエルの前で、冒険者達はげっそりと疲労していた。
戦闘が終わり、それでお役御免かと思った矢先、彼は事も無げに言い放ったのだ。『地下の補強を手伝ってくれ』と。
さすがに、その後ろで学長以下学者達の顔を拝んでしまっては嫌とは言えない。
結局、全てが終わって解放されたのは、陽もすっかり暮れた頃だった。
「壁画のほうは、もう残っていなかったのですね」
「前に発見された時、一緒に運び出したからな。なんなら見てみるか?」
「ええ、ぜひ拝見してみたいです」
調査に興味のあったアデリーナだけが、なんとか気を取り直して話しかける。そのまましばらくは二人だけで会話が続く。
が、さすがにもう時間が遅い。
それではそろそろ失礼する、と冒険者が去ろうとした矢先。
「ま、なんかあったらまた頼むな!」
あっけらかんと言われた言葉に、疲労感が一気に倍増した気分になる冒険者達だった。