【凄腕の剣士】見知らぬ邂逅
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■ショートシナリオ
担当:葉月十一
対応レベル:3〜7lv
難易度:やや難
成功報酬:2 G 4 C
参加人数:7人
サポート参加人数:2人
冒険期間:11月14日〜11月19日
リプレイ公開日:2006年11月20日
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●オープニング
●噂の剣士
――颯爽と森に現れては優麗な剣捌きで人々の窮地を救い、名も告げずに森へ消える凄腕の剣士。
その噂はキャメロットまで広がり囁かれるようになっていた。
どうやらキャメロットから2日程度の広大な森に凄腕の剣士は現れるらしい。
しかし、光輝の噂に彩られる剣士には不穏な噂も流れるものである。
――その人物とは何者だろう?
凄腕剣士の正体を突き止めるべく、数名の騎士が王宮から派遣され、ギルドに姿を見せる事となる――――。
●少年
その日の昼過ぎ。
午前中までの忙しさを終え、ぼんやりとギルドの受付に座っていた男のもとへ、一人の少年が訪れた。
「なあ。ちょっと教えて欲しいことがあるんだけど、いいかな?」
子供らしくハキハキと尋ねる少年の声に、ハッと慌てた彼は急いで声がした方へ向き直る。
「は、はいはい。どのようなご用件で――」
「あのさ、この村までの道を‥‥ん?」
言い掛けて、男は思わず息を呑んだ。
錯覚だろうか。少年の顔を見た途端、男は何かしらの既視感に襲われたのだ。
さていったいどこで――そんな思いが脳裏を過ぎる。
が、次の瞬間、少年の訝しげな視線にぶつかり、慌てて居住まいを正した。
「ええっと、む、村までの道、ですね?」
「何? 俺の顔になんか付いてる?」
「あ、いえ、何でもありません。えっとこの村は‥‥ああ、例の森の近くにありますね」
気を取り直して、男は村の場所を少年へ説明する。
「例の森?」
「ええ。なんでも凄腕の剣士が現れて、人々の窮地を救うという話です。名前も告げずに消えるらしいですから、かなりの噂になってますね」
「へえ、凄腕の剣士か。一度、見てみたいな」
凄腕と聞いて、少年の目が輝く。
見れば、彼もまた剣士を目指しているようできちんと帯刀している。話に出てくる剣士にどこか憧れを抱いているのだろう。
こうなると、この剣士に纏わるもう一つの噂が説明しづらい。
相反するように流れた噂は、どこか不穏の空気を孕んだもの。同一人物なのか、或いは貶める為の企てなのか、その見極めは難しい。
「なあ、その剣士ってのは、森に行けば会えるのか?」
「え? まあ絶対というわけではありませんが、森のどこかにいるのは確かでしょうね。ただあの森には今、多くのモンスターがいるようですよ。更には、デビルの姿を見たという話もありますし、一人ではかなり危険ですよ」
「じゃあさ、このギルドで人集めればいいよな!」
「ええ?」
「一人じゃ危険なんだろ? だったら、何人かの手勢で行けば大丈夫だし」
「でも、貴方は村へ行くんじゃ」
「森へ寄ってから村へ行けばいいだろ、近いんだし」
「まあ、それはそうですが‥‥」
「おし、決まり!」
殆ど強引に決める少年。
その態度にやれやれと苦笑する受付の男だったが、何故かその時奇妙な不安が彼の胸中に渦巻いく。
それが何なのか、男はその不安を押し隠すように少年へ羊皮紙を差し出した。
「では、こちらへ名前の記入をお願いしますね。貴方のお名前は?」
「ガラハッド・ペレスだ」
――二人は気付かなかった。
物陰に身を隠すようにして、こちらを窺う人物の影に。
影は、うっすらと笑みを浮かべると、踵を返して静かにその場を立ち去った――――。
●リプレイ本文
●ケンブリッジからの来訪者
「ガラハッド、久しぶりだね」
開口一番。
依頼人の少年に真っ先に挨拶したのは、彼と同じ騎士訓練校の生徒であったユーシス・オルセット(ea9937)だ。懐かしい友との再会に、ガラハッドの方も満面の笑みとなる。
「お、ユーシスじゃんか。元気にしてたか?」
「まあね。久しぶりに帰国したら面白そうな依頼があったから受けてみたら、まさかお前が依頼人だったとはね」
「だって今噂の凄腕剣士だろ? 騎士を目指すんなら、一度は会ってみたいじゃん」
「違いない」
かつての級友同士、花咲く会話は止まらない。
やがて、互いの近況報告へと話は進み、ガラハッドはこのキャメロットに来る道中に遭遇した事件について語り始める。それは、タイタス・アローン(ea2220)にとっても忘れられない事件の一つで。
ようやく合点がいったかのように、彼は一言呟いた。
「やはりそうでしたか‥‥」
「ん? あ、確かこの前――」
言いかけ、彼は一瞬言葉に詰まる。
その様子にタイタスは、ふと思い出す。
(「‥‥そういえばあの時は慌しかったので、キチンと挨拶もしていなかったですね」)
そう考えたのは同じ依頼を受けていた琴吹志乃(eb0836)も同じで、二人は改めてガラハッドに向けて名前を名乗った。
「タイタスと言います。今回も一緒に頑張りましょう」
「志乃だよ。えっとー‥‥前に会ったよね? よろしく、ガラハッド君」
それを皮切りに、集まった冒険者達は互いに挨拶を交わし始めた。
そんな中、当然のことながら話題は噂の剣士についてのあれこれで。
「凄腕の剣士か、俺もぜひ会ってみたいよ。色々と困った人達を助けてくれるって話だからね」
そう言って、目を輝かせるグラン・ルフェ(eb6596)。
もしも噂が本当なら‥‥そんな気持ちが彼の中にあっても不思議ではない。何しろこのイギリスの住人にとって、彼の騎士は憧れそのものだからだ。
とはいえ、ここ最近彼に纏わる話は、必ずしも良いものばかりではない。
「そうだよな、やっぱ剣士ってからには立派な人間じゃないといけねえぜ。俺、最近のあの人の話を聞いて、ホント見損なったぜ!」
不意に飛び出したガラハッドの科白に、場の空気が一瞬固まる。
彼のいう『あの人』が誰のことを指しているのか。
久しぶりにイギリスを訪れたバデル・ザラーム(ea9933)はもとより、来て間もないエレイン・ラ・ファイエット(eb5299)ですら、その人物の名を簡単に思い浮かべる事が出来る。
まさか少年がそんな反応を示すとは意外だったが、すぐに気を取り直したバデルは、あえて誤魔化すように自分の科白、通訳したエレインの言葉、といった具合に続けた。
「‥‥ナイトを目指すあなたの為、なんとか出会えるよう助力しましょう」
「森は美しくも危険な場所‥‥あなた一人では危ないだろうからな」
「ああ、よろしく頼むぜ!」
ぎこちない雰囲気に気付かず、元気よく応えるガラハッド。
そんな彼の様子がまるで弟みたいな印象で、李黎鳳(eb7109)はついお姉さんぶってみたくなる。末っ子の彼女にとって、下の弟妹は欲しかった存在。
「そういえばさ、村には何の用事があるのかな?」
軽い気持ちでかけた言葉だった。
が、彼は僅かに俯いて、それまでとは違う雰囲気を纏う。すぐに顔を上げたが、さっきまでの朗らかな感じとは一転、真顔のまま真正面を見つめると、ポツリと一言。
「父さんの手掛りをを探しに来たんだ」
名も知らぬ、そしてまだ見ぬ父への憧れを、彼らはその少年の横顔に見るのだった。
●錯綜する情報
訪れた森は鬱蒼と生い茂り、昼間でもあまり光が射し込まない場所だ。
途中、立ち寄った村や町で実際に助けられた人からグランが聞いた話では、噂の剣士はモンスターに襲われているところへ助けにやってくる、とのことだ。
「他にも、人々が困っていれば進んで助けてくれるようですね」
グランの説明に一言付け加えるバデル。もっとも、彼らが聞いた話はそれだけでない。良い話と同時に、剣士に纏わる悪い噂も村人達は口にしたのだ。
だが、具体的にそれが何かと聞けば、皆口籠って曖昧な返事ばかり。そちらに関しての信憑性は乏しいと言っていいだろう。
とはいえ、油断は禁物。なるべく用心するに越したことはない。だから彼らは、依頼人であるガラハッドを中心にして、森を警戒しながら進んでいく。
それは、黎鳳が提案した一つの作戦。
「手っ取り早くモンスター退治をした方がいいみたいだね」
彼女が広げる地図には、ここ最近起きたモンスターの目撃場所が記されている。集めた情報で多く目撃されている種類はオーガだ。
オーガ種の多くは集団で行動する。それならば、とグランが指差した場所は、幾つもある目撃情報のちょうど中心。
「多分、この辺に集落に近いものがあるだろうな」
「そうだね。‥‥えっとエレインさん、どうかな?」
志乃からの説明を受け、エレインは静かにブレスセンサーを唱えた。言葉の通じない彼女にとって、二人の通訳からの伝言のみが頼りだ。
程なくして、彼女はその気配を感知する。
さすがにモンスターの種類まではわからなかったが、大きさからして普通の人はない筈だ。だからこそまずその方向を指差し、次に数を示した。
エレインが立てた指は――ちょうど十。
「他に気配はどうですか?」
バデルに問われ、小さく首を振る。
「いや、他にはいない。大体、固まっているみたいだ」
「そうですか」
魔法で検知出来る範囲はそう広くない。噂の剣士はまだこの付近にはいないのだろう。
ならば、一先ず民を脅かすモンスターを相手に戦うだけだ。
「よし! それじゃ、先ずはモンスター退治だぜ」
一足飛びに駆けるガラハッド。
「あ、待てよ!」
ユーシスが追い、彼らの盾となるべくタイタスも後を追う。他の冒険者達も、戦場へ向かい駆け出した。
●邂逅する
オーガとの戦闘。
数の上では不利でありつつも、冒険者達は互いに協力し合うことでその戦力を補い、なんとか互角の戦いを繰り広げていた。
「ここより先には行かせん!」
オーガの行く手を遮るように剣を振るい、仲間の盾として前線に立つタイタス。襲いくる棍棒をギリギリでかわし、袈裟懸けに斬り捨てる。
その隙を狙い、もう一体のオーガが迫ってきた。
が。
「危ないッ!」
もう一人、壁として前衛にいたユーシスが、オーラを纏った身体でその攻撃を受ける。動きの止まった相手を狙い、グランの放った矢がその首筋を貫いた。
ガクリと力の抜けた死体を、ユーシスは無造作に放り出す。
「大丈夫か?」
「なんとかね。それにしてもやっぱり数が‥‥」
「確かにな」
懸命に食い止めてはいるものの、如何せん数が多い。
「もう、キリがないよね」
「ええ、ホントに」
黎鳳が足払いをした相手を、志乃がダブルアタックを決める。
だが、それでもトドメを刺すまでには至らない。起き上がってくる相手に、バデルが繰り出した拳によってなんとか凌いでいるのが現状だ。
「雑魚とはいえこうも数が多いと‥‥」
「弱音なんか吐いてられねえだろ」
「ガラハッドの言うとおりだね」
既に、場は混戦模様。
彼を守るように円陣を組んだつもりが、棍棒を振るうオーガの威力に押されて乱れつつある有様だ。
それでもなお、後衛で一人エレインは風の刃を放つ。言葉の覚束ない身なれど、戦いの場において自分のやるべきことは心得ていた。
そして、ふと気付いた彼は――ブレスセンサーにより、ただ一人気付いた。
誰かが近付いて来ていることに。
「おい、みんな――」
エレインが叫ぶよりも早く、その人影は颯爽と現れた。
「誰?!」
誰ともなく上がった誰何の声。
それに応えるよりも早く、振り払われた剣戟はオーガを圧倒した。目も奪われるような一閃。疾風の如き動き。
今、この場にいるどんな冒険者よりも『彼』は勇猛で、そして華麗であった。
「‥‥ラーンス・ロット卿」
呟いたのはバデル。異国人である彼でさえ知りえる程の誉れ高き騎士。
そして。
「――皆、無事であったか?」
あれだけ苦戦した数のオーガすら、彼の前では塵芥にも等しかったようだ。振り返りながら剣を収める彼は、冒険者達に向かって事も無げに声をかけた。
最初は茫然としていた彼らだったが、先程の体捌きを見てもどうやら本物のラーンスだと確信する。
「ええ、こっちは無事だよ。でも‥‥えっと、ラーンス様?」
「ああ」
黎鳳が問いかけ、その名がハッキリとする。
そこへ、バデルもまた質問を投げかけた。
「貴方は、いったい森で何を探しているのですか?」
気になっていたのだ。噂を聞いた時からずっと‥‥彼の行動は、まるで逃げるというより探してるといった印象の方が強かったから。
しかし、彼が答えるよりも前に、ユーシスが隣にいるガラハッドの異変に気付く。
「ガラハッド、どうした?」
「‥‥あんた」
彼の傍で警戒していたグランやエレインも、少年の憤る気配に思わず振り向く。
が、彼らが止めるよりも早く、ラーンスに向かって彼は掴みかかった。
「あんた‥‥ホントに王を裏切ったのかよ! 裏切ってこんなところで、何やってんだ?!」
ここまで激昂する彼を、学校時代から知るユーシスは見たことなかった。
そうして思い出す。ラーンスに誰よりも憧れていたのは、ガラハッドだったことを。
「――お前は‥‥」
詰め寄られ、何故か躊躇するラーンス。
一瞬身を固くした彼を、待っていた者がいた。
そして、それに気付いたのは一人。少し距離を置いた場所で警戒していたタイタスが、殺気を感じて思わず叫ぶ。
「危ない!」
「国賊ラーンス、覚悟ッ!」
二つの声が重なる。
いや、気付いていたのはもう一人。ラーンスは咄嗟にガラハッドの身を飛ばし、斬りかかってきた騎士の剣を受け止めた。返す刀で振りきった刃は、襲った騎士の体をあっさりと切り捨てた。
よもやの事態に誰もが驚き、その場を動けずにいる。
「‥‥これが騎士のすることか?」
思わず呟いたグラン。ほぼ同時に、彼らはラーンスに対し警戒態勢を取る。
ガラハッドが急いで抱き起こそうと駆け寄るが、騎士は既に虫の息状態だ。志乃の持つポーションももう手遅れだろう。
「お、おのれ‥‥アグラヴェインさま、の‥‥かた、き‥‥」
「あんた、ホントに円卓最高の騎士なのかよ! なんなんだよこれは!」
吼えるガラハッドに一瞬目を伏せたラーンスは、小さく呟くように。
「‥‥すまん。だが、私は陛下を裏切るような真似はしない」
それだけを言い残し、彼は踵を返して森の奥へと駆け出した。
「待って!」
後を追おうと飛び出したバデル。
しかし、その行方を遮るかのように、彼の前に現れたのは――無数の鼠。口が耳まで裂けたそれは、クルードと呼ばれるデビルだとグランが気付く。
咄嗟に身構えようとするよりも早く、その口から吐き出されたのは氷結の霧。
「しまった! みんな、動かないで!」
遮られた視界のままでは、こちらも身動きが取りにくい。ましてや同士討ちになる可能性もある。疲労の激しい今、なるべく体力の温存を図らなくては。
そう考えた彼の指示に、他の者もじっとその場で警戒を強める。
だが、一向に向こうから攻撃してくる気配がない。やがて霧が晴れていくと、そこにはデビルの姿もラーンスの姿もいなくなっていた。
まるで。
「デビルがラーンス殿を逃がしたような形だな‥‥」
「そう、なのかな?」
「まさか‥‥」
呟くエレイン。
彼の言葉が分かる志乃とバデルが、それぞれに思いを口にする。
悪い噂など嘘だと信じたい。だが、現実はあまりにも情報が少なすぎず、彼を信ずるに足る証もない。
現にガラハッド自身、既に息絶えた騎士の骸を抱きかかえ、きつく唇を噛み締めている。彼が何を思っているのか、横目で見守るユーシスには知る由もなくて。
訪れる困惑と悲劇は、連鎖していく。
当初のガラハッドの目的。重い気持ちでやってきた冒険者達を迎えたのは、更なる悲劇の光景――デビルにより無残にも滅ぼされた村の姿だった。